全国各地で深刻化している空き家問題
日本で急速に進む少高齢化などから、いま全国各地で空き家問題が深刻化しています。
たとえば平成30年に総務省が行った「住宅・土地統計調査」では、全国の空き家が過去10年間で89万戸増えて合計846万戸となり、過去最高水準に到達しているという調査結果が出ています。
空き家問題は他人事に思いがちですが、もしも遠方の親族が突然亡くなり、全く価値の無い家を自分が相続した場合はどうでしょうか?
遠方のため満足な管理ができず、そのまま放置して空き家の老朽化が進むと、最悪のケースでは損害賠償請求に発展する恐れがあります。
そこで今回は日本で空き家が増える理由のほか、空き家を相続した時の注意点や、具体的な対処法を徹底解説していきます。
空き家の取得理由のほとんどは相続
日本における空き家の取得理由のほとんどは相続で、前述の住宅・土地統計調査によれば、相続による空き家の取得率は56.4%に上ります。
空き家が増えた主な原因は1970年代の高度成長時に、地方から都市部へ労働人口の移動が急増したことが上げられます。
その後は都市部に定住した労働者が結婚して核家族化し、やがて地方に住む両親が高齢化して亡くなっていきます。
そして両親以外に後継者が居なければ、通常は都市部に住んでいる子供たちが、両親の住んでいた実家を相続することになります。
しかし相続した実家が遠方にあるため、兄弟などの親族同士で相続の手続きが難航し、やがて家の管理がままならなくなり、そのまま空き家として放置されるケースが年々増加しているのです。
空き家の相続を放置するとどうなるの?
手続きが面倒で相続した空き家を安易に放置すると、後で思わぬトラブルが発生することがあります。
ここからは空き家の相続で特に注意すべき点を5つ取り上げ、詳しくご紹介します。
管理者責任が発生する
相続した空き家はどれだけ遠方にあっても、法律上は相続人に管理責任が課せられます。
たとえば所有する空き家の壁が崩れて周辺住民や通行人が怪我をした場合は、相続人が管理者責任を問われます。
また地方自治体によっては一定期間ごとに私有地の草刈りが条例で義務付けられ、管理を怠ると行政指導を受けることがあります。
これらのトラブルを避けるためにも空き家の定期的なメンテナンスを続けることが重要で、もしも自分で行えない場合は現地の不動産会社に空き家の管理を委託すると便利です。
固定資産税や管理コストが発生する
当然ですが空き家の土地と建物には、毎年固定資産税や都市計画税が課税されます。
さらに地震や火災保険料のほか、電気や水道は一切使わなくても基本料金が月々かかりますので、一般的な一戸建ては年間30万円ほどの管理コストが発生します。
電気や水道は契約を解除することもできますが、それでは家の内部を点検したり、掃除をする時に不便なことが多くなるため注意が必要です。
特定空き家に指定されると固定資産税が6倍に増加
土地にかかる固定資産税は、住宅用地の課税を軽減する特例措置が設けられ、更地にするよりも空き家のまま放置する方が固定資産税を安くできるメリットがありました。
しかしこの特例措置で近年全国の空き家が急増したため、平成26年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が制定されます。
この法令で「特定空き家」に指定されると年間の固定資産税が6倍に増加するため、空き家として放置するメリットが一切なくなります。
特定空き家の条件は国土交通省のガイドラインで以下の通りに定義されています。
(イ) そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
(ロ) そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
(ハ) 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
(ニ) その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
つまり空き家の管理を適切に行わないと特定空き家に指定され、多額の固定資産税を課せられる恐れがあります。
トラブルの際に損害賠償を請求される
放置されて老朽化した空き家には、さまざまなトラブルが発生する恐れがあります。
たとえば隣の敷地に面している庭木の枝が伸びてしまい、隣家の窓や壁を傷つけた場合は修理代を請求されることがあります。
ほかにも道路に面したブロック塀が倒れて近隣住民が怪我をすれば、治療費や慰謝料を請求されることがあります。
一般的にこのようなトラブルでは、空き家の持ち主の管理責任が一番先に問われるため注意が必要です。
2024年からは相続登記が義務化される予定
全国で空き家が増えるもう1つの原因は、相続の際に土地や建物の相続登記がされず、持ち主が不明のまま放置されることが多いからです。
国はこれらの対策として、土地や建物の相続を知った日から3年以内に登記することを義務付ける法案を国会で可決し、2024年4月1日から施行されています。
