親が突然の入院!そんな時家族はどうしたら?

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エンディングノートで自分の意思を伝える大切さ

親としては、介護や医療費などで子どもたちに迷惑をかけたくないものです。

しかし、突然倒れたり、大きな病にかかったりすると、どうしても子どもたちに迷惑をかけることになってしまいます。
パートナーにも先立たれた状態なら、なおさらだと言えるでしょう。

万が一、倒れて意識が戻らず延命治療だけを続けた場合、莫大な費用がかかり、その負担を全て子どもが背負う可能性もあるのです。
親として、それだけは避けたいと考えるのが当然ではないでしょうか。

そこで、残された人に負担をかけないよう、やっておきたいことが「エンディングノート」です。
エンディングノートを活用すれば、もしものときに子どもたちにかける負担を最小限にとどめることが出来ます。

この記事では、終末期医療を迎えた人と、家族がどのように対処できるかについて考えていきます。
そしてそのときに、エンディングノートがどのように役立つかを見ていきましょう。

エンディングノートとは

家族や友人などに、自分の最期の意志や伝えたいことを書くノートのことです。

エンディングノートには、自分が最期をどう迎えたいのかや親族や家系のこと、お金のこと、家のこと、お墓やお寺のことなどを書くことが出来ます。

備忘録として暗証番号やパスワードを書いておいたり、大事なものをしまってある場所を記録したりもできます。
遺言書とは違って法的効力はありませんが、遺言書よりも身近で、幅広く使うことができるため自由度が高いと言えます。

なぜエンディングノートが必要なのか

高齢になるにつれて、急な病で倒れたり、認知症になったりする確率は上がるでしょう。
もし、突然倒れて意識が戻らないとしたら、自分の意思を何も伝えることができなくなります。
それを未然に防ぐために、エンディングノートが必要となるのです。

厚生労働省も、自分の終末期にあたって、元気なうちに家族や友人などに自分の意志を伝えておくことが大切であると提唱しています。

厚生労働省ガイドラインの内容

人生の最終段階における医療・ケアの 決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省のガイドラインより引用)
人生の最終段階における医療・ケアの方針決定は次によるものとする。

「 本人の意思の確認ができる場合」
・方針の決定は、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。
そのうえで、本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合い を踏まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ ケアチームとして方針の決定を行う。

・時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるよう な支援が行われることが必要である。
この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である。

・このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

エンディングノートの重要性

厚生労働省のガイドラインは「人生の最期のときを本人の意思を大事にしよう」という考えで作られたものです。
ですから、元気なうちから「こう生きたい」「最後はこうしてほしい」ということを考えておくことが大切です。

また、終末期の処置について、子どもの方からは聞きづらいものです。
できれば親の方から、元気なうちに自分の終末期の話を切り出したほうが良いのですが「なかなかそういう話はできない」という方も多いでしょう。

そんなときにも、エンディングノートが役に立ちます。
終末期にどうしてほしいかが書かれていれば、家族もいざというときに冷静に行動することができます。
大切な人を困らせないようにするためにも、今からエンディングノートを準備しておきましょう。

エンディングノートを終末期に活用する方法

ここでは、エンディングノートを終末期に活用するために、記入するべき項目を以下で紹介します。
家族で話し合って決めることが望ましいですが、話し合いが難しい場合は、ご自身の意思を記入しておきましょう。

延命処置の有無について

いざというときに、延命処置をするかどうかを決めておきましょう。
延命処置の有無が決まっていなければ、家族や代理人が判断をしなければならないのです。

どの程度まで延命処置をするのかなどを事前に決めておけば、家族も迷わず行動することができます。

長期療養が必要な場合の施設選びについて

近隣の施設や療養型病院の情報を集めておきましょう。
自分たち家族にはどういう条件を満たすことが必要なのかを考えておくことも大切です。

転院が必要な場合の手続きについて

子どもたちが遠くに住んでいる場合など、近くの親族や頼れる友人などをピックアップしておくといいでしょう。
名前や関係、連絡先をしっかりと書いておくことが必要です。

意識障害がある場合の胃ろう造設の有無について

自分の意志として「胃ろう造設」を望むか望まないかを書いておくと、家族が迷わなくて済みます。

預金通帳や保険証等に関する情報について

高額医療制度など手続きに必要なものとなるので、保管場所は決めておきましょう。
どこになにがあるのか、通帳の暗証番号なども記載しておきましょう。

エンディングノートの活用事例

親が突然倒れると、家族は冷静な判断ができないものです。
エンディングノートは、そんなときにとても役立ちます。
ここからは、実際の活用事例、Sさんの場合を見ていきましょう。

Sさんの場合(70歳、エンディングノートあり)

