こんなことがあったらどうしますか?
子どものころ「お盆やお彼岸に、一家そろってお墓参りに行くのが年間行事のひとつだった」という人は多いでしょう。
東京在住のAさんにも、そんな思い出があります。
Aさんの生まれ故郷は秋田県で、高校卒業後に東京の大学に進学し、そのまま就職して家庭を持ち、現在は妻と子ども二人の4人家族です。
両親が健在だったころは、年に1度か2度のペースで帰省していましたが、その両親も他界し、今は代々のお墓が残っているだけになりました。
お墓のことが気になりながらも、2020年始めから猛威を振るい始めた新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、県をまたいでの移動の自粛要請により、今年は5月の連休もお盆もお墓参りには行けませんでした。
そんな折、叔母が亡くなったとの一報を受け、妻とともに秋田での葬儀に参列するために久しぶりに故郷を訪れたAさんは、我が家のお墓参りもすませようと菩提寺に向かいました。
そこで、住職とお会いし、なかなか墓参りに来られないことを話したところ「墓じまいをしてはいかがですか」と提案されたのです。
近年「墓じまい」は、シニアの話題として多く取り上げられています。
Aさんの場合、地方出身で東京に住んでいるため、遠い故郷にあるお墓は、しだいに管理が難しくなる傾向にあります。
しかし、年に1度か2度訪れる故郷のお墓は心のよりどころでもあり、お墓がなくなったら帰省する理由もなくなると思うと、少し寂しい気持ちにもなり複雑な心境にもなるでしょう。
ただ、Aさん自身も50歳代後半となり、墓の継承を考えると子どもたちに負担をかけたくない思いもあり、自分の代で墓じまいを行うのがベストかもしれません。
Aさんには妹がひとりいますが、九州に嫁いでおり秋田のお墓の管理は頼めそうになかったのです。
また、秋田在住の親戚も高齢になり、お墓の管理をお願いするのは無理でしょう。
Aさんは、住職から「墓じまい」を勧められましたが、墓じまいについて知っておかなければ何も始まりません。
今回は、Aさんの体験をもとにしながら、墓じまいについて知っておくべきことを解説していきます。
墓じまいとは?
「墓じまい」は、現在のお墓から遺骨のすべてを取り出し、墓石を解体して更地にし、墓地管理者に返還することです。
その後、別のお墓に引っ越しをして、改めて埋葬することを「改葬」といいます。
墓じまいにより取り出した遺骨は、一般墓所(ひとつひとつ区画が柵で区分けされている伝統的なお墓)や永代供養墓に埋葬されることがほとんどです。
最近では、樹木葬や海洋散骨、手元供養などを選択する人も増えています。
墓じまいについて知っておくべきこと
「墓じまい」を検討するときには、まず墓じまいについて詳しく知っておくことが大切です。
墓じまいに関して知っておくべき情報は、以下の項目が挙げられます。
・費用(遺骨の撤去費および運搬費、墓の解体費、新しいお墓の費用、現在の菩提寺に支払う謝礼など)
・期間(遺骨撤去から新しいお墓に入れるまでの期間)
・必要書類、手続き(役所、菩提寺、移転先の墓地)
・墓じまいの流れ
一般的な墓じまいの流れ
ここで、一般的に行われる「墓じまい」の流れを確認しておきましょう。
墓じまいがどのように行われるかを知っておくことで、考えておくべきことは何か、準備には何が必要かなどが明快になるでしょう。
- 移転先の墓地、または埋葬方法(永代供養墓、納骨堂、樹木葬、散骨など)を決める
- 移転先の墓地(永代供養墓も含む)から「墓地使用許可証」「受入証明書」を発行してもらう
- 新たに墓地を作る場合は石材店に墓石の依頼をする
- 現在の墓地の市区町村役場で「改葬許可申請書」を取り寄せる
- 現在の墓地管理者に「埋葬(埋蔵)証明書」の発行、「改葬許可申請書」への署名押印を依頼する
- 現在の墓地の市区町村役場に「改葬許可申請書」「埋葬(埋蔵)証明書」「墓地使用許可証」「受入証明書」を提出し、「改葬許可証」を発行してもらう
- 現在の墓地の閉眼供養を行う
- 遺骨の取り出し、墓石の解体、土地の返還を行う
- 新たに墓地を作った場合には「改葬許可証」を提示し、開眼供養を行い納骨する
墓じまいをしても、遺骨をその後どうするかは大きな問題となります。
墓じまいを住職に勧められたAさんも「今後、遺骨をどうするか」について迷ったようです。
墓じまい後の移転先に迷うAさん
墓じまいそのものは、現在の墓から遺骨を取り出して墓石を解体し、更地に戻して管理者に返還するという手順で、石材店が請け負うのが一般的です。
