はじめに
万が一のことがあった場合に備える死亡保険は、保障される期間が定められている「定期保険」と保障が一生涯続く「終身保険」とに大きく分けられます。それぞれにメリットとデメリットがあり、選ぶ際には家族構成やライフステージなどによって検討する必要があります。
このコラムでは、終身死亡保険(終身保険)について、その特徴や選び方、終活世代に向いているのかどうかを検証して、わかりやすく説明します。
終身死亡保険(終身保険)とは
終身保険とは、契約者が死亡または高度障害状態などになると保険金が支払われる生命保険で、文字通り、一生涯保障が得られます。
加入時の保険料が変わらず継続される点が特徴です。
貯蓄性が高い
保険会社は受け取った保険料を運用し、いずれ支払う保障のために、契約者に代わって運用して積み立てています。そのため、途中解約した場合も解約返戻金を受け取ることが可能です。
満期保険金はありませんが、解約時の解約返戻金が多く、貯蓄性の高い商品です。
ただし、契約後の一定期間内に解約すると、解約返戻金が払込保険料を下回ることがあるので、注意が必要です。
保険料払込期間によって3分類
終身保険の保険料払込期間は、年齢や年数で設定できます。一生涯続くもの(終身払込み)と、一定期間で終了するもの(有期払込みあるいは短期払込み)があり、条件が同じであれば、1回あたりの保険料は、終身払込みよりも有期払込みの方が高くなります。
ほかに「一時払い」があって、3種類に分類できます。それぞれの特徴を挙げておきましょう。
終身払い
一生涯保険料を払い続けるタイプです。1回の保険料が安く、解約返戻金はほかのタイプに比べると低いです。
短期払い
10年・15年・20年、60歳・65歳など、一定の期間や年齢までに保険料を払い終えるタイプです。1回の保険料は終身払いタイプより高いですが、解約返戻金は、払込み満了後はおおむね終身払いタイプよりも多いです。
一時払い
保険料を一括で支払うタイプです。一括払いのため1回の保険料は高く、解約返戻金も高いです。
退職金の運用では「一時払い」も検討を
以上みてきたように、一般的に1回の保険料は、支払いを早く終えれば終えるほど、支払う総額が割安になります。より高い貯蓄性を求めるのであれば「短期払い」を選ぶのが良いでしょうが、その分、支払う保険料負担は高額となるため、生活に無理のない範囲で可能な支払い方法を検討してください。
退職金の運用などでまとまった資金がある場合は「一時払い」も検討しましょう。
終身保険は、保険料の支払いを終えた後は、保険をそのまま置いておいて、現金が必要な時の「備え」と考えるのが良いでしょう。
終身保険の種類
終身保険には、円建ての標準的な終身保険のほかに、「外貨建て」、「低解約返戻金型」、「利率変動型積立」、「変額保険(終身型)」などがあり、仕組みが異なります。
それぞれの種類と特徴について説明しましょう。
終身保険(円建て)
終身保険(円建て)は、何歳で亡くなっても保障が続いている限り死亡保険金を受け取れる、もっとも標準的な保険です。特約を付帯すれば、そのほかの保障も受けることが可能です。
終身保険の期間中の利回りは、契約時に決定します。したがって、将来利回りが下がると予想されるとき、終身保険に加入することにより高い利回りを維持できるというメリットがあります。
外貨建て終身保険
外貨建て終身保険は、保険料、死亡保険金が外貨建てになっている終身保険で、米ドルやユーロなど、円より金利の高い通貨で積み立てることにより、高い貯蓄性が期待できます。
あとで説明する利率変動型積立終身保険と同じように、解約返戻金や死亡保険金を受け取るときは、受け取り時点の為替の影響を受けます。
低解約返戻金型終身保険
低解約返戻金型終身保険は、保険料払込期間中の解約返戻金が低く抑えられた保険です。一般的に通常の終身保険の7割程度といわれています。
途中で解約した場合、解約返戻率が低くなるものの、代わりに1回の保険料は割安です。なお、保険料の払込期間終了後の解約返戻金は、通常の終身保険と同程度になります。
子どもの教育資金の準備のために、学資保険の代わりに低解約返戻金型の終身保険を活用するケースも増えています。
利率変動型積立終身保険
利率変動型積立終身保険は、契約後も積立利率が市場の金利に応じて定期的に見直されて、将来受け取れる保険金や解約返戻金が変動する終身保険です。
