はじめに
不動産投資や株取引といった現物取引とは対称的な投資方法に証拠金取引があります。
証拠金を担保にしてレバレッジを効かせて売買するもので、その代表が今回ご紹介する「先物取引」です。
今回は、現物取引とは大きく異なる先物取引の仕組みと、そのメリット・デメリットについて一からお伝えしていきます。
先物取引とは?
何のために先物取引をする必要があるのかを知ることで、先物取引の特徴がはっきりしてきます。
リスクヘッジとしての機能
先物取引は基本的に生産者やそれを扱う業者の「リスクヘッジ」のためにあります。
例えば小麦を生産する農家と、小麦を材料にした商品を販売している業者があるとします。
小麦の価格は様々な要因によって変動するわけですが、先物取引だと1年後にこの価格で売買するという約束をすることができます。
そうすることによって生産者は安定した収入が見込めますし、購入者も突然小麦価格が上昇してコスト増になるというリスクを軽減することができます。
このように将来の価格を約束して取引を行うのが先物取引の特徴です。
商品価格の調整機能
先物取引で扱われる商品は取引所に上場しているため、公開されている中で売り手と買い手の需要と供給の合意のもとで価格が形成されるおり、透明性が高く公正です。
これを商品価格の調整機能と呼び、価格の乱高下を予防する働きをします。
ただし投機のために参入してくるファンドによって価格が大きく変動することもあります。
投機としての機能
先物取引は約束の期日を迎えると売買が成立します。この期日を納会日や限月と呼んでいますが、期日の前に反対売買をすることで利益を上げることが可能です。
例えば小麦を納会日に100万円買うという取引をしていて、納会日前に価格が上昇し、150万円になったときに買い受けしないで転売すると、50万円の利益を得ることができます。
この場合、現物の商品を手に入れることが目的ではなく、差額分を稼ぐことが目的ということになります。
つまり先物取引は投機としての機能も持っているということです。
先物取引の種類
先物取引は金や原油といった商品を扱う「商品先物取引」と、株価指数など実物のない「金融先物取引」の2つに分けられています。
ここではその特徴と具体的な銘柄についてご紹介していきます。
商品先物
「コモディティ」とも呼ばれる商品先物をさらに区分すると、「貴金属」、「エネルギー資源」、「農作物」の3種類に分けられます。
金やプラチナなどの貴金属
貴金属には金や銀、プラチナなどがあります。腐食や変質がなく、宝飾品として価値の高い金は、熱伝導性も高いため医療電子工業などにも利用されており需要が高いです。
銀もフィルムの材料に利用されるなど宝飾品以外にも需要があります。
プラチナ(白銀)も同様に自動車触媒にも利用されています。
市場がリスクオフに傾くと、貴金属は安全資産として買われやすい傾向があり、投機の対象になりやすいです。
原油や天然ガスなどのエネルギー資源
主要諸国の思惑により変動しやすいのがエネルギー資源の特徴です。
特に変動が激しいのが原油になりますので、大きなリターンを狙っていくのに適しています。
また原油は通常の半分のサイズを売買できる原油miniも選択できますので、より少額の資金から始めることが可能です。
エネルギー資源は他に天然ガスなどがあります。
小麦や大豆などの農作物
穀物の先物では、一般大豆が代表格で日本では年間300トン輸入しており、アメリカやブラジル、カナダなどで生産されていて、2006年から2008年にかけて3倍に急騰しました。
他にも自動車燃料にも利用されるようになったトウモロコシや、日本の取引所にしか上場しておらずその7割が北海道で生産されている小豆、コロナ禍で2020年には3日間で10%上昇した小麦などがあります。
金融先物
「デリバティブ」とも呼ばれる金融先物は「株価指数」、「国債」、「外国為替」、「金利」の4種類に分けられます。
株価指数先物取引
金融先物の代表格が株価指数先物取引です。
日経225先物は日経平均株価指数のことで、国内には他にTOPIX先物があります。
また日本のインデックスの他にも、ダウ先物やS&P500先物といったように外国のインデックスも扱うことができます。
インデックスなので特定の企業に偏らず、分散投資ができるという利点もあります。
国債先物取引
超長期20年国債先物や長期10年国債先物、中期5年国債先物、ミニ長期国債先物などを扱っており、扱う国債の値動きで利益をあげていきます。
金利が下がると国債の価格が上がり、金利が下がると国債の価格が下がるという相関があります。
通貨先物取引
外国為替証拠金取引で、シカゴマーカンタイル取引所のIMM通貨先物が有名です。
通貨先物取引では、為替レートの変動を予測し、利益をあげていきます。