問題は「取り出した遺骨の移転先をどうするか」でしょう。
ここでAさんが考えた2つの方法について、メリットとデメリットを挙げてみます。
1つ目の例
東京で新たに一般墓所を購入し、秋田のお墓に納められていたお骨を納骨することにするとします。
秋田の墓は解体し、更地に戻し管理者に返還することで「墓じまい」します。
「メリット」
・東京の一般墓所は、いずれAさん夫婦の墓にもなる
・都内に改葬すればお参りに行きやすく、子どもたちにも継承してもらいやすい
「デメリット」
・東京の墓地は高額で、最低でも200万円以上
・秋田のお墓には遺骨が6体納められており、遠距離のため運搬費が割高
・住宅ローンと教育ローンが残っているAさんには経済的な負担が大きい
2つ目の例
代々の墓は墓じまいし、中の遺骨はまとめて同じ寺にある永代供養墓に移すことにします。
お墓のある菩提寺には、一般墓所のほかに永代供養墓もあります。
「メリット」
・永代供養墓に納めると、今後の管理や供養は菩提寺が行ってくれるため、毎年お墓参りに行かなくてもよい
・費用面でも契約時に永代供養料を支払えば、年間の管理料などは不要
「デメリット」
・永代供養墓は「合祀」もしくは「合葬」といい、ほかの利用者と一緒に埋葬されることに抵抗がある
・代々の墓は墓じまいによりなくなるため、自分たち夫婦が入るお墓を新たに探す必要がある
一般墓所以外の納骨先にはどのようなものがあるか
Aさんも迷ったように、墓じまい後のお骨の納骨先に悩む人は多いでしょう。
これまでは、一般墓所が当たり前のようにされていましたが、近年ではお墓の形も多様化してきています。
従来の一般墓所以外にも、納骨先はたくさんあり、納骨堂・室内墓所、樹木葬、海洋散骨などが人気を博しています。
なかでも都心部に増えているのが、納骨堂や室内墓地といわれる、屋内に設けられた遺骨を収蔵するスペースです。
もともと納骨堂はお墓ができあがるまでの一時的な保管場所でしたが、近年ではお墓の新しい形として人気が出てきました。
Aさんが出した結論
供養の方法が多様化しているなか、Aさんはどのような結論を出したのかを見ていきましょう。
都内に一般墓所を新たに購入するには経済的負担が大きいと考えたAさんは、菩提寺の住職と相談のうえ、代々のお墓は墓じまいして更地に戻して返却し、納骨されている6体は永代供養墓に移してもらう手配をしました。
6体はAさんの両親、祖父母、曾祖父母のお骨です。
合祀されることにやや抵抗があったため、両親の遺骨だけは分骨して少量を自宅において供養する「手元供養」とすることにしました。
手元供養とは
「手元供養」は遺骨のすべて、もしくは一部を自宅において供養する方法で、お墓参りに行くのが困難な人や、故人と離れがたい思いが強い人に人気があります。
現在、骨壺、ミニ骨壺をはじめとするさまざまな手元供養品が、豊富なラインナップで販売されています。
Aさんは、墓じまいによって自分たち夫婦の入るお墓がなくなったため、終活の一環として都内の納骨堂を探すことにしました。
近年できた納骨堂や室内墓所のほとんどがアクセスのよい場所にあり、車がなくてもお参りできるうえ、屋内にあるので天候にも左右されないのがメリットです。
また、継承を前提としていないため、子どもたちに負担をかけることもないでしょう。
墓じまいにかかった費用内訳
Aさんが墓じまいにかかった費用を見ていきましょう。
・ 閉眼供養のお布施(菩提寺)・・・10万円
・墓の解体、遺骨の移動(石材店)・・・20万円
・永代供養墓契約料(菩提寺)・・・20万円
・住職への謝礼(菩提寺)・・・10万円
・ 納骨堂・堂内墓所契約料(夫婦二人分)・・・60万円
合計:120万円
通常、墓じまいをする際には、菩提寺に「離檀料」を支払うのが慣例となっています。
しかし、Aさんのケースでは、同じ菩提寺で一般墓所から永代供養墓への移転になったため、離檀するわけではありません。
そのため、離檀料ではなく、今までお世話になったお礼の気持ちと「今後も永代供養をよろしくお願いいします」という気持ちを込めて、謝礼の名目で10万円をお渡しすることにしました。
まとめ
シニア世代の間で話題となっている「墓じまい」について、地方出身で東京在住のAさんの例をご紹介しました。
ひとくちに「墓じまい」といっても、それぞれ価値観や経済的背景も違うため、同じプロセスをたどるとは限りません。
しかし、お墓とはそこに眠る人のものであると同時に、残された人たちが故人と向き合える場所でもあることを忘れない気持ちが大切です。
家族や親族が納得し、だれもが後悔しない「墓じまい」やその後の供養の方法を選択していきましょう。