配偶者と子供がいると受給額が増える「加給年金」ってなに?

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はじめに

会社員や公務員が加入している厚生年金保険には、「加給年金」という制度があります。老齢厚生年金を受け取る資格ができたときに、配偶者と子どもがいると年金額が増える仕組みのことですが、加給年金を受け取るには条件があります。

本記事では、加給年金の条件やその特別加算金について紹介します。

加給年金制度

ここでは、加給年金の制度の仕組みと、支給の条件を説明します。また、加給年金制度について、「繰り下げ受給」との関連で注意すべき点についても解説します。

加給年金とは

まず、加給年金とは何かについて、制度の仕組みを説明します。加給年金は、日本の公的年金のうち厚生年金について適用される制度で、一定の条件があります。

加給年金は厚生年金の制度

公的年金には、国民年金と厚生年金の二種類があります。

国民年金は「基礎年金」とも呼ばれ、「日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人」が加入するものであるのに対し、厚生年金は「上乗せ年金」と呼ばれており、会社員や公務員などの「第二号被保険者」が基礎年金に上乗せして受け取るものです(自営業者などは「第一号被保険者」とよばれます)。

加給年金は、このうち厚生年金について適用されるものです。

加給年金制度と条件

ここでは、加給年金制度の概要と支給に当たっての条件を説明します。

a. 加給年金制度
加給年金は、配偶者・子どもを対象として、年金額に一定の額を加算する制度です。

b. 加給年金の支給要件など
厚生年金保険の被保険者に加給年金が支払われるための条件には、被保険者が生計を維持していて、定められた要件を満たした子どもや配偶者がいることがあります。

ここでの「生計を維持する」という表現には、原則として「所得要件」と「生計同一」の二つの意味があります。

{1} 被保険者に関する条件
厚生年金保険の被保険者が加給年金を受給するためには、被保険者期間が20年以上あり、65歳以上である必要があります。

{2} 所得に関する条件
所得に関する条件では、配偶者もしくは子どもの収入が、年収850万円未満、または所得が655万5千円未満であることです。
対象となる子どもや配偶者の年間の所得が一定の金額を超えると、加給年金を受給することができなくなります。

{3} 生計同一の条件
被保険者によって生計を維持されている、子どもや配偶者に関する条件です。

ア.配偶者に関する条件(65歳未満の配偶者)
配偶者の年齢が65歳未満であることです。
例外的に、配偶者が大正15(1926)年4月1日以前に生まれている場合には、配偶者に関する年齢制限はありません。

イ. 子どもに関する条件
(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子)
(20歳未満で障害年金の障害等級の1級または2級に該当する子)

子どもに関する条件は、子どもの年齢が18歳に到達する年度の末日までであるということです。しかし、対象となる子どもが障害等級一級、または二級の障害をもっている場合には、年齢制限は20歳未満までと繰り上げられます。

条件を満たす子どもが何人いたとしても、加給年金を受給することはでき、条件を満たす子どもの数に応じて、加給年金の支給額は増加します。

支給期間

本来支給の老齢厚生年金の支給開始月から、配偶者が65歳に達した月まで(子の場合は18歳に達する日の属する年度末まで、障害年金の障害等級の1級または2級に該当する子は20歳に達する月まで)支給されます。

加給年金額

配偶者 224,700 円×賃金変動等改定率
子、2人目まで1人につき224,700円×賃金変動等改定率
子、3人目から1人につき 74,900円×賃金変動等改定率

賃金変動等改定率は名目手取り賃金変動率を基準として毎年度改定されます。

老齢厚生年金を受けている方の生年月日に応じて、配偶者の加給年金額に33,200円~166,000円が特別加算されます。

・配偶者加給年金額の特別加算額(令和2年4月から)

受給権者の生年月日          →特別加算額→加給年金額の合計額
昭和9(1934)年4月2日~昭和15(1940)年4月1日  →33,200円→258,100円
昭和15(1940)年4月2日~昭和16(1941)年4月1日 →66,400円→291,300円
昭和16(1941)年4月2日~昭和17(1942)年4月1日 →99,600円→324,500円
昭和17(1942)年4月2日~昭和18(1943)年4月1日 →132,700円→357,600円
昭和18(1943)年4月2日以後        →166,000円→390,900円

加給年金額の支給停止

加給年金額は支給停止になることがあります。支給が停止されるのは、配偶者や子どもが以下に該当する場合です。

a. 加給年金受給の条件を満たす配偶者がいて、条件を満たす子どもがいない場合、次のようなケースのときに加給年金の支給が停止されます。(対象が配偶者のみの場合)

・配偶者が、被保険者期間が20年以上の老齢厚生年金や退職共済年金、障害年金を受けられる間
・配偶者の年齢が65歳に到達した時点
・配偶者と離婚した時点
・配偶者が亡くなった時点で、受給権者が配偶者の生計を維持しなくなった時点

b. 加給年金受給の条件を満たす子どもがいる場合(対象が子どものみの場合)
加給年金を受給するための条件を満たした子どものみがいるものの、条件を満たすような配偶者がいない場合、以下のようなケースでは加入年金の支給が停止されます。

