高齢者にとって「免疫低下」が問題になる理由

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はじめに

インフルエンザの流行や高齢者施設で発生した感染症で、高齢者の健康が脅かされるというニュースが毎年のように報道されています。感染症というと、今は新型コロナウイルスを思い浮かべるでしょうが、実は普段から気をつけなければならない病気はほかにもたくさんあります。
高齢者が健康を害するのは、「免疫低下」による場合が多く、問題になっています。なぜ年をとると免疫低下が起こるのか、どんな病気にかかりやすくなるのか、どうしたら予防できるのかについてわかりやすく説明します。

「免疫」とは?

高齢者にとって「免疫低下」が問題になる理由
「免疫」とは、細菌やウイルスなど、自分のからだには元々ない異物(微生物)からからだを守る仕組みです。
「免疫機能」あるいは「生体防御機能」ともいいます。

なぜ高齢者は免疫機能が下がるのか?

高齢者にとって「免疫低下」が問題になる理由
これまで行われてきた研究により、免疫機能は20代頃がピークで、60歳を超えると20代のおよそ半分以下になることがわかってきました。

そのメカニズムは、加齢によって、免疫を主導する白血球(T細胞)の生産数が減り、その活動が衰えるからといわれています。さらに、T細胞の成長を助ける脾臓やリンパ節の機能も低下するため、T細胞の病原体への反応が弱くなります。こうして、からだ全体の免疫機能が低下していきます。
老化による免疫系の変化で多くみられるのがこのT細胞機能の低下で、高齢期における免疫力の低下に大きく関わっているのです。

免疫機能の低下による影響

では、免疫機能が低下すると、どのようなことが起こるのでしょうか?
もっともよくみられるのが、感染症をはじめさまざまな疾患を発症しやすくなることです。

免疫機能の老化あるいは低下についてもう少し詳しくみますと、加齢に伴う2つの現象があります。
ひとつは、感染源となる病原性の微生物を「異物」と判断する能力が衰えること。病原性の微生物への攻撃力が弱くなるため、感染症にかかりやすくなります。
もうひとつは、炎症反応を制御する機能が低下すること。高齢者のからだは慢性的な炎症が持続した状態にあります。この状態は、自己免疫疾患である関節リウマチやアレルギー、がんの発症、ワクチン効率の低下などとも密接に関係していると考えられています。
こうして高齢になると、さまざまな病原体の影響をもろに受け、病気にかかりやすくなるのです。

高齢者がかかりやすい病気

高齢者にとって「免疫低下」が問題になる理由
高齢者がかかりやすい病気には、インフルエンザ、ノロウイルス感染症、尿路感染症、肺炎、結核、レジオネラ症、MRSA(マーサ)、緑膿菌感染症、腸管出血性大腸菌(O157)食中毒、疥癬(かいせん)などが挙げられます。それぞれについて簡単に解説します。
これらの疾患は早めに対処しないと、血液に細菌感染を起こして菌血症になったり、細菌による全身炎症反応の敗血症になったりして重症化することがあるので、要注意です。

インフルエンザ

インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することで発症します。38℃以上の高熱や関節痛、筋肉痛などの症状が特徴ですが、高齢者は高熱が出ないこともあります。毎年、主に12月~3月に流行しますが、A型は年ごとに流行する型が異なり、予防接種を受けても必ずしも有効とは限らない場合もあります。既に慢性疾患のある人は、インフルエンザの合併症で肺炎を起こすこともあります。

ノロウイルス感染症

ノロウイルス感染症は、細菌やウイルスなどの病原体によって起こる感染性胃腸炎のひとつ。感染性胃腸炎の原因である食中毒は1年中発生しますが、ノロウイルスの場合は特に冬季に流行します。
ノロウイルスはカキなどの貝類に含まれ、加熱不足だったり、手や食器にウイルスが付着したまま口にしたりすることで感染し、激しい嘔吐(おうと)と下痢を起こします。感染力は強く、感染者の便や嘔吐物から飛び散ったウイルスを吸い込むことでも感染します。
ワクチンがなく、しかも免疫は短時間しか効果がなく、何度も再感染します。治療は脱水管理や誤嚥(ごえん)防止など対症療法に限られます。

