アンチエイジングで今話題の成分「NMN」とは?

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はじめに

日本の100歳以上の人口は、2020年に8万人を超えました。国立社会保障・人口問題研究所の推計よると、30年後には約55万人にまで増えると言われています。
健康的で自立した人生を送るためには、元気に年を重ねていくことが何より重要ではないでしょうか。
本格的な人生100年時代の到来を前に、「NMN」というアンチエイジングの成分が、世界の研究者から注目を集めています。
NMNとは何なのか、アンチエイジングの効果とはどんな内容か、摂取する方法とその注意点などについて、わかりやすく説明します。

NMNとは?

アンチエイジングで今話題の成分「NMN」とは?
「NMN」とは、Nicotinamide MoNoncleotideの略で、アンチエイジング成分の「ニコチンアミド モノクレオチド」のことです。
ビタミンの中に含まれる成分のひとつで、ブロッコリーやトマトなど緑黄色野菜やアボカドなどに含まれています。その量はごくわずかなので、食品からまとめて摂取することは困難とされています。
NMNは、食品から摂取する以外に、生体内ではビタミンB群中のビタミンB3(ナイアシン)を元に作られます。

NMNの存在は、生きた細胞が老化せずに活動を続けるための重要なカギを握っていると言われています。そのため、世界中の研究者が「次世代成分」として注目しています。
なお、名前に「ニコチン」が付いていますが、タバコに含まれる有害物質のニコチンとはまったく別の物質です。

「NMN」と「NAD」

私たちのからだは、食べ物や酸素を利用して、活動するためのエネルギーをつくり出しています。このとき、「NMN」は、「NAD」(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という酵素の働きを助ける「補酵素」に変換されます。
ところが、年齢とともに体内のNAD量は減少し、生み出すエネルギー量も低下することから、若い頃には感じなかったからだの変化が現れます。人はだれしも年をとりますが、いつまでも元気でいるためには、エネルギーを生み出す力を維持することが求められます。

進展するアンチエイジングの臨床研究

アンチエイジングで今話題の成分「NMN」とは?
現在、老化を制御するさまざまな手法が、研究段階から社会実装に向けて加速しています。
ハーバード大学、ワシントン大学、大阪大学、慶応大学などで臨床研究が進んでいます。「NMN」は、加齢に伴って減少するので、それを補うことによって老化を制御し、若い頃と同じような状態に近づけようといった研究がおこなわれています。

寿命を延ばすサーチュイン遺伝子

ところで、「サーチュイン遺伝子」という名前を聞いたことはありませんか?
「長寿遺伝子」または「抗老化遺伝子」と呼ばれる遺伝子で、活性化することで寿命が延びると考えられています。

10年ほど前、体内にある「NAD」が、このサーチュイン遺伝子を活性化させることがわかり、話題になりました。
NADは、エネルギー生産に欠かせないだけでなく、DNAの傷の修復を助ける重要な働きも担っています。そのため、「抗老化ビタミン」と定義する研究者もいるほどです。
NADの減少という現象自体が、老化そのものではないかとも言われています。

それならば、NADを直接補えば良いのではと思われるかもしれません。ところが残念なことに、NADを口から摂取しても、胃や腸などの消化器官で90%以上が分解されてしまいます。
そのため、NADを増やす手段として、NADの前段階の成分である「NMN」が注目されてきたのです。NMNは消化器官で分解されることなく素早く血中内に入り込み、細胞に届けられます。

マウスによる臨床実験

アンチエイジングで今話題の成分「NMN」とは?
「NMN」のアンチエイジング効果を明らかにしたのは、米ワシントン大学の今井眞一郎教授です。2016年に医学専門誌に発表したのが、マウスによる臨床実験の論文でした。
今井教授は、2000年に「サーチュイン遺伝子」の働きを解明したことでも知られるアンチエイジング研究の第一人者です。

今井教授の実験結果は、次のような内容でした。
生後5か月から1年間、マウスにNMNを飲ませたところ、ヒトの60代に相当する17か月齢になっても、からだの代謝が保たれて中年太りもせず、若いときと同じように活発に動いていました。また、骨格筋(筋肉)、肝臓、脂肪において、加齢に伴って起こる遺伝子の変化が抑えられるなど、アンチエイジングの効果がみられたと言います。

さらに、NMNを飲ませたマウスは、飲まなかったマウスに比べて、血糖値を下げるホルモンのインスリン感受性が高く、老化に伴って低下する目の網膜の機能や骨密度、免疫細胞が保たれていることも確認されています。

