家族間の相続争いを防ぐためにはどうすればいい?原因や対策について

この記事は約8分で読めます。

はじめに

家族間の遺産相続では感情が表に出やすく、けんかをして一度不仲になると泥沼の争いに発展するケースがよくあります。
そこで今回は相続トラブルの具体的な事例を元に、遺産相続をスムーズに行う対策や解決法を詳しくご紹介いたします。

なぜ相続争いが起こるのか?

遺産相続は遺産の分配方法が不公平だったり、特定の相続人が遺産の一部を隠蔽することで発生するケースが多いです。
例えば、被相続人が特定の相続人や第三者に対して生前贈与を行った場合、相続人間で分配された金額に差が出ることになります。
しかし、その事実が財産調査の際に他の相続人に知れてしまうと、トラブルに繋がってしまっても不思議ではありません。

遺産の分配割合が公平でない

2人の姉妹が居て母親がすでに他界し、父親が亡くなった場合は遺産の50%ずつを姉妹がそれぞれ相続します。
しかし姉は生前父から2000万円のマンションを買ってもらい、さらに大学進学の費用として600万円を出してもらっていた。
などということになれば、妹は「遺産が50%ずつでは不公平だ!」と言い出しても、まったくおかしくありません。

何故なら2000万のマンションと600万の大学進学費用は、相続上、姉の「特別受益」(特別に受けた利益)に当たるからです。
遺産相続における特別受益は主に3種類あり、重要事項なため下記にまとめました。

生前贈与

さきほど例に上げた姉のケースで、簡単に言えば「遺産の前渡し」です。
基本的に相続人に渡された生活費、預貯金、有価証券、開業資金、自宅購入の費用、不動産、などが主に該当します。
そのため生前贈与の算定方法はとても複雑で、はっきりと生前贈与に当たるかどうかは、こっそりと渡された遺産の洗い出しや、費消分(使ってしまった分)なども含め、トラブルの元になりやすいです。

死後贈与

これは生前に被相続人がある特定の人物に対し「自分が死んだ場合は〇〇を贈与する」と、双方が合意し、契約することを指します。
この場合も贈られた者が相続人の場合は特別受益となります。

例えば贈られた側がまったくの第三者だった場合は、その分だけほかの相続人の取り分が減るため、別の意味で大きなトラブルになるでしょう。

遺贈

遺贈とは被相続人が生前に作成した遺言書の中で「〇〇は兄弟の中の〇〇に贈与する」という具合に被相続人の死後、特定の人物に遺産を贈与することを指します。
遺贈も上の2つと同じく、贈られた側が相続人の場合は特別受益となります。

遺贈トラブルの代表的なものは、引き出の中で遺言書が偶然見つかるケースです。
「なにこれ!〇〇だけこんなにたくさん〇〇を貰ってる!絶対に納得できない!」という、大きな争いに発展します。

不仲によって遺産分割協議が進まない

遺産の分割協議には相続人全員の合意が必要です。
しかし兄弟同士が昔から不仲で、どこに住んでいるのか分からず、連絡先も分からない場合だと、分割協議を進行することができません。
このような場合は家庭裁判所に「不在者財産管理人」の申立てをします。

不在者財産管理人は家庭裁判所からの申立てを受け、連絡の付かない相続人を捜索し、見つからない場合はその相続人に成り代わり、遺産分割協議に参加します。
不在者財産管理人は通常、遺産分割のアドバイスを行っている弁護士などの法律家から専任されます。

自分以外の相続人が遺産を使い込んでいた

よくあるのは認知症の親の財産を勝手に子供が使い込んだり、親が所有する不動産を勝手に売却し、その売上金を着服してしまうケースです。

基本的に親の財産を子供が使い込んでも、窃盗罪や横領罪には問えません。何故なら刑法上、罪を免除することが決まっているからです。
ただし、このような行為は民法上の「不法行為」に当たるため、ほかの相続人は民事裁判で争うことが可能です。

この場合は「不当利得返還請求」または「不法行為にもとづく損害賠償請求」という形で、裁判所に提訴します。
ただ、このような裁判を起こしたとしても、親の財産はすでに使い込まれているため、使い込んだ本人の財産調査などが重要になります。

相続争いを防ぐためにはどうすればいい?

ご紹介してきたように相続争いは家族間や親族同士で行なわれるため、1度こじれると困難な状況に陥りがちです。
では相続争いを防ぐにはどうすればよいのでしょうか?この章では相続争いに効果的な対策を3つご紹介します。

遺言書や財産目録をしっかりと作成する

遺産となる財産は被相続人が細かく書き出し、財産目録にすることが大切です。
現在では民法が改正され、ノートPCなどで作成した財産目録も、自署した遺言書に添えることができます。

財産目録は被相続人が所有する財産すべての一覧表で、銀行からの借り入れなど、負の財産も余さず記録することが大切です。
遺言書は主に「公正証書遺言」「秘密証書遺言」「自筆証書遺言」の3種類があります。

公正証書遺言

公証役場にいる公証人に作成を依頼する遺言書で、書いた後は公証役場で保管されるため、紛失や偽造の危険ありません。
基本的に2人以上の証人が立ち会い、公証人が作成する遺言書のため、書式等に誤りがなく、無効になることはほぼあり得ません。

