はじめに
立ちくらみや息切れ、頭痛などが起こる場合は「貧血」を疑う必要があります。
貧血予防といえば「鉄分」ですが、年齢とともに食事は偏りがちになるので、意識をしていて中々摂取する事が難しい場合もあります。
そこで今回は、貧血になる原因や予防策について解説していきます。
貧血が起こる原因
鉄分が不足すると貧血になりますが、高齢者は食事量が減り消化機能も衰えるので、若い人より貧血になりやすくなっています。
また、膠原病(こうげんびょう)や悪性腫瘍など、他の病気に罹患すると鉄分が体外に出て行きやすくなるため、十分な鉄を摂取していても貧血気味になってしまいます。
そして、高齢者の貧血には主に4つの原因があり、それぞれに特徴があります。
鉄欠乏性貧血
貧血にも種類があり、もっとも多いのが鉄欠乏性貧血です。
体中に酸素を運ぶためにはヘモグロビンを必要としますが、鉄分が不足するとヘモグロビンは作られなくなり、血液が酸素不足になってしまいます。
この状態が鉄欠乏症貧血であり、頭痛、めまい、倦怠感(だるさ)、消化不良といった症状を引き起こします。
殆どは鉄分不足の食事が原因となっていますが、高齢者の場合は消炎鎮痛剤の内服による胃からの出血や、悪性腫瘍の出血が原因となっている場合もあります。
老人性貧血
原因を特定できない高齢者の貧血です。
加齢による赤血球の造血低下が原因ではないかと考えられていますが、症状が安定している場合は特に治療の必要がないとされています。
骨髄性疾患
骨髄の病気が原因であり、高齢者に多い疾患です。
骨髄性の疾患には骨髄異形成症候群や再生不良性貧血があり、骨髄で血液を作り出せない状態になりますが、放射線や薬剤が原因になる事もあります。
慢性炎症性疾患による貧血
悪性腫瘍や膠原病、感染症などが原因となり、十分な血液を作り出せない事から貧血になってしまいます。
高齢者に多く見られ、悪性腫瘍の場合は放置すると胃がんや大腸がんになる危険性もあります。
鉄の1日の推奨摂取量は?
日本人は鉄分が不足しがちとされていますが、必要な摂取量は性別や年齢によって変化します。
1日に必要な鉄の推奨摂取量については厚生労働省が以下のような公表を行っています。
●鉄の食事摂取基準(mg/日)
男性、女性ともに「推奨量」が1日当たりの目標値になりますが、極端に不足する場合は頭痛や疲労感のほか、爪の変形(へこんだ爪)や、氷や土などを無性に食べたくなる異食症を発症する可能性があります。
また、鉄の摂取量には耐容上限数もあり、過剰摂取すると肝機能障害や心不全、糖尿病などの臓器障害に繋がる事もあるので、摂取量には注意しましょう。
貧血予防に役立つ食事や食べ物
鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、バランスよく摂取する事で貧血を予防できます。
ヘム鉄は肉や魚介類などの動物性食品に、非ヘム鉄は野菜類に多く含まれています。
また、鉄分を多く含む食品には以下のようなものがあるので、貧血気味の人は参考にしましょう。
動物性食品
ヘム鉄は赤身肉やレバーのような動物性食品に豊富に含まれています。
頻繁に動かす筋肉には大量の酸素が必要なので、ヘム鉄を含み酸素と結びつくミオグロビンが多く含まれています。
また、魚介類にもヘム鉄を含む食品が多いので、肉類が苦手な場合は魚介類からの摂取をおすすめします。
ヘム鉄の多い肉類~1食分の目安量/鉄分含有量
牛もも肉(和牛・赤身): 80g/2.2mg
牛ヒレ肉(和牛):80g/2.0mg
牛レバー:60g/2.4㎎
豚レバー:60g/7.8㎎
鶏レバー:60g/5.4㎎
ヘム鉄の多い魚介類~1食分の目安量/鉄分含有量
アサリ(水煮):30g/11.3mg
カキのむき身:60g/1.1mg
殻つきシジミ:80g(1/2カップ)/1.1mg
カツオ:80g/1.5mg
まいわし:80g/1.4mg
うるめいわし丸干し:60g(大1尾)/2.7mg
キハダマグロ:80g/1.6mg
植物性食品
