神道の葬儀である神葬祭(しんそうさい)は、故人の御霊(みたま)を丁重にお祀りし、生前の歩みを偲んでお別れする儀式です。初めて参列する場合は「焼香の代わりに何をするのか」「数珠は必要か」「お金の包みには何と書くか」と戸惑うかもしれません。
参列者がまず覚えておきたいのは、焼香の代わりに玉串を捧げること、拍手は音を立てない忍手で行うこと、当日は神職や係の案内に従うことです。儀式の名前や順序には地域差があるため、すべてを暗記する必要はありません。ここでは、遺族の準備と参列者のマナーを分けて説明します。
神葬祭とは?仏式との違い
神葬祭は、神道の形式によって行う葬儀です。故人の御霊を鎮め、以後も家の守り神としてお祀りするという考え方があります。仏式とは死生観や用いる道具が異なりますが、故人を大切に送り、遺族を支える気持ちは変わりません。
「神道では悲しんではいけない」「追悼の言葉を述べてはいけない」ということではありません。故人の功績や人柄を偲ぶことは神葬祭でも大切にされ、式次第に弔辞や弔電の奉読が含まれる場合もあります。
| 項目 | 神葬祭での基本的な扱い |
|---|---|
| 儀式を執り行う人 | 神職 |
| 拝礼 | 玉串奉奠など。拍手は音を立てない忍手 |
| 数珠・焼香 | 神葬祭の作法としては用いない |
| 故人を祀る依り代 | 霊璽 |
| 通夜・告別式に当たる儀式 | 通夜祭・葬場祭 |
| 葬儀後の節目 | 五十日祭・百日祭・年祭など |
仏教にも宗派による違いがあるため、「仏式では必ずこうする」と比較して覚えるより、神葬祭の案内を確認する方が確実です。参列者自身の信仰が異なる場合も、不安な点は事前に遺族や係へ相談しましょう。
葬儀を行う場所と、遺族が最初に確認すること
神社へ相談することと、神社で葬儀を行うことは別
神葬祭の相談先は神社や神職ですが、一般に葬儀は自宅や葬儀会館・斎場などで行います。「神道式だから神社の拝殿を会場にする」と考えず、担当の神職と葬儀社に会場を確認してください。
神道では、死に関わる期間を日常のおまつりと区別する考え方があります。ただし、この宗教上の扱いを、故人や遺族を不潔とみなす意味に受け取る必要はありません。形式を理由に遺族を責めたり、悲しみ方を制限したりしないことが大切です。
神職と葬儀社の役割を整理する
葬儀社には神道式を希望することを最初に伝え、日頃お世話になっている神社がある場合は、神職への連絡方法も相談します。神職の日程、会場、火葬場の予約を合わせて調整するため、家族だけで式の日時を確定しないようにしましょう。
- 神職への依頼を誰が行うか
- 通夜祭・遷霊祭・葬場祭をいつ行うか
- 霊璽・玉串・祭壇・供物を誰が用意するか
- 会葬者への案内、供花や金品の辞退をどう伝えるか
- 火葬後の遺骨と霊璽をどこに安置するか
親族間で宗教の認識が違うこともあります。故人の意向やこれまでの家のお祀りを確認し、喪主だけに判断を任せず、連絡窓口を決めて共有しましょう。
神葬祭の主な流れ
次に示すのは代表的な儀式です。名称、順序、行う場所、参列する人の範囲は地域や神社によって変わります。すべての儀式を別の日に行うわけではなく、続けて行ったり、葬儀後の祭儀をまとめて行ったりする場合もあります。
帰幽報告・安置・納棺
帰幽(きゆう)は神道で亡くなることを表す言葉です。亡くなったことを神棚や御霊舎などに報告し、ご遺体を整えて安置し、納棺へと進みます。安置する向きや供物、必要な道具は、神職と葬儀社の案内に従って準備してください。
神棚封じを行う場合も、神棚と故人を祀る祭壇を混同しないことが大切です。どこを覆い、どのお供えを下げるのかを確認します。遺族が急いで道具を揃えたり、すべての祭壇を一律に閉じたりする必要はありません。
通夜祭と遷霊祭
通夜祭(つやさい)は、故人を偲び、御霊を慰める儀式です。遷霊祭(せんれいさい)は、故人の御霊を霊璽(れいじ)へ遷す儀式で、御霊移しとも呼ばれます。続けて行われることがあっても、二つは同じ儀式ではありません。
遷霊祭では照明を落とす場合があります。参列する範囲や撮影の可否は事前の案内を守り、暗くなったときに不用意に移動したり、スマートフォンのライトを点けたりしないようにします。歩行に不安がある方は、明るいうちに席と動線を係へ相談しておくと安心です。
霊璽の用意や文字入れの確認は、霊璽とは?位牌との違い・霊号・準備する時期と費用の確認点で詳しく解説しています。
葬場祭と出棺
葬場祭(そうじょうさい)は、故人とのお別れをする中心的な儀式です。神職による祭詞の奏上や玉串奉奠、弔辞・弔電の紹介、喪主の挨拶などが行われます。具体的な内容は式次第で確認してください。
会葬者の拝礼が終わると、お別れをして出棺へ進みます。棺に納められる品には火葬場の制限があるため、故人が好きだった物でも自己判断で入れず、葬儀社へ確認しましょう。火葬場へ同行する方は、人数と移動手段も事前に伝えます。
火葬祭・帰家祭・直会
