大切な人を亡くした悲しみをやわらげる方法とは?コーピングの実践方法について徹底解説

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はじめに 

大切な人を亡くしたとき、その悲しみをやわらげ、乗り越えていくには、どうすれば良いのでしょうか? ひとつの方法が「コーピング(ストレスコーピング)」です。コーピングとは何か、効果的な実践方法などを含め、わかりやすく説明します。

コーピングとは

大切な人を亡くした悲しみをやわらげる方法とは?コーピングの実践方法について徹底解説
普段私たちは、気持ちの落ち込みやイライラを誘発する、さまざまなストレスにさらされて生きています。強いストレスを感じ続けていると心の病を患ってしまう可能性がありますが、一方で、適度なストレスは良い緊張感をもたらし、意欲を高めることにもつながります。
コーピングとは、ストレスの要因に上手に対処して良い方向に転換させる行動です。仕事や人間関係などのストレスだけでなく、大切な人を亡くしたことによって生じるストレスや悲しみの緩和にも期待できます。

コーピングの由来

コーピングとは、英語のcope(対処するの意味)から派生した言葉。アメリカの心理学者、リチャード・ラザルスによって提唱された理論です。
もとはメンタルヘルス用語でしたが、職場のストレスを解決する企業の取り組みなどで「ストレスコーピング」が社会に浸透し、一般的に使われるようになりました。

人がストレスを感じるメカニズム

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この世の中で生きていれば、誰しもさまざまなストレスを感じるのではないでしょうか。ときには、大切な人を亡くしたことによってストレスが生じることもあります。
ストレスは、3つの要素から構成されているといわれています。

ストレッサー

この刺激によって人はストレスを感じます。たとえば、ぎくしゃくした人間関係、経済状況の悪化、環境の変化などがストレッサーになります。

認知

人はストレスを認識した後、対処できるかどうか無意識のうちに自ら判断しています。対処方法を見つけてそれが実現可能であれば、ストレスはやわらぎますが、対処が難しいとなると、ストレスがさらに高まります。

ストレス反応

ストレスを認知した状態が継続すると、気分が沈む、イライラ感が募るなど、心身にさまざまな反応が出てきます。

ストレスコーピングの流れ

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ストレスコーピングでは、一般的に、「ストレッサーによる刺激」⇒「認知」⇒「ストレス反応」といった一連の流れについてしっかりと理解し、対処方法を考える作業を行います。
気晴らしやリラクゼーションなど、よく知られている「ストレス解消」の方法だけでなく、ストレスをどのようにとらえて向き合うかという「認知」の手法が含まれている点に注目してください。

ストレスコーピングの必要性

ある出来事に直面したとき、ストレッサーを受け止める個人の感じ方や考え方(認知的評価)やストレス反応には個人差があります。仕事で失敗したとき、ポジティブにとらえて失敗を糧にする人もいれば、ネガティブに考えて引きずってしまう人もいるでしょう。
いずれにしても、つまり心身の強さに関わらず、ストレスの影響は何らかの形で表れます。問題は、そのような状況に気づかなかったり、気づいていても放置してしまったりすることです。
過剰なストレスを慢性的に感じていると、心だけでなく、血管・循環器系の異常など身体にも悪影響を与えることは、数々の研究でわかっています。

ストレスコーピングの技術を上手に使うことで、ストレスを排除したりコントロールしたりできるようになれば、健康を維持して前向きな生き方が可能になるのです。

ストレスコーピングの2つの方法

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厚生労働省の定義では、ストレスコーピングの方法は大きく2つに分けられます。
「問題焦点型コーピング」と「情動焦点型コーピング」です。それぞれについて、解説します。

問題焦点型コーピング

「問題焦点型コーピング」は、ストレッサーそのものに働きかけて、解決を図ろうとする方法です。ストレスの原因を根本から取り除き、自分が感じているストレスの排除を目指します。

具体例として、職場の人間関係に悩んでいる⇒転職する、忙しくて休暇が取れない⇒仕事の割り振りを検討してスケジュールを見直す、仕事がうまく運ばない⇒経験や知見のある先輩から新しいアイデアを得る、などが挙げられるでしょう。
特に仕事や職場において、このタイプのコーピングは役に立ちます。ただし、対処方法がわかっても実行に移せない場合、そのこと自体がストレスになります。また、周囲の人を巻き込んで、人間関係が悪化することもあるかもしれません。

情動焦点型コーピング

「情動焦点型コーピング」は、ストレッサーそのものに働きかけるのではなく、ストレッサーに対する自分の考え方や感じ方を変えようとする方法です。自分で感情をコントロールしたり、悩みを誰かに話して聞いてもらったりすることで、ストレスをなくすことを目指します。