非ヘム鉄は野菜などの植物性食品に多く含まれています。
日常的な野菜や海藻類に多い事から摂取は簡単ですが、摂取量の1割以下しか吸収されないので、食べ合わせが重要になってきます。
非ヘム鉄を多く含む植物性食品には以下のようなものがあるので、一食分の目安量を参考にしてください。
非ヘム鉄の多い植物性食品~1食分の目安量/鉄分含有量
ほうれん草:70g/1.4mg
小松菜:70g/2.0mg
枝豆:50g/1.4mg
そら豆:50g(5個程度)/1.2mg
切り干し大根:10g/1.0mg
スイートコーン:200g(1本)/1.6mg
岩のり(素干し):2g(小さじ1杯)/1.5mg
干しひじき:5g/2.8mg
干しそば(乾麺):100g/2.6mg
豆乳:200g/2.4mg
納豆:50g(1パック)/1.7㎎
えのきだけ:100g(1袋)/0.9㎎
きくらげ:3g(乾燥10個)/1.1㎎
栄養補助食品
一つ一つの食品に含まれる鉄分は微量なので、色々な食材を使いバランスの取れた食事を取る事が理想的です。
しかし、食べ物には好き嫌いもあるので、鉄分補給を意識するあまり食事そのものが苦痛になるのも問題です。
このような場合には栄養補助食品(サプリメント)が有効ですが、摂取方法やタイミングなどは記載の用法をしっかりと守るようにしましょう。
1日の摂取量に気を付ける
過剰な鉄分摂取は健康に害を及ぼすので、1日あたりの摂取量が以下の数値を超えないようにしましょう。
・50歳以上の男性~50㎎まで
・50歳以上の女性~40㎎まで
それぞれ推奨量の6倍以上になるので、一般的な食事で過剰摂取になる可能性は低いですが、栄養補助食品を多くとり過ぎる事で上限を超えてしまう場合もあります。
鉄分の過剰摂取は肝硬変や心不全、糖尿病などの臓器障害を発症させる事もあるので気を付けましょう。
栄養補助食品はこんな人におすすめ
食事や生活習慣が以下のような場合、栄養補助食品からの鉄分摂取をおすすめします。
・外食の多い人
・不規則な食生活の人(忙しい人)
・加工食品やインスタント食品をよく食べる人
・偏食気味な人(好き嫌いが多い)
・小食な人
貧血予防のために控えたほうがいい食事や食べ物
鉄分の吸収率を上げ、貧血予防に効果的な食べ物もありますが、逆に鉄分吸収を妨げてしまうものもあります。
カルシウムや食物繊維、タンニン、シュウ酸、炭酸、フィチン酸などは鉄分吸収を妨げますが、体にとって必要な栄養素もあるので、摂取タイミングをずらしたりするようにしましょう。
緑茶・紅茶・ウーロン茶・コーヒー(タンニン)
お茶やコーヒーに含まれるタンニンは鉄と結合し、吸収率を下げてしまうので、食事中や食べ終わった直後に飲むのは控えましょう。
特に、緑茶・紅茶・コーヒーには鉄分吸収を阻害するシュウ酸も含まれているので、食事中や食後に飲むお茶には、タンニンの少ない麦茶やウーロン茶などがおすすめです。
玄米・おから・ふすま(不溶性食物繊維)
不溶性食物繊維には便秘の改善や有害物質を排出する効果があり、体にとって欠かせない食物繊維です。
しかし、鉄分も一緒に排せつされてしまうので、貧血気味の方は摂取量や摂取タイミングを調整する必要があります。
不溶性食物繊維の多い食品には玄米やおから、ふすまなどが挙げられますが、ゴボウやオクラなどにも豊富に含まれています。
加工食品(リン酸塩)
リン酸塩はほとんどの加工食品に含まれており、ハムやウィンナーなどの食肉加工品、練り物などの水産加工品、スナック菓子や清涼飲料水などが代表例として挙げられます。
リン酸塩も鉄の吸収を妨げる添加物なので、加工食品を減らす事で貧血予防に繋がります。
おわりに
日本人の鉄分摂取量は年々減少している事から、一つの社会問題にもなり始めています。
特に、高齢者は鉄分が不足しがちなので、食事や生活習慣に気を付けながら、効果的に摂取する必要があります。
鉄分そのものを多く含む食品や、吸収を助けてくれる食品などを活用する事で、バランスの良い健康的な食事生活を実現しましょう。