例えば、円高ドル安の際に円を売ってドルを買い、円安ドル高の際にドルを売って円を買えば儲かります。
金利先物取引
大口取引になるので個人投資家の参加は稀です。
ユーロ円3ヶ月金利先物は1枚1億円から、無担保コールオーバーナイト金利先物は1枚3億円からとなっていますので、個人投資家の場合は他の金融先物の銘柄を選ぶのが一般的です。
先物投資のメリット
現物投資とは違う証拠金取引だからこそのメリットが先物取引にはあります。
反対売買によって差金決済ができる
現物取引で原油や大豆などを仕入れても業者でなければ保管すら厳しくなりますが、先物取引は納会日までに反対売買しておけば、現物を受け取ることなく差金決済で利益分だけを稼ぐことができます。
差金決済できるからこそ、先物取引に個人投資家の参入する余地があり、その結果流動性も高まるのです。
つまりどれだけの量の原資産を購入しても、予想通りに価格が上昇さえすれば(または下落でもOK)、他はまったく問題がないということです。
レバレッジを効かせることができる
証拠金取引の最大のメリットは「レバレッジ」(てこの原理)を効かせることができるということです。
例えばレバレッジ20倍を効かせることができるとしたら、実際に取引するために必要な資金の1/20を預託すれば売買が可能になります。
つまり同じ資金額で20倍の量を購入することができるので、利益も20倍になるということです。
このレバレッジは銘柄によって、またはボラティリティー(変動率)によって変わってきます。
例えば日経225先物の場合、日経平均株価指数が28,000円だと1枚28000×1000=28,000,000円の資金が必要ですが、先物取引であれば毎週日本証券クリアリング機構から発表されるSAPN証拠金で取引できます。
もしSPAN証拠金が1,260,000円であればレバレッジはおよそ22倍です。
このようにレバレッジを効かせることで少額から取引ができ、ハイリターンを狙っていけるというのが先物取引のメリットです。
空売りができる
現物取引であれば実際に金を保有していなければ売ることはできないのですが、証拠金で取引するので、実際に金を保有していなくても「金を売って円を買う」ということができ、金の価格が下落してきたら「円を売って金を買う」という反対取引をすれば価格差の分だけ利益になります。
つまり、先物取引は証拠金取引だからこそ、「売りから入る」ということができるのです。
価格が下落するという予測がたつのであれば、空売りをして稼ぐことも可能な点が先物取引のメリットになります。
先物取引のデメリット
短期間でハイリターンを狙うことができるのが先物投資のメリットですが、反面それがデメリットにもなります。
元本保証がされていない
投資である以上は避けられないリスクとして、「元本保障はされない」という点があります。
いろいろ頑張って勉強したり、時間を費やして分析したりしても逆に資産が減るということはありえます。
ですから先物取引をするのであれば、あくまでも生活余剰金で行うようにしてください。
取引期間が決まっている
コモディティなど同じような銘柄を扱っている投資にCFD(Contract for Difference)がありますが、大きな違いは取引期間が決まっているかどうかです。
先物取引は約束した期日に必ず決済しなければなりませんので、含み損の状態であっても強制決済となります。
トレンドが転換して含み益が出るまで塩漬けするといったトレードスタイルが選択できない点が、先物取引のデメリットのひとつです。
また、取引期間が決まっているため、中長期の投資には不向きといえます。
大きな損失を抱える可能性がある
先物取引で最も注意しなければならない点が、「大きな損失を抱える可能性がある」ということです。
これはひとつにレバレッジが関連しています。20倍のレバレッジを効かせて20倍の利益を得ることができるということは、逆に20倍の損失になることもあります。
レバレッジは諸刃の剣なのです。
特にレバレッジを効かせて限界までポジション量を保有している状態で予想の逆に相場が動くと、含み損のために必要な証拠金維持率を維持できなくなり、「追証」が発生します。
追加入金のことですが、これができないと強制ロスカットとなって損失が確定します。
また、売りから入れるという点も大きな損失に繋がる要素のひとつです。
買いから入れば、予想に反しても最悪価格がゼロまでの下落ですが、売りから入って予想に反した場合、上昇はどこまでも続く可能性があるのです。
このような事態になった場合も、やはり強制ロスカットの道を辿る危険性が高いでしょう。こうなると元本割れどころか致命的な損失になりますので充分に注意する必要があります。
レバレッジは5倍程度に抑えることや、余剰金には余裕をもっておくことなどが重要なポイントになってきます。