遺体を川や海に葬る水葬とは?

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水葬とは?

遺体を川や海に葬る水葬とは?

遺体を川または海へ流す葬儀の形式を「水葬」といいます。
現在でもインドのガンジス河流域などの一部地域ではヒンドゥー教徒による水葬が行わていますが、衛生面などに問題がある事から水葬を行う国は減ってきています。
日本でもかつては土葬と合わせて水葬も行われていましたが、法整備が進むとともに火葬が主流になっていきました。
ただ、水葬は仏教思想を反映した葬儀の形式である事から、一部の儀式などには水葬の名残が見られます。

日本の水葬の歴史

遺体を川や海に葬る水葬とは?
日本の水葬は宗教学者や民俗学者によって研究が進んでおり、時代を遡ると古墳時代から「舟人」と呼ばれる世話人が葬儀を取り仕切っていたとされています。
7世紀~8世紀にかけて編纂された万葉集の中には、「沖つ国知らさむ君が染め棺、黄染めの棺神の海門渡る」と水葬の様子を詠じたものがあり、黄色に染めた柩が流れ往く様を表現しています。
和歌山県の熊野にも水葬が行われていた歴史があり、遺体を海に流す際には熊野神の供物となる鯛をなぞって神様の近くへ行けるようにと祈っていました。

また、水葬は捨身行の一つとして中世に行われた補陀落渡海が変化したものといわれており、江戸時代には遺体を渡海船に乗せて海へ送り出したという記録が残っています。
水葬には遺体を船に乗せて葬る「舟葬」と、遺体のみを海へ流す「海葬」の2種類があり、いずれも浄土に辿り着くよう願いを込めて葬られたとされています。
現在では日本で水葬が行われる事はありませんが、灯籠や精霊流しのように水葬の名残とされる風習が全国各地で受け継がれています。

海洋散骨との違い

遺体を海や川に流す水葬は禁止されていますが、遺灰を撒く海洋散骨は自然葬として法的に認められています。
海洋散骨とは、沖合で遺灰や遺骨を撒き、故人を海へと還す葬儀方法の一種であり、比較的近年に登場し普及が進んでいます。
他の遺族と合同で散骨したり、業者に散骨の代行をお願いしたりと融通がききますし、料金も2~10万円程度で収まる事から、最後は自然に還りたいという希望がある人にとっては水葬に代わる方法としておすすめです。
ただ、一度散骨をしてしまうと、その後お墓参りができないですし、世間一般に定着している訳ではないので一部の遺族や親族から反対される可能性はあります。
また、衛生面や環境面の問題はないものの、各地の宗教観の違いや住民からの苦情を受けて海洋散骨を条例で禁止している自治体も存在しています。
もし自分や家族の海洋散骨を考えている場合は、このような条例も確認した上で節度を持って行うようにしましょう。

日本で水葬を行う事はできる?

遺体を川や海に葬る水葬とは?
葬儀スタイルが多様化しているので水葬を希望する人もいますが、日本では刑法第190条の死体遺棄罪によって禁止されています。
また、処理を施していない遺体を流す事によって海や川の水質が汚染されてしまうので、環境保護の観点からも水葬は問題が大きいとされています。

日本で水葬を行える特例

基本的に日本での水葬は法律によって禁止されていますが、公海上の船舶内で人が死亡した場合は船長の権限で水葬となるケースがあります。
ただし、それには以下の条件を全て満たしている必要があります。

  • ①当該船舶が公海上にあること
  • ②死後24時間を経過してること
  • ③遺体を船内保存することが衛生上困難な場合
  • ④医師が乗り組む船舶では、医師が死亡診断書を作成していること
  • ⑤伝染病による死亡の場合、十分な消毒が行われていること

また、船長は死体の浮き上がりを防止するために適当な処理を行ったり、遺族のための遺体の撮影や遺品となるものを保管する義務があります。

世界各国の水葬事情

遺体を川や海に葬る水葬とは?
水葬が可能な国はいくつかあり、アメリカでは遺体の浮き上がり防止を処置している場合や、水深600メートル以上の海上であれば誰もが水葬を行うことができます。
また、ノルウェーやスウェーデンもかつては水葬が行われており、ポリネシアのほかミクロネシアやフィリピンなどでも舟葬の風習があったとされています。

インドでは今でも水葬が行われている

ヒンドゥー教の多いインドでは今でも水葬が一般的であり、ガンジス河へ葬られることは最高の幸福と考えられています。
まず先に火葬を行ってから水葬されることになっていますが、ヒンドゥー教から離れてしまったり改宗した人には火葬が認められていないので、その場合は布に包み、そのままガンジス河へ流されます。
また、ヒンドゥー教においてガンジス河の水は「聖なる水」とされているので、水葬を行うためにインド中からガンジス河に遺体が集められています。

アメリカで流行りつつある液体火葬

現在、アメリカでは土葬による環境汚染や墓地の確保の問題から、水葬が見直されています。
特にアルカリ加水分解の技術を使えば、2時間程度で遺体を液状に溶かす事ができるので、従来の土葬や火葬よりも低コストで環境に優しい方法として一部の州で合法化が進められています。
ちなみに、分解処理を行った後は液体とパウダー状の遺骨、詰め物などの金属片だけが残ります。