終末期医療(ターミナルケア)とは?
終末期医療はターミナルケアとも呼ばれており、老衰やガン、認知症などの進行によって余命が数ヶ月以内と判断された際に行う、医療行為全般を指す言葉です。
終末期医療では病気を治すための積極的な治療は行わず、できるだけ患者に苦痛を与えない処置が優先されます。
また、各施設で実施される終末期医療は、治療方法や費用面で違いがあるため、事前に正しい知識を入手することが重要です。
そこで今回は、日本における終末期医療の現状について解説していきます。
終末期医療の主な内容
高齢者の終末期医療では通常医療とは異なるため、細かなケアが重視されます。
ここからは終末期医療に含まれる代表的な3つのケアを取り上げていきます。
身体面のケア
終末期においては病気による症状や合併症によって苦痛を感じやすいため、身体面での継続的なケアが必要になります。
例えば、末期のがん患者は全身に転移したがん細胞によって、患部から強い痛みが発生します。
このような場合は通常医療ではあまり使用しない、モルヒネなどの強力な鎮痛剤を継続的に投与して痛みを緩和します。
精神面のケア
終末期医療では身体面のケア以外に、精神面のケアも求められます。
というのも、進行癌で余命宣告された患者は現状を受け入れることができず、うつを発症したり自殺を図ることがあります。
このような場合は身体面のケアと並行しながら、臨床心理士や担当の看護師によって精神面のケアが行われます。
他にも、患者の心理状態をポジティブな方向に変えるため、抗うつ薬などの投与やカウンセリングが実施されることもあります。
ただ、薬物治療には何かしらの副作用が含まれるので、なるべく患者やその家族と相談した上で慎重に判断するケースが一般的です。
社会的なケア
社会的なケアとは主に入院費や治療費などの金銭的なケアと、社会からの疎外感や孤独感を取り除く取り組みを指します。
金銭的な面は医療ソーシャルワーカーやケアマネージャーといった人たちと相談しながら、最適なケアプランを考えることになります。
一方、仕事を失うことによる社会的な疎外感や孤独感については、臨床心理士や公認心理師がカウンセリングを行い、症状に応じて適切な対応が施されます。
終末期医療の対象者は?
終末期医療の対象者には厳密な定義はありませんが、末期がんを筆頭にALSや筋ジストロフィー症などの重篤な症状を持つ患者が主な対象です。
いずれも完治の見込みがなく、余命が残り数ヶ月と医者から判断された時点で、終末医療の検討が始まります。
しかし、患者が延命治療や保険適用外の治療法による完治を希望する場合は、それらの処置が優先されるため終末期医療は行われないことが多いです。
終末期医療を受けられる施設
近年では日本においても終末期医療が普及してきていますが、全ての施設で受けられるわけではありません。
また、それぞれの施設によって終末期医療に対する考え方やケアの方法も異なるため、自分に合った施設を選ぶことが大切です。
病院でのターミナルケア
ターミナルケアに対応した病院だと、ホスピスと呼ばれる専門の病棟が設置されていることが多いですが、患者の希望によっては一般病棟で行われることもあります。
一方、がんや認知症など特定の病気に特化した専門病院も増えており、自分の病気とマッチする場合はより高度なケアが期待できます。
病院の場合、医師や看護師だけでなく、心理士や理学療法士などの専門職も在籍しているので、病気に伴う苦痛が大きい患者によっては一番良い選択肢になります。
介護施設でのターミナルケア
介護施設の職員は日常的に高齢者の補助や介護を行っているため、その面においては病院よりも高度なケアを受けられることがあります。
特に症状は安定しているが寝たきり状態のような場合、必要な治療行為は少なく、どちらかというと日常生活における介護の方が重要になります。
ターミナルケアに対応した病院だと患者数も多く、細かい対応が期待できないこともあるので、介護施設も選択肢として忘れないようにしましょう。
在宅でのターミナルケア
在宅でケアを受ける最大のメリットは、患者が住み慣れた環境で最後を迎えられるということです。
とはいえ、病院や介護施設に比べると高度なケアを受けることが難しいですし、同居している家族の負担も大きくなります。
他にも、酸素吸入や点滴の投与については資格を持った人間でないと違法行為になるため、訪問診療を利用しなければいけません。
このように在宅でのケアは全ての人が利用できるわけではないですし、一定のデメリットがあるため注意しましょう。
