認知症(にんちしょう)が心配な家族の運転を、どう考えればよいのでしょうか。
年齢だけで運転能力を決めつけることはできませんが、道に迷う、信号を見落とすなどの変化があれば、次の免許更新まで待たずに相談することが大切です。
本人の気持ちを尊重することと、危険な運転を止めることを両立させながら、車を使わない生活も準備しましょう。
この記事では、認知症と運転免許の関係、認知機能検査の位置付け、家族が相談できる窓口、運転をやめた後の移動手段を整理します。
免許手続きの対象や必要書類は個別の事情で異なるため、届いた通知と住所地の都道府県警察の案内を確認してください。
認知症と年齢による変化を混同しない
高齢であることだけが判断材料ではない
視力や体の動き、注意の向け方などは運転に関係しますが、変化の程度には個人差があります。
「高齢だから全員危険」「長年無事故だから今後も大丈夫」と、一つの理由だけで判断するのは適切ではありません。
本人の体調、病気、薬、実際の運転で起きている変化を具体的に確認する必要があります。
家族は「最近危ない」という印象だけで話すより、いつ、どこで、何が起きたかを記録しておくと相談しやすくなります。
車体の新しい傷、駐車に何度も失敗したこと、慣れた道で帰り方が分からなくなったことなど、分かる範囲で整理しましょう。
確認のために危険な運転へ同乗したり、本人を試すために運転させたりする必要はありません。
認知症と診断されたら運転を続けない
認知症と診断された場合、運転免許の取消しや効力の停止の対象になります。
医師の診断と公安委員会(こうあんいいんかい)の行政手続きは別ですが、免許証が手元にあることを理由に、そのまま運転を続けてよいと考えないでください。
主治医と警察の安全運転相談窓口へ連絡し、必要な対応を確認します。
これは七十五歳以上だけの問題ではありません。
七十五歳未満でも、更新まで期間が残っていても、認知症の診断や運転上の不安があれば相談が必要です。
「近所だけ」「家族が隣に乗るから」といった条件を付けても、運転の安全が保証されるわけではありません。
認知機能検査と医師の診断の違い
七十五歳以上の更新では認知機能検査などが必要
更新期間が満了する日の年齢が七十五歳以上の方は、原則として更新に際し認知機能検査などを受けます。
警察から届く通知に従い、会場や予約方法を確認してください。
所定の医師の診断書などを提出した場合に検査が免除される制度もあるため、自己判断で予約や書類提出を省略しないようにします。
検査は記憶力や時間の感覚などを簡易な方法で確かめるもので、結果は「認知症のおそれがある」「認知症のおそれがない」という区分で示されます。
この検査だけで医学的な認知症の診断をするものではありません。
以前の制度について書かれた記事や、古い判定区分を現在の手続きと取り違えないようにしましょう。
「おそれがある」という結果だけで確定診断にはならない
「認知症のおそれがある」と判定された場合は、警察からの連絡に従い、臨時適性検査や診断書の提出などにより医師の診断を受けることになります。
認知症と診断された場合は、聴聞などの手続きを経て免許の取消しや効力の停止につながります。
結果を受け取っただけで放置せず、通知の期限を確認してください。
一方、「おそれがない」という結果も、これからの運転すべてについて安全を保証するものではありません。
検査後に道迷いや操作の混乱が出た場合、次の更新を待たずに医師や安全運転相談窓口へ相談しましょう。
受検対策で答えを覚えることと、日常の運転上の問題を解決することは別です。
運転技能検査は別の検査
七十五歳以上で一定の違反歴があり、普通自動車を運転できる免許を持つ方などには、更新時の運転技能検査が必要となる制度があります。
これは実際に車を運転して技能を確認するもので、認知機能検査とは目的が異なります。
対象となる違反歴の期間や手続きは、更新の通知や警察の案内で確認します。
この制度は二〇二二年五月に施行済みです。
「今後導入される予定」とする古い説明には注意してください。
技能検査を受けたことをもって、医師の診断が不要になったり、認知症でも運転できたりするわけではありません。
必要な講習や検査は、人によって組み合わせが異なります。
運転が心配なときに相談する場所
安全運転相談ダイヤル「#8080」
警察の安全運転相談窓口は、運転に不安がある本人だけでなく、家族も利用できます。
全国共通の「#8080」に電話すると、発信場所を管轄する都道府県警察の窓口につながります。
原則として平日の執務時間内の受付で、通話料は利用者負担です。
つながらない場合は、都道府県警察が案内する窓口へ直接連絡します。
相談前には、本人の年齢、免許更新の時期、診断の有無、心配な運転の具体例、今も車を使っているかを整理しておくと説明しやすくなります。
家族だけで説得できない場合も、その状況を伝えてください。
相談しただけで必ず同じ処分になるのではなく、個別の状況に応じて対応が検討されます。
主治医には運転していることを伝える
受診時には、本人が車を運転していることと、運転中や日常生活で起きた変化を伝えましょう。
短い診察だけでは分かりにくいこともあるため、家族のメモが役立ちます。