大切な人を亡くした悲しみによるストレスをやわらげるには、この情動焦点型コーピングが適しているといわれます。たとえば、仲の良い友人や家族に今の気持ちを率直に話して受け止めてもらう、ネガティブな感情から少し離れて次の一歩を踏み出すために落ち着く時間をつくる、などが挙げられます。
また、仕事で失敗をしたとき、「誰にでもこういうことはある」と自分に言い聞かせるのも一例です。
この方法は、ストレスの原因を排除する方法ではないので、問題の根本的な解決にはなりません。問題焦点型コーピングと並行しながら、悲しみなど精神的苦痛の緩和や環境の改善に取り組むことが求められます。

一般的なコーピングの実践方法

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実際に一般的なコーピングのやり方について説明します。以下①~⑤のような流れで進めていきます。

  • ①自分の抱えるストレスを洗い出す
  • ②ストレスの解消方法を考える
  • ③内容を整理して「コーピングリスト」を作成する
  • ④ストレス反応について客観的にみる
  • ⑤「コーピングリスト」に記したストレスの解消方法を実践する

最後に、①~⑤の実践で実際にストレスが減少したかどうか検証することが重要です。いきなりストレスゼロにはならなくても、大幅に減少したと感じれば、試した方法に効果があると判断できます。
ストレスを客観視⇒ストレス解消方法の実践⇒ストレスの減少具合の検証、といったサイクルを繰り返してみましょう。そうすることで、コーピングの技術が徐々に向上していくはずです。

情動焦点型コーピングの実践方法

大切な人を亡くした悲しみをやわらげる方法とは?コーピングの実践方法について徹底解説
大切な人を亡くした悲しみによるストレスをやわらげるのに有効とされる「情動焦点型コーピング」に焦点をあてて、その実践方法を説明します。

大切な人を亡くした重大な喪失に直面してまもなくは、その後のことを考える余裕はないでしょう。しかし、その後の展開は一人ひとりが考えていくほかないのです。
取り組まなければならない課題は2つあります。ひとつは、喪失という現実を自分なりにどのように受け入れるかといった課題です。もうひとつは、喪失の結果生じる、生活上の問題やこれからの人生にどう向き合っていくかという課題です。
死別の場合、大切な人の死を受けとめることに加えて、家計管理や家事など故人の果たしていた役割を代わって担うことや、就職・転居の検討など、故人のいないこれからの生活にも対処していかなければなりません。

二重過程モデルのコーピング

オランダ・ユトレヒト大学のマーガレット・シュトレーベ教授らが提唱する「二重過程モデルのコーピング」をご紹介しましょう。喪失自体への対処を「喪失志向コーピング」、喪失に伴う日常生活や人生の変化への対処を「回復志向コーピング」と呼んでいます。

二重過程モデルコーピングでは、あるときは喪失の現実に向き合い(喪失志向コーピング)、それと並行しながら日常生活の問題にも取り組む(回復志向コーピング)のです。すると、失われたもののことばかり考えていたのが、少しずつ目の前の生活やこれからの人生を考えるようになります。必要な時間は喪失の状況や人によって異なるかもしれませんが、時間が経つにしたがって、喪失志向コーピングから回復志向コーピングへと軸足は移っていきます。
この二重過程モデルコーピングは、悲しみをやわらげるのに有効だとされています。

気分をリフレッシュするコーピング

「問題焦点型コーピング」と「情動焦点型コーピング」の2つのタイプ以外にも、ストレスの原因からいったん離れて、気分をリフレッシュする「気晴らし型コーピング」や「リラクゼーション型コーピング」も、有効なストレス対処方法です。
「気晴らし型」には、好きな音楽を聴く、おいしいものを食べる、スポーツや旅行を楽しむなど、「リラクゼーション型」には、ヨガをする、マッサージを受ける、アロマテラピーを楽しむなどの行動があてはまります。
これらの行動は、ストレスを感じたときに無意識のうちにおこなっていることが多いものです。自分の心の声に耳を傾け、あまり考え込まず、今やりたいことに没頭することで、ある程度ストレスを解消することができます。

ソーシャルサポート

ソーシャルサポートとは、社会における人とのつながりの中でもたらされる、精神的・物質的な支援を指します。
友人、家族、上司、同僚などからの、励ましや応援・見守り、適切な評価、情報提供やアドバイス、経済的な手助けなど、心の安定をもたらしてくれるすべてがソーシャルサポートに当たります。
ソーシャルサポートの資源を多く持つ人は、ものごとをポジティブに考える傾向にあり、ストレスに対する耐性も強くなります。それは、大切な人を亡くした悲しみから立ち直るときにも力になるに違いありません。

まとめ

コーピングを学ぶことによって、ストレスを軽減したり緩和したりできるようになります。
ストレスは、コントロールできるかどうかよりも「コントロールできない」と思い詰めることが、強いストレスになるといわれています。自分なりのストレス対処方法をできるだけたくさん用意して、「どうすることもできない」状況をつくらないことが重要です。
大切な人を亡くした悲しみによるストレスの緩和に有効とされる「情動焦点型コーピング」のほか、ご紹介した「二重過程モデルのコーピング」などを参考にして、つらい気持ちを少しずつやわらげていくようにしましょう。