火葬場では火葬祭を行い、火葬・収骨へと進みます。炉前で行える儀式や参列人数は施設によって異なります。自宅や斎場に戻って行う帰家祭(きかさい)では、葬儀を終えたことを報告します。
祭儀の後には、直会(なおらい)と呼ばれる会食の場を設けることがあります。ただし、会食の実施や形式は家族の事情によります。案内を受けた方は出欠や食事上の配慮事項を早めに伝え、運転する場合は飲酒を避けてください。
埋葬祭と葬儀後の霊祭
遺骨を墓に納める際には埋葬祭を行います。火葬当日に納骨する場合も、後日に日程を設ける場合もあり、五十日祭まで必ず待つという一律の決まりではありません。墓地の利用条件、神職の都合、家族の予定を合わせて決めます。
葬儀後には十日祭、五十日祭、百日祭、年祭などの節目があります。何をいつ行うかは神職に確認し、葬儀の打ち合わせの時点で次の連絡先と予定を控えておきましょう。家庭で霊璽を祀る場所については、祖霊舎とは?神棚との違い・祀り方・お供えと置き場所の考え方も参考になります。
参列者の作法:玉串奉奠と忍手
玉串は根元を御霊前に向けて捧げる
玉串奉奠(たまぐしほうてん)は、紙垂(しで)を付けた榊の枝を捧げ、故人を偲んで拝礼する作法です。神職や係から玉串を受け取り、案内された台へ進みます。枝を振ったり紙垂を引っ張ったりせず、両手で丁寧に扱いましょう。
- 神職や係に一礼し、玉串を両手で受け取ります。
- 台の前へ進み、心を落ち着けて故人を偲びます。
- 根元が御霊前を向くように持ち替え、台に静かに置きます。
- 二礼二拍手一礼を基本に拝礼します。拍手は音を立てない忍手で行います。
- 一礼して下がり、係の案内に従って席へ戻ります。
受け取る向きや動作の説明がその場である場合は、案内を優先してください。初めてであれば、受付や着席時に「玉串の作法を教えてください」と伝えて構いません。足腰に不安がある場合も、無理に深くかがまず、可能な姿勢で拝礼できるよう相談します。
忍手では音を鳴らさない
忍手(しのびて)は、音を立てずに拍手する作法です。神社で普段お参りする感覚で、勢いよく手を打たないようにします。回数などに異なる案内がある場合は、担当の神職に従ってください。
手水(ちょうず)が設けられている場合も、会場の設備や衛生上の運用に合わせます。柄杓に直接口を付けることは避け、係の説明を受けて手を清めましょう。作法を完璧に見せることよりも、落ち着いて儀式に参加することが大切です。
服装・金包み・お悔やみの言葉
服装は案内に従い、数珠は用意しなくてよい
服装は一般の葬儀と同様に、立場や案内に応じた喪服・礼服を基本にします。華美な装飾や強い香りは控え、歩行しやすい靴を選びましょう。数珠や焼香は神葬祭の作法では用いないため、そのために新しく数珠を購入する必要はありません。
表書きは「御玉串料」などを用いる
神道式と分かっている場合、金包みの表書きには「御玉串料」「御榊料」「御神前」などが用いられます。「御霊前」と案内されることもあります。袋は蓮の花など仏教を表す絵柄のないものを選び、地域の慣習や先方の案内を確認してください。
ここでいう会葬者からのお金と、遺族が神職に納める謝礼は別のものです。どちらも玉串料と呼ばれる場合がありますが、同じ金額や渡し方を当てはめないようにしましょう。辞退の案内がある場合は、その意向を尊重します。
宗教を限定しない言葉でも気持ちは伝わる
お悔やみでは、「御霊の平安をお祈りいたします」「心よりお悔やみ申し上げます」などの言葉を使えます。「成仏」「ご冥福」など仏教に関わる表現は避けるとよいでしょう。
長い挨拶を準備する必要はありません。故人との思い出を伝えたい場合は、遺族の様子と場面を見て短く話します。弔辞を依頼されたときは、持ち時間や内容を事前に確認し、故人の人柄を具体的に偲ぶ言葉を選びましょう。
供花・供物と費用で確認したいこと
神葬祭だから供花が一切使えない、ということではありません。榊や生花の扱い、祭壇の形式、受け付ける供物には違いがあるため、贈る前に葬儀社へ確認します。自己判断で線香を贈ったり、会場へ大量の食品を持ち込んだりするのは避けましょう。
遺族は見積書で、会場費、搬送・安置、棺、祭壇、火葬関係、飲食・返礼品などに加え、神職への謝礼や神具がどこまで含まれるかを確認します。「仏式より必ず安い」「戒名料がないので追加費用はない」とは言い切れません。
神職の人数、遠方から来ていただく場合の交通費、葬儀後の祭儀についても相談し、葬儀社に払う費用と神職に直接納める費用を分けて整理しておきましょう。予算や家族の事情は、見積もりを確定する前に伝えることが大切です。
分からない作法は事前に確認して、落ち着いてお別れを
神葬祭では、玉串奉奠、音を立てない忍手、神道に合った表書きや言葉遣いを押さえておくと安心です。参列者は式場の案内に従い、遺族は神職・葬儀社と準備の分担や葬儀後の予定を共有しましょう。
地域による違いを「間違い」と決めつけず、その家が大切にしてきた祀り方を尊重することも欠かせません。故人を偲ぶ気持ちを中心に、無理なく参列できる形を相談してください。


