真言宗ってどんな宗派なの?その教えや特徴についてご紹介

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真言宗は日本の仏教の1つですが、密教であるというイメージ以外詳しいことをご存じない方もいるのではないでしょうか。

この記事では、真言宗の開祖や総本山、教えなどを解説していきます。真言宗について知識を深めたい方は、ぜひ参考になさってください。

真言宗とは?

真言宗は弘法大師とも呼ばれる空海が9世紀初頭に開いた大乗仏教の宗派のひとつで、分派が多いことでも知られています。令和3年版の「宗教年鑑」によると、真言宗の信者数は548万8480人の規模となっています。

空海は中国で密教を学び、日本で密教を真言宗として大成させました。空海が唱えたのは即身成仏(修行によって大日如来と一体化でき、この身のままで仏になる)というものです。

総本山は高野山金剛峯寺となり、身口意という身体、言葉、心の三密修行を行うことで誰でも仏になることができるとされています。

全部で18の宗派がありますが、真言宗は大きく古儀真言宗、新義真言宗、真言律宗の3つに分けることができます。中でも古儀真言宗は、空海が開いた教えを重視しています。

総本山は高野山金剛峯寺

真言宗の総本山は高野山金剛峯寺で、弘法大師空海によって真言密教の聖地として開かれました。和歌山県伊都市高野町高野山に建てられた寺で、819年から建立が始まりました。落雷のため建物が焼失しながらも、平清盛、北条政子、豊臣秀吉といった人物が建立に協力しながら現在の金剛峯寺が立てられました。

高野山は「一山境内地」であり、高野山全体がお寺で山内各地が境内とされています。金剛峯寺を含めた様々なお寺が点在しており、「壇上伽藍(だんじょうがらん)」「奥之院(おくのいん)」という2つの区画が2大聖地とされています。

高野山では多くの層が修行に励み、多くの文化財や史跡が残っています。1200年以上続く由緒ある歴史、自然豊かで美しい景観は、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」の名前で世界遺産に登録されています。

長い歴史の中で貴重な仏画、仏像が伝えられており、文化遺産としても保護管理されています。国宝が21件、重要文化財が148件所蔵、トータル3万点近くある所蔵品は、1921年に開設された高野山霊宝館の中に保管されています。

宗祖は弘法大師(空海)

真言宗の開祖である弘法大師空海は、幼少期から神童とされ、将来を有望視されていました。しかし、空海は「官吏になって安泰に暮らす」ことに疑問を抱き、出家して遣唐使となりました。

遣唐使として向かった唐の都、長安で密教の根本道場である青龍寺の恵果阿闍梨に教えを請い、わずか3カ月で密教を体得しました。最高位である阿闍梨位を継承し、平安時代初期の908年、唐(中国)から帰朝しました。

師である恵果阿闍梨から布教に努めるよう言葉を受け、帰朝後布教活動を始めます。816年に高野山金剛峯寺を修禅の道場として開創、823年に嵯峨天皇より勅賜された教王護国寺を真言宗の根本道場として宗団を確立しました。

921年、嵯峨天皇から「弘法大師」の諡号を授けられ、亡くなった後も「お大師さま」として信仰の対象とされました。空海は僧侶としてだけでなく、様々な才能を持っており、詩人、辞典の編集、仏教系大学の創設、書家、曼荼羅や仏像の作成、治水事業など数多くの功績を残しています。

空海の逸話を元に「弘法も筆の誤り」ということわざができ、現在では「たとえ大人物でも、誰にでも間違いはある」という意味で使われています。

ことわざの由来は弘法大師空海は嵯峨天皇からの勅命を受け、大内裏應天門の額を書くことになりましたが、「應」のまだれをがんだれにしてしまったこと。空海は額が掲げられた状態で、筆を投げ付けて書き直したと言われています。

本来は「さすが大師だけあって、書き直し方さえも常人と違う」という誉め言葉の意味も含まれていたのです。

真言宗の教えとは?

真言宗の教えとはいったいどういったものでしょうか。

真言宗の教えの基本は「即身成仏」で、仏と同じように行動し、心を清く保つことで、誰でもすぐに仏になれるということです。

「即身成仏儀」には、即身成仏に達するための手法が書かれています。真言宗の重要な骨組みを成すのが六大、四萬、参密です。

教えの基本は『即身成仏』

真言宗の教えの基本である「即身成仏」とはいったいどのようなものでしょうか。

空海は「即身成仏」ができる根拠として、3つ掲げています。

  • 六大
  • 四萬
  • 三密

ひとつずつ意味を見ていきましょう。

六大

六大とは、地大、水大、火大、風大、空大、識大の6つを指し、物質と精神を表します。

地大、水大、火大、風大、空大の5つが物質を意味し、現象の中に大日如来の力があるということです。識大が現すのは精神で、大日如来の智慧です。

五大は智慧によって認識され、六大が溶け合って世界が成立します。これを「六大無碍」といい、大日如来と修行者が一体になることで、仏の悟りを得られるのです。

四萬

四萬とは、大日如来の功徳を表す4つのマンダラのことです。

  1. 大マンダラ
  2. 三昧耶マンダラ
  3. 法マンダラ
  4. 羯磨マンダラ

マンダラとは、密教の宇宙感を絵図にしたもので、金剛界マンダラと胎蔵界マンダラの2つがあります。金剛界マンダラとは、大日如来の智慧を表し、「金剛頂経」に説かれているもの。胎蔵界マンダラは、「大日経」に説かれており、大日如来の慈悲を表しています。

