東京「死後のインフラ」危機〜全国平均の10倍に達する火葬料金と、外資による支配

葬儀・仏事

1. 異常な高騰、東京の火葬料金が示す「死後格差」の現実

日本の首都、東京都において、死後のインフラとも呼ぶべき火葬サービスが、かつてない高騰を続けている。
特に東京23区内での火葬料金は、今や全国平均と比べても異常な水準に達している。
一般的に、地方自治体が運営する公営火葬場での料金が数千円から数万円で推移するのに対し、東京23区の主要な民間火葬場では、住民であっても平気で8万円、9万円といった高額な費用が請求される。
これは、住民外の料金で公営火葬場を利用した場合の数倍、全国平均と比べると平易に10倍近い差となることもある。

この料金高騰の背景には、単なる物価上昇や人件費の高騰という範疇を超えた、非常に構造的