尿路感染症

尿路は、膀胱(ぼうこう)、尿道、腎臓、尿管などの尿の通り道。尿路感染症は、この尿路に感染を起こすことを指します。多くの場合、尿道口から菌が侵入し、濁った尿になります。
残尿感や排尿痛が特徴ですが、高齢者は頻尿症状だけのこともあります。
高齢者は加齢によるさまざまな疾患のため、尿路の防御機能が低下していて尿路感染症を起こしやすく、再発を繰り返して、治りにくいという傾向があります。特に寝たきりの場合は、残尿の多さや排泄後のオムツ交換までの時間がかかるため、細菌が増殖し、尿道や膣に付着・逆流することで尿路感染症になりやすいといえます。

肺炎

肺炎は、病原体の感染による肺の内部の炎症です。一般的には、外部から肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、レジオネラ菌、結核菌などの病原体が入って感染します。しかし免疫力が低下している高齢者の場合、普通問題にならないような低毒性の細菌によっても肺炎を起こすケースがあります。
高齢者の肺炎の7割以上が、自分の口の中などにある菌が誤嚥によって肺に入って起こる「誤嚥性肺炎」です。高齢者の場合、高熱が出ず、せき、胸痛、たんや息苦しさなどの症状だけなので、風邪と間違えられ、重症化するケースもあるので、注意しましょう。

結核

空気感染により結核菌が体内に入り、主に肺の内部で増えて発症します。せき、たん、微熱、だるさ、寝汗など、風邪のような症状が出ます。肺以外にも、リンパ節、脳などからだの他の部分に影響が及ぶこともあります。
高齢者の場合、かつて感染した菌が体内に残っていて、免疫力が低下した高齢期に再び活性化して肺結核を起こすことが珍しくありません。ただし発症しても、現在は医療技術が進歩しており、死亡率はそれほど高くありません。

レジオネラ症

レジオネラ症は、レジオネラ属菌が原因で起こる感染症です。レジオネラ属菌は、土中など自然界に広く生息し、風などで運ばれて空調の冷却塔や循環式浴槽、家庭用加湿器などに入り込み、水を介して感染源となります。
せきやだるさなど風邪のような症状があります。人から人へは感染しないので、隔離の必要はありませんが、共通の感染源から複数の人が感染して発症し、レジオネラ肺炎による死者が出る事例もあります。

MRSA(マーサ)

MRSAは、普段私たちの鼻やのど、皮膚などにもいる黄色ブドウ球菌のひとつです。抗生物質メチシリンに対する薬剤耐性を獲得したのでMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と呼ばれますが、メチシリン以外の多くの抗生物質に対しても耐性を持ち、影響を及ぼすように変化しました。
MRSAが感染症を引き起こす程度は、通常の黄色ブドウ球菌と同じですが、高齢者など抵抗力や体力が低下している人が感染すると、多くの種類の抗生物質が効かないため、治療が進まずに重症化するケースがあります。バンコマイシンなどのMRSA治療薬を用いて治療しますが、皮膚の感染症や腹膜炎、肺炎、髄膜炎などさまざまな部位に感染を起こし、ほかの菌の感染症よりも治療が困難になる場合も多くあります。

緑膿菌感染症

緑膿菌は通常の水場などにいて、健康な人には害はありません。しかし、免疫力が低下していると、からだのさまざまな場所に影響を及ぼします。
緑膿菌感染症では、呼吸器系、尿路、血管内に影響が出ることが多く、特に呼吸器系に感染すると症状は重く、肺組織が破壊されることがあります。近年、多種の抗生物質に耐性を示す「多剤耐性緑膿菌」がみられるようになり、警戒されています。

