豊かなセカンドライフのための退職金の賢い使い方とは?

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はじめに

公的年金と退職金はセカンドライフを豊かにするための2本柱になります。特に退職金は生涯で1回の方も多く、まとまった資金でもあるため賢い使い方を考えておきたいところです。退職後の自由な時間を使って旅行をするのもよいですし、趣味に使うのも楽しいでしょう。自宅のリフォームやマイカーのグレードアップなど使い方は様々ですが、計画性がなければ「退職貧乏」になってしまう可能性もあります。
ご自身またはご夫婦の年金額や預貯金、平均寿命などを考慮した使い方でなければ、あっという間に底をつくことになりかねません。「使う」「増やす」など退職金の用途は様々ですが、今回は「賢い使い方」に焦点を当ててみます。

退職金とは

退職金は法律の定めによるものではなく、各企業が制度として設けているものであり、中小企業では87%程度、大企業になるとほぼ100%が退職金制度を導入しています。しかし近年は終身雇用が崩れつつあるため、退職金の縮小や制度そのものを廃止する企業も出ています。
また退職金には長年の勤めに対する「ご褒美」といった考え方もありますが、中身は毎月の給与から積み立てたものです。ご褒美であれば少し贅沢に使ってみたい気にもなりますが、もともとご自身が働いてつくったお金なので、散財するような使い方は避けたいところです。

退職金の種類

かつての退職金は、退職時に一時金として支払われることがほとんどでした。しかし現在は年金として受け取るタイプが増えています。

  • ①退職一時金

    一時金として退職金を受け取る制度であり、金額は退職時のポジション(役職)や勤続年数によって変わります。一般的には企業の規模が大きいほど退職金も高額になっています。

  • ②確定拠出型年金(企業型DC)

    年金として退職金を受け取る制度であり、企業側が掛け金を拠出して社員の年金口座に積み立て、運用は社員自らが行うことになります。運用成績によって将来受け取る年金(退職金)は変動します。

  • ③確定給付企業年金(DB)

    会社と社員の間であらかじめ給付内容を約束し、年金として受け取る退職金制度であり、給付建て年金(DB/Defined Benefit Plan)とも呼ばれています。年金資産(退職金)は会社側で一括運用され、運用リスクも会社が負うことになります。

  • ④厚生年金基金制度

    会社が設立した基金で運用を行う退職金制度です。厚生年金や国民年金へ上乗せされることになりますが、資金不足になるケースもあることから、平成26年4月以降の新規設立は認められていません。

  • ⑤中小企業退職金共済制度

    会社単独による退職金制度や年金制度をもつことが難しい中小企業を対象とし、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する退職金制度です。会社側が掛け金を拠出し、同機構が積立金を運用する仕組みになっています。

  • ⑥前払い退職金制度

    現役で働いている社員の給与に退職金を上乗せする制度です。大手企業でも導入され、毎月の支給額は増えますが、所得税や住民税、社会保険料などが増えることで手取り額が減ってしまうデメリットもあります。

退職金の平均的な支給額

厚生労働省発表の「平成30年就労条件総合調査結果」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の平均退職給付額は以下のようになっています(金額は1人あたり。定年及び早期優遇のみ紹介)。
●大学・大学院卒(管理、事務、技術職):定年1,983万円、早期優遇2,326万円
●高校卒(管理、事務、技術職):定年1,618万円、早期優遇2,094万円
●高校卒(現業職):定年1,159万円、早期優遇1,459万円
この平均退職給付額は、退職一時金制度のみであれば退職一時金額、退職年金制度のみであれば年金現価額、退職一時金と年金の併用であれば合計額となっています。

退職給付制度の形態からみると、勤続20年以上かつ45歳以上の退職給付額は以下のようになっています。
●大学・大学院卒(管理、事務、技術職):一時金1,678万円、年金1,828万円、併用2,357万円
●高校卒(管理、事務、技術職):一時金1,163万円、年金1,652万円、併用2,313万円
●高校卒(現業職):一時金717万円、年金1,177万円、併用1,650万円
いずれも退職一時金と年金型を併用したものがもっとも多い金額となっています。会社の退職金制度にもよりますが、一時金、年金、併用と選べるようであれば、どの形態が自分にとって一番よいか、慎重に検討する必要があるでしょう。

退職金にかかる税金

退職金は「退職所得」として課税対象になりますが、一時金で受け取った場合には「退職所得」、年金の場合は「雑所得」に区分されます。
退職所得の金額は以下のように計算します。
・退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除額)×1/2

計算の要素となる退職所得控除額は、退職者の勤続年数と基礎として以下のように計算します。
・勤続年数20年以下~40万円×勤続年数(最低80万円)
・勤続年数20年以上~800万円+70万円×(勤続年数-20年)
勤続年数に1年未満の端数がある場合は1年として計算します。

仮に勤続年数30年、退職金一時金2,000万円であった場合、以下のような計算になります。
・退職所得控除額:800万円+70万円×(30-20)=1,500万円
・退職所得の金額:(2,000万円-1,500万円)×1/2=250万円
計算結果は250万円となり、この金額が所得税と復興特別所得税及び住民税の課税対象となる「退職所得」になります。また退職所得は分離課税であり、所得税、住民税は支給時に源泉徴収されています。ただし確定申告が必要な場合は確定申告を行います。
源泉徴収税額の計算は以下のようになります。
・退職所得の受給に関する申告書を提出した場合:退職所得金額×超過累進税率
・退職所得の受給に関する申告書を提出しない場合:退職手当等の金額×20%

退職金を年金形式で受け取る場合は雑所得となります。雑所得の場合、退職所得控除ではなく「公的年金等控除」が適用され、収入額から公的年金等控除額を差し引いた金額に課税されます。年金額が控除額内に収まっていれば所得税や住民税は課税されません。
豊かなセカンドライフのための退職金の賢い使い方とは?