また、ほかのグループによるマウスを用いたアルツハイマー型認知症の研究では、NMNを10日間飲ませただけで認知機能が回復して、記憶をつかさどる脳の海馬の細胞死が、健康なマウスに近いレベルに戻ったとも報告されています。

ヒトに対するNMNの効果検証

アンチエイジングで今話題の成分「NMN」とは?
この数年、「NMN」を巡って待望されてきたのが、ヒトに対する効果の検証です。
2021年4月、米ワシントン大学の研究チームによる「世界初のNMN臨床試験に関する成果論文」が米科学誌「Science」のオンライン版に掲載され、大きな反響を呼びました。

この臨床試験をおこなったのは、先にご紹介した今井眞一郎教授と、同大学のサミュエル・クライン教授の研究チーム。
糖尿病予備軍で肥満、閉経後の女性25人(55~75歳)を無作為に2群に分け、半数の13人には1日250ミリグラムのNMNを、残りの12人にはプラセボ(偽薬)を、10週間経口摂取させました。
その結果、NMNを摂取したグループでは、骨格筋で血糖値を下げるホルモンのインスリン感受性が平均25%上がり、糖尿病で低下する糖の取り込み機能が改善しました。
今井教授によれば、インスリン感受性が25%上がったというのは、10%体重を落としたとき、あるいは、糖尿病治療薬(トログリタゾン)を12週間投与したときに生じる改善に匹敵すると言います。

また、NMNを摂取したグループでは、加齢に伴って下がる血液細胞中の「NAD」の濃度が上がり、筋肉の再構築を促す遺伝子の働きが高まったことも確認されました。これは、マウスによる臨床実験ではわかっていなかったことなので、研究グループにとっても驚きだったようです。

マウスの実験との差異も

一方で、マウスによる臨床実験との差異もありました。
マウスでは、「NMN」の摂取によって、細胞の中でエネルギーをつくるミトコンドリアの機能が高まることが確認されていましたが、今回のヒトに対する臨床試験では,変化がみられなかったそうです。
糖の代謝が改善したのは筋肉だけで、NMNの摂取前後を比較しても、血糖値の改善や体重減少はなく、炎症マーカーにも変化がないなど、マウスでみられたような劇的な効果は認められませんでした。

今井教授は、「ヒトへのNMN投与が糖尿病の改善や予防に役立つと、現時点で結論を出すのは難しい」としながらも、「NMNによって骨格筋でインスリン感受性の改善が認められたことは、臨床的に意義のある結果です。そのメカニズムの解明もこれから進めたい」と、研究成果を総括しています。

さまざまな臨床試験結果

現在、「NMN」を巡っては、今井教授らのチームを含め、複数の研究チームがさまざまな臨床試験を進めています。

大阪大学と帝人がおこなった共同研究では、フレイル(心身の衰え)を伴う糖尿病患者がNMNを摂取すると、歩行速度がアップすることがわかりました。
また、東京大学と三菱商事ライフサイエンスの共同研究でも、MNMにより、高齢者の運動機能の一部が改善されたことが発表されました。

NMNの効果とは?

アンチエイジングで今話題の成分「NMN」とは?
「NMN」は、非常に高い確率での若返り効果が期待されています。それは、前述したような臨床研究で解明され始めています。

では、NMNを摂ることで、具体的にどんな効果が期待できるのでしょうか。
脂質代謝が改善されて中年太りを抑制できる、エネルギー代謝が促されて元気が出る、骨密度の上昇、ドライアイの改善、不眠の解消などの効果が挙げられます。
また、美肌など美容にも効果が期待されています。

改善が期待される疾患や身体機能

「NMN」は加齢に伴って減少し、さまざまな老化現象が表れてくると言われています。
加齢由来の疾病を発症するリスクが高まりますが、NMNを摂取することで加齢を遅らせ、疾病の予防になると考えられています。
特に、動脈硬化、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)、糖尿病、アルツハイマー型認知症などへの予防が期待できます。

そのほか、NMNが、細胞のなかでエネルギーをつくるミトコンドリアの機能を高める過程で、さまざまな恩恵をもたらしてくれます。
たとえば、細胞分裂の際、細胞の設計図であるDNAのコピーミスを防ぎ、細胞の正常な分裂を促します。
また、免疫力が向上して、リュウマチ症、アトピー性皮膚炎、疥癬(かいせん)皮膚炎(ヒゼンダニによる感染症)などの免疫系疾患も治癒する可能性があります。

