はじめに
トイレに何度も行きたくなる、尿が出にくいなどのトラブルは加齢とともに増加します。
排尿トラブルは40代以降から徐々に出始め、ちょっとした動作でも尿漏れするなど日常生活を送るうえでの支障にもなってきます。
特に高齢者の排尿トラブルは深刻であり、頻尿や尿漏れなどを気にして外出を控えるなど健康かつ豊かな老後生活を阻害してしまいます。
そこで今回は、高齢者の排尿トラブルについて種類や原因、治療法などを解説します。
排尿トラブルとは?
高齢者の多くは何らかの排尿トラブルを抱えており、何度も尿意をもよおしたり我慢しきれず尿を漏らすなどさまざまな症状が発生します。
笑ったりくしゃみをするなどお腹に力が入るだけで尿を漏らしたり、尿意がなくても少しずつ漏れているといった症状があり、ほかにも尿意を全く感じなかったり排尿後の残尿感に悩まされるケースもあります。
家族や友人との外食や旅行もしづらくなり、健康維持のための運動(ウォーキングなど)や趣味に没頭することもできないため生活の豊かさも失われてしまいます。
高齢者に付きものの症状だから仕方ないと諦められているケースも多いようですが、排尿トラブルはQoLを大きく低下させるので、種類や原因を把握し適切な対処や治療を行う必要があります。
排尿トラブルの種類
排尿トラブルは2種類に大別する事ができます。
1つは膀胱排尿筋の過活動や膀胱出口の抵抗減弱、尿道閉鎖圧低下などの「蓄尿障害」であり、尿失禁や頻尿を引き起こします。
2つ目は膀胱排尿筋の収縮率低下や膀胱出口の抵抗増大など「排出障害」であり、排尿困難などの症状に繋がっています。
尿失禁や排尿困難の種類には次のようなものがあります。
・切迫性尿失禁
・腹圧性尿失禁
・混合型尿失禁
・機能性尿失禁
・溢流性尿失禁
・膀胱収縮障害
・尿路通過障害
頻尿
排尿トラブルの中でも特に多いのが頻尿であり、40代や50代など現役世代でも症状が出始めます。
1日あたりの排尿が8回を超える場合は頻尿と分類され、名前の通り短時間に複数回トイレに行く人は頻尿の疑いがあります。
膀胱に溜められる尿の量は成人の場合200ml~300mlであり、健康な人であれば1回の排尿量は100ml~150mlですが、頻尿であれば膀胱に尿が溜まり切る前に排尿が行われてしまいます。
夜間頻尿
就寝中に尿意をもよおす症状が夜間頻尿であり、十分な睡眠を確保できず、寝ぼけた状態で室内を移動するため転倒リスクや階段からの転落リスクも発生します。
高齢者の夜間頻尿は男性女性ともに多く認められており、単一要素ではなく複数の原因が重なり合って起きる症状だとされています。
夜間頻尿は毎日のように発生するため慢性的な寝不足に陥りがちであり、車の運転中に眠気が射すなど日中の行動にも支障をきたします。
残尿感
排尿した後でも尿が残っている感覚であり、膀胱に尿が残っていなくてもまだあるかのような不快感を覚える症状です。
残尿感には個人差もありますが40代後半あたりから出始める症状であり、60歳以降になると男性の6割が残尿感を感じているとされています。
また、女性にも残尿感は発生しますが、更年期特有の症状でもある事から、男性に比べて原因の特定が難しいです。
尿閉
男性に多くみられる症状であり尿がほとんど出ない、または全く出ないといった状態です。
常に尿が溜まっている状態なので膀胱は少しずつ拡張し、刺し込むような痛みが長時間続くこともあります。
排尿できたとしても勢いがなく残尿感もあるため、溢流性尿失禁(尿漏れ)や夜間頻尿も引き起こしやすくなります。
膀胱に溜まった尿は細菌も増殖しやすくなるため、尿感染症にも繋がりやすくなっています。
尿失禁
排尿しようと思っていなくても漏れてしまう症状が尿失禁(尿漏れ)です。
咳やくしゃみ、笑ったときなどお腹に力が入ると漏れてしまう症状や、急に尿意をもよおし我慢できずに漏れてしまう場合もあります。
尿意が全くなくても常に少しずつ漏れている場合は、腎臓への負担が大きくなることと尿感染症にかかりやすくなるため注意が必要です。
また、認知症によりトイレ以外で排尿してしまう例も尿失禁に分類されます。
排尿トラブルの原因
加齢や生活習慣、病気など排尿トラブルの原因はさまざまであり、身体の機能の違いから男女によっても原因が異なります。
排出障害や蓄尿障害についてそれぞれ原因を解説しますので、排尿トラブルで困っている人は参考にしてください。
排出障害
