はじめに
近年、年金財政の悪化から、年金の将来が不透明になっているという報道を耳にします。国の試算でも、標準世帯は年金だけでは食べて行けず、赤字になることが明らかになっています。
そこで将来の不安に備えて、年金受給額を増やす方法があるのかどうかを、その場合のリスクも含めて考えてみます。
公的年金受給額を増やす方法
まずは、公的年金について、その受給額を増やす方法にはどのような方法があるのか。また、その手順、その方法を選ぶ場合に注意すべきことなどについて説明します。
「繰下げ受給」で受取額を増やす。
年金の開始を先延ばしにして受け取ることを、「繰下げ受給」といいます。年金額を増やしたいと考えた場合、最も効果的な手段といえます。月単位で年金額が増額され、その増額率は一生変わりません。
繰下げ年齢が現在の70歳から75歳に拡大
年金受給開始は、現在60歳から70歳で選択できます。これが年金制度改正法の成立により、70歳から75歳までに拡大することになります(2022年4月施行)。
年金の支給開始年齢の原則は65歳ですが、年金の加入期間が10年以上あれば、誰でも請求すれば60歳から年金が受け取れるのはこれまでと同じです。
年金増額率
増額率は、(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.7%です。
5年繰り下げて70歳で受給を希望する場合 60(カ月)×0.7%=42.0%増額
10年繰り下げて75歳で受給を希望する場合 120(カ月)×0.7%=84.0%増額
になります。
仮に受給開始を66歳に繰り下げた場合、65歳からもらい始めた人と累計の受給額が同額になるのは、77歳10カ月のときです。同じように70歳まで繰り下げると、同額になるのは81歳10カ月です。採算基点といえるでしょう。それ以降は差が広がり、繰り下げ受給は成功といえます。
ただし、病気などで死亡時期が早まってしまう場合はリスクがあります。この場合は、結果的に損をします。
60歳以降も長く働き、厚生年金を加算する
国民年金については、40年、つまり20歳から60歳までの期間、加入が義務づけられており、40年間の加入で国民年金額(老齢基礎年金額)が満額となる仕組みです。これに対して、厚生年金については、60歳代以降も加入し続けると年金額も増えることになります。
つまり、勤務先で厚生年金加入しているならば、長く働き、長く保険料を納めることで年金額は増えていきます。
公的年金への付加による「確定給付型」年金
公的年金の付加による私的年金でも、「確定給付型」という加入した期間などに基づいて、あらかじめ将来の給付額が決められている年金制度があります。
自営業者が増やせる「付加年金」「国民年金基金」
国民年金加入の自営業者やフリーランスの人は、厚生年金、企業年金加入者と比較して受け取る年金が少ない現状があります。そこで、「付加年金」「国民年金基金」という制度を利用することで、年金を増やすことができます。
公的年金に付加する私的年金ですが、「確定給付型」といわれ、加入した期間などに基づいて、あらかじめ将来の給付額が決められている年金制度です。毎月一定額を着実に積み立てることで、将来に向けて無理なく資金を貯めることができ、将来の給付額が決められているのでリスクがありません。
- ①付加年金
毎月の国民年金保険料に追加して、400円の付加保険料を納付することで、老齢基礎年金の受給の際に、プラスして納めた月数×200円が支給されるという制度です。納付できるのは60歳までです。
受給は、老齢基礎年金と同じく65歳から生涯にわたって、年額で200円×付加保険料納付済み月数を上乗せした受給額となります。
40歳から60歳まで20年間、付加保険料を納付した場合
400円×240(カ月)=9万6,000円……付加年金。納付済み保険料上乗せした受給額
200円×240(カ月)=4万8,000円……受給年金額(年額)。通常の場合の受給額
年金額は20年間納付した9万6,000円となり、生涯にわたって、年間4万8,000円多く年金を受け取れるわけです。付加年金は、年金受給3年目から必ずメリットがあるようになっています。なお、付加年金は定額のため、物価スライド(増額・減額)はありません。
