一人暮らしの私に必要な死後事務委任契約って何?

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死亡することで始まる手続きにはかなりの種類があります。通夜や葬儀、告別式は誰が取り仕切るのか、どのように納骨されるのかなど考えることは様々ありますが、一般的には相続人が対応することになります。しかし、一人暮らしで子供がいない場合などは、第三者へお願いすることになるケースもあります。
今回は死亡後の手続きを任せることのできる「死後事務委任契約」について紹介し、その特徴やメリット、遺言執行との違いなどを解説します。

「死後事務委任契約」とは

死後事務委任契約とは、委任者が第三者に対し、亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等についての代理権を付与して、死後事務を委任する契約のことです。簡単にいうと、一般的には相続人が対応する葬儀屋納骨などを、第三者に頼むということです。

死後事務委任契約と社会背景

内閣府の資料「令和2年版高齢社会白書」によると、現在65歳以上の男性は8人に1人、女性は5人に1人が一人暮らし世帯となっています。核家族化、高齢化が加速している現代の日本では、今後も一人暮らしは増加すると推計されています。
(参考:https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/s1_1_3.html)

こういった一人暮らしの方を含め、配偶者の死亡、離婚、もともと未婚であるなど理由は様々ですが、死亡後の手続きについて相談できる相手が身近にいないという人が増えています。死亡後には各方面への連絡や葬儀の方法、生活用品の処分など細々とした手続きが発生しますが、相談や依頼できる相手がいないまま他界してしまうケースも増えています。

このような問題を解消できるのが「死後事務委任契約」であり、死亡後に発生する様々な手続きを第三者に委任することができます。

死後に発生する事務手続き

死後に発生する事務手続きは人によって異なりますが、主なものとして以下の項目が挙げられます。

  • ①死亡の事実及び会葬案内等の連絡
  • ②私物の整理~病院や施設等に入っていた場合
  • ③役場への諸届~死亡届の提出、火葬の許可申請、戸籍、健康保険や年金関係
  • ④埋葬や永代供養に関する手続き
  • ⑤医療費や施設利用料の清算手続き
  • ⑥公共料金等の解約または名義変更手続き
  • ⑦家財道具等の処分に関する手続き
  • ⑧賃貸借契約の解約等~賃貸住まいの場合
  • ⑨生前の債務返済手続き
  • ⑩ウェブサービスなどの閉鎖手続き~SNSやブログ、個人サイト等への死亡告知及び閉鎖・退会処理
  • ⑪電子データの消去等~パソコンや携帯電話、スマートフォン内部のデータ消去等
  • ⑫運転免許証の返納手続き
  • ⑬車両に関する手続き~廃車や名義の移転など
  • ⑭ペットの引き渡し
  • ⑮固定資産税、住民税の納税手続き

他にも現役で勤めていらっしゃる方は退職手続きが必要ですし、クレジットカードの解約などもあります。死後事務委任契約を結んでおけば受任者が全て対応しますが、手続きが始まる段階では他界しているため、項目の追加や変更ができません。死後事務委任契約を検討する場合、まずどのような手続きが発生するのか洗い出しておく必要があります。

死後事務委任契約を検討するべきケース

一般的に死後事務の手続きは相続人の対応となりますが、人によっては死後事務委任契約を利用した方がよい場合もあります。それは以下のような場合です。

  • ①配偶者が既に他界している
  • ②子供がいない
  • ③多忙な子供に負担をかけたくない
  • ④未婚
  • ⑤頼れる家族や親せきがいない
  • ⑥頼れる人はいるが高齢である
  • ⑦特殊な埋葬を希望している

配偶者が他界しており同居家族もいない方、子供が多忙であったり海外在住であったりなど、死後事務を任せたい人が身近にいない場合は死後事務委任契約を検討しておくことをおすすめします。特におひとりさまには有効であり、誰が自分の葬儀を行ってくれるのか、家財道具はどう処分されるのかといった不安から解消されるので、未婚の方などは積極的に検討しておくべきでしょう。

また、近年、樹木葬や散骨など特殊な埋葬を希望する方も増えていますが、家族の反対により実現できないケースもあります。死後事務委任契約に埋葬方法を指定しておけば、たとえ家族の反対があったとしても実現することができます。

死後事務委任契約は誰と契約すればよい?

死後事務委任を契約する場合、基本的に家族や親族が受任者になることはありません。ご自身の家族や親族であれば、特別な契約などなくても葬儀の執行や役場関係の手続き、私物の整理などを行えるからです。

死後事務委任契約は専門家へ任せる

受任者となる方に資格などは不要で、好きな相手をパートナーに選ぶことができますが、多岐にわたる死後事務の殆どを同時進行させるため、知識や経験のない方にはかなり負担な作業となってしまいます。

また、あってはならないことですが、あらかじめ渡しておいた実費相当額のお金を使いこまれてしまい、死後事務の手続きが完全に履行されない可能性もあり得ます。そのため死後事務委任契約は、司法書士や行政書士などの専門家へ任せることが現実的かつ安心だといえるでしょう。

死後事務委任の契約書は公正証書にしておくこと

死後事務の委任範囲を曖昧にしてしまうとトラブルに発展する可能性もあるため、どこからどこまでを委任するのか明確にする必要があります。契約書も公正証書にしておくことをおすすめします。公証役場への支払い(11,000円)は発生しますが、公文書として効力を発揮するため、文書内容に関するトラブルの発生を防止することができます。

