【遺産問題】相続できない遺産とは?

相続

遺産には相続できないものがある

【遺産問題】相続できない遺産とは?
最近では、円満な相続が行われるように対策を練る人が増えていますが、相続できない遺産があることはご存じでしょうか。
相続といえば自宅家屋や敷地、預貯金などプラスの財産や、マイナス財産となる負債の承継を思い浮かべますが、一定の権利や収益については遺産相続の対象外となっています。
相続または相続税対策を考える上で相続できる遺産、相続できない遺産を分類しておくことは重要であり、解釈を間違えると相続対策の効果も薄れてしまいます。
そこで今回は、相続できない遺産とはどういうものか、詳しく解説します。

相続できないものは?

【遺産問題】相続できない遺産とは?
ほとんどの財産は遺産相続の対象であり、遺言または遺産分割協議によって承継者が決まります。
まず、相続できる財産としては、不動産や預貯金、有価証券やジュエリーなどの換金性が高いものが挙げられます。
一方で、マイナス財産には住宅ローンなどの負債や保証債務、未払金などが含まれています。

遺族給付

国民年金や厚生年金などに加入している人(被保険者)が亡くなった場合、遺族に対して死亡一時金または遺族一時金として遺族給付金が支払われます。
遺族給付金の給付対象は配偶者と子や孫、父母や祖父母のほか兄弟姉妹であり、内縁関係の妻も含まれます。
受給できる人の範囲や順位が定められているため各人固有の権利であり、遺族給付金を遺産相続の対象にすることはできません。
なお、厚生年金基金の場合は非課税ですが、確定給付企業年金は相続税の課税対象になっています。

被相続人の一身に専属した権利や義務

本人だけに認められた権利や義務を「一身専属権」といい、相続や譲渡はできません。
あまり聞きなれない言葉ですが、具体的な例には次のようなものがあります。

・年金受給権
・扶養請求権
・国家資格
・生活保護受給権
・使用貸借上の借主の地位(親族等に無料で賃貸借している場合)
・身元保証人の地位

分かりやすい例では年金受給があり、年金受給者の親が亡くなったとしても子どもに受給権が引き継がれる訳ではありません。
また、弁護士の親が亡くなっても子どもが弁護士資格を承継することはできず、本人一代限りの権利や義務となります。
ただし、国家資格を持つ親が所有不動産(事務所などの建物)で開業していた場合、当該不動産や什器類等の動産は相続対象になります。
一身専属権に該当するかどうか判断が難しいようであれば、相続を専門とする弁護士や税理士などに相談することをおすすめします。

生命保険金

遺族給付金と似た性質を持つのが生命保険金であり、相続の対象にはなりません。
生命保険金は「みなし相続財産」といわれますが、もともと被相続人が所有していた財産ではなく、被保険者の死亡によって発生する財産です。
被相続人から承継するものではなく、受取人に指定された相続人が直接受け取るため、相続対象外の財産となっています。
生命保険金は相続できない遺産として民法に定められていますが、税法上は相続税の課税対象であり、基礎控除を上回る場合は相続税が発生します。

・生命保険の基礎控除:500万円×相続人の数

生命保険の受取人には配偶者または子どもを指定するケースが多いですが、配偶者は「配偶者の税額軽減」という特例が使えるため相続税が発生することは滅多になく、子どもを受取人にする人が税制上のメリットは大きいです。
また、契約者、被保険者、受取人それぞれが誰になるかで贈与税や所得税が発生する場合もあるので注意してください。

賃貸物件の家賃や株式の配当

亡くなった人がアパートやマンションなど賃貸物件を所有していた場合、所有権は遺言や遺産分割協議によって承継者が決まります。しかし家賃収入は相続財産から独立したものであり、所有権とセットではないため注意が必要です。
遺言で家賃収入の受取人が指定してあれば帰属先は明確ですが、遺産分割協議をする場合は協議内容が決着するまで相続人全員の共有財産となります。
受取人が決定すれば家賃はその人のものとなりますが、協議中に発生した家賃を巡ってトラブルが生じる場合もあるため、家賃の振込先口座は直ぐにでも凍結しておきましょう。
特に、入居者に高齢者が多い賃貸物件では大家さんの自宅へ直接家賃を持ち込む人もいるので注意してください。
また、株式の場合も一般的な名義変更で株式そのものは承継できますが、配当金の考え人は家賃収入と同様であり、相続発生後に支払われた配当は遺言による指定がなければ遺産分割協議によって受取人を決定します。