そのため現在は相続で取得した土地や建物を、3年以内に相続登記しないと10万円以下の過料が課せられます。
さらに住所変更や結婚で名字が変わった場合も、2年以内に変更申請しないと5万円以下の過料が課せられるため注意が必要です。
空き家を手放す方法
ここまでご紹介してきたように、今後は空き家を放置するよりも思い切って手放した方が、さまざまな面でメリットがあります。
ここからは空き家の一般的な処分方法を3つ取り上げ、詳しくご紹介します。
不動産会社に売却する
不動産会社に空き家を売却する場合は大きく分けて2通りの方法があります。
1つ目は直接売却で通常は複数の不動産会社に査定を依頼し、一番高い査定額を提示した不動産会社に売却するのが一般的です。
なお、古い建物が建っている土地は転売や再利用が難しく、あらかじめ建物の解体費用が差し引かれて査定額を提示されることが多くなります。
2つ目は不動産の仲介で、持ち主から依頼された不動産を不動産会社が販売し、買い手を一定期間探します。
ただし売却までの期間が半年から1年以上かかったり、悪徳業者は法外な仲介手数料や成功報酬を要求することがあるため注意が必要です。
仲介手数料の上限は宅建業法で「物件価格の3%+6万円+消費税」と定められており、一般的には契約前の値引き交渉が可能です。
自治体やNPO法人などに寄付する
不幸にも上記の方法で売れ残ってしまった空き家は、自治体やNPO法人などに寄付するという手段もあります。
ただし、自治体への寄付の場合は公民館や防災倉庫用など、自治体側が必要とする物件以外の寄付を受け付けないことが多いです。
対して非営利のNPO法人は全国各地で、草の根活動的な「空き家バンク」を運営しているため、寄付の場合は引き取って貰えることが多くなります。
空き家の近所でNPO法人を探す場合はスマホ検索などで「空き家 NPO 希望する都道府県」で入力すると見つけ易いです。
またNPO法人を装った詐欺団体もあるため、内閣府の「NPO法人ポータルサイト」で、実在する団体かどうかを調査してから依頼した方が安全です。
相続放棄する
不要な空き家を手放す最終手段として相続放棄があります。
相続放棄とは被相続人の財産を相続人が一切放棄して受け継がないことで、相続人が相続の事実を知った日から、3ヶ月以内に家庭裁判所へ申請する必要があります。
また相続の事実を知った日とは、一般的に被相続人が亡くなった日を指すことが多く、この日から3ヶ月以内に申請しなかった場合は単純承認となり、空き家の相続放棄はできなくなります。
空き家を相続放棄する時の注意点
空き家を相続放棄する際にはその後の管理責任など、さまざまな注意点を事前に把握しなければ正しい相続放棄が行えない恐れがあります。
ここからは空き家を相続放棄で特に重要なポイントを3つご紹介します。
特定の財産だけを放棄することはできない
相続放棄のやり方は先ほどご紹介した一般的な相続放棄と、この章でご紹介する限定承認の2種類があります。
限定承認は申請方法が相続放棄よりも少し複雑ですが、プラスの財産を上回る、借金などのマイナスの財産を、限定して相続放棄できるメリットがあります。
しかし相続する空き家はどのようなケースでも、マイナスの財産には含まれないため限定承認の適用外となります。
つまり限定承認が申請できないため、空き家の相続放棄は全ての財産を放棄することになります。
次の相続人に相続権や管理者責任が移る
相続人が複数居る場合は全員が相続放棄をしない限り、空き家の管理責任や相続権が相続放棄をしない相続人へ自動的に移動します。
たとえば相続人が3人居て、その3人が次々に相続放棄を行うと民法上は「相続人不在の空き家」という状態になり、この時点で全ての相続人に固定資産税の納税義務が一切無くなります。
しかし民法上は相続人不在の空き家でも、相続放棄をした全ての相続人に管理責任があるとされています。
そのため相続人不在の空き家を放置してトラブルが発生した場合は、相続放棄をした相続人全員に管理責任が問われるため注意が必要です。
全員が放棄すると相続財産管理人を選任する必要がある
相続人不在の空き家の管理責任を完全に回避するためには、相続人が家庭裁判所で相続財産管理人の選任を申し立てる必要があります。
相続財産管理人は全ての遺産を管理し、被相続人の債権者などに対して債務を精算して残った財産を国庫に帰属させる役割を担います。
相続財産管理人は相続人の親族や、委託を受けた弁護士などが申し立てをできますが、最終的な判断は家庭裁判所が行うため、必ず選ばれるかどうかは分かりません。
候補者が居なければ家庭裁判所が独自に相続財産管理人を選任し、この時点で相続人不在の空き家の管理責任が相続財産管理人に移ります。
注意点として相続財産管理人を選出する時は委任する遺産の状況に応じ、家庭裁判所に20万円~100万円ほどの預託金を事前に収める場合があります。
収めた預託金は相続財産管理人の報酬や、遺産の精算に必要な経費として使われ、余った場合は後日返還されます。
また申し立てには必要書類が多く手続きも少し複雑なため、自分でうまく行えない場合は弁護士などの専門家とよく相談しましょう。