公正証書遺言は贈与する遺産の金額により、作成手数料が決定されます。
例えば500万~1000万以下の場合、17000円の手数料が掛かり、金額が増えれば増えるほど手数料が上がるデメリットがあります。

・秘密証書遺言

秘密証書遺言は被相続人自身で遺言書を作成し、公証人が遺言書の存在を証明します。
署名と印鑑を押せばパソコンなどで書いても問題なく、書かれた遺言書は公証人と2人以上の証人が確認し、被相続人自身が遺言書を保管します。手数料は一律11000円です。
被相続人が亡くなり、相続人が遺言書を開封する場合は、家庭裁判所からの検認手続きが必要となります。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は被相続人自身が私的に書いた遺言書で、本人が書いて自分で保管します。
被相続人が亡くなり、自筆証書遺言を開封する際は秘密証書遺言と同じく、家庭裁判所の検認手続きが必要です。
デメリットは改ざんが容易にできることで、遺言書の内容や、相続人からの異議申し立てにより、無効にされることがあります。

生前贈与で遺産を減らしておく

生前贈与にはさまざまな税務上の特典があり、積極的に行えば相続税を大きく減らすことができます。
例えば「暦年贈与」は1年間のうち最大110万円までなら、非課税で贈与できます。
「配偶者への生前贈与」は総額で2000万円まで非課税です。

そのほか「相続時精算課税制度」を利用すると、60歳以上の父母から20歳以上の子供や孫に生前贈与する場合、最大2500万円まで非課税にすることができます。
ただし被相続人が亡くなった際に、相続時精算課税制度の2500万円は、相続人個人の贈与分に改めて組み入れられ、そこで多額の相続税を払う必要があるため、注意が必要です。
つまり相続時精算課税制度は生前贈与の時は非課税で、被相続人の死後に相続税がまとめて課税される「相続税の先送り」のような制度になっています。

生前から話し合いの場を設ける

相続争いを防ぐためにも、被相続人と相続人は生前から誰が何を貰うのかなど「遺産の中身」を具体的によく話し合うことが大切です。
被相続人の死後が主題のため、こういう話はなかなかし辛い面もあります。
しかし、「終活」という言葉が一般化してきている現在では「立つ鳥跡を濁さず」のことわざ通り、積極的な話合いこそが相続争いを未然に防ぐ、有効な手段になります。

相続争いが起きた場合の解決方法

上でご紹介したような対策を施しても相続争いに発展することは多々あり、いかに早く 紛争を解決するかが、遺産協議では重要になります。
この章では相続争いを早期に解決へ導く、具体的な方法をご紹介します。

代償分割を利用する

代償分割は分割が難しい遺産を相続人同士が共同の相続財産にしたり、合意の下で遺産を処分する方法で、主に3種類の分割方法があります。

現物分割

自動車や自宅、美術品、不動産など、均等割が難しい場合に相続人同士で話し合い、遺産を共同所有にしたり、個々に現物を割り当てて所有する分割法です。
主に価値の高い自動車や美術品、不動産がある場合によく使われます。

代償分割

特定の相続人が遺産を一括して相続し、ほかの相続人には分割贈与する遺産分の債務を負い、分割または一括で代償金を支払う分割法です。
協議が難しいですが、特定の相続人に遺産を一本化したい時によく使われます。代償金は相続人固有の財産も充当することができます。

換価分割

相続人全員の合意の下ですべての遺産が売却され、その代金を相続人の取り分に応じて分配する分割法で、一般的な相続では最も利用されています。
このような3つの分割方法を適切に取り入れれば、揉めやすい相続争いも未然に防ぐことができます。

相続分を譲渡する

相続分を譲渡とは自分の相続する分の遺産を他人に譲り渡すことを指します。
主に価値の低い遺産を相続したり、相続人が多く、遺産の分割に時間がかかる場合によく行なわれます。

遺産を譲渡すればその相続人は相続の権利を失いますが、相続権争いからは解放されます。
注意点として相続分を譲渡しても、遺産の中に含まれる債務の支払義務は残ります。
債務の支払義務を免れるためには家庭裁判所で「相続放棄」の手続きをしてください。

遺留分を放棄する

遺留分とは、相続人が「最低限受け取れる財産」のことです。
遺留分を放棄すると遺留分侵害額(減殺)請求ができなくなり、ほかの相続人と相続権をめぐり、争う権利がなくなります。

遺留分の放棄は被相続人が生きている時も行うことができます。その場合は家庭裁判所に遺留分の放棄を申立てます。
遺留分の放棄で遺産を他の相続人に一本化したり、自分は争う意思のないことを明確化し、他の相続人との融和を図ることができます。

専門家に相談する

遺産相続は贈与される物や現金が多くなればなるほど、もつれる糸も大きくなって争いが激化し、素人には手に負えなくなります。
そんな時は遺産相続に詳しい弁護士などの法律家に、仲裁を依頼しましょう。

法律家による適切なアドバイスで、ささくれた心と、もつれた糸をほぐし、早期の決着を図ることが、相続人にとって一番よい解決策になるでしょう。

終活と相続のまどぐち