さらに、骨折や、指が伸ばしにくくなった伸筋腱損傷(しんきんけんそんしょう)などの治癒スピードを上げることができます。
骨粗しょう症にも同様の効果が期待されています。

脳機能も改善

「NMN」は、脳視床下部、下垂体にも作用して、劣えた神経伝達回路をスムーズに改善する効果が期待できます。したがって、アルツハイマー型認知症やうつ病、パーキンソン病などの疾患について改善や治癒の可能性があります。
脳機能の改善により、各臓器が健全に活動し始め、からだ全体のバランスを整える作用もあると考えられています。

肌(表皮及び皮下)に対する作用も見逃せません。NMNは、塗布によっても素早く細胞に到達するので、化粧品に配合することで肌にハリが出るなど、経口摂取以上の効果がみられる可能性があります。

NMNの摂取方法

アンチエイジングで今話題の成分「NMN」とは?
食品では、枝豆やブロッコリーなどに「NMN」は多く含まれています。ただし、100ミリグラムのNMNを経口摂取する場合、40キロ(約2,000房)ものブロッコリーを食べる必要があるため、ただ野菜を食べることは現実的ではなさそうです。

もっとも簡便で、広がりをみせているのが、NMNを配合したサプリメントです。
厚生労働省が2020年3月におこなった食薬区分の見直しで、NMNは、「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」、つまり非医薬品リスト入りをしました。
これにより、サプリや化粧品などNMNを配合したエイジングケア商品を、メーカーが展開しやすくなりました。

当初、「ミライラボバイオサイエンス」と「オリエンタル酵母」の2社程度だったNMNサプリを手掛けるメーカーは、2022年4月には約80社にも増えています。大手だけでなく、スタートアップ企業の参入も続き、市場規模はさらに拡大しそうです。

NMNサプリの摂取頻度は?

「NMN」のサプリメントを試すとしたら、いつからどのくらい飲めば良いのでしょうか?
今井教授によれば、マウスの研究でわかっている知見から考えると、20代~30代の健康な人が使ってもほとんど何も起こらないそうです。
一般的には、体内の「NAD」が減少し、さまざまな老化現象を実感し始める50代くらいから使うのがおすすめなようです。

1日の服用量は多ければ良いというわけではなく、1日100~300ミリグラム程度が目安。NADは体内時計に合わせて変動するので、朝か午前中に飲むのがポイントです。

NMNサプリの課題は価格

「NMN」は大量生産が難しく、NMNサプリメントは1粒あたり数千円するものもあります。目安となる1日2粒(約250ミリグラム)を摂るとなると、月額数十万円と高額です。

市場の拡大が見込めるとあって、最近では中国企業の原料サプライヤーが急増。安価な海外の原料を入手することができるようになりました。
また、NMNの生産をしやすくする新たな乳酸菌が発見されるなど、量産化に向けた明るい材料もあります。
大手メーカーからは、「ビタミンCのように、日常的にだれにでも買える価格帯を目指す」との声が上がっています。

NMNサプリの安全性

アンチエイジングで今話題の成分「NMN」とは?
「NMN」のサプリメントには、薬のような厳格な基準がありません。製造工程や安全性試験の実施の有無などを巡り、一部では疑問視する声も上がっています。
一般社団法人プロダクティブ・エイジング研究機構が数社の製品を分析したところ、生体には存在しない不純物が検出されたものがあったようです。今井教授も、「現在市販されているNMNサプリメントは玉石混交」と、注意を促しています。

NMNサプリを購入する際は、メーカーの信頼度や口コミなどを参考にして、慎重に選ぶようにしてください。

また、NMNの点滴療法を実施しているクリニックもあります。今井教授によれば、経口投与以外のNMNの安全性は未確認とのことなので、注意する必要がありそうです。

まとめ

アンチエイジングの臨床研究は年々進展し、なかでも「NMN」は、非常に高い確率で若返り効果が期待されています。
成人病からアルツハイマー型認知症などの予防をはじめ、リュウマチ症、アトピー性皮膚炎、骨折、うつ病、パーキンソン病など、さまざまな疾病を改善する可能性があることもおわかりになったのではないでしょうか。

現在MNMを手軽に摂取するには、サプリメントが適しています。
価格や安全性について注意が必要な点も少なくありませんが、ご自身のライフスタイルに合わせて選ぶのが賢明でしょう。
人生100年時代、健康寿命を延ばして、いきいきと活力のある老後を過ごしていきたいものです。