払込期間中に金利が低下した場合、解約返戻金が増加し、金利が上昇した場合は解約返戻金が減少する傾向にあります。
支払った保険料を、積立部分と保障部分に一定の範囲内で自由に設定できるので、「アカウント型保険」とも呼ばれています。
積立部分は途中で引き出したり、まとまった金額を一時金として積み立てたりすることもできます。
現在では、利率変動型積立終身保険の多くは米ドルなど外貨建ての商品が主流です。
最低保証利率が設定されていますが、保険金や解約返戻金は、受け取り時点の為替の影響を受け、損失が生じる可能性がありますので、加入する際はこのリスクについて把握しておきましょう。
なお、保険料払込期間が終了したのちは、積立金を通常の終身保険や年金に移行することができます。
変額保険(終身型)
終身型の変額保険は、保険会社の運用実績に応じて、将来受け取れる保険金や解約返戻金の額が変動する仕組みになっています。
変額保険の資産は、基本保険金に変額保険金額が上乗せされる形で、特別勘定で運用されています。そのため、特別勘定の運用実績によって増減します。
運用結果が好調の場合、保険金や解約返戻金の額は増えます。死亡保険金には最低保証が設定されている商品が多く、その場合、運用実績がマイナスになっても最低限の保険金を残すことができます。
しかし、解約返戻金に関しては最低保証がありません。運用結果が低調だと元本割れになるリスクがあるので、期待した金額を受け取れないこともあります。
老後資金の準備などを念頭に置いているのであれば、加入前によく検討するようにしましょう。
定期保険特約付終身保険とは
定期保険特約付終身保険は、終身保険を主契約として、これに定期保険特約を上乗せすることによって、一定期間の死亡保障を手厚くした保険です。
保険期間は、終身保険部分は一生涯、定期保険部分は契約時に設定した一定の期間となります。
「全期型」と「更新型」
定期保険特約付終身保険には、終身保険の保険料払込期間と定期保険の保険料払込期間を同じ期間で設定した「全期型」と、定期保険の方を終身保険よりも短く設定した「更新型」の2つのタイプがあります。
「更新型」はいつまでも更新できるというわけではなく、最長80歳までなど、更新できる年齢が決まっているものが多いです。
定期保険特約の更新
定期保険特約は、満期を迎えると更新することができます。更新の際は、健康状態の告知なしで更新できますが、保険料が更新時の年齢で再計算されるので、通常更新後の保険料は更新前よりも高くなります。
ほかにも特約付加が可能
定期保険特約付終身保険には、定期保険特約以外にも、入院・手術給付金特約、介護特約、三大疾病特約、傷害特約などさまざまな特約を付加することができます。
当然のことながら、特約を付加した分だけ保険料は高くなります。
働き盛りの子育て世代に向いている
必要な時期に保険料を安く抑えて大きな保障が得られるので、働き盛りの子育て世代に向いている保険です。また、終身保険にさまざまな特約が付加できるので、ひとつの契約で備えることができる点も便利です。
ただし、更新すると保険料が上がること、更新には年齢の上限があること、付加した特約だけを継続することはできないことなどのポイントを理解したうえで、ライフステージに合わせて見直しをすることが求められます。
終身保険のメリット
終身保険のメリットは、加入時の保険料で一生涯にわたって死亡保障が得られる点です。解約する場合も、契約後短期間で解約しない限り、解約返戻金が戻ってくるので、払い込んだ保険料が無駄になりません。
終身保険の保険料は生命保険料控除の対象となるため、所得税と住民税の対象となる所得から一定額を控除できます。
終身保険のデメリット
終身保険のデメリットは、掛け捨て型の生命保険に比べると、保険料が割高な点です。契約して早期に途中解約すると、解約返戻金が元本割れする点に注意が必要です。
長期保障が前提なので、物価上昇などによって受け取る保険金や解約返戻金が実質的に目減りするインフレリスクについてもしっかり理解しておきましょう。
終身保険は、死亡保障のコストがかかる分、年金保険よりも利回りは劣ります。満期がないので解約のタイミングを図るのが難しいのは確かです。高齢になると判断力や行動力が衰えるので、そのリスクも考慮しておきましょう。
終身保険に向いているのはどんな人?