大マンダラとは、2つのマンダラに描かれる諸仏菩薩がそれぞれ徳と姿を持っていることです。三昧耶マンダラとは、諸仏菩薩それぞれの本質を表しています。

3つ目の法マンダラは種子マンダラともいいます。諸仏はそれぞれ固有の性質や名前があり、それをサンスクリット文字であらわしたのが種子です。マンダラを種子で表したものを法マンダラといいます。

羯磨マンダラの羯磨とはカルマのことをいい、行為のことです。諸仏菩薩が人々を救うために様々な行いをする変化を羯磨マンダラというのです。

真言宗では、4つのマンダラによって大日如来の功徳を表し、大日如来と一体になる=功徳と一体になる=仏の悟りを得られるということになるとされています。

三密

三密とは、大日如来の三業で、身密、口密、意密の3つをいいます。修行によって、修行者の身口意と仏の身口意が融合しすると、大日如来の三密と修行者が一体となり、即身成仏できるのです。これを「三密加持」といいます。

六大、四萬、三密の観点によって即身成仏の理論が成り立っています。

真言宗の経典は?

真言宗の経典は「大日経(だいにちきょう)」「金剛頂経(こんごうちょうきょう)です。法要で唱えられる主なお経は「般若理趣経(はんにゃりしゅきょう)」「般若心経」「観音経」など。

「金剛頂経」の中の「理趣広経」を漢訳した「理趣経(りしゅきょう)」は、主に真言宗で使用されることが多い般若経典の一種です。「理趣経」には読誦することで功徳が得られると、仏教の他の経典にはない記載があります。

他にはない理趣経の特徴として、情交や様々な欲望に対して肯定的な記載がされていることが挙げられます。欲望は不浄なものではなく、欲望によって人間が間違えた方向に進むのがいけない、誤った道へ行かず悟りの道へ精進すべきという旨が記載されています。しかし、性に関する部分を課題解釈され、情交、欲望を正しいとしていると勘違いされてしまうことも。

本来密教である真言宗では、高野山で修業した僧侶だけが理趣経を読誦することができました。音を聞いて言葉の意味が理解できないよう、漢音読みにしているといった経緯があったのです。

真言宗の本尊は?

真言宗の本尊は「大日如来(だいにちにょらい)」です。「大日如来」は大いなる智慧と慈悲を持って、すべてのものを照らす根本の仏さまです。大日如来は密教において、最高の仏さまであるとされています。

大日如来は時と場所に応じて姿を変えて現れるとされるため、お寺によっては阿弥陀如来、薬師如来、観音菩薩なども本尊として崇拝されています。

真言宗の有名なお寺

真言宗は密教という特性上、分派独立が相次いで起こり、多くの分派を抱えることになりました。それぞれ総本山、大本山を擁するため、真言宗では総本山を名乗る寺院が多数あります。真言宗の有名なお寺を見ていきましょう。

真言宗の宗派は主に古儀真言宗、新義真言宗、真言律宗の3つに大別でき、それぞれ総本山、大本山があるのです。

古儀真言宗

  • 高野山真言宗:総本山 金剛峯寺(和歌山県伊都郡)
  • 東寺 真言宗:総本山 教王護国寺(京都市南区)
  • 真言宗 善通寺派:総本山 善通寺(香川県善通寺市)、大本山 隋心院(京都市山科区)

など、全部で13の総本山があります。

新義真言宗

  • 新義真言宗:総本山 根来寺(和歌山県岩出市)
  • 真言宗 豊山派:総本山 長谷寺(奈良県桜井市)
  • 真言宗 智山派:総本山 智積院(京都市東山)

全部で3つの総本山があります。

真言律宗

  • 真言律宗:総本山 西大寺(奈良市)、大本山 宝山寺(奈良県生駒市)

真言律宗には2つの総本山、大本山があり、すべて合わせると18本山となるのです。

まとめ

弘法大師空海が開祖である真言宗は、高野山金剛峰寺を総本山とする仏教の1つです。「即身成仏」という修行によって、この身のまま仏になれるという教えを説いた空海。密教が元になっている特性上、多くの宗派があり、総本山も多数存在しています。

空海は多彩な人物で数々の伝説を残し、高野山は世界遺産のみならずパワースポットとしても有名です。訪れる時には、真言宗の教えや歴史を思い出してみると、より楽しめるかもしれませんね!