相続税法改正とは
2015年(平成27年)1月の相続税法改正では、基礎控除の引き下げが大きな話題となりました。
相続税といえば「一部の資産家が払うもの」と考えられていましたが、基礎控除額の改正により相続税を払う人が大幅に増えたのです。
相続税は納税期限を守り、きちんと支払っておきたいところですが、もし相続税を払えない状況が起きた場合はどうしたらよいのでしょうか。
納税期限を経過するとペナルティはあるのか、納税期限は延長してもらえないのかなど様々な疑問もあります。
相続税の基本を踏まえて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
2015年(H27年)の改正内容
相続税法は少しずつ改正されていますが、特に2015年(H27年)1月の改正は「大増税」として話題になりました。
相続税を算出する際に重要となる基礎控除額が見直され、課税対象となる人と納税額が増えることになったのです。
では改正前・改正後の税率や基礎控除額を見てみましょう。
・相続税の税率(改正前と改正後)
改正税率に影響されるのは遺産総額が2億円超の場合のため、数千万円だから影響はないと安心はできません。
なぜなら、基礎控除額の計算式も改正されているからです。
・基礎控除額の計算方法(改正前と改正後)
改正前の基礎控除額:5,000万円+1,000万円×相続人の数
改正後の基礎控除額:3,000万円+600万円×相続人の数
仮に相続財産が1億円で相続人が2人の場合、改正前と改正後ではどうなるのでしょうか。
改正前:5,000万円+1,000万円×2=7,000万円
改正後:3,000万円+600万円×2=4,200万円
基礎控除が見直されたことにより、同じ条件でも2,700万円の差が出てしまいます。
他にも改正点はありますが、今回は相続税の基本とともに、基礎控除についても詳しく解説します。
相続税の基礎知識
相続税には「富の再配分」という考え方があります。
相続財産は言い換えると不労所得でもあり、親が資産家であれば働かなくても生活に困ることはなく、やがてその資産は自分のものとなります。
一方、真面目に働いても思うように資産形成できない人もいるため、このような資産の格差を少なくしていこうという考えです。
他にも所得税の補完といった目的もありますが、相続税による税収を社会還元していこうというものです。
いくらの資産があれば相続税がかかるのか?
相続税を支払うかどうかは家族構成や資産総額によって変わり、計算上「基礎控除」が大きく関係してきます。
まず相続税の計算方法をみていきましょう。
相続税の計算~遺産総額を出す
相続税を計算する場合、まず「正味の財産」を計算することになります。
正味の財産とは、プラスの財産(預貯金や不動産)からマイナスの財産(借入金や葬儀代)を差し引き、さらに特例などの減額分も反映させた財産をいいます。
・遺産総額の例
※小規模宅地の特例や生命保険金の基礎控除は考えないものとします。
相続税の計算~基礎控除とは?
基礎控除とは「遺産総額が基礎控除額以下であれば相続税はかからない」という線引きであり、以下のように計算します。
基礎控除額=遺産総額-(基礎控除額:3,000万円+600万円×法定相続人の数)
正味の遺産総額から基礎控除を引いたものが「課税遺産総額」であり、以下のような家族構成の場合、課税遺産総額は「6千万円」になります。
計算式:1億8百万円-(3,000万円+600万円×3人)=6千万円
相続税の総額の計算
課税総額が計算できたら、ここで一旦「法定相続分どおりに分割」したものとして相続税を計算します。
相続人は兄弟3人であるため、それぞれの法定相続分は1/3ずつの2千万円となります。
1人当たりの相続税:2千万円×15%(税率)-50万円(控除額)=250万円
相続税の総額:250万円×3(人)=750万円
※税率は以下の「相続税の早見表」を参考にしてください。
各相続人の相続税の計算
相続税の総額が計算できたら、次に各相続人が負担する相続税を計算します。
今回の例では3人とも1/3の相続割合となるため、各相続人が負担する相続税は250万円となります。
各相続人の相続割合が違う場合、以下の要領で計算してみてください。
Aの相続割合~50%:750万円×50%=375万円
BとCの相続割合~それぞれ25%:750万円×25%=187万5千円
相続税はこのような手順で計算するため、単純に「財産が○○円あれば相続税がかかる」というものではありません。
相続人の数によっては納税額も少なくなり、場合によっては相続税の課税対象とならないこともあります。
兄弟が相続人の場合、相続税の支払いは?