・子どもが18歳に到達した後、最初の3月31日を迎えた時点
・一級または二級の障害を持つ子どもが20歳に到達した時点
・子どもが亡くなった時点
・受給権者が子どもの生計を維持しなくなった時点
・子どもが結婚した時点

加給年金開始日

加給年金は加算開始日が属している月の翌月から支払われます。
この場合の加算開始日は意味合いが複雑で、年齢と被保険者期間により異なるので確認が必要です。

加給年金の申請に必要な書類

加給年金を受給するための条件の受給権者(被保険者自身)と、その子どもや配偶者との身分関係を証明する物が必要です。書類は、加算開始日より後、提出日から6カ月以内に発行されたものである必要があります。

a. 受給権者の戸籍抄本または戸籍謄本

b. 世帯全員の住民票の写し
住民票の写しは、受給権者とその子供や配偶者が生計を同一にしているかどうかを確認するために必要な書類です。この書類には続柄や戸籍における筆頭者が記載されている必要があります。

c. 受給権者の子どもや配偶者の所得証明書または非課税証明書
この書類は、受給権者が子供や配偶者の生計を維持していることを示すための、所得要件を証明するのに必要な書類です。
受給権者とその子どもや配偶者が別居している場合や、仕送りなどで生活している場合は、理由などを記載した別の書類を提出しなくてはならないケースもあります。

加給年金の注意点

最近、年金の受給開始を遅らせて金額を増やす「繰り下げ受給」が注目されています。選ぶ際には、加給年金などに注意する必要があります。

本人が厚生年金を繰り下げると、その期間は加給年金は受け取れず、配偶者が基礎年金を繰り下げると、期間中は振替加算(後述)されなくなります。

注意点としては次のようなものがあります。

  • ①配偶者加給年金額は、繰下げ受給しても増額されない。

    (配偶者だけでなく、18歳到達年度末等の子に対する加給年金額も同様)

  • ②振替加算も、繰下げ受給しても増額されない。
  • ③老齢基礎年金と老齢厚生年金は、別々に繰下げ受給することができる。
  • ④65歳の時点で、すでに遺族厚生年金や障害厚生年金を受給している場合は、繰下げできない。

振替加算制度

加給年金額が打ち切られた際、配偶者が老齢基礎年金を受けられる場合には、一定の基準によって老齢基礎年金に加算される仕組みを振替加算といいます。ここでは、その仕組みについて説明します。

振替加算とは

夫(妻)が受けている老齢厚生年金や障害厚生年金に加算されている、加給年金額の対象者になっている妻(夫)が65歳になると、それまで夫(妻)に支給されていた加給年金額が打ち切られます。

このとき妻(夫)が老齢基礎年金を受けられる場合には、一定の基準により妻(夫)自身の老齢基礎年金の額に加算がされます。これを振替加算といいます。

また、妻(夫)が65歳より後に老齢基礎年金の受給権が発生した場合は、夫(妻)が受けている老齢厚生年金や障害厚生年金の加給年金額の対象者でなくても、一定の要件を満たしている場合に妻(夫)自身の老齢基礎年金の額に加算がされます。

配偶者は一生振替加算を受け取れます。いったんもらい始めれば、離婚してもなくなりません。金額は生年月日で決まり、一般に加給年金ほど多くありません。

振替加算の対象者

振替加算の対象となる妻(夫)は、通常、その妻(夫)が老齢基礎年金を受給する資格を得たとき(満65歳到達時)において、その夫(妻)が受けている年金の加給年金額の対象となっていた方のうち、次の条件を満たしている方になります。

・大正15(1926)年4月2日から昭和41(1966)年4月1日までの間に生まれていること

・老齢基礎年金の他に、老齢厚生年金や退職共済年金を受けている場合は、厚生年金保険および共済組合等の加入期間の合計が240月未満であること

・配偶者が妻に当たる場合は、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金保険の35歳以降の加入期間の制限があります。

・配偶者が夫に当たる場合は、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金保険の40歳以降の加入期間の制限があります。

振替加算の額

振替加算の額は、昭和61(1986)年4月1日に59歳以上(大正15<1926>年4月2日~昭和2<1927>年4月1日生まれ)の方については、配偶者加給年金額と同額の224,900円です。

それ以降、年齢が若くなるごとに減額していき、昭和61(1986)年4月1日に20歳未満(昭和41<1966>年4月2日以後生まれ)の方はゼロになるよう決められています。

振替加算の申請方法

加給年金と同様、振替加算についても受給するためには手続きが必要です。

その手順としては、年金を請求する際に必要な裁定請求書に、配偶者の年金証書の基礎年金番号、年金コード(年金の受給権がある場合)、配偶者の氏名、生年月日を記入することによって請求することができます(裁定請求書は年金の支給年齢の開始月に届きます)。

振替加算のための届出が必要な方

老齢基礎年金を受給している妻(夫)が65歳になった後に、夫(妻)の年金が規定の条件に当てはまるときには、新たに振替加算を受けることができます。この場合、振替加算を受けるためには届出が必要です。

まとめ

以上のように、加給年金は厚生年金に適用されるものです。受給するための条件は、被保険者が生計を維持していて、定められた要件を満たした子どもや配偶者がいることです。

会社員・公務員として長年勤め、厚生年金を支払ってきた方は、その条件を確認して、忘れずに申請するようにしてください。