はじめに
終末期の医療や介護では本人の意思を尊重するべきであり、老人ホームなどの介護施設や病院への入院時には延命治療についての「事前指示書」や「意思確認書」などを提出することが増えました。
このような書類はリビング・ウィル(Living Will~生前の意思)と呼ばれ、本人が意思を伝えられなくなった際、延命治療を希望するか否かを記入することになっています。
しかし、事前指示書などによる意思表示は本人とその家族、利用する施設との間で取り決めたものであり、病院などが変わると新たな意思表示が必要となります。また本人の健康状態や年齢によっては介護や延命治療への考え方も変化するため、一度書いておけば大丈夫というものではありません。
そこで今回は、自分の介護や延命治療について意思表示する方法について解説していきます。
意思表示しないとどうなるの?
介護や延命治療についての意思表示がない場合、医療関係者や家族は難しい選択をせまられることになります。
例えば、救急車を呼ぶ事態になれば家族は延命の希望について尋ねられますが、本人の意思が分からなければ答える事はできません。
また、延命治療を望まないという人は全体の9割という調査結果もありますが、厚生労働省の調査では患者との話し合いができている医師は3割を下回っており、意思表示をしていない人が大多数であるとされています。
いざというときに家族が困惑せず対応できるよう、事前に明確な意思表示をしておく事が大切になってきます。
意思表示には法的な効力があるの?
延命治療の意思表示(リビング・ウィル)を行う場合、日本尊厳死協会が発行する「尊厳死宣言書」と日本公証人連合会によって作成される「尊厳死宣言公正証書」の2通りがあり、いずれも公的制度ではあるが法的な効力はなく、あくまでも本人の意志を伝える手段としてのみ機能します。
しかし、本人の生命に関わる意思表示であることから、内容どおりに実現される可能性は高いです。
意思表示すべき内容
介護や延命治療に関する意思表示には以下のような内容があります。
- ①最期を迎える場所
自宅や介護施設、病院、家族の判断に任せるなどの内容。
- ②蘇生の処置
心肺蘇生をする・しない、家族または病院の判断に任せるなどの内容。
- ③胃ろうについて
口から食事を摂取できなくなった場合に胃ろうを造る・造らない、家族または医師の判断に任せるなどの内容。
- ④輸血または注射等の治療
輸血等を行う・行わない、家族または医師の判断に任せる等の内容。
- ⑤その他の希望や要望など
それぞれの内容については医師や家族などの意見も踏まえながら決定し、同時に自分の代理として意思決定する人も決定しておきましょう。
介護について
介護に関する意思表示は主に以下の内容が対象になります。
また、項目によっては自分1人で決める事が難しい事もあるので、その場合は介護施設の担当者や家族と話し合いましょう。
- ①無理のない範囲で家族に介護をお願いしたい
- ②家族の介護と介護保険のサービスを併用したい
- ③体の状態により最も適した場所(自宅または施設)で介護をお願いしたい
- ④その他の希望や要望など
延命治療について
延命治療に関して意思表示する場合は、以下の内容について記載するようにしましょう。
また、人工呼吸や人工透析による延命措置によって長く生きる事はできますが、費用や介護の問題も発生するので、慎重に判断するようにしましょう。
- ①人工呼吸
- ②人工透析
- ③人工栄養(胃ろうやカテーテル)
臓器提供について
終末期医療では治療の継続や中止のほか、臓器提供も選択肢の1つとなっています。臓器提供には以下の3種類があり、脳死や心停止など死亡の原因により提供可能な臓器は異なります。
また、心停止後に死亡した場合に提供できる臓器は、腎臓、すい臓、眼球であり、脳死後の場合は心臓や肺、腎臓、肝臓、すい臓、小腸、眼球になります。
- ①脳死後(脳死下)の臓器提供
- ②心臓が停止した死後(心停止下)の臓器提供
- ③健康な人からの臓器提供(生体移植)
意思表示する方法
介護や延命治療についての意思表示は病院などに提出する「事前指示書」や「意思確認書」のほか、エンディングノートや健康保険証なども利用できます。
意思表示の方法は1つだけではないので、バックアップの意味も込めて複数用意するようにしましょう。
エンディングノートによる意思表示
紙媒体のエンディングノートは様式や値段も様々ですが、ほぼ全てのエンディングノートに介護や延命治療に関わる項目が用意されています。
また、書店や文具店のほか通信販売でも購入できますし、商品によっては秘密にしておきたい項目にスクラッチシールを貼る事ができたりと工夫を凝らしている物もあります。
もし、介護や延命治療についての考えが変わった場合は修正し、保管場所も家族に伝えるようにしましょう。
健康保険証や運転免許証による意思表示
健康保険証では以下の3項目のいずれかに「○」をすることで臓器提供に関する意思表示ができるようになっています。
- ①脳死後及び心臓が停止した死後のいずれでも、移植のために臓器を提供します
- ②心臓が停止した死後に限り、移植のために臓器を提供します
- ③臓器は提供しません
また、心臓、肺、肝臓、腎臓、すい臓、小腸、眼球のうち、提供したくない臓器があれば「×」を付け、本人及び家族の自筆署名とともに署名年月日を記入するようになっています。
記入後に考え方が変わった場合は二重線による取り消しが有効であり、特記欄に「親族優先」と記入しておけば、臓器移植を必要とする親族へ優先的に提供されることになります。
なお、「臓器は○○さんだけに提供する」など特定個人が指定されていた場合は親族も含めて臓器提供されなくなり、親族への臓器提供を目的とした自殺防止のため、自殺した方から親族へ優先提供される事もありません。
インターネットによる意思表示
インターネットを利用して意思表示する場合、エンディングノート以外では公益社団法人日本臓器移植ネットワークによる「臓器提供意思登録」が利用できます。
臓器提供意思登録についてはパソコンやスマートフォンから利用する事によって、ID入りの意思登録カードが郵送されるので、そのIDを元にして本登録を行います。
本登録が完了したら意思登録カードに必ず署名し、万が一に備え外出時は常に持ち歩くようにしましょう。
おわりに
介護や延命治療に関して書面に残している人はまだまだ少ないですが、もしもの時は不意にやってきます。
また、書面などで意思表示をしていても、本人や家族の考え方は年月の経過とともに変化していきます。
だからこそ、運転免許証の更新時期や家族が集まる機会に、改めて自分の終末期について考え、家族と共有しておく事が大切です。