相続税は原則として遺産を受け取った相続人それぞれが、税務署に申告し納税することになります。
何らかの事情で他の相続人の相続税を肩代わりした場合、贈与とみなされる場合もあるので注意しましょう。
相続税を払っていない兄弟がいた場合
相続税の納税期限は、相続を知った日の翌日から10カ月以内です。
この間に相続税を払えば問題はありませんが、相続人の中に相続税を払えない人が出てきた場合の相続事例をもとに解説します。
意外と知られていない連帯納付義務
親の遺産を兄弟3人で相続し、相続割合はそれぞれ1/3ずつだったとします。
各相続人が個別に申告し、納税をする予定だったところ、Cさんは納税資金を用意できなかったため相続税を払っていませんでした。
AさんとBさんは既に相続税を払っているため、Cだけの問題と考えたいところですが、実は相続人には連帯納付義務があります。(相続税法第34条1項)
つまり相続税を払わない人がいた場合、他の相続人が代わりに払うことになり、AさんまたはBさんに税務署から「納税通知書」が送付されるということです。
※連帯納付義務は「相続により取得した財産の価額を限度」としています。
そのため、相続した財産以上に、所有していた自己財産を処分してまで支払う必要はありません。
連帯納付義務は解除されるの?
連帯納付義務は以下の条件のうち、早い方のタイミングで解除されます。
- ①申告期限等から5年経過するまでに、連帯納付の通知を受けなかった場合
- ②納税義務者が延納または納税猶予の適用を受けた場合
もしCさんの相続税を払えないとしたら?
仮に、Aさんへ納税通知書(本来はCさんの納税分)が送付されてきたとします。
Aさんが納税に応じなかった場合、Cさんの財産が差し押さえられることになります。
しかし、Cさんに差し押さえるだけの財産がなかったときはAさんの財産が差し押さえられてしまいます。
相続税を払うことができないケース
相続税には連帯納付義務があるため、全ての相続人が相続税を払っておくべきです。
しかし、以下のようなケースでは「相続税を払うことが出来ない」といった事態に陥りやすいです。
多額の借金がある
相続によりいくらかの財産を取得しても、多額の借金がある場合は返済に充てることになってしまいます。
納税期限が近づく頃には相続財産を使い果たしてしまい、手元には一銭も残っていないというケースです。
相続財産が不動産のみ
不動産のみを相続し、また不動産の価値が高かった場合も要注意です。
価値の高い土地などを相続した場合は相続税も高額となりますが、相続税は現金の一括納付が原則となっています。
納税のために自己資金を切り崩すこともありますが、納税額に満たない場合は払うことができないでしょう。
また土地を売却して納税資金を確保するケースもありますが、納付期限までに売れなければ現金化もできません。
遺産分割が難航している
相続の際、遺産分割内容に納得しない人がいる場合もあります。
このようなケースは「相続に納得してないから税金も払わない」と、相続人同士で揉めている場合がほとんどです。
しかし、相続税は払わないといっても、現金や預金があればいずれ自分の財産が差し押さえられてしまいます。
条件次第では相続税の延納も可能
納税期限までに資金が用意できない場合、延納も可能ですが、以下の条件が必要となります。
・相続税額が10万円を超えている
・申告・納付期限までに申請書を提出し、許可されていること
・担保の提供(延納する税額が100万円以下であり、かつ延納期間が3年以下の場合は担保不要)
延納可能な税額は「納付困難な金額が上限」となっており、全額を延納できる訳ではないので注意が必要です。
延納も難しい場合は物納もあり
延納でも相続税を払い切れない場合、物納(ぶつのう)という手段もあります。
しかし、物納できる相続財産は以下のように限定されており、①~③のように優先順位も決まっています。
- ①上場株式、国債や地方債、不動産、船舶
- ②社債、非上場株式、証券投資信託、貸付信託の受益証券
- ③動産(美術品等)
不動産は物納の対象ですが、住宅ローンを完済しておらず抵当権の設定されたものは物納できません。
また、誰が相続するのか決まっていない不動産は物納することはできず、土地で物納したいと考えても、境界線がはっきりしていない場合は測量が必要となることもあります。
他にも物納として認められない財産や条件は多数あり、国税庁のWebサイトでも令和元年に認められた物納の件数はわずか72件です。
まとめ
相続税の連帯納付義務は、意外と知られておらず「自分は納税したから終了」と思っている人が多い傾向です。
また、納税の最終手段となる物納でも「いざとなれば土地で物納する」と自分で決めている人もいますが、何が物納として認められるかは分かりません。
相続では遺産総額の算出や相続割合の決定も重要ですが、相続人の事情も考慮しておく必要があるでしょう。
終活と相続のまどぐち