はじめに
福祉サービスを利用したいけれど手続きの仕方がわからない、銀行でお金をおろしたいけれど自分一人ではできるか自信がない、商品の勧誘をされた時にどう対応すればいいのか困ってしまう……。毎日の暮らしの中にはいろいろな不安や疑問、判断に迷うことがたくさんあります。
高齢などで自分の判断能力に自信がなくなったとしても、慣れ親しんだ場所でずっと暮らしたいと、誰もが願うことでしょう。日常生活自立支援事業は、福祉サービスの利用手続きや金銭管理のお手伝いなど、安心して暮らせるサポートをする事業です。どんな人を対象にしたどんなサービスなのか、利用料金なども含めてわかりやすくご説明します。
日常生活自立支援事業とは?
日常生活自立支援事業とは、認知症や知的あるいは精神的な障害によって判断能力が不十分で、一人では日常生活に不安のある方が、住み慣れた家や地域において自立した生活が送れるようにサポートする事業です。福祉サービスの利用手続きをはじめ、預貯金の出し入れや公共料金の支払い、重要な書類の保管などをお手伝いします。
援助は、あくまでも利用者との契約に基づいて行われます。
事業を実施しているのは?
全国的なネットワークをもつ都道府県・指定都市の社会福祉協議会が実施主体になっています。
社会福祉協議会は、行政機関福祉・保健の関係者、地域住民やボランティアなどによって構成されています。全国すべての市町村にネットワークを持ち、地域福祉を推進する公共性の高い団体です。
相談からサービスまで、窓口業務は、市町村の社会福祉協議会などが担当します。
実際にお手伝いするのは誰か
実際に利用者の生活の援助をするのは、地域の社会福祉協議会の専門員と地域で研修を受けた生活支援員です。
専門知識を持った専門員は、相談を受けてサービスの対象になるかどうかを確認し、支援計画を立てて契約を結びます。
生活支援員は、専門員の指示を受けて、契約内容に沿って定期的に訪問して援助をします。
利用できるのはどんな人?
サービスを利用できるのは、軽い認知症や知的障害あるいは精神障害などによって、判断能力が不十分な方。日常生活を送るのに、必要なサービスを利用するための情報入手や理解、判断、意思表示を本人のみでは適切に行うのが難しい方です。
判断能力が不十分といっても、この事業の契約内容を理解できる程度の能力を有していると認められた方が対象です。
認知症の診断を受けていない方、障害者手帳や療育手帳を取得していない方も含まれます。また、入院した場合でもサービスは利用できます。
どのようなサービスが受けられるのか
全国社会福祉協議会などによると、日常生活自立支援事業で受けられるサービスは大きく分けて次の5つがあります。
日常生活の範囲内での支援が中心で、あくまでも本人の意思が尊重されたうえで実施されます。それぞれ細かくみていきましょう。
福祉サービスの利用援助
・高齢者や障害者が「介護保険制度」や「障害者自立支援法」などに基づく福祉サービスを利用する際のサポート。情報の提供、相談、申し込み、手続きの支援、契約の代行・代理。
・入所、入院している施設や病院のサービスや利用に関する相談
・福祉サービスに関する苦情解決制度の利用手続きの支援
日常的な金銭の管理
・本人が指定した金融機関口座について、預金の払い戻し、預け入れ、解約の手続き
・日用品購入の代金支払いの手続き
・税金や社会保険料、電気・ガス・水道など公共料金支払いの手続き
・福祉サービスの利用料金の支払い代行
・病院への医療費の支払い手続き
・年金や福祉手当の受領に必要な手続き
大切な通帳や証書などを安全な場所で保管
預かりの対象になるのは、預貯金通帳、実印・銀行印、証書(保険証書・年金証書・不動産権利証書・その他契約書など)、その他実施主体が適当と認めた書類(カードを含む)
日常生活に必要な各種事務手続きの支援
・住民票の届け出などに関する行政手続き
・住宅の改造や居住家屋の貸借に関する情報提供と相談
・商品購入に関する簡易な苦情処理制度(クーリング・オフ制度など)の利用手続き
日常生活の見守り
・定期的な訪問による生活環境の変化の確認
サービスを利用する際の注意点