- ②国民年金基金
年金額や受取期間を選んで掛金を払うことで、将来受け取る年金を上乗せすることができる、公的年金に付加する制度です。掛金は全額社会保険料控除の対象となります。
a. 加入条件
国民年金の加入義務のある20歳以上60歳未満の方
b. 掛金(月々の納付額)
上限を68,000円/月とし、加入したときの年齢・性別、加入するコースによって、毎月の掛金を決定します。なお、途中でコース変更することも可能です。
c. 脱退
原則脱退はできません(ただし免除対象になった場合や、本人が死亡した場合などは脱退できます)。
d. 給付される内容
■老齢年金(60歳または65歳以後)
■遺族一時金(加入者が死亡したら遺族に支払われます)
で契約内容によります。
未納や免除期間のある方が増やせる「任意加入」
国民年金の老齢基礎年金は、原則20歳から60歳までの40年間が被保険者期間です。すべての期間(480カ月)にもれなく納付済みの場合に満額受給となります。
60歳までに老齢基礎年金の受給資格を満たしていない場合や、満額受給したくても40年の納付済み期間がないためにできない場合、希望すれば60歳以降でも国民年金に「任意加入」することができます。老齢基礎年金の繰上げ支給(前倒しで年金を受給すること)を受けていないこと、納付月数が480カ月(40年)までであることなどが注意点です。
なお、保険料の免除や猶予の承認を受けた期間がある場合には、追納(後から納付)することで、年金額を増やすことができます。さかのぼって追納できる期間は、10年以内の免除期間などに限られます。可否については、「ねんきんネット」や年金相談窓口で照会できます。
私的年金で増やす方法―「確定拠出型」とは
上記の公的年金に付加する「確定給付型」という加入した期間などに基づいて、あらかじめ将来の給付額が決められている年金制度以外に、「確定拠出型」という私的年金で増やす方法もあります。
確定拠出型とは
確定拠出型とは、加入者が拠出した掛金と、その運用収益との合計額をもとに給付額を決定する年金制度です。給付額が決まっている確定給付型に対して、確定拠出型では加入時に拠出額(毎月の積立金)を決めます。
したがって、加入者の運用次第で積立金以上の給付額を得ることも、逆に給付額がマイナスになるリスクもあります。
このタイプには変額型の個人年金保険のほか、確定拠出年金制度も当てはまります。確定拠出年金制度には企業型と個人型があり、特に個人型は「iDeCo」(イデコ)とも呼ばれます。前者は企業拠出によるもので、後者は個人拠出により運用するものです。
個人年金保険
- ①個人年金保険とは
個人年金保険は、契約時に決めた年齢まで保険料を積み立てた後に年金を受け取れる、貯蓄型の保険です。そのメリット・デメリットや種類を紹介していきます。
a. 個人年金保険のメリット
{1} 所得控除を受けられる。
生命保険や介護医療保険と同様に、個人年金保険料を支払うと一定額の所得控除を受けられます。
{2} 加入しやすい。
20歳以上60歳未満の人なら誰でも加入できます。また、多くの民間企業が様々な商品を開発しているので商品選択の幅が大きい点があります。
{3} 貯蓄しやすい。
個人年金保険は自動積み立てのため、確実にお金を貯めることができます。ただし、個人年金保険は保険料の支払いが完了していない時期に解約すると、元本割れするリスクがあります。
b. 個人年金保険のデメリット
{1} 販売企業の存続リスク
民間企業が販売している保険商品である個人年金保険は、公的年金とは異なり、販売元の企業が倒産してしまうと受け取れなくなる可能性があります。したがって、契約した保険会社の経営悪化リスクも見極めなくてはいけません。
{2} インフレに対応できない。
多くの個人年金保険は、契約時に受取金額を定めます。そのため急激にインフレが進んでも支給額が変動することはなく、受け取り時に損をしてしまう恐れもあります。
c. 個人年金保険の種類
代表的な個人年金として、「終身年金」「確定年金」「変額年金」「外貨建て年金」があります。
{1} 終身年金