薬の変更後に眠気やふらつきが出た場合なども、自己判断で薬を中止せず相談してください。
もの忘れの原因が認知症かどうかを家庭だけで決める必要はありません。
体調や薬など別の原因が関係する場合もあり、医療機関で評価を受けることが大切です。
ただし、原因が分からない間も、危険がある状態で運転を続けることは避け、安全な移動手段を用意します。
本人と話すときは生活上の不安も聞く
運転をやめることは、生活や役割の変化でもある
車は単なる移動手段ではなく、買い物、通院、仕事、家族の送迎などを支えていることがあります。
本人にとっては、運転をやめることが自分の役割や自由を失うように感じられるかもしれません。
「もう年だから」と結論だけを伝えるより、車がなくなると何に困るかを具体的に聞きましょう。
家族は、過去の運転経験を否定せず、「帰り道が分からなくなったことが心配」「一緒に相談したい」と、事実と自分の気持ちを分けて伝えます。
言い争いが続く場合は、家族だけで結論を出そうとせず、主治医や警察、支援者に相談してください。
本人の前で大人数が一斉に責めるような形は避けます。
緊急性があるときは安全確保を優先する
強い混乱があるまま今から車を動かそうとしているなど、差し迫った危険がある場合は、長い説得より安全確保を優先します。
家族だけで体を張って車を止めようとせず、状況に応じて警察へ助けを求めてください。
#8080は緊急通報の窓口ではなく、目の前の危険には一一〇番など適切な緊急連絡を使います。
落ち着いているときには、鍵や車の管理をどうするか、家族と支援者で相談しておきます。
免許証を見えなくしただけでは車自体は動かせるため、それだけで安心しないようにしましょう。
バッテリーを故障させるなどの方法を一般的な解決策として勧めず、安全を保つ具体策を専門の窓口と考えます。
車を使わない生活を先に具体化する
通院・買い物・楽しみごとの移動を分けて考える
運転をやめた後に「家族が何とかする」とだけ約束すると、一人に負担が集中することがあります。
病院、スーパー、趣味の会など行き先を書き出し、頻度、曜日、費用、付き添いの必要性を確認しましょう。
通院にはタクシー、日常の買い物には配達など、用事ごとに方法を組み合わせられます。
バスや鉄道を使う場合は、最寄りの停留所まで歩けるか、乗り換えが分かるか、待ち時間に休めるかも確かめます。
運行本数や最終便だけでなく、雨の日や体調が悪い日の代替手段も考えてください。
スマートフォンの予約が難しい方には、電話予約など利用できる方法があるかを確認します。
地域の支援と実際の利用条件を調べる
自治体の移動支援、地域の交通サービス、買い物支援などは、地域や本人の状態によって利用条件が異なります。
高齢だから誰でも無料になる、介護保険で必ず送迎してもらえる、と考えず、市区町村や地域包括支援センターに相談しましょう。
予約、対象地域、利用回数、付き添いの条件を確認します。
車の維持費と新しい移動費を比べるときは、税金や保険、駐車場代だけでなく、家族の送迎時間も考えます。
ただし、費用だけで本人を説得しようとせず、外出や人との交流を続けられることも大切にしてください。
返納後に閉じこもらないよう、楽しみの予定も残していきます。
自主返納と運転経歴証明書の注意点
自主返納は、本人の申請によって運転免許を取り消す手続きです。
行政処分中の方や処分の基準に該当する方など、利用できない場合もあるため、窓口に確認してください。
家族が本人の意思確認をせず、代理で自由に手続きできるものとは考えないようにします。
自主返納後などには、要件を満たせば運転経歴証明書を申請できます。
これは本人確認に使う書類で、運転を認める免許ではありません。
申請期限や交付方法、必要書類を確認し、本人確認書類が必要になる場面に備えましょう。
割引などの支援も、年齢、居住地、証明書の提示といった条件が地域や事業者ごとに異なります。
サポカーは認知症の人の運転を認める制度ではない
衝突被害軽減ブレーキなどは運転を支援する装置であり、すべての事故を防ぐものではありません。
周囲の確認や操作を運転者が行うことが前提で、作動する条件にも限界があります。
認知症と診断された方が「サポカーなら運転を続けられる」と考えるのは誤りです。
サポートカー限定免許の制度も、本人の運転能力や病状にかかわらず運転を認めるものではありません。
対象車両や免許の条件は警察の案内で確認してください。
車を買い替える前に、まず運転そのものに不安があることを医師や安全運転相談窓口へ伝え、必要な評価と対応につながることが大切です。
安全と本人の暮らしを一緒に支える
運転の問題は、家族が勝つか本人が譲るかという話ではありません。
気になる変化を記録し、医師と警察へ相談しながら、危険を避けることと生活を続ける方法を同時に考えましょう。
認知症の診断がある場合は運転を続けず、相談や手続きの場へ行くときも、本人が運転しない移動手段を手配してください。
受診先や準備については、認知症が心配なときの受診先は?検査の流れと受診前の準備で紹介しています。
認知症の全体像は、知っておきたい認知症の基礎知識も参考にしてください。



