はじめに
現在、急速に進みつつある高齢化社会に対応するため、全国の自治体が主体となって、地域包括ケアシステムという新しい取り組みを開始しています。
そこで今回は、地域包括ケアシステムの特徴や克服すべき課題などについてご紹介していきます。
地域包括ケアシステムとは?
地域包括ケアシステムとは、高齢者の医療や介護、生活支援などを主題として考え、総合的にケアしていくシステムです。
各自治体によってシステム面での違いはありますが、概ね30分以内の徒歩圏内を最小の生活圏と想定しています。
例えば、足腰の不自由な高齢者が通院したい場合は、30分以内に十分な通院サポートが受けられるような体制を各自治体が整えています。
これは1人暮らしをしている高齢者の見回りや配食サービス、緊急支援なども同様です。
このように地域包括ケアシステムでは、地域ごとに居住する全ての高齢者の生活を24時間トータルに支えることを目的としています。
地域包括ケアシステムの普及が進む背景
現在の日本では、急速な少子高齢化によって、以前のようなコミュニティ主体の地域社会の維持が難しくなっています。
また、若者や現役世代は仕事を求めて、東京や大阪のような大都市に移住するので、地方都市の過疎化も大きな問題になりつつあります。
特に、2025年には約800万人の団塊世代が75歳以上の後期高齢者となるので、彼らのような後期高齢者に対する医療や介護サポートは、行政の最重要課題とされています。
そこで各自治体を中心に、地域の医療機関や介護事業者、ボランティア人材などが相互に連携する、地域包括ケアシステムの構想が生まれ、普及が進んでいます。
地域包括ケアシステムのメリット
ここでは地域包括ケアシステムを利用することで、高齢者にどのようなメリットがあるのかを紹介していきます。
まず、地域包括ケアシステムの一番のメリットは、各自治体の現状に合わせたトータルサポートを提供できるという点です。
もちろん、少子高齢化や過疎化は全国的な問題ですが、その進行スピードや要介護者の数は、各自治体によって異なります。
それに伴い、必要となるサポートや体制も変わってくるので、場合によっては国の介護制度だけではカバーできない部分もでてきます。
そのような場合でも、地域包括ケアシステムを導入することによって、各自治体が裁量を持って、必要なケアシステムを提供できます。
他にも、地域包括ケアシステムでは高齢者の介護予防にも力を入れています。
各地域のケアマネージャーや専門ボランティアが、高齢者に対して持続的な運動や日常生活の改善を積極的に提案し、高齢者の健康維持と促進に努めます。
これらが持続的に行われれば高齢の要介護者が減少し、医療や介護費の大幅な削減に繋がるでしょう。
要介護状態でも自宅で生活できる
一人暮らしの要介護者は、自宅での生活が困難になると、介護施設などに転居するケースが一般的です。
しかし、住み慣れた環境を離れることで、体調を崩したり、持病が悪化してしまう場合もあります。
そこで、地域包括ケアシステムを活用すれば、要介護者はできる限り長い間、住み慣れた自宅で生活を続けることができます。
多様な支援サービスを利用できる
地域包括ケアシステムでは、高齢者個人の事情や生活環境に合わせた多用なサービスを提供しています。
例えば、足が不自由な高齢者は、買い物代行サービスや理学療法士による出張リハリビなどを受けることができます。
また、足の痛みや不自由度が増した場合は、往診サービスや看護サービスなどによって病状をケアする選択肢も選べます。
認知症患者やその家族の負担が軽くなる
全国的に、高齢の認知症患者を介護する同居家族の介護負担が、大きな問題になりつつあります。
このようなケースでも、地域包括ケアシステムを利用すれば、介護スタッフによる訪問介護やデイサービスによって、介護負担を軽減できます。
もし、40歳以上で認知症の疑いがあれば、2018年から全市町村に設置されている「認知症初期集中支援チーム」から、専門的な医療や介護を集中的に受けることも可能です。