終末期医療に必要な3つの決定
終末期医療を受ける前には、医師の立ち会いの下、患者やその家族が治療プランなどを決定する必要があります。
ここからは終末期医療を受けるために必要な3つの決定事項について紹介していきます。
最終的な意思決定
最終的な意思決定とは、終末期医療をどのような形で終わらせるかについてです。
病気や症状にもよりますが、終末期において患者に意思決定能力がないことは決して珍しいことではないので、その際は最終的な決断を医師か家族が行います。
また、患者に意思決定能力があったとしても、金銭的な問題で治療継続が難しい場合は、医師の判断によって治療プランが変更されることもあります。
ケアを受ける場所の決定
終末期においてはケアを受ける場所も非常に重要になります。
利用する施設によって受けられうケアの内容や費用が大きく変わってきますし、いかに気持ちよく最後を迎えられるかといったことにも関わってきます。
そのため、予算との兼ね合いを付けつつ、患者の希望に沿ったケアや治療を受けられる施設を選ぶ必要があります。
延命措置についての決定
終末期医療は積極的な治療を行わないので、最終的には病気によって死に至ります。
しかし、症状が悪化しても人工呼吸器や除細動器による延命措置を行われることがあります。
そのような際に、あえて延命措置を受けずに、そのまま亡くなるかどうかの選択についても事前の決定事項に含まれています。
終末期医療にかかる費用
終末期医療は専門職の人間が必要になるので、一般的な医療行為よりも費用が高額になりやすいです。
それ以外にも、ケアを受ける範囲や日数によっても費用は変わってくるため、自分の予算に合ったプランを組みましょう。
病院の場合
病院での終末期医療は高額療養費制度の対象なので、1ヶ月あたりの治療費が一定額を超えると自己負担割合に応じて、残りの金額は補填されます。
ただし個室や少人数部屋などを使用する際の差額ベッド代や、一部のオプションについては全額自己負担になります。
基本的には入院前に病院側の職員から、費用に関する説明があるので聞き漏らしがないように注意しましょう。
介護施設の場合
介護施設の場合、終末期医療にかかる費用は利用する施設によって大きく異なります。
また、介護施設によっては「看取り介護加算」という制度が適用されるので、通常の介護報酬に対して一定の介護加算が上乗せされます。
介護報酬が上がると、より手厚い看護が受けられますし、施設側の金銭的な負担も軽減されます。
この制度の対象になると、1~3割程度の自己負担が追加で発生しますが、費用対効果は高いため金銭的に問題がない場合は積極的に利用しましょう。
在宅の場合
病院や介護施設を利用せず在宅を希望する場合、療養ベッドやポータブルトイレ、車椅子などをレンタルする必要があります。
それ以外にも、医師や看護師の訪問診療については1回につき2万円前後が相場となっています。
これらの費用は医師の認定を受けることで健康保険が適用されるため、実際の負担額は1~3割に抑えることができます。
医療費は病気の種類や状態によって大きく変化
終末期医療は受ける場所によって費用が変わりますが、実際には病気の種類や症状の度合いによっても変化します。
というのも、筋ジストロフィー症や認知症の末期患者は身体機能が麻痺しているため、ほぼ全ての日常生活において介護やケアが必要になります。
一方、末期がんのような病気だと、身体機能はある程度維持されることも多いので、かかる費用は比較的少ないです。
終末期医療の問題点
日本の終末期医療は世界的な基準と比較すると普及や進歩が遅れているといわれています。
特に問題とされているのは、病気を抱える高齢者の相談を聞く民生委員や心理カウンセラーの数が圧倒的に不足し、その役割や負担を医療機関が担っていることです。
また、既に欧米では常識になっている尊厳死への認知も乏しく、国が決めた医療システムの中でしか終末期医療が行われていないので、望まない死を迎える患者は減りません。
このような現状を打破するためには、死の概念や尊厳死、終末期医療に対する教育を推進し、国民一人ひとりの意識を高める必要があります。
終末期医療の今後
終末期医療を日本で普及させるためには、介護職の待遇を改善することで人手を確保し、終末期医療を行える医療施設や介護施設を増やさなければいけません。
他にも、都市部より地方の方がフットワークが軽いため、地域コミュニティを主体とした普及活動や地方議会への働きかけによって一歩ずつ変えていくことが求められます。