被保険者が亡くなるまで、年金を受け取ることができるものです。生きている間は無期限に定額を受け取ることができる一方、支払保険料は高額になります。また、早い段階で死亡した場合には、元本割れになるリスクも存在します。
元本割れリスクへの対策として、終身年金に保証期間をつける方法があります。保証期間中は被保険者の生死にかかわらず年金が給付されるため、保証期間内であれば、亡くなった後でも遺族は年金を受け取れます。
{2} 確定年金
確定年金は、被保険者の生死にかかわらず、契約時に確定した一定期間において年金を受け取れる保険です。つまり、期間内であれば被保険者の死亡後も遺族に年金が給付されます。定額を一定期間受け取ることができるので安定感があり、元本割れも起こりません。また、終身年金より保険料が安い点も魅力です。
しかし、終身年金のように生涯給付ではないため、長生きした場合は途中で年金受給が終了してしまうことも起こります。
{3} 変額年金
上記の個人年金保険は、「定額年金」に分類されます。定額年金は、支払い保険料を保険会社が運用しますが、運用結果にかかわらず契約時に将来の給付金額を確定しています。
これに対して「変額年金」は、将来の給付金額を確定しておらず、保険料の運用実績によって受け取れる年金が増減します。契約者自身が運用商品を選択できますが、運用リスクもすべて契約者が負うことになります。定額年金では対応できない、将来のインフレリスクに備えた性格のある保険です。
{4} 外貨建て年金
外貨を活用して運営する個人年金保険です。積立金の運用や給付は、米ドルや豪ドル、ユーロなどいずれかの契約通貨で行います。為替が関係するため、変額年金よりもハイリスク・ハイリターンになります。また、外貨建て年金は利率の高さも特徴の一つです。
個人型確定拠出年金(iDeCoイデコ)
- ①iDeCoとは
iDeCoは加入者自らが掛金を拠出し、自身の選んだ投資信託や定期預金などの金融商品で運用する年金です。給付額は掛金とその運用益の合計額をもとに決められ、原則60歳以降になれば年金(分割受取)か一時金(一括受取)の形で受け取ることができます。
a. 加入対象者
2017年1月からは、公的年金制度に加入している原則20歳以上60歳未満の全ての人が任意で加入できるようになりました。ただし、企業型確定拠出年金にすでに加入している人は、勤務先の企業がiDeCoへの加入を認めている場合のみ加入可能です。
b. 運用商品
運用商品には、元本確保型と元本変動型があります。元本確保型の例としては定期預金や保険商品が挙げられ、一方の元本変動型には投資信託が該当します。
元本確保型には年金受け取り時に元本を保証してくれるというメリットがありますが、金利が非常に低いため、資産を増やすには不向きです。逆に、投資信託のような元本変動型は元本割れのリスクがありますが、うまく運用して資産が増えればインフレにも対応できます。
c. 掛金(積み立て)
月額5,000円から1,000円単位で積み立てることができます。
掛金拠出は、手続きすればいつでも休止・再開できますが、金額の変更は年1回しかできません。また、途中で解約することも原則認められていません。
d. 受給方法
受給開始年齢(原則60歳以降)に達した状態で給付請求を行うと、「老齢給付金」として掛金と運用収益の合計額を受け取ることができます。基礎年金などと同様に毎月一定額を分割で受け取るか、一時金として一括で受け取るか、あるいは両方を組み合わせて受け取る方法があります。
また、この給付金額は、一定額以内であれば税制優遇を受けることが可能です。
- ②個人年金保険との違い
個人年金保険とiDeCoは、資産運用の面では、個人年金保険が保険会社の提供する貯蓄型の年金であるのに対して、iDeCoは金融機関が提供する投資型の年金と言うことができるでしょう。
年金受給額は増やせるの?-まとめ
このように年金受給額を増やす方法はいくつかあります。ただ、加入年齢によって毎月の掛け金が変わってきますので、年金受給開始の時期を設定し、試算することが大切です。
まずは公的年金の繰り下げ受給をした場合の額を算出して、その額からあといくら必要になるかを考え、商品を選ぶことをオススメします。