少子高齢化の影響により、できるだけ長く働くことが求められる現代では、年齢にとらわれず働くシニアの方が増えています。働きながら年金は受け取れるのか、年金額はどうなっているのか、気になる方も多いでしょう。
「在職老齢年金」は、賃金と年金額に応じて年金額の一部または全額が支給停止される場合があります。2022年4月から年金制度改正法によって、在職老齢年金も改正されました。
この記事では、在職老齢年金とは、自分は対象者になるのか、支給金額の計算方法をわかりやすくお伝えします。
在職老齢年金とは?
在職老齢年金とは、60歳以降に厚生年金保険に加入しながら受ける老齢厚生年金のことです。賃金と年金額の合計額が47万円を超える場合、47万円を超えた金額の半分が年金額より支給停止されます。
2022年4月の年金法改正によって、上記のように変更されましたが、それ以前は老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額を足した額が28万円以上の場合、その半分が減額される制度でした。
年金の支給停止基準額がこれまでの28万円から47万円に変更されたことによって、対象者は大幅に減ることが予想されています。
シニアの方はフルタイムの勤務ではなく、週に数日の勤務、短時間勤務など体に負担の少ない働き方をされる場合もあるでしょう。年金法改正によって、働くシニアにはどのような影響があるのでしょう。年金法改正が持つ意義を解説します。
年金法改正の意義とは?
在職老齢年金はこれまでも存在していました。毎月保険料を納めても、年金の受け取り金額がはっきり分かるのは70歳以降になる「退職時改定」制度により、働くシニアにとって労働意欲が湧きにくいものとなっていました。
しかし、少子高齢化によって労働人口が減少し、年齢を重ねても長く働くことが必要になり、シニア労働者のモチベーションアップも重要となりました。そのため、年金法改正を行い、シニアが働くメリットを年金面でも明確に感じられるようにしたのです。
年金法改正によって、「在職定時改定」が導入されました。在職定時改定とは、65歳以上の老齢年金受給者(在職中)の年金額を毎年10月に改定し、それまでの間に納めた保険料を年金額に反映する制度です。
在職定時改定が始まる前までは、一定の加入歴がある方は65歳になった時点で「老齢厚生年金」が給付され、退職または70歳になるまで老齢厚生年金額は改定されることがありませんでした。せっかく働いているにも関わらず、成果が目に見えないため、労働意欲の低下につながっていたと言えます。
年金法改正によって自分が働いた分が年金に反映されている実感を得やすくなり、労働意欲の向上につながりやすくなりました。その一方で、年金額が年1回増加するため、所得が多くなりすぎると年金額が減額されることもあります。自分は在職老齢年金の対象者となるのか、確認方法を解説します。
自分が対象者となるのか確認しよう!
在職老齢年金の対象者は「働き続けながら年金をもらう60歳以上の方」です。基本的には65歳以上で働き続けている老齢年金受給者が対象ですが、65歳未満でも特別支給の老齢厚生年金が支給されます。その条件は次の2点です。
- 60歳以上である
- 被保険者(組合員)である期間等が10年以上ある
それでは、在職老齢年金の対象者が損をせず、年金を受給できる金額の計算方法をお伝えします。
まずは総報酬月額相当額を確認
まず確認するのは総報酬月額相当額です。これは、職場からの給与にあたりますが、月々の給与だけではなく、賞与も含めて計算します。振り込まれる手取り額ではなく「総報酬」であることに注意が必要です。
自分の総報酬月額相当額は勤務先の総務に確認するのが確実です。
老齢厚生年金を確認
次に老齢厚生年金を確認しましょう。老齢厚生年金の計算に使うのは「老齢厚生年金の基礎部分」です。在職老齢年金では「基本月額」と呼ばれています。
「老齢厚生年金の基礎部分」はねんきん定期便で確認できます。老齢厚生年金の「報酬比例部分」という欄にある金額が該当します。65歳以下で特別支給の老齢厚生年金の対象になる方であれば、老齢厚生年金の隣に「特別支給の老齢厚生年金」欄の「報酬比例部分」にも記載されています。
「老齢基礎年金」は働いていても全額支給されるため、ねんきん定期便の中の「老齢基礎年金」「加給年金」の部分は含まれないことに注意してください。
総報酬月額相当額と老齢厚生年金を足してみよう
自分の報酬月額相当額と基本月額(老齢厚生年金の基礎部分)がわかったところで、在職老齢年金の支給金額の計算ができるようになりました。
基本月額+総報酬月額相当額が47万円を超えるかどうかによって、支給額が変わります。
- 47万円以下:在職老齢年金は全額支給
- 47万円以上:在職老齢年金の一部又は全額支給停止
支給額が変動する基準は47万円ですが、実際にどれくらいの金額になるのか、計算方法をまとめます。
対象者になっていた場合に差し引かれる金額の計算方法
在職老齢年金の対象者になっていた場合、差し引きかれる金額の計算方法は次の通りです。
在職老齢年金による調整後の年金支給月額=
基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2
例として、基本月額が12万円、総報酬月額相当額が45万円の場合を計算してみましょう。
12万円+45万円=57万円となり、47万円を超えるため年金が全額支給されず差し引かれます。差し引かれる金額は(57-47)÷2という計算となり、5万円が差し引かれることになります。
本来は57万円支給されるはずだったのが、在職老齢年金のため、5万円差し引かれて52万円になってしまうのです。頑張って働いたのに年金が差し引かれるのは損をしてしまいます。損をしないため、「在職老齢年金で減額や支給停止されるのであれば、老齢厚生年金を繰り下げ受給すれば良いのではないか」と考える方もいるでしょう。
在職老齢年金によって減額、支給停止されるはずであった部分に関しては、受給年齢を繰り下げたとしても増額の対象にはなりません。たとえば、在職老齢年金によって支給率が70%(支給停止が30%)になった65歳の方が受給年齢を繰り下げても、年金の支給停止になっている部分(30%)は繰り下げ受給の対象にはならないため、注意しましょう。
では、損をせず年金を受け取るためにはどうしたら良いのでしょうか。
年金支給額とのバランスを考えて働こう!
在職老齢年金の対象者となり、年金支給額が減ってしまうのを防ぐためには年金が全額支給される範囲内で働くのが重要です。自分の総報酬月額相当額、老齢厚生年金の基礎部分を把握し、合計額が47万円を超えないよう、調整しながら働きましょう。
年金法改正によって「在職定時改定」が導入されたため、毎年年金支給額が変動することを忘れてはいけません。必ず年1回の見直しが必要です。
高齢者だからといって賃金がアップしないわけではありません。勤務先の会社で賃金がアップされた場合、もちろん総報酬月額相当額も増加します。ちょっとの計算ミスで年金支給額が減額されてはかえって損をしてしまいます。
ねんきん定期便をこまめに見直し、年1回の年金支給額の変動時や賃金変動時には在職老齢年金の対象とならないか、計算するように心がけましょう。
シニアになってもモチベーションを維持して働くためには、年金制度をきちんと理解しておくのが重要です。在職定時改定によって、働けば働くほど年金額が増加するため、賃金と年金のバランスを考えながら、少しでも長く働くのが老後の生活を豊かにする秘訣でしょう。
平均寿命が長くなっている現代では、少しでも長く働くことが収入の増加、やりがいやモチベーションの維持、健康寿命を延ばすことにつながります。不明な点があれば、積極的に日本年金機構の窓口に相談して、バランスの取れた働き方を続けられるようにしていきましょう。