はじめに
入浴には体を清潔に保つだけでなく、他にも色々な効果があります。
特に高齢者の入浴にはメリットが多く、健康な体や精神状態の維持にも貢献しています。
しかし、入浴方法によっては高齢者にとってデメリットになる場合もあるので、正しい形での入浴を心がけるようにしましょう。
そこで今回は、入浴が高齢者に与えるメリットや注意点について解説していきます。
高齢者が入浴するメリットは?
海外ではシャワーのみで入浴を済ませる地域もありますが、肩までお湯に浸かる入浴は体の疲れをやわらげ、精神的な疲労も取り去ってくれます。
お風呂上がりのさっぱりとした感覚はとても気持ち良いものですが、それだけでなく健康維持や増進といったメリットもあり、入浴の効果は医学的にも注目されています。
新陳代謝の促進
まず、温かいお湯に入る事によって徐々に発汗し、血管が開き新陳代謝が促進されます。
年齢とともに基礎代謝は落ちていきますが、適度な温度の湯に浸かれば平均体温も上がり、低下した代謝を補う事もできます。
また、お湯につかりながらゆっくりとした呼吸をするのもおすすめです。
4秒間かけて息を吸い、倍の8秒間を使ってゆっくり吐き出せば代謝は良くなり、習慣化する事で新陳代謝も改善されます。
要介護リスクの低減
入浴効果として特に注目したいのが「要介護リスクの低減」です。
千葉大学研究グループが2010年8月から2012年1月までに行った生活習慣の調査により、週7回の入浴は要介護リスクを30%近くも低減させる事が判明しました。
同研究グループでは、18の都道府県で65歳以上の方(要介護認定を受けていない方)を対象とし、1週間の入浴回数を夏と冬に分けて調査しています。
他の生活習慣も含めて要介護度の変化を調査した結果、夏の入浴回数が週7回以上のグループは、2回以下のグループと比較し要介護リスクが28%も低くなる事が判明しています。
冬の調査でも29%のリスク低減がみられ、入浴と健康維持の深い因果関係が分かりました。
要介護リスクが低くなる原因として、温熱の刺激や入浴時の動作に運動と同じような効果がある事、関節の炎症や血行不良の改善などが挙げられています。
また、入浴には認知機能の低下を防止する効果もあり、リラックスする事でうつ病予防にも繋がるという研究結果もあります。
皮膚病や感染病の予防
年齢とともに免疫力や抵抗力は低下しますが、入浴によって老廃物に繁殖する雑菌を洗い流せるため、皮膚の炎症やかぶれを防ぐ効果があるとされています。
温かいお湯につかれば毛穴も開くので、シャワーのみの入浴より洗浄効果は高くなります。
また、風邪を引いている時も、熱があまり高くなければ(38度以下)入浴で免疫力を高める事ができますし、浴槽からの蒸気によって鼻や喉に付着したウイルスを弱らせる効果も期待できます。
眠りの質の向上
入浴すると血流がよくなり、心拍も安定する事で眠りの質が向上します。
他にも発汗により副交感神経が適度に刺激され、血圧も下降する事で安眠効果も高まるという研究結果があります。
さらに眠りの質を向上させるためには、就寝前1時間~2時間の入浴が効果的であり、一時的に体温が上がる事で眠気が起き、リラックス状態で眠りにつく事ができます。
質の良い眠りは体の疲れを取り去ってくれるので、疲労を感じている時には、入浴タイミングやお湯の温度も調整するようにしましょう。
高齢者が入浴する時の注意点
入浴には転倒などのリスクがあり、最悪の場合は死に繋がるケースもあります。
厚生労働省の人口動態統計によると、2016年に家庭で溺死した人は5,138人とされており、銭湯や温泉なども合わせると、入浴に関係した死亡者数は年間1万9,000人程度と推定されています。
また、死亡者数の約9割は65歳以上の高齢者であり、体調不良時の無理な入浴などは死亡リスクを高めてしまいます。
入浴前に体調確認
入浴は身体にとって外部からの刺激となるので、自覚がなくとも体力を消費します。
そのため、入浴前にはしっかり体調確認を行い、体温や脈拍などを確認するようにしましょう。
また、食事の直後や飲酒後の入浴は体への負担が大きくなってしまうため、必ず時間をおいてから入浴するようにしましょう。
入浴そのものが生活習慣に溶け込んでいるため、「お風呂に入らないと気が済まない」という気持ちにもなりますが、無理は禁物です。
気分の悪い時や、体温や血圧がいつもと違う時には入浴を避け、蒸しタオルで体を拭く程度に留める事をオススメします。
基本は半身浴
ある程度の時間をかけた方が入浴効果は高まりますが、湯船に長時間つかり過ぎるのは逆効果となるので、ある程度体が温まったら半身浴に切り替えましょう。
半身浴に適したお湯の温度は37度~39度であり、30分程度の時間をかける事で、血圧の変化を抑えながら体温を上げる事ができます。
また、秋や冬のように浴室の温度が下がる時期では、半身浴の際に大き目の乾いたタオルを肩にかけ、上半身が冷えないようにしましょう。
ヒートショック対策
極端に熱い温度のお湯や、浴室とお湯の温度差が激しい場合には「ヒートショック」の危険性もあります。
ヒートショックは気温差が原因となっており、暖かい部屋からトイレや洗面室など寒い部屋へ移動した際、脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こします。
「入浴に関係した死亡者数は年間1万9,000人程度」と紹介していますが、実はヒートショックによるものが多く、また年齢も65歳以上が圧倒的に多いようです。
寒暖差の激しい部屋を移動する場合、血圧の変動も大きくなってしまうため意識を失う事もあり、入浴中にヒートショックが起きるとそのまま溺死に繋がります。
ヒートショックの予防には室温のコントロールが重要であり、脱衣所(または洗面室)と浴室に温度差が出過ぎないよう注意しましょう。
特に、寒暖差が激しくなる冬場では、あらかじめ浴室内の床に温かいシャワーをかけたり、浴槽のフタを開けたりして蒸気を循環させ、浴室全体が温まるようにしてください。
入浴前に服を脱ぐと体全体がブルブルと震えますが、この時に身体から熱が逃げないよう血管は細くなり、血圧も急激に上昇します。
わずかな時間でも血圧が急変する事のないよう、可能であれば脱衣所にも暖房器具を設置するようにしましょう。
転倒対策
水場でもある浴室には転んでしまうリスクもあるため、転倒対策も必要です。
また、滑らないように気を付ける事も必要ですが、できれば浴室の材質などを見直すようにしましょう
例えば、転倒防止用の滑り止めマットなどは1,000円~5,000円程度で販売されていますし、介護リフォームを行う場合は税金による補助を受ける事も可能なので、自分の経済状況に合わせて検討する事をオススメします。
おわりに
今回ご紹介した通り、入浴は健康増進に効果的であり、精神にも良い影響を与えます。
しかし、体調が悪い時に無理をすると逆効果であり、寒い時期はヒートショックにも気を付けなければなりません。
健康的な入浴を楽しむためにも、入浴前には自分の体調をしっかりとチェックするようにしましょう。