はじめに
親の財産を長子が独占してしまうという事はドラマや映画の中だけでなく、現実でも起こりえます。特に最近では成人しても実家で生活し続ける人も増えているため、こういった独占問題は身近な物になりつつあります。
そこで今回は、長子や特定の相続人が親の遺産を独占するケースやそういった問題が発生した際の対策について解説していきます。
家督相続の考え方
旧民法では遺産相続を行う場合は、財産の全てを長子が相続する家督相続という制度があります。これは長子が家や家業を継いで守っていくという在り方が高度経済成長期を迎えるまでは一般的だったためであり、長子は全財産を相続する代わりに家や土地などの管理に対する責任や義務を負わなければいけませんでした。
1947年には民法改正により家督相続は廃止され、現在の法定相続制度が導入されましたが、一部の地域では財産は長子が相続する物という考えは未だに根強く残っており、法律に沿わない遺産相続が行われるケースもあります。
相続順位と法定相続分
法定相続制度では財産を相続する順位や取り分についてが法律で決められており、原則的には被相続人との関係が近いほど優先的かつ多くの金額を相続する事が出来ます。
また遺言書がある場合は法律よりも遺言書の記載が優先されますが、遺言書がない場合は法定相続制度に従い遺産分割協議を行います。
遺言書に記載がある場合
遺言書の記載にはある程度の強制力があるため、親の遺言書に「全ての財産を長子に相続させる」旨が書かれていたら相続は実現します。ただ民法では遺留分として他の相続人にも最低限の取り分が認められているので、遺留分減殺請求が可能となります。
この請求が認められると長子は他の相続人に対して遺留分の返還を行わなければいけません。
相続人全員が同意した場合
遺言書に記載がなく遺産分割協議で相続割合を決める場合は、相続人全員の同意があれば長子による独占が可能となります。
ただ他の兄弟の代わりに長子が一人で親の介護を行っていたなど、財産の独占に相応しい理由がない限りは相続人全員の同意を得る事は難しいです。
親の財産を長子が独占するケース
親の財産を長子が独占するケースは色々な場面でありますが、一般的には長子が親と同居している際に起こりやすいです。
他の兄弟は親と同居していないので、財産の内訳や使用状況について把握する事が難しく、結果として親が逝去した後になって初めて長子による独占を知る事が多いです。
財産の使い込み
長子が親の財産を独占するケースとしては最も一般的です。
特に高齢者は自分の子供に通帳やキャッシュカードなどを預けて、生活費や介護費用の管理を任せる事が多いです。もちろん親の財産をそういった目的で使用する分には問題はないですが、キャッシュカードなどを持っていれば自由に親の財産を引き出す事が出来るので、長子の趣味や借金返済などに財産が使用されてしまう危険性はあります。
財産の使用状況の隠蔽
長子が親の財産の使途や残高について他の兄弟に共有しない場合もあります。このようなケースだと、仮に使い込みがなかったとしても兄弟間での不信が募ってしまい遺産相続の際にトラブルに繋がる可能性もあります。
親の介護拒否
長子が親の介護を全て行う代わりに財産を相続した後に、介護を拒否して財産のみを独占するケースは実際にあります。
こういった場合は事前に家族間で契約書や同意書のように法的な拘束力がある書類を作成しておかないと、仮にトラブルになったとしても法的手段が取れずに長子の独占を止める事が出来ません。
また介護を理由にして金銭を要求してきた場合も、必要な費用の開示や領収書の提示などを義務化して不当にお金が使用される事を防ぎましょう。
有利な遺言書の作成
親が高齢になり判断能力が低下していると、長子が自分に有利な遺言書を作成する可能性があります。
遺言書の内容に関わらず相続権を持っていれば最低限の財産を貰う事は出来ますが、全く親の介護や世話をしていない長子が遺言書によって不当な取り分を設定してしまうと後から無効にする事は難しいです。
長子が財産を独占した場合の対策
親の財産を長子が独占する事は法律上では認められていませんが、長子が自身の口座に移し替えたり消費してしまう形で実質的に独占してしまう可能性は考えられます。そのような事を防ぐためには、親が健在なうちから対策をしなければいけません。
青年後見人制度
親が健在ではあるが財産管理に不安な場合は青年後見人制度の利用がオススメです。この制度を活用すれば認知症などの精神疾患によって判断能力が低下した場合に、当人の財産管理や身上監護を後見人に任せる事が出来ます。
一般的に後見人は被後見人の世話や介護をしている人が選ばれますが、長子による財産の不正使用を防ぐという目的であれば弁護士や司法書士などの専門家を選んだ方が良いでしょう。
公正証書遺言・法務局保管制度
長子が遺言書を偽造したり自分の都合の良い内容の遺言書を親に作らせる可能性がある場合は、親が健康なうちに公正証書遺言を作成してもらう事をオススメします。公正証書遺言とは一般的な自筆の遺言書とは違い、公正証書として作成された遺言書の事です。公証人のチェックが必要なため、より確実に遺言が履行されるだけでなく法的な拘束力も強くなるため、仮に長子が財産を独占したとしても裁判で強制的に独占を止める事が可能となります。
また2020年から開始した法務局保管制度を利用すれば、遺言書を法務局で保管してもらう事も出来ます。この制度を利用する場合は遺言書を作成する本人が法務局に出向く必要があるので、なるべく早い段階から準備するようにしましょう。
口座凍結
名義人が死亡した事を伝えれば口座は凍結されるので、長子や他の人間が勝手に預金を引き出して使い込むような事は防げます。
また残高証明書や入出金明細書が手に入れば、過去に不正な使い込みがあった際の証拠にもなるので口座凍結と合わせて銀行へ問い合わせるようにしましょう。
弁護士への相談
相続に関するトラブルはお金だけでなく法律も絡んでくるので、問題解決に時間がかかりやすく精神的な負担も大きくなってしまいます。もし当事者間同士での話し合いで解決する事が難しくなった場合には弁護士のように専門的な知識を持った人に相談するようにしましょう。
弁護士であれば仲介だけでなく、家庭裁判所での遺産分割調停や審判もサポートしてくれるので自分の時間や手間をかけずに問題を解決してくれます。
まとめ
長子一人による財産の独占は法律上は認められていませんが、現実には実力行使の形で独占されてしまうケースはよくあります。
もちろん相続人同士の話し合いで穏便に解決出来るのであれば良いですが、そういった事が難しそうなら見切りを付けてしかるべく対処を行わなければいけません。
また遺産問題は多くの人間が関わる上に、家族や親戚同士の関係性にまで影響が出る事もあるので、何かしらトラブルが起こった際には専門家の力を借りる事をオススメします。