その他にも、下記の支援条件に当てはまる認知症患者は、同じような支援を受けられる可能性があるので、一度各自治体の窓口に相談してみましょう。
<支援条件1>
■認知症疾患の臨床診断を受けていない者
■持続的な医療サービスを受けていない者
■本人に適切な介護保険サービスに結びついていない者
■診断されたがその後介護サービスが中断している者
<支援条件2>
■医療・介護サービスを受けているが、認知症行動や心理症状が顕著で、対応に苦慮している者
高齢者と社会のつながりが生まれる
65歳以上の高齢者は年金生活に入ると、仕事を辞めたことで周囲に親しい友人が居なくなったり、積極的に外出する機会が少なくなります。
コミュニケーションや外出の機会が減ると、身体機能全体が急速に衰えたり、認知症の発症確率が増加します。
そのため、地域包括ケアシステムでは高齢者向けのボランティアや、老人クラブなどへの参加を積極的に提案しています。
これらの取り組みが持続的に行われれば、高齢者の社会参加が促進され、それぞれが定年後も充実した生活を送れるようになります。
地域包括ケアシステムの課題
地域包括ケアシステムは各関係者から大きな期待が寄せられていますが、まだまだ課題も残っています。
実際に、介護の仕事は「キツイ、危険、汚い」の3Kの代名詞として、若者から忌避されており、需要に対する供給が追いついていません。
これらの状況を早期に解決するためにも、介護職の給与の見直しや介護保険制度の抜本的な改革が、現在の政治には求められています。
地域ごとにサービス格差がある
地域包括ケアシステムは2005年の介護法改正を契機に始まり、2011年の法改正では「自治体が地域包括ケアシステム推進の義務を担う」と明記され、事実上システムの設置が義務化されました。
しかし、現状では各自治体によって対応が異なっており、全ての自治体が積極的に推進している訳ではありません。
人手不足が加速している
日本は全国的な少子高齢化と過疎化によって、若者の人口減少が続いています。
特に、地域包括ケアシステムの中核を担う介護職では、主要な働き手となる35歳以下の人材の確保が難しく、満足なサービスが提供できない自治体も増えています。
人材確保に向けた具体的な取り組み
ここでは地域包括ケアシステムの推進に向けて、人材を確保するための具体的な取り組みを紹介していきます。
現在、多くの自治体が教育機関などと連携して、学生や若者が介護職に対して持っている偏見や3Kなどのマイナスイメージの払拭に取り組んでいます。
また、小中学校では介護現場の見学や体験学習を通して、介護の重要性や必要性を若いうちから知ってもらう取り組みも行われています。
自治体によっては、SNSや地域新聞を活用することで、積極的に地域包括ケアシステムについて情報発信している所もあります。
札幌市の「除雪支援」
北海道の札幌市では市の職員が中核となり、除雪支援のためのボランティアと利用者とのマッチング支援を始めました。
この制度を活用することで、除雪を求めている人と、除雪を手伝いたい人が結びつき、地域一帯となった除雪活動が推進されます。
また、このような取り組みを通して除雪支援の需要が判明すれば、一般企業や大学のサークル活動などでも、自発的に除雪ボランティアを始める波及効果が期待できます。
神戸市の「認知症患者の見守り」
兵庫県の神戸市では、認知症の高齢者を見守るため「ほっとヘルパーサービス」を実施しています。
主な業務は週に1度、訪問支援員が患者の住居を訪ね、会話を通じて信頼関係を結ぶことで、落ち着いて暮らしやすい在宅生活を目指します。
一方で、訪問支援員は大きな負担を抱えずに高齢者支援に関わることができるので、介護や医療などの専門性が高い職業を目指す人にとっての入り口も兼ねています。
現在では、見守りサービスを提供する民間企業も増えてきており、今後ますます高齢者ケアの需要は高まると見込まれています。