「親が亡くなったらお墓は相続しなければいけないのか」「相続したくない場合は放棄できるのか」といったお悩みを抱えている方は少なくありません。
現在は核家族化、少子化が進み祭祀継承者不足は、深刻な問題となっています。
お墓の相続は一般的な財産相続とは異なる方法で進める必要があります。今回はお墓の相続問題でよくあるお悩みや祭祀継承者になったときのお墓の管理方法についてご紹介します。
お墓の相続は遺産分割の対象外
お墓の相続は原則として遺産分割協議で決めるのではなく、祭祀継承者を定めて引き継がせることになります。
お墓の相続には法的な制限はほとんどありません。一般的な財産相続と異なり、法的には誰が相続してもよいですし、相続した人が祭祀継承者になる必要もありません。また、相続税法12条2号に、お墓には相続税がかからないことも規定されています。お墓だけではなく基本的に仏壇仏具、祭祀財産には相続税が課税されません。
しかし、霊園や墓地の使用規則は守らなければいけません。法的にはお墓は誰が相続しても問題ありませんが使用規則の中で、「相続できる人は~親等まで」など相続できる人の範囲が指定されているケースもあるので注意してください。
お墓を継承(相続)する人=祭祀継承者
お墓を継承する人は祭祀継承者としてさまざまな役割を果たさなければいけません。
祭祀継承者には以下のような役割があります。
- お墓や仏壇などの管理
- 法要を主宰する
- 遺骨やお墓の管理処分方法の決定
これらは役割は、祭祀継承者になったからといって、法的には必ず果たさなければいけないというわけではありません。
しかし、法的な義務がないからといって祭祀継承者になったにもかかわらず、お墓を放置したままにしているというのは問題です。もし、祭祀継承者としての役割が全く果たせないという場合は、祭祀継承者の変更や墓じまいを検討をおすすめします。
お墓は誰が継承(相続)するの?
お墓を誰が相続するのかはどのように決めるのでしょうか?
祭祀継承者の選び方は、民法897条に規定されています。それによると、必ずしも被相続人と親族関係である必要はないことが規定されています。他家に嫁いだ娘や親、兄弟、甥や姪、さらに血がつながっていない姻族でも継承可能です。
祭祀継承者の決め方は主に次の3通りあります。
- 被相続人が遺言または口頭で定める
- 指定がない場合は慣習にしたがう
- 慣習でも決まらない場合は家庭裁判所が定める
以下でそれぞれについて説明します。
遺言または口頭で定めることができる
祭祀継承者は、一般の法定相続人の順位とは関係ありません。被相続人が生前、遺言で祭祀継承者を指定していた場合は、それが優先されます。法的な拘束力を持った遺言書のように規定された形式で書かれたものではなく、メモや口頭による指定でも被相続人の意思が優先されると理解されています。
指定がなければ慣習にしたがう
被相続人からの遺言や口頭での指定がなかった場合は、一族やその地域の慣習によって祭祀継承者を決めて、お墓を相続してもらいます。
相続財産は、遺言で指示がない限りは、法定相続人だけが相続できないことになっていますが、お墓は相続財産とは扱われていないため、誰が相続しても問題ありません。
家庭裁判所が決める場合も
遺言などによる指定もなく、慣習でも決まらなかった場合は、家庭裁判所が調停または審判によって祭祀継承者が指定されます。
家庭裁判所は、被相続人との関係性や親密度、祭祀継承者になる本人の意思、職業、生活状況などあらゆることを考慮して、被相続人に対する感謝や愛情といった気持ちを強く持ち、被相続人が生きていたらおそらく指定したであろう人物を定めるべきとされています。
祭祀継承者は原則的にはひとりですが、特別な事情がある場合には2人以上の共同継承が認められる場合もあります。
お墓の継承(相続)でトラブルになる可能性も
お墓は相続放棄の対象にはなりません。一般的な相続財産は、家庭裁判所に相続放棄を申請すれば、被相続人の権利や義務を放棄することができます。しかし、お墓などの祭祀財産は相続税がかからず、相続財産とは分けて考えられているため、相続放棄の対象には含まれていないのです。
お墓は誰かが相続する必要がありますが、お墓を相続すると維持や管理するために、お金と手間がかかります。そのため、お墓の相続に関してトラブルに発展するケースは珍しくありません。ここでは、お墓を相続する際に起こるさまざまなトラブルについて説明します。
主なトラブルとして次のようなものがあります。
- 誰がお墓を相続するか
- 誰もお墓を相続したくない
- お墓の相続問題が遺産分割に発展する
それぞれについて以下で簡単にご説明します。
誰がお墓を相続するのか
複数の相続人がいる場合、親のお墓を相続したい子供が複数いる場合があります。その場合、どちらかが譲れば問題ないのですが、互いに譲らない場合トラブルに発展してしまうことがあります。
祭祀継承者がいつまでも決まらないと、墓地の管理者にも迷惑をかけてしまうため、被相続人存命中に事前に話し合っておくことをおすすめします。
誰もお墓を相続したくない
相続人が全員、お墓から遠方に住んでいるような場合では、誰もお墓を相続したくないと揉めだすことがあります。祭祀継承者がいつまでも決まらない状態で、お墓の管理費の支払いなども滞ってしまうと、墓地の管理者とのトラブルにも発展しかねません。遠方で管理が不便な場合は改葬を検討し、誰も相続したくない場合は墓じまいを検討することも一つの解決方法になるでしょう。
お墓の相続問題が遺産分割トラブルに発展する
お墓を誰が相続するかで揉めていたはずなのに、いつの間にか遺産分割トラブルに発展してしまうケースがあります。
「お墓を相続すると経済的な負担があるため遺産を先取りさせてほしい」など主張し始めると、お墓の相続だけではなく遺産分割のことまで発展してしまうと、解決することがさらに難しくなってしまうでしょう。
相続トラブルを避けるためにすべきことは?
お墓の相続トラブルを避けるためには、被相続人が生きている間に家族でよく話し合うことが大切です。近年は、少子化に伴いお墓の相続人不足が深刻化しています。そのため、話し合いの際には「長男が継ぐべき」などの過度な期待や固定観念は取り払うことも大切です。
また、トラブルを防ぐためには被相続人による祭祀継承者の指定は、弁護士にサポートを受けて法的拘束力がある遺言書という形で残しておくことをおすすめします。そうすれば万が一、被相続人が亡くなったあと「言った、言わない」「その遺言は無効だ、有効だ」というトラブルを回避することができます。
もし、「祭祀継承者に適切な人が見つからない」「遠方に住んでいる子供に負担を背負わせたくない」と思った場合は、改葬や墓じまいを検討することをおすすめします。
まとめ
お墓の相続問題でよくあるお悩みや、祭祀継承者になったときのお墓の管理方法などについて紹介しました。
お墓の相続問題を避けるためには、被相続人が元気なうちに家族で話し合うことが一番大切です。相続人に経済的・精神的な負担をかけてまで、お墓を相続して欲しいと望んでいる親は多くないはずです。生前の話し合いで、子供がお墓を相続しても祭祀継承者としての役割を果たすには、負担が大きすぎると思った場合には、改葬や墓じまいを検討してもよいかもしれません。