排出障害の原因はそれぞれ異なりますが、膀胱収縮障害の場合は椎間板ヘルニアや腰部脊椎管狭窄症が主な原因とされています。
また尿道通過障害の場合は、前立腺肥大症や尿道狭窄といったものが原因になりますが、他の持病用に内服している薬が原因になる場合もあります。
そのため、薬を服用する場合は事前に病院や薬局で副作用を確認する事をおすすめします。
蓄尿障害
蓄尿障害では尿失禁の種類によって以下の因果関係があるとされています。
■切迫性尿失禁
脳血管障害または脊髄障害後遺症による神経因性膀胱、前立腺炎による膀胱知覚亢進過活動膀胱や膀胱炎や尿路感染など
■腹圧性尿失禁
肥満などによる骨盤底筋群の弛緩、前立腺手術などによる尿道括約筋の障害や便秘、内因性括約筋不全など
■機能性尿失禁
知能精神障害や認知症、脳血管障害や整形外科疾患などによるADL(日常生活動作)の低下など
■溢流性尿失禁
前立腺肥大症、直腸がんや子宮がん手術による膀胱周囲の神経機能低下など
■混合型尿失禁
切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁と同様の原因(複合的なもの)
排尿障害の治療法
排尿のトラブルは「加齢が原因だから仕方ない」と思われているケースが多いようですが、「生活習慣の改善」「行動療法」「薬物療法」などの治療法があります。
生活習慣の改善や行動療法は直ぐにでも始められるので、なるべく早い段階から実践していきましょう。
生活習慣の改善
日常的な動作や習慣を変えることにより排尿トラブルを抑えられ、体全体の機能向上にも繋がるため以下のようなことを習慣にしてください。
・適度な運動をする
・体を冷やさない
・ストレスが溜まらないよう適度に発散させる
・便秘にならないよう注意する
・水分は適度に補給する
・就寝前には利尿作用のある飲み物を控える
・外出先のトイレの位置は事前に確認する
軽い運動も排尿トラブルの防止に効果的であり、手足はよく動かすようにしてください。
膀胱は運動神経や知覚神経と繋がっているため、体全体(特に手足)を動かすことで膀胱の機能も向上します。
尿失禁を気にして水分を控える人もいますが、尿路感染症に繋がる可能性があるため適度な補給をおすすめします。
行動療法
蓄尿障害に効果的な治療方法が行動療法であり、直ぐにでも始められる予防策です。
行動療法には骨盤底筋体操と膀胱訓練があり、それぞれ次のように実践します。
骨盤底筋体操
尿道や膀胱を支える筋肉が骨盤底筋であり、排尿の調整機能をもっています。
女性に多い腹圧性尿失禁では妊娠や出産、便秘や肥満などが原因となって骨盤底筋のゆるみが出てしまいます。
骨盤底筋体操は尿道括約筋を引き締める簡単な体操であり、まず足を肩幅に開き背中を真っすぐにして立ち、テーブルなどに手をつきます。
そのまま5秒~10秒くらい膣や肛門を引き締めた後ゆっくりと力を抜きます。
この動作を10回繰り返すことで骨盤底筋が鍛えられ蓄尿障害が抑えられため、ぜひ習慣化できるようにしてください。
膀胱訓練
生活習慣に採り入れる訓練であり、トイレに行く時間をあらかじめ設定しておきます。
最初はあまり長い間隔をおかず徐々に排尿回数が減るようにしてください。
薬物療法
薬物による排尿トラブルの治療には抗コリン剤やβ2刺激薬(スピロペント)が使われます。
抗コリン剤には膀胱の過活動を抑える働きがあり頻尿や尿意切迫感を改善します。口内の乾燥や便秘などの副作用が出ることもあるようですが、突然尿意をもよおすといったことが少なくなるため、外出が多い人は検討する事をおすすめします。
β2刺激薬による治療では膀胱の力を弛緩させ溜めておける尿量を増やす効果があります。
薬物治療には漢方など他の薬剤も使用されますが、排尿トラブルの原因によって使い分けるため泌尿器科の診断や処方に従って服用してください。
おわりに
年齢が高くなるに連れて排尿トラブルも多くなり、買い物などちょっとした外出でも不安を感じるようになります。
旅行やサークル活動などにも制限がかかり豊かな老後人生を阻害してしまうでしょう。
年齢によるものだから仕方ないと思って放置すると他の病気を併発することになり、また排尿トラブルが他の病気のサインになっているケースもあります。
排尿トラブル解決のためにはまず障害の種類を把握し、適切な治療を行うことが重要であるため、かかりつけの病院へ早めに相談するようにしてください。