「家族葬は、一般葬に比べて費用が安く済む」 「家族だけで見送るなら、葬儀費用は抑えられるはずだ」
近年、葬儀形式の主流となりつつある「家族葬」。
多くの方が、このようなイメージを持っているのではないだろうか。
実際、故人とごく親しい身内だけで行うため、参列者への対応や規模の面で、一般葬よりも費用を抑えられるケースは多い。
しかし、「家族葬=安い」という安易な思い込みは、思わぬ落とし穴につながることがある。
家族葬も一般葬も、葬儀に必ずかかる費用はほとんど同じだ。
家族葬だからといって、葬儀社の基本サービスや火葬料金が安くなるわけではない。
また、参列者が少ないことで香典収入が減り、最終的に遺族の持ち出し額が一般葬よりも多くなる可能性すらある。
この記事では、「家族葬は本当に安くなるのか?」という疑問に答えを出すため、一般葬との具体的な価格比較、そしてそれぞれの形式で費用が変動する要因を詳しく解説する。
今回は、参列者が10名の家族葬と50名の一般葬を例に、葬儀形式を検討する上で知っておくべき費用の真実を明らかにする。
1. 家族葬と一般葬、その違いは「規模」と「参列者」
まず、家族葬と一般葬の最も大きな違いは、葬儀の規模と参列者の範囲である。
【家族葬】
- 参列者: 故人の親族やごく親しい友人・知人など、ごく限られた範囲の人々だ。今回の例では10名とする。
- 規模: 小規模でアットホームな雰囲気で行われる。
- 特徴: 遺族がゆっくり故人と向き合う時間を大切にする。参列者対応に追われることが少ない。
- 費用: 規模を小さくすることで、変動費(飲食費、返礼品代など)が抑えられる。
【一般葬】
- 参列者: 親族、友人・知人、会社関係者、近隣の方など、生前故人と関わりのあったすべての人々を招く。今回の例では50名とする。一般葬とはいえ、昔に比べて参加人数は減少傾向にある。
- 規模: 参列者の人数によって規模が大きく変動する。会館を借りる場合は、大規模になることが多い。
- 特徴: 故人の社会的なつながりを大切にし、多くの人に見送ってもらう。
- 費用: 参列者が多いため、変動費が大きくなりやすいが、香典収入も多くなる傾向がある。
このように、家族葬と一般葬は根本的に目的と形式が異なる。
そして、この違いが、葬儀費用にどう影響するのかを具体的に見ていこう。
2. 一般葬と家族葬の費用比較:それぞれの「相場」と「内訳」
葬儀費用は、大きく3つの項目に分けられる。
- 葬儀一式費用(固定費): 棺、祭壇、霊柩車、火葬料金、骨壺、ドライアイスなど、葬儀を行うために必ず必要となる費用だ。
- 変動費: 参列者の人数によって変動する費用。飲食費(通夜振る舞い、精進落としなど)、返礼品代。
- お布施(変動費): 僧侶への読経料など。
これらの項目を基に、参列者10名の家族葬と50名の一般葬の費用相場を比較してみよう。
【一般葬の費用相場(参列者50名の場合)】
- 総費用:約100万円〜200万円
- 内訳の目安
- 葬儀一式費用:約70万円〜120万円
- 祭壇(白木祭壇、生花祭壇など)、棺、遺影写真、運営スタッフ人件費、会場使用料、霊柩車、骨壺など。
- 変動費:約25万円〜50万円
- 飲食費(通夜振る舞い、精進落とし):1人あたり3,000円〜5,000円 × 50名 = 15万円〜25万円
- 返礼品代:1人あたり2,000円〜4,000円 × 50名 = 10万円〜20万円
- お布施:約30万円〜50万円
- 僧侶への読経料、戒名料など。
- 葬儀一式費用:約70万円〜120万円
【家族葬の費用相場(参列者10名の場合)】
- 総費用:約40万円〜100万円
- 内訳の目安
- 葬儀一式費用:約40万円〜100万円
- 祭壇(一般葬より小規模)、棺、遺影写真、運営スタッフ人件費、会場使用料(小規模会場)、霊柩車、骨壺など。
- 変動費:約5万円〜15万円
- 飲食費(通夜振る舞い、精進落とし):1人あたり3,000円〜5,000円 × 10名 = 3万円〜5万円
- 返礼品代:1人あたり2,000円〜4,000円 × 10名 = 2万円〜4万円
- お布施:約20万円〜40万円
- 一般葬より若干安くなる傾向があるが、寺院によって異なる。
- 葬儀一式費用:約40万円〜100万円
【比較のポイント】
- 葬儀一式費用: 家族葬の場合、小規模な祭壇や会場を選ぶことで、一般葬よりも安く抑えられる。
- 変動費: 家族葬が安くなる最大の要因は、この変動費だ。参列者が少ないため、飲食費や返礼品代が大幅に削減される。
