家族が亡くなり、ご遺体を自宅や安置施設に迎えたとき、枕元に花や線香、ろうそくなどを整えることがあります。これが「枕飾り(まくらかざり)」です。突然のことで、「何を用意するのか」「どこに置くのか」「夜も線香を絶やしてはいけないのか」と戸惑う方もいるでしょう。
枕飾りは宗教・宗派や地域によって異なり、どの家庭でも同じ品をそろえるものではありません。まず葬儀社と、日頃お世話になっている寺院などに確認することが大切です。また、ろうそくや線香を使う場合も、就寝中や誰も見ていない時間は消し、安全を優先してください。
この記事では、枕飾りの役割、準備する時期、仏式の基本的な配置例、宗派ごとの注意点、弔問への対応と片付けまでを解説します。
枕飾りとは?故人を安置したそばに整えるお飾り
お参りする場を整えるためのもの
枕飾りは、ご遺体を安置した枕元などに小さな台を置き、お参りに必要な道具やお供えを整えるものです。家族が故人を偲び、僧侶のお勤めや弔問を受ける際にも用いられます。
通夜・葬儀の大きな祭壇と比べると、限られた場所に設ける簡素なお飾りです。小さいから不十分ということではなく、故人を丁重にお迎えし、家族がお別れの時間を過ごせるよう整えます。
意味付けは宗派によって異なります。「未練をなくすため」「旅立つ魂に食事をさせるため」といった説明を、すべての仏教に共通する教義として捉えないようにしましょう。
葬儀の祭壇・後飾りとの違い
枕飾りは、主に亡くなったあとから通夜・葬儀に向けて、ご遺体を安置している場に整えます。通夜や葬儀の祭壇は、式を営むために設けるもので、会場や宗教に応じた飾り付けになります。
一方、後飾り(あとかざり)は、火葬後に遺骨を自宅へ迎えたあとなどに用いるお飾りです。遺骨や遺影などを安置し、忌明けの法要や納骨までの間にお参りする場として整えます。
台や道具の一部を引き続き使うことはありますが、枕飾りと後飾りは、使う時期や目的が異なります。火葬後の配置や片付けについては、後飾りとは?祭壇の配置・お供え・いつまで飾るかと片付け方をご確認ください。
自宅安置と施設での安置では準備が違う
自宅で安置する場合は、部屋の広さや動線に合わせて場所を整えます。葬儀社の安置施設や葬儀会館では、すでに道具が用意されている場合があり、家族が持ち込めるものにも決まりがあります。
自宅にご遺体を迎えない場合に、必ず自宅にも枕飾りを設けなければならないわけではありません。自宅で別に手を合わせる場所をつくりたいときは、遺影や花など、何を置くかを宗教者や葬儀社へ相談しましょう。
枕飾りはいつ用意する?最初に確認すること
ご遺体の安置に合わせて準備する
枕飾りは、通常、ご遺体を自宅や施設へ安置した際に整えます。「葬儀場へ搬送したあと、残った自宅に必ず設置する」というものではありません。
急いで仏具店へ買い出しに行く前に、搬送・安置を依頼する葬儀社へ、枕飾りを用意してもらえるか確認してください。台や仏具を葬儀社が持参し、設置まで対応する場合があります。すでに家庭にある道具を使えるかどうかも、そのときに相談できます。
到着時刻、安置する部屋、宗教・宗派が分かっていれば伝えておきます。宗派が分からない場合は、親族や菩提寺(ぼだいじ)へ確認し、推測で一式を購入しないほうが準備の重複を防げます。
寺院への連絡と枕勤めの予定を相談する
仏式の場合は、日頃お世話になっている寺院へ連絡し、亡くなったことと安置場所を伝えます。僧侶に枕勤め(まくらづとめ)や枕経(まくらきょう)をお願いする場合は、訪問時間や準備するものを確認しましょう。
通夜・葬儀の日程は、寺院、火葬場、会場などの都合を調整して決めます。家族だけで日程を確定してから寺院へ知らせると、調整し直すことになる場合があるため、早い段階で連絡することが役立ちます。
お付き合いのある寺院がない場合も、葬儀社にすぐ紹介を依頼する前に、親族が知っている寺院や、お墓のある寺院との関係を確認しておくと安心です。