腸管出血性大腸菌(O157)中毒

大腸菌は家畜や人の腸内に存在し、ほとんどの場合は問題を起こしません。しかし、中には人に下痢などの症状や合併症を起こすものがあり、病原性大腸菌と呼ばれています。特に腸管出血性大腸菌は毒性の強いベロ毒素を出し、下痢、激しい腹痛、血便のほか、急性脳症や浮腫、頭痛、けいれんなどの症状を伴います。この場合、「溶血性尿毒症症候群(HUS)」など命に関わる合併症を引き起こすことがあります。免疫力の低い高齢者は要注意です。
腸管出血性大腸菌の中でもよく知られているのが「O157」。ニュースなどで耳にしたことがあるでしょう。生肉や井戸水をはじめさまざまな食品から見つかっており、食品の洗浄や加熱など、衛生的な取り扱いが求められます。

疥癬(かいせん)

ヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生し、卵を産んで増殖して発症します。手のひら、指の間、わきの下、おへそ周り、太ももの内側、陰部などに赤い発疹が出ます。かゆみはヒゼンダニが活動する夜間に強くなり、眠れないこともあります。
接触によって感染し、人の皮膚から離れると3時間程度で活動停止しますが、同じタオルを使っているだけで感染することがあります。診断は難しく、通常の湿疹にしか見えないこともあるため、感染拡大を警戒する必要があります。治療による二次的な症状として、抗生物質の多用により腸内の良い菌が死滅し、悪い菌がはびこる「薬剤性大腸炎」が起こることもあります。高齢者は要注意です。

併発する病気にも注意

高齢者にとって「免疫低下」が問題になる理由
高齢者の場合、一つの病気が別の病気を併発して悪循環となり、恒常的に状態悪化を招くパターンがよくみられます。
たとえば、前述したノロウイルス感染症の場合、嘔吐する → 誤嚥を引き起こす → 肺炎で呼吸器系の状態が悪化する、というパターンです。
病気になったらそれを治すことだけでなく、全身の状態を注意深く確認することが大切です。先に「高齢者がかかりやすい病気」として挙げたものは、小さな菌やウイルスなどにより全身の状態を悪化させる疾患で、高齢者にとってもっとも恐ろしいもののひとつといえましょう。

家族と共に行う普段からの予防策

高齢者にとって「免疫低下」が問題になる理由
高齢者本人の予防はもちろん、家族全体で健康管理に気をつけて、まずは自分が患者にならないことを心がけるのが大切です。

外出から帰宅したら手洗いとうがいをする

うがいは、のどの奥だけでなく、口の中もしっかりとゆすぐこと。手洗いは、手の隅々まで洗って、外から菌を持ち込まないことがポイントです。高齢者には、孫などの子どもから感染するケースが多くあります。子ども自身のからだを守る意味でも、丁寧な手洗いを家族皆で実践しましょう。

からだを清潔に保つ

特に陰部は汚れがたまりやすい場所です。尿路感染症などを予防するためにも、清潔な水とタオルで常にきれいにしておきましょう。

予防接種を受ける

高齢者は、医師と相談のうえ毎冬に流行するインフルエンザの予防接種を受けておくとよいでしょう。流行前の10~11月ごろ摂取すると万全です。家族も接種するのが望ましいです。
普段から以上のような予防策を習慣化しておくことが重要です。そして何よりも、高齢者本人が十分な睡眠をとり、からだを適度に動かし、バランスの良い食事をとって、毎日楽しく過ごしていれば、免疫力を高めることができるはずです。

まとめ

免疫の低下には、加齢以外にも、ストレスや環境が影響を及ぼすといわれています。厚労省の調査で、高齢者のストレスのトップは「自分の健康状態に対する不安」でした。「病は気から」という言葉がありますが、ストレスをためこまないことが健康長寿の秘訣と言えるのかもしれません。
食事・睡眠・運動などの生活習慣を整え、ストレスなく楽しく毎日を過ごすことで、免疫の低下を防ぎましょう。