Sさんご夫婦は、定年後も再就職し、少しずつ働きながらも元気に過ごしていました。
子どもたちもそれぞれ独立し、離れたところで生活しています。

70歳になったころ、Sさんは会社で行われた終活セミナーで、エンディングノートを薦められました。
教えてもらったように書き、家では奥さんにも教えながら二人でエンディングノートを書き進めていました。

しばらくして、Sさんが突然脳出血で倒れてしまったのです。
駆けつけた長男は「なぜこんなことになったのか」と青ざめ「何が何でも父親を助けたい、できる限りのことをしよう」と言いましたが、母親にSさんの書いたエンディングノートを見せられて冷静になりました。

エンディングノートにはこう書かれていました。
・「もしも、私が、急に倒れても、延命処置はしないでほしい。延命だけであれば人工呼吸器は付けてほしくない。誰が間に合わなくても気にするな。多分そういうことにはならないと思うが、そうなったら、それが運命だと思って、あきらめてほしい」

・「もしも、自力で何もできなくなったら、胃瘻造設などはせず、静かに見守って欲しい」

・「リハビリが必要になったら、しっかりリハビリさせてほしい。自立できるように厳しくしてくれよ。弱音は吐きたくないが、きっと弱音を吐くと思うから」

・「認知症になったら、まだ元気なうちでいいので施設に入れてほしい。自分では大丈夫だと思うはずだから、母さんが大変だなと思ったら、さっさと手続きをして施設に入れてください」

以上のように、細かく記載されていました。

Sさんは、脳出血の範囲が広く人工呼吸器は付けていましたが、家族全員が見守る中、数日後に亡くなりました。

エンディングノートには、葬儀のことや、Sさんの資産のことなども書いてありました。

「母さんが、ちゃんと生活できるように考えて、兄弟姉妹で考えて、相続は私の言うとおりにしてほしい」と、書かれていたことで、家族が話し合って父親の意志を大切にしようという方向でまとまることができたのです。

その後、母親のエンディングノートも読み、これからのことを話し合うことも出来ました。

Sさんがエンディングノートを書いていたことで、子どもたちにも冷静な判断が出来ました。
突然のことでしたが、意思を伝える手段としてエンディングノートが役にたったのです。

エンディングノートを書いていなかった場合はどうなるのか

もし、エンディングノートを書いていなかった場合は、どうなってしまうのでしょうか。
書いていない場合の例を見ていきましょう。

Kさんの場合(74歳、エンディングノートなし)

Kさんは、夫を亡くして地方の田舎町で一人暮らしの74歳です。
数年前までパートで働いていましたが、今は引退し、近くに住む妹家族や友人たちと穏やかに暮らしていました。

ところがあるとき、Kさんは脳出血で倒れ、緊急入院することになったのです。
子どもたちも駆けつけましたが、Kさんは集中治療室で治療されていて意識はありません。

医師との話で「Kさんは、家に帰ることはできないでしょう」と言われました。
意識が戻らず、話すことも歩くこともできない状態でした。

「しばらくは、ここで治療しますが、その後は長期療養型の病院に移ってもらいます」という現状となってしまったのです。

そして、いくつかの病院をすすめられましたが、どこにしていいのかわからず、叔母など地元の親族に聞きながら転院先を決めました。

Kさんは意識がないため自力でご飯を食べることができず、転院までの数週間の間に、医師からKさんの経管栄養が必要だと言われました。
鼻のチューブから胃に流動食を流し込むのですが、長期になるため、お腹から胃にチューブを差し込む「胃ろう」を作ることを進められたのです。

ですが、そのときに子どもたちで意見が分かれました。
長男は「そこまでしなくてもいいだろう」と、胃ろう造設に難色を示しました。
次男は造設するべき「いつまでも鼻にチューブが入っているのは可哀そう」だと長女は悩みます。

叔母であるKさんの妹が「やって欲しい」と言ったことで、胃ろうをすることに決め、造設後に長期療養型の病院へ転院しました。

そこで、高額療養費制度のこともわからず、通帳や印鑑がなかなか見つからなかったために、手続きに手間がかかったのです。
キャッシュカードやクレジットカードは財布の中にありましたが、暗証番号がわからず、当面必要なお金は長男が工面することになりました。

家族が決断を強いられたり、負担を背負うことになってしまうことは、本人も望んでいなかったでしょう。
エンディングノートを書いていなかったために、これだけの差が出てしまったのです。

まとめ

この記事では、親が突然入院したときに「エンディングノートがあると、いかに家族が助かるか」ということについてお伝えしました。

突然、自分の身に何かが起こった場合、周りの人達が決断や負担を強いられてしまうことがわかったのではないでしょうか。
明日のことは誰にもわかりません。

エンディングノートを活用すれば、もしものときでも家族に自分の意思を伝えることが可能でしょう。
残された人に負担をかけないためにも、元気なうちからエンディングノートを準備しておくことが大切です。