保障を受けつつ子供の教育資金を準備したい人や、老後資金の不足をカバーしたい人などに向いています。
子どもの教育資金が必要になる時期までに払い込みが終わるように終身保険に加入することで、解約返戻金を子供の教育資金にあてることができます。
終身保険には一部解約(減額)という方法があるので、保障を継続しながら解約返戻金の一部を受け取ることも可能です。
老後資金2,000万円問題などといわれています。老後を公的年金のみに頼るのが現実的でなくなりつつある現在、老後資金や介護費用の積み立てとしても終身保険は有用です。
自身に万が一のことがあった場合の死亡保障として備えつつ、子供の独立などで保障が必要なくなった際には解約して老後資金にあてることができます。
自身の葬儀費用くらいは準備したいという人にもおすすめできます。
日本消費者協会の調査によれば、葬儀費用の平均額は195万円。自身が亡くなったとき、死亡保険金受取人に指定した額が支払われるので、葬儀費用や相続税の納税資金などを確実に残すことができます。
さらに、計画的な貯蓄が苦手な人も加入を検討してみると良いでしょう。
終身保険は、以上述べてきたように、保険料が変わらず貯蓄性が高いことが特徴です。いったん加入してしまえば、解約しない限り強制的に毎月の保険料が支払われ、その一部が解約返戻金として積み立てられます。
コツコツ計画的に貯蓄するのが苦手と感じている人にはおすすめします。
終身保険に向いていないのはどんな人?
終身保険は一生涯の保障が得られるのがメリットですが、掛け捨て型保険に比べて保険料は割高です。一時期だけ手厚い保障が欲しいという人には不向きといえましょう。
終身保険の活用は、長期にわたり契約を継続できることが前提です。就職したばかりで収入が安定していない場合などは、終身保険が必ずしもベストな選択肢とは限りません。
結婚や出産などで家族の生活保障を見直す場合、終身保険よりも定期保険や収入保障保険などで一定期間保障を上乗せする方が、家計を圧迫しないで済みます。
また、途中解約する可能性がある場合は、終身保険への加入はおすすめしません。保険料の払い込みを満了する前に解約してしまうと、多くの場合、解約返戻金は支払った保険料より少ない金額になります。
老後は終身保険を上手に活用
終身保険には満期がなく、保障が一生涯続いて、亡くなったときに保険金が支払われます。ですから、長期で貯めるのに向いています。
加入から数年経過して解約すると解約返戻金があり、一定期間を過ぎると解約返戻金の額が支払い済みの保険金の合計より多くなることもあります。
保障額が高額になると保険料が高くなりますが、100万円~200万円ほどの保障にすれば、保険料を安く抑えることができます。子どもが巣立った終活世代には大きな保障は必要ないはず。
このため、終身保険は終活世代に向いている保険といわれています。老後の資金づくりのために上手に活用することをおすすめします。
まとめ
終身保険は、一生涯の保障を得ることができ、加入時の保険料が変わらずに継続されるのが大きな特徴です。
貯蓄性もあり、自身の万が一に備えるだけでなく、活用方法は多岐にわたります。
一方で、掛け捨て型保険に比べると、保険料が割高で、解約の時期によっては解約返戻金が元本割れしてしまうなどのデメリットもあります。一時期だけ手厚い保障が必要な人などには不向きだといえましょう。
終身保険の最低限の保障で無理のない保険料を設定して、一生涯保障を得るというのが、終活世代にとって保険の賢い選び方といえるでしょう。