自宅や貸金庫の鍵、遺言書、貴金属や骨とう品、現金、有価証券などは預かることができません。
また、医療行為の同意や施設入居に伴う身元引受人・保証人にはなれません。
外出援助やヘルパーが対応するような買い物、確定申告、不動産売却などもできません。
つまり、生活すべてにおける契約に携わることができるわけではないことに気を付けましょう。
利用方法について
利用を開始するまでの流れについてご紹介します。
相談の申し込み
サービスの利用希望者は、最寄りの社会福祉協議会に相談・申請します。本人以外でも、家族、民生委員、ケアマネジャーなどでも相談できます。
訪問・相談
専門知識のある専門員が自宅などを訪問して、相談に応じます。具体的なサービスの説明や必要な支援内容について話し合います。相談の際、プライバシーに配慮して秘密は厳守されます。
利用の申し込み
本人の意思が確認できたら、利用の申し込みの手続きに進みます。
判断能力の判定
申し込みをした人が利用要件に合っているかなど、適否を検討します(次の項でさらに詳しく記します)。
支援計画の作成
要件に該当すると判断された場合、利用者の意向を確認しつつ、援助内容や実施頻度などの具体的な支援を決める支援計画が策定されます。本人がその内容に納得すれば利用契約を結びます。
契約締結・サービス開始
契約が締結されると、計画に基づいて、生活支援員によるサービスが開始されます。
判断能力を判定するのは?
「契約締結審査会」あるいは、適正な運営確保のための監督を行う第三者機関の「運営適正化委員会」を設置して、事業の契約内容についての判断能力の判定が行われます。
いずれも、法律、福祉、医療の専門家と当事者組織の代表者などで構成され、利用者が安心して利用できる仕組みになっています。
利用要件に該当しないと判定された場合
このサービスは契約によって提供されます。契約の内容をある程度理解できる利用者と社会福祉協議会が対等な立場で契約することが前提になります。
本人の意思で契約するか否かの判断ができない利用者の場合は、この事業以外でふさわしい援助につなぐか、または成年後見制度の利用を検討することも考えられます。
相談から利用開始までどのくらいの期間が必要か
初回の相談から契約締結までには、3~6か月くらいかかります。本人の状況や契約締結審査会の開催時期によっては、それ以上かかることもあります。
また、支援計画は、利用者の必要とする援助内容や判断能力の変化など、利用者の状況を踏まえて定期的に見直されます。
利用料金について
実施主体が設定している利用料金を利用者が負担します。
厚生労働省によれば、訪問1回あたりの利用料金は平均1200円。
ただし、契約締結前の初期相談などに関わる経費や生活保護受給世帯の利用料については無料です。
具体的な利用事例をご紹介
70代後半のAさんは現在一人暮らしをしています。最近、通帳の置き場所が時々わからなくなるなど生活上の不安を感じていました。ホームヘルパーの利用も考え始めたのですが、手続きの仕方がわかりませんでした。
民生委員に相談したことから、日常生活自立支援事業を知るきっかけになりました。契約にあたっては、社会福祉協議会の専門員が自宅を訪問、サービスの内容をわかりやすく説明してくれました。
Aさんの担当になったのは、同じ地域に住む生活支援員のBさんです。
Bさんは、月に1回、Aさんの自宅を訪問して、預金から生活費をおろすお手伝いをしています。Aさん宛の郵便物についても整理してもらい、支払いの必要なものがあれば一緒に確認して、支払いの代行をしてもらっています。
さらに、要介護認定の申請やケアプラン作成の依頼などにも、Bさんは立ち合い、ホームヘルパーの利用ができるようになりました。Bさんは自宅訪問を通してAさんの生活の変化を見守り、暮らしをしっかりサポートしています。
まとめ
日常生活自立支援事業は、何らかの障害などを抱える方にとって大きな助けになります。対象になる利用者の条件やサービス内容についてよく理解したうえで、上手に使いましょう。疑問があれば、市町村の窓口を通して地域の社会福祉協議会につなげてもらうのがよいでしょう。