退職金の賢い使い方

退職金はセカンドライフに大きく影響するため、計画性を持ち賢く使いたいものです。貯蓄や資産運用など使い方は様々ですが、年金額や今後のライフイベントも考慮しておくべきでしょう。
代表的な退職金の使い方には「貯蓄」「投資」「ローン返済」があるので、それぞれの特徴などを解説します。

貯蓄

年金の不足分などに充てるため、ひとまず貯蓄するという方は多いようです。投資に比べリスクは少なそうですが、セカンドライフの日常生活費や平均寿命を考慮しておかなければなりません。
総務省や生命保険文化センターなどの調査により、老後に必要な生活費は以下のようになっています。
・最低日常生活費~夫婦2人の世帯で平均22.1万円(生命保険文化センター調査)
・一般的な日常生活費~夫婦2人の世帯で平均27.5万円(総務省調査)
・受給できる年金額~夫婦合計で平均22.1万円(厚生労働省調査)
平均的な年金額をもとに計算すると、一般的な日常生活には5.4万円が不足し、貯蓄を取り崩して補てんすることになります。夫婦2人で85歳まで暮らした場合は約1,700万円の取り崩しが必要であり、平均寿命(2019現在で女性87.4歳、男性81.4歳)やイベント的な出費を考慮すると2,000万円の貯蓄でも足りないことになります。
さらに、旅行や趣味などを楽しめる「ゆとりのあるセカンドライフ」には、夫婦2人で毎月約36万円が必要とされているので、「貯蓄を取り崩しながら生活すれば何とかなる」といった考え方は非常に危険といえます。まずは老後に発生するライフイベントや年金額を整理し、月々の不足分を把握しておく必要があるでしょう。

積立投資

退職金を投資で運用する方は4人に1人といわれ、退職金の10%~20%を投資に回す方が多いようです。積立投資は長期間続けるほど投資効果も高くなりますが、リスク管理も同時に行っておく必要があります。
積立投資の魅力は複利の効果であり、仮に毎月3万円を利回り3%で10年間運用した場合、最終積立金額は約420万円になります。しかし同じ条件で20年間運用すると約985万円になるため、複利の効果は絶大といえます。言い換えれば、長期間運用しないと大きな効果は期待できないということであり、短期で解約してしまうと損失が発生する場合もあります。
またリスク商品であることには変わりないため、資産の内訳(ポートフォリオ)が投資に偏り過ぎることのないよう調整も必要です。長期間積み立てしているうちに、資産の殆どがリスク資産になってしまうこともあるので、積立投資の比率が大きくなってきたら解約して定期預金に入れるなど、資産配分の見直しが必要になります。積立投資には手数料や税金もかかるため、まずは「つみたてNISA」から始めてみるのもよいでしょう。

住宅のローン返済やリフォーム

住宅ローンの一括返済や、住宅リフォームに退職金を使う方もおられます。住宅ローンを完済すれば月々の負担はなくなり、抵当も抹消されることになります。また老後の暮らしに適したリフォームであれば、ストレスのない日常生活を送ることもできます。しかし手元に残るお金が大幅に減少するため、退職金以外の預貯金や年金額に余裕がなければセカンドライフが破たんしかねません。また団体信用生命保険に加入していれば、住宅ローンの契約者が死亡、あるいは高度障害状態になったときに残りのローンは完済されます。
月々のローン返済という金銭的・心理的な負担をなくすことはできますが、老後の保障面や手元に残るお金などを考慮しながら決めるべきでしょう。

やってはいけない退職金の使い方

退職金にはNGとされる使い方もあります。やってはいけない退職金の使い方にはどのようなものがあるでしょうか?

安易な不動産投資

不動産投資には様々な手法があり、専門的な知識も必要とされます。不動産投資を専門とするアドバイザーやファイナンシャルプランナーに相談するのもよいですが、まずは1棟アパートや区分マンションなど、投資対象についての専門知識を身に着けておく必要があります。安易な不動産投資は退職金を吹き飛ばしてしまう可能性もあるので注意してください。

リスクの高い金融商品への投資

ハイリスクな金融商品も要注意です。大きなリターンと同じだけのリスクを背負うことになるので、失敗した時の損害は計り知れません。リスクの高い金融商品はギャンブルと同じです。

まとめ

定年退職が近い方、または退職金を受け取ったが使い道が決まっていない方は、自分のライフスタイルに合った使い方を考えておきましょう。無計画に使ってしまうと70歳を迎える前に使い果たしてしまうともいわれているため、年金額やライフイベントを考慮した使い方を検討してみてください。