はじめに
終活の大きな目的は、自分が亡き後の手続きや処理について自分の希望を遺言書やエンディングノートを通して遺族などに伝える事です。つまり「自分が万が一の時に気になる事」を他人に伝える事が終活であり、その内容は多岐に渡る上に優先順位も異なります。
中には「自分が亡くなった後のペットの行方や対応」が心配な人もいるでしょう。
そこで今回はペットと暮らす一人暮らしの高齢者の頼りとなる「ペット信託」について解説していきます。
高齢者とペットの関係
現在ペットとして代表的存在である犬や猫と人間の関係は古く、約1万5千年前から続いていると言われています。日本では犬と生活していた痕跡が縄文時代の遺跡から見つかっており、当初は害獣駆除や警備の目的で飼育されていた犬や猫が時代と共に愛玩動物へと変化していきました。
一般社団法人ペットフード協会によると、犬を飼育している理由は「生活に癒しや安らぎが欲しかったから」「また飼いたくなったから」「家族や夫婦間のコミュニケーションに役立つと思ったから」などが代表的な理由としてランクインしており、QOL向上のために飼育されている事が分かります。
そして犬や猫のようなペットと触れ合う事によってオキシトシンというホルモンが発生するのですが、これは幸せホルモンや愛情ホルモンとも呼ばれており、ストレスの緩和など人の精神状態を安定させる作用がある事が判明しています。
少子高齢化によって一人暮らしの高齢者が増えている中で、ペットは高齢者のコミュニケーション相手や運動不足の解消、認知症の予防など色々なメリットをもたらしてくれます。
高齢者によるペット飼育の注意点
ペットの寿命は種類によって様々ですが、一般的なペットである犬猫の平均寿命は14~15歳程度になります。
なので仮に65歳以上から飼い始めると、ペットの寿命を迎える前に自分が死んでしまったり要介護状態になる可能性も考えられます。
また介護や支援が必要なかったとしても、年齢と共に体は弱っていくのでペットの散歩や餌やりなど日々のルーティーンが大きな負担となってしまう場合もあります。
このようなケースを避けるために、国は2013年に動物愛護管理法を改正しペットの終生飼育の重要性や義務を明文化しました。なので今後、ペットの飼育を予定している人は、本当にそのペットが寿命を迎えるまでに適切に飼育出来るのかを考えなければいけません。
飼い主が死亡したペットの行方
ペットを飼育している一人暮らしの高齢者が亡くなった場合は、飼われているペットもそのまま衰弱死してしまう危険性があります。
例えば一人暮らしでも友人や家族がいれば不慮の事態に気付いてくれるでしょうが、そういった人達がいないと自分の異変に誰も気づいてくれません。
ほとんどのペットは自力で生きていく事は出来ないですし、保護施設やNPOなどに保護されたとしても引き取ってくれる人がいなければ最悪の場合は殺処分になってしまいます。だからこそ、高齢者がペットを飼育する際には、もしもの時の事を考えて準備をしなければいけません。
ペット信託とは
ペット信託とは飼い主がケガや病気などによってペットの飼育が困難になった場合に、あらかじめ定めた第三者や団体に対してペットの飼育に必要な費用を自身の財産から引き渡す制度です。
飼育にかかる費用は信託財産として残す事になるので相続の対象にはならないですが、その分相続関係のトラブルや問題が起こった場合でもペットのための費用は確実に確保出来るというメリットがあります。
また信託法という法律に基づき信託財産の保管や利用には監督人を指名する事も出来るので、ペットのためのお金が勝手に使われてしまう心配もありません。
ペット信託の流れ
まずペット信託を開始するためには、信託契約を結ぶ人を見つけなければいけません。一般的には家族や親戚などの身内を指定する事が多いですが、もし独り身の場合は信頼出来る友人などでも問題ありません。
ただ、もちろんお互いの同意がなければ契約は結べませんし、世話や命に対する責任などの問題もありますので事前にしっかりと話し合いをする事が大切です。
無事に契約を結んだ後は、元の飼い主による飼育が困難になった段階で受託者がペットの管理義務や飼育費を受け取り、飼育を継続します。
この際に監督人がされている場合は、監督人が信託内容に沿った飼育が行われているかを定期的に確認し、指導や改善要求を行います。
ペット信託の費用
ペット信託にかかる費用は依頼先によって異なりますが、一般的には面談や契約書の作成なども含めて30万円程度はかかります。
また信託財産に監督人を付ける場合は、監督人への依頼料を毎年支払う必要もあります。
ペット信託の相談先
ペット信託の取り扱い先は弁護士や行政書士、司法書士など色々ありますが、全ての事務所が対応している訳ではないので、相談する前にホームページや電話で確認するようにしましょう。
信託契約のメリット
自分の死後のペットの世話などについてを他人に伝える方法としては、信託契約以外にもエンディングノートや遺言書を使用する方法もあります。
ただ、エンディングノートは法的拘束力がないですし、遺言書も記載内容によってはペットの養育義務が無効になってしまう可能性もあります。
一方で信託契約であれば契約を締結した時点で法的拘束力が発生しますし、契約の履行状況の確認を監督人に依頼する事も出来ます。
またペット信託は飼い主が死亡した時だけでなく、ケガや病気で寝たきりになったり災害などで安定的な飼育が難しくなった場合にでも効力が発揮されるようにする事も可能なので、ペットについての取り交わしはペット信託を通す事をオススメします。
まとめ
どの家庭においてもペットは家族の一員であり、かけがえのない存在です。
しかし飼い主が高齢の場合は、飼い主がケガや病気で亡くなりペットだけが残されてしまう可能性についても考えなければなりません。
自分が亡くなった後の事を考えるのは大変ですが、飼い主の責任である以上しっかりと考えるようにしましょう。