ペットに遺産相続させたい場合にできること

この記事は約6分で読めます。

いまではペットを家族と同じようにかわいがっている人も少なくありませんが、年齢を重ねると心配になるのは、飼っているペットが自分よりも長生きしたときのことです。自分がいなくなった後に大事なペットが不自由な生活をしないよう、ペットに遺産相続させたい、世話してくれる人に頼んでおきたいと考える方が多いでしょう。

この記事では、ペットに遺産相続させることはできるのか、財産を残す方法を解説します。ペットの今後が心配な方はぜひ参考にしてください。

法的にはペットに遺産相続することはできない

結論から言うと、日本では人以外に財産を相続することはできません。ペットは大切な家族ですが、法的には「動産」として扱われ、ペットに直接金銭などを相続するのは不可能なのです。遺言書へ「ペットに相続させる」という旨の記載があっても、その遺言は法律上の効力を持ちません。

そのため他の財産と同様に、誰にどのように財産を譲るのかを考えておき、こと細かに内容を当事者間で話し合っておく必要があります。ペット用の食費や病院代などを自分の口座に貯めていたとしても、相続発生時には、子、親、兄弟姉妹などの家族(法定相続人)に相続され、遺産分割の対象となります。

それでは残されたペットに不自由な思いをさせないためにはどうしたら良いのでしょうか。ペットに直接財産を譲ることはできませんが、一定の条件のもとで世話をする「人」に相続させたり、贈与したりすることは可能です。

これを応用することで、飼い主が亡くなった後でも、ペットの生活を生涯にわたって保証する仕組みを作ることができます。そのために、「負担付遺贈」や「負担付死因贈与契約」があります。

ペットに財産を残す方法

ペットに財産を残す方法は遺言信託、負担付遺贈、負担付死因贈与契約の3つです。

遺言信託を利用する

遺言信託とはペットと楽しく暮らすために、そして万が一の時のペットの安全に備えて作られた制度です。三井住友信託銀行株式会社では、遺言信託(ペット安心特約付)のサービスを取り扱っています。

遺言信託は自分にもしものことがあった場合、ペットのお世話をしてくれる人への引き渡し、遺産から飼育費を渡すなど、ペットに関する遺言を執行してくれるサービスです。

具体的には、ペット(犬、猫)に関する遺言相談、遺言作成のアドバイス、遺言書の保管、遺言の執行などが行われます。

ペットを託せる人が周りにいれば、その人に気持ちを託すとともに、ペットの飼育費用を遺産から引き継ぐこともできます。しかし、ペットを託せる人がいない場合は法人や団体へ遺贈も可能なため、自分の死後のペットの行き場を作ってあげられます。

「ペット手帳」として、お世話をしてくれる人にペットの年齢、性格、健康状態や美容の好み、ペットへの希望を託すことができるため、ペットの生活の心配が不要になるのです。

負担付遺贈をする

負担付遺贈とは、ペットのエサ代や動物病院での治療費など、ペットの世話をしてくれる人に遺産を残す方法です。つまり、ペットの世話をする人に、ペットを飼うことを前提に遺産を残す遺言を書くのです。

遺言では、ペットのために残したい財産だけでなく、すべての財産の承継を指定することができます。また、世話をしていた人がペットの飼い主よりも先に亡くなった場合に備えて、第二の主たる世話人を指定することもできます。

ただし、ペットのために遺言を書いたとしても、ペットは「人」ではないので相続することはできませんし、負担付遺贈はペットの世話をする人との契約ではなく、遺言者のみが行うお願いです。

遺言によってペットの世話を依頼された人は、負担を引き受けるか放棄するか、自由に決めることができます。一方的な押し付けにならないよう、遺言者と話し合っておくとよいでしょう。

飼いたくないから遺産を受け取らない……という選択も受贈者には可能です。遺産を受け取ったとしても、飼い主が亡くなっている以上、そのペットがきちんと世話されているかどうかを見守ることはできません。

そこで、遺言執行者などの監督者を決めておくことをおすすめします。遺言執行者は、遺言が適切に執行されるようにする責任がありますが、負担付遺贈の場合は、その後の約束がきちんと守られるかを確認する責任もあります。飼い主に代わってペットがきちんと飼われているかどうかを確認する役目があるのです。

ペットの遺贈を行う場合、重要なことは遺言者の相続人の中に遺留分減殺請求権を持つ人がいる場合、遺留分を侵害しない範囲でペットの世話をしてくれる人に遺贈することです。遺留分を侵害すると、その人も相続争いに巻き込まれることになります。

また、相続税が発生する場合は相続人だけでなく、遺されたペットの世話をする人にも課税されます。それを見越して遺産を残しておくことが必要です。

負担付死因贈与契約をする

負担付遺贈は、ペットの世話をお願いするのに有効な方法ですが、法律上、遺贈を受けるかどうかは、依頼された人(ペットの世話をする人)が決めることができます。場合によっては、口頭で約束していたにもかかわらず、飼い主の死後に拒否(放棄)されることもあり得ます。

そこで、負担付死因贈与契約の利用をおすすめします。負担付死因贈与契約とは、贈与者が贈与を受ける方に対して、何らかの義務や負担を強いることができるものです。遺産を受け取る代わりにペットのお世話をしてもらうようにすることが可能です。

内容は負担付遺贈と似ていますが、負担付死因贈与は前の所有者と新しい所有者の間でお互いの合意(契約)が必要な点が大きな違いです。

遺言方式とは異なり、現所有者と将来(現所有者の死後)の所有者の双方が契約を結びます。契約なので、一方的に変更したり撤回したりすることは原則としてできません。両者間の契約であるため、遺言者の唯一の意思表示である遺言(負担付遺贈)よりも実行されやすいです。

契約は口頭でも成立しますが、他の相続人とのトラブルを避けるため、契約書という形で書面で残し、できれば公正証書にすることをおすすめします。贈与契約書には、何を誰に贈与するのか、どのように保管するのかを具体的に記載する必要があります。

また、死因贈与契約書には、遺言執行者に相当する死因贈与執行者を指定するのがおすすめです。万が一、契約上の義務が果たされない場合には、遺言執行者にペットの世話を依頼することができますし、家庭裁判所に死因贈与の取り消しを申し立てることも可能です。

遺言と同様に、死因贈与契約も遺留分や相続税に注意が必要です。負担付死因贈与契約では、贈与を受けた人が贈与の義務や負担をすべて引き受け、相続が発生するまで贈与の利益を受けることになります。

「契約の締結に疑問がある」「相続人同士のトラブルがある」ということがないように注意が必要です。事前に契約内容を明確にしておきましょう。

大切なペットの幸せを一番に考えよう!

ずっと自分が面倒を見てきたペットの今後が心配になる方は多いでしょう。現在の日本でペットに遺産を相続させることはできないため、生前にできる手続きをすべて行っておくのが重要です。

ペットに財産を残すには遺言信託、負担付遺贈、負担付死因贈与契約の3つがあります。

遺言信託は信託銀行が遺言の作成から執行までをしてくれるサービスです。負担付遺贈はペットのための遺言を残し、世話をお願いします。負担付死因贈与契約は生前にペットの世話をしてくれる人と契約を結んでおく方法です。

いずれの方法を選ぶにせよ、ペットにとって最も良い方法を考えるのが重要です。自分の死後、遺産相続のトラブルでペットが放置されたり、大事なペットがきちんと世話をされずに悲しい思いをすることがないよう、しっかりとした契約を結んだり、公正証書を残しておきましょう。