権利はあるのに相続されないケース

【遺産問題】相続できない遺産とは?
相続する権利はあっても実際には相続されないケースもあるので注意してください。
特に、遺言書が残されている場合は要注意であり、法的に効力のある遺言であれば原則としてその内容に従います。
また、祭祀財産も他の財産とは考え人が異なるので注意しましょう。

遺言書がある場合

亡くなった人が遺言を残しておられた場合は遺言内容に従うため、「不動産○○を△△に譲る」など他の相続人が指定されていた場合は相続できない遺産となります。
公正証書遺言以外の遺言書は家庭裁判所の検認を必要とするため、発見しても開封せずそのまま裁判所へ持ち込みますが、法務局保管の自筆証書遺言であれば検認は不要です。
遺言書は亡くなった人の最後の意思表示として尊重されるため、要件を満たしていれば遺言どおりの財産分与を行いますが、相続人全員の合意がある場合は遺産分割協議に切り替えることも可能です。
相続人全員が反対するケースとしては遺言内容に相続税対策が考慮されておらず、各相続人の税負担が重くなる場合などが挙げられます。

墓や位牌などの祭祀財産

他の財産と祭祀財産は考え人が異なり、相続財産には含めません。
祭祀財産には仏壇や仏具、お墓などがあり、先祖を祀るために必要なものとして相続されますが、祭祀を執り行う人の相続が一般的です。
祭祀財産は相続税の課税対象ではありませんが、相続税対策を目的に高額な仏壇などを購入した場合、美術品としての価値が高いものであれば一般的なプラスの財産に判定される場合があります。
また、日常的な礼拝が行われていることも祭祀財産の条件となります。

マイナスの財産はどうするべき?

【遺産問題】相続できない遺産とは?
借金などの負債を相続すると返済義務が生じます。
同時に相続したプラスの財産で支払えれば問題はありませんが、負債額が大きい場合は相続放棄か限定承認の制度利用をおすすめします。

相続放棄

亡くなった人に多額の借金がある、または多額の借金の連帯保証人になっている場合、相続放棄すれば負債や地位を承継せずに済みます。
相続放棄した場合は最初から相続人ではなかったとされるため、プラスの財産も相続不可となりますが、負債が大きい場合には有効な手段です。
ただし、相続開始から3カ月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があり、単純承認している場合の相続放棄は認められません。
また、相続放棄の申し立てには被相続人の戸籍の附表や住民票の除票、本人の戸籍などさまざまな書類が必要であり、平日の昼間しか開いていない役場で取得するため、時間の確保も必要です。
さらに、相続放棄の撤回は認められないため、後日に高額な財産の存在が判明しても相続人に戻ることはできません。
相続放棄する・しないは短期間で判断しなければならないため、被相続人の財産内容を正確に掴んでおく必要があります。

限定承認

亡くなった人に多額の借金があるが、一部相続したい財産もあるといった場合には限定承認も可能です。
限定承認ではプラスの財産の範囲内で借金等のマイナス財産を相続するため、借金の全額を負担しなくても済みますが、手続きが少々複雑であり相続人全員の同意も必要とします。
相続放棄と同様に相続発生から3カ月以内に家庭裁判所へ限定承認を申し立てますが、除斥公告や抵当権者または受遺者への弁済など煩雑な手続きも発生し、財産を時価取得したとみなされるため譲渡所得税も課税されます。
限定承認については相続に強い弁護士など専門家への相談をおすすめしますが、相続時の状況が以下のようなケースであれば検討の価値があります。

・相続財産の範囲内で負債を引き継ぎ、被相続人の事業を承継したい場合
・被相続人の債務状況がはっきりしていない場合
・思い入れの強い財産など、借金があっても承継したい相続財産がある場合

おわりに

相続できない遺産の種類はさまざまであり、意外と知られていないものも多いです。
遺言を残したり、遺産分割協議する場合も相続対象外の財産把握は重要であり、いずれも目録に書き出して整理することをおすすめします。
また、判断が難しい財産が含まれていたり、限定承認のような複雑な手続きが必要になる場合もあるので、そういった際には早めに専門家へ相談しましょう。

終活と相続のまどぐち
タイトルとURLをコピーしました