家族がすべてを手作りする必要はない
枕飯(まくらめし)や枕団子(まくらだんご)を家族が用意する地域もありますが、どの宗派でも必要なものではありません。また、必要な場合も、葬儀社が手配できることがあります。
葬儀の準備と連絡に追われるなかで、「自分で作らないと弔意が足りない」と考える必要はありません。家族が行うことと、葬儀社に頼むことを分け、休む時間も確保してください。
仏式の枕飾りに用いる道具と配置例
基本となる三具足と台
仏式では、香炉(こうろ)、燭台(しょくだい)、花立てを組み合わせた三具足(みつぐそく)が、お飾りの基本の一つです。白木の台や経机(きょうづくえ)などに並べ、白い布を掛けて整える場合があります。
香炉は線香やお香を供える器、燭台はろうそくを立てる道具、花立ては花や枝物を供える器です。宗派やお勤めの内容に応じて、りんやお供えの器なども用意します。
「枕飾りには必ず七種類必要」と数を固定するより、寺院や葬儀社が指定するものを確認しましょう。台を家庭のものに替える場合も、重さに耐え、ぐらつかず、火を扱う場所として安全かを見てもらってください。
向かって左に花立て、中央に香炉、右に燭台という例
三具足の配置には、手を合わせる側から見て左に花立て、中央に香炉、右に燭台を置く例があります。ただし、台の形、仏具の種類、宗派によって違いがあり、この並べ方だけが唯一の正解ではありません。
水やご飯、団子などを供える場合は、寺院や葬儀社の案内に従って置きます。器を置くために香炉やろうそくを台の端へ押しやらず、倒れにくい配置にすることが大切です。
家族が自分で手直ししたいときは、火が消えていることを確認してから行いましょう。設置後に一度写真を撮っておくと、掃除や水替えのあとに戻す位置を確認しやすくなります。
北枕と、台を置く方角は同じ問題ではない
仏式の安置では北枕がよく知られていますが、ご遺体の向きと、枕飾りの台を部屋のどの位置に置くかは分けて考えます。「台を必ず部屋の北側に置く」と決めてしまうと、お参りや安置の管理がしにくくなることがあります。
宗派によっては、ご本尊や仏壇との位置関係も大切にします。方角だけで判断せず、僧侶のお勤めができる場所、家族の座る場所、葬儀社が作業できる場所を確認して配置を決めましょう。
間取りの都合がある場合は、その事情を伝えて相談してください。家族だけでご遺体の位置を動かしたり、安置のために設置された保冷用品を移動したりしないようにします。
お供えの花・水・枕飯・枕団子は宗派を確認する
花や枝物は種類と大きさを確かめる
白い花や樒(しきみ)などが用いられることがありますが、どの花でもよいとは限りません。寺院の案内を確認してから用意すると、宗派の考え方に合ったお飾りを整えられます。
故人が好きだった花を供えたい場合も、最初に相談してみましょう。枕飾りの花立てではなく、別の場所に飾るなど、希望を取り入れる方法を考えられる場合があります。
背の高い花や大きな花束は、台を不安定にしたり、ろうそくへ近づいたりすることがあります。包装紙やリボンを火のそばに残さず、花が傾いても炎に触れない位置に整えてください。
水や食べ物は衛生状態も確認する
水や食べ物を供えるかどうかも宗派によって異なります。用いる場合は清潔な器に入れ、取り替えるタイミングや、下げたものの扱いを確認しましょう。
室温の高い部屋で食べ物を置き続けたり、花の水がこぼれたままにしたりしないようにします。傷みや汚れがある場合は、そのままにせず、取り下げて台を清潔に保ちます。
保冷のために部屋を涼しくしていても、食べ物が傷まないと考えないでください。ご遺体の保冷・管理は葬儀社の指示に従い、お供えの手入れとは分けて行います。
枕飯を供えない宗派もある
枕飯は、一膳飯(いちぜんめし)などとも呼ばれ、茶碗にご飯を盛り、箸を立てて供える風習があります。ただし、これをすべての仏式で必要なお供えと考えるのは適切ではありません。