- お布施: 宗派や寺院との関係性によって金額は異なるが、一般葬よりも安くなる傾向がある一方で、あまり変わらないこともある。
一見すると、家族葬の総費用は一般葬の半分以下になる可能性があり、「家族葬=安い」というイメージは正しいように見える。
しかし、ここには「香典収入」という重要な視点が抜けている。
3. 「香典収入」という落とし穴:持ち出し額で比較する
葬儀の費用を考える上で、香典収入は無視できない。
一般葬では、参列者が多いため香典収入も多くなる。
仮に、参列者50名が平均1万円の香典を包んだとすれば、香典収入は50万円になる。
これに対し、家族葬では参列者が10名で、香典収入は10万円となる。
この香典収入を、先ほどの費用相場から差し引いて、遺族が実際に負担する「持ち出し額」で比較してみよう。
【持ち出し額の比較】
- 一般葬の場合: 総費用150万円 – 香典収入50万円 = 持ち出し額100万円
- 家族葬の場合: 総費用70万円 – 香典収入10万円 = 持ち出し額60万円
この例では、持ち出し額で見ても、家族葬の方が40万円安く済む。
しかし、これはあくまで目安だ。
もし、家族葬に一般葬と同じ規模の豪華な祭壇やサービスを選んだ場合、総費用が一般葬と変わらなくなることもあり得る。
【思わぬ落とし穴】
- 参列を断った方への対応費用: 家族葬の場合、訃報を聞きつけた方が自宅に弔問に訪れたり、後日お線香をあげに来たりすることがある。その際のお礼や、菓子折りなどの手土産代は別途発生する。
- 辞退した方への返礼品: 香典を辞退するケースも多いが、それでも香典を包んでくれる方はいる。その場合、後日郵送で返礼品を送る手間や費用が発生する。
- 事後対応の費用: 家族葬であることを知らずに「お香典」を郵送で送ってくださる方もいる。その場合、お礼状や返礼品を送る費用がかかる。
このように、家族葬は規模が小さい分、事後の対応が煩雑になることがあり、それにかかる費用や手間を見込んでおかないと、結果的に持ち出し額が膨らむ可能性もあるのだ。
4. 葬儀社の「セットプラン」に注意する
家族葬の費用を考える上で、葬儀社が提示する「セットプラン」には注意が必要だ。
多くの葬儀社は、「基本セットプラン〇〇万円」といった形で分かりやすいプランを提示している。
しかし、このプランに含まれる項目は葬儀社によって様々で、例えば以下のようなものが「別途費用」として請求されることがある。
- 安置料: 自宅で安置できない場合、葬儀社の霊安室を使用する費用。
- ドライアイス代: 葬儀までに日時が経った場合の安置費用がプランに含まれていない場合。
- 供花代: 祭壇に飾るお花の費用。
- 飲食代・返礼品代: 参列者数によって変動する費用。
- 火葬料金: 地域の公営・民営によって金額が大きく異なる。
- マイクロバス代: 火葬場までの移動に使用する場合。
- 会葬礼状代: 挨拶状を作成する費用。
「セットプランに〇〇万円と書いてあったのに、最終的な請求額が倍以上になった」という話は決して珍しいことではない。
【注意すべきポイント】
- 見積書を複数社から取る: 複数の葬儀社から見積もりを取り、内訳を比較することで、適正価格が見えてくる。
- 「どこまでがプラン内か」を確認: 見積書をチェックする際は、「何が含まれていて、何が別途費用になるのか」を具体的に確認しよう。
- 不要な項目は削る: 葬儀社に勧められるままにオプションを付けるのではなく、本当に必要なものだけを選ぶのが賢明だ。
まとめ:「家族葬=安い」は大きな勘違い
結論として、家族葬は、一般葬に比べて「安くなる可能性が高い」のは事実だ。
その最大の理由は、参列者への飲食費や返礼品代といった変動費が大幅に削減されるからだ。
しかし、これは「家族葬だから」ではなく、「参列者が少ないから」という理由に他ならない。
そして、単純な総費用の比較だけでなく、香典収入や事後対応にかかる費用、そして葬儀社のセットプランに含まれない費用まで含めて、総合的に検討する必要がある。
「家族葬は安いから」という理由だけで形式を決めるのではなく、「故人をどう見送りたいか」「遺族としてどのような時間を過ごしたいか」ということを第一に考え、その上で費用とのバランスを取ることが最も重要だ。
葬儀は一生に一度のこと。後悔のない選択をするためにも、事前に複数の葬儀社に相談し、納得のいくプランを見つける努力を惜しまないことが、安心して故人を送り出すための何よりの鍵となるだろう。