内縁関係の方がいる場合や同性同士のカップルの場合

内縁関係の方がいたり同性の方と付き合ったりしている場合、パートナーを受任者として死後事務委任契約を結ばれる方もおられます。相続人ではないため遺産相続に関与することはありませんが、葬儀や埋葬の手配に関わってもらうことで最愛の方、または最大の理解者に見送ってもらうこともできます。

死後事務委任はいつ頃契約しておけばよいのか

全ての契約行為に共通しますが、死後事務委任は「元気なうち」に契約しておくことが理想です。病気になってしまったり不慮の事故に遭ってしまった後では、充分に検討できない可能性があるからです。

しかし現実には、身体も健康で判断力も十分だから急がなくても大丈夫だろう、と考える方が殆どで、そのままズルズルと何の準備もせずに死期を迎えてしまうケースが多いようです。認知症を発症してしまうと死後事務委任契約はかなり難しくなってしまうので、なるべく早めに対応しておくことが重要です。

また配偶者や子供の死亡など、ご自身の死後の手続きを任せられる相手がいなくなってしまった場合も、専門家に相談し、死後事務委任契約を結ぶタイミングと捉えるべきかもしれません。

費用はどのくらいかかる?

死後事務委任契約の費用は委任する内容によって異なります。
行政書士や司法書士に依頼の相場として、まず契約書の作成に30万円程度必要となるようです。死後に発生する事務には、業者の手配や不用品の処分など実費が発生するものもあるためケースバイケースとなりますが、100万円~200万円程度の報酬になることが多いようです。

司法書士事務所などのホームページでは、受任する項目ごとの料金を掲載しているところもあるので、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。実際に相談する場合は見積書を作成し、契約となった場合は実費として必要なお金を事前に預かる場合もあります。

決して安い費用ではありませんが、死後の手続きに不安がある方には有効な手段です。費用はかかっても葬儀や納骨方法を自分で決めることができ、確実に執行してもらえるため、最後まできちんとしておきたい方にもおすすめの仕組みとなっています。

同時に手続きしておきたい契約等

死後事務委任契約とともに、以下の契約も検討しておくことをおすすめします。

・任意後見人
認知症など判断力が衰えたときに備え、財産の保全や管理を任意後見人に任せる契約です。

・身元保証人
老人ホームなどの施設に入る場合は保証人が必要であり、一般的には子供が保証人となっています。子供がいない方や未婚の方など保証人を頼める人がいない場合、身元保証に対応している業者に相談しておくとよいでしょう。

・遺言執行者(相続人がいる場合)
遺言執行者の指定が必要な場合、同じ方と死後事務委任契約を結んでおけば、死亡直後から様々な手続きに関わってもらうことができ、スムースになります。

・財産管理の委任
財産管理を委任しておくと、任意後見員制度と異なり、十分な判断能力があるうちでも財産管理を任せることができます。財産管理を開始する時期も自由に決めることができます。判断力が十分でも病気やケガなどで体が不自由になることがあり、配偶者や子供など財産管理を任せられる人がいない場合には有効な手段です。独り身の方は検討しておかれるとよいでしょう。

・尊厳死の宣言
延命治療をするか、しないか、本人の判断能力がない状態であれば家族は難しい選択を迫られることになります。あらかじめ書面で意思表示をしておけば家族が困ることもないでしょう。

遺言執行と死後事務委任契約はどう違う?

遺言執行と死後事務委任契約は似たようなものと思われがちですが、目的が違うため実務内容も異なります。この違いを知っておかないと、死後にトラブルが起きる可能性があるので注意してください。

遺言執行者とは?

遺言執行者とは、遺言書どおりの相続手続きを実現させる人のことです。執行者がいなくても遺言内容の効力は変わりませんが、義務を負った執行者を指定することで、遺言どおりの相続となる可能性が高くなります。

遺言執行者は実務として「相続人の調査」「相続財産調査及び財産目録の作成」「相続財産の名義変更手続き等」などに対応しますが、必要に応じて隠し子の認知手続きや不動産の相続登記なども行います。

破産者や未成年以外であれば誰でも遺言執行者になれますが、他の相続人との利害関係が発生し、専門知識も必要であるため、司法書士や弁護士、信託銀行などを指定することが一般的となっています。

遺言書に死後事務手続きの内容を盛り込むとどうなる?

「遺言書に死後事務についても記しておけば良いのでは?」と考えてしまいそうですが、実際に遺言書に盛り込んだとしても無効になることが殆どです。

遺言書で出来ることは相続人の指定や財産の分け方など法律で決まっているため、役場の手続きや家財道具の処分について書いてあったとしても強制力がありません。また、遺言内容は葬儀や納骨が終了し、ある程度落ち着いてからオープンになることが多いため、故人の希望が実現されない場合もあります。

希望どおりの手続きを実現させるためには、遺言執行とは別に死後事務委任契約が必要ということになります。

まとめ

死後事務委任契約を結んでおけば、独り身の方でも希望どおりの葬儀や埋葬、遺品の処分などを決めておくことができます。本来は家族が対応するため、指定の必要はありませんでしたが、近年はおひとりさまが増えていたり、家族との関係が希薄になっているなど、様々な事情により死後事務委任契約が注目されています。

自分ではできない人生の最後の締めくくりを託すことになるので、愛情と信頼のある方、知識・経験の豊富な方、信頼できる業者などを見つけておくことが重要といえます。