用いる場合は、器、盛り方、箸の扱いを地域や寺院の案内に合わせます。故人が使っていた茶碗を使う場合もありますが、大切な器を割るなどの行為を家族の判断で行わず、まず必要性を確認してください。
枕飯を用意しないことが、故人に食事をさせないことになるわけではありません。意味や作法を自分の宗派に照らして確かめることが大切です。
枕団子の数や積み方を一律に決めない
枕団子は、米粉などで作った団子を供える風習です。数や積み方には地域差があり、「必ず六個」「必ず下に五個、上に一個」と全国共通の決まりのように覚える必要はありません。
用意が必要と分かったら、家族が作るのか、葬儀社が手配するのか、いつ取り替えるのかを確認します。宗派によっては供えないため、ほかの葬儀で見たという理由だけで追加しないようにしましょう。
浄土真宗・神道・キリスト教での違い
浄土真宗はご本尊を中心にお勤めする
浄土真宗(じょうどしんしゅう)では、ご本尊である阿弥陀如来(あみだにょらい)を中心としてお勤めします。故人のご遺体を丁重に扱うことと、ご遺体そのものをご本尊として礼拝することは異なります。
真宗大谷派の案内では、枕飾りに箸を立てたご飯や枕団子を供えず、長い線香を立てることもしないと説明されています。仏壇の扉を開け、ご本尊に向かってお参りすることも案内されています。
本願寺派を含め、浄土真宗では線香を寝かせて供える作法がありますが、具体的なお飾りは所属する寺院へ確認しましょう。葬儀社に「仏式です」とだけ伝えず、宗派まで共有することが準備の行き違いを防ぎます。
神式では神職の案内に合わせて整える
神道の葬儀では、米・塩・水・酒や榊など、神式に応じたお供えを整える場合があります。仏式の香炉や線香をそのまま使うというものではありません。
器や台の種類、置き方、お供えをする時期については、神職や神式の葬儀に対応する葬儀社へ確認してください。霊璽(れいじ)などの準備も含め、家庭で一式を推測して買いそろえる必要はありません。
神式の葬儀全体は、神葬祭とは?神道の葬儀の流れ・玉串奉奠・参列マナーと準備で解説しています。
キリスト教は教会へ連絡し、独自に道具をそろえない
キリスト教では、カトリック・プロテスタントや教会によって、祈りや葬儀の進め方が異なります。仏式の枕飾りと同じように、遺族が決まった配置で聖書やパン、水などをそろえると考えないようにしましょう。
十字架や花などを置く場合も、教会の案内に従います。故人が所属していた教会へ連絡し、司祭・牧師と葬儀社に準備を相談してください。
また、カトリックの「病者の塗油」は、家族が葬儀用に聖油を用意して死後に行う作業ではありません。必要な宗教上の儀式は司祭に相談し、一般的な葬儀記事の道具一覧だけで準備を決めないことが大切です。
線香・ろうそくを絶やさない?安全な管理を優先する
就寝時や不在時は火を消す
線香や灯明を絶やさないという習慣を聞くことがあります。しかし、火をつけたまま寝たり、誰もいない部屋に残したりすることは避けてください。燃焼時間が長いろうそくや渦巻き線香でも、見守りなしで安全に使えるわけではありません。
家族が休むとき、外出するとき、その場を離れるときは、火が完全に消えたことを確認します。煙が見えなくても、線香に火種が残っている場合があります。器の中の状態まで確かめてから離れましょう。
消すことにためらいがある場合は、寺院や葬儀社に相談してください。遺族が無理をして夜通し起き続けることを、弔いの条件にしないことが大切です。
布・花・紙・衣服と火の距離を取る
枕飾りの周囲には、白布、花の包装、ティッシュ、礼状など、燃えやすいものが集まりやすくなります。台の上を整理し、ろうそくが倒れたり、花が傾いたりしても燃え移りにくい配置にしましょう。
窓やエアコンの風で炎が揺れる場所、布が垂れ下がった場所、不安定な台は避けます。子どもやペットが触れたり、通行する人の袖や荷物が当たったりしないかも確認してください。
香炉や燭台をまたいで奥の器へ手を伸ばす動作にも注意が必要です。水替えや配置の変更は、いったん火を消してから行うと安全です。
電気ろうそくや施設のルールを確認する
火の管理が難しい場合は、電気ろうそくなどの使用を相談できます。実際の火が出ない道具を使うことで、夜間の負担を減らせる場合があります。
安置施設では、火気や線香を使えないこともあります。自宅の習慣を優先して勝手に点火せず、係員へ確認してください。香りや煙が苦手な家族がいる場合も、使用時間や方法を相談しましょう。
枕勤めと弔問の際に家族が気を付けること
枕勤めは寺院と時間・場所を確認する
枕勤めや枕経は、亡くなったあとに僧侶を迎えてお勤めをする場面で用いられる呼び方です。意味や勤め方は宗派によって異なるため、読経だけを同じ形式の儀式として扱わないようにしましょう。
家族がそろう時間、僧侶が座る場所、ご本尊との位置関係などを確認します。施設で行う場合は、面会時間や部屋の利用条件も葬儀社に伝えて調整してください。
急な訪問では喪服がそろっていないこともあります。服装やお布施などで迷うときは寺院に相談し、「必ず全身黒でなければならない」と家族だけで決めつけないようにします。可能な範囲で落ち着いた身なりを整えましょう。
弔問は遺族の負担と面会条件を優先する
枕飾りがあっても、いつでも弔問を受けられるとは限りません。安置施設の面会予約、家族の休息、納棺などの予定によって、対応できる時間は変わります。
弔問する側は事前に連絡し、遺族が辞退している場合は訪問を控えます。花やお供えを持参したい場合も、置ける場所や受け取り方針を確認しましょう。短時間でお悔やみを伝え、遺族に長い説明や接待を求めない配慮が大切です。
枕飾りの費用・片付け・後飾りへの切り替え
見積もりでは含まれる道具と返却品を確認する
枕飾りの費用は、葬儀プランに含まれる場合と、別に計上される場合があります。全国共通の一式価格はないため、金額だけでなく、何が含まれているかを確認してください。
具体的には、台、仏具、花、お供え、設置・撤去の作業を確認します。安置が長くなった場合の花の交換、道具の貸出期間、後飾りに引き継ぐ場合の追加料金も聞いておくと、あとからの行き違いを防げます。
買い取りの品と貸し出しの品が混ざっていることもあります。返却するものを一覧にしてもらい、家族間で共有しておきましょう。
片付ける時期は葬儀社に確認する
枕飾りを片付ける時期は、通夜の祭壇への切り替え、ご遺体の移動、出棺などの流れによって異なります。「必ず通夜の前に全部片付ける」と一律に決める必要はありません。
葬儀社が撤去する予定のものを家族が先に処分したり、必要な道具を箱にしまったりしないよう、担当者へ確認してください。家族が片付ける場合は、火が消え、器が冷めてから行います。
後飾りへ使うものと返すものを分ける
火葬後に自宅で後飾りを設ける場合は、枕飾りの台や仏具を引き続き使うこともあります。すべて新しく買い替える前に、使えるものと追加で必要なものを確認しましょう。
花や食べ物は状態を見て取り替え、返却する台や器は案内どおりにまとめます。家族が保管するものは、誰がどこへしまうかを決めておくと、法要の準備の際にも探しやすくなります。
まとめ|枕飾りは宗派と安置場所に合わせ、安全に整える
枕飾りは、ご遺体を安置したそばにお参りの場を整えるものです。使う道具やお供え、配置は宗教・宗派や地域によって違うため、葬儀社と寺院・教会・神社などへ確認して準備しましょう。
枕飯や枕団子をすべての家庭で用意する必要はなく、線香やろうそくを夜通し燃やし続けることも優先しません。就寝時や不在時は消火を確認し、家族が休める環境を整えることが大切です。
通夜・葬儀、火葬後の後飾りまで見通して、設置・返却・片付けを葬儀社に相談してください。形式を一人で抱え込まず、故人と向き合う時間を持てるよう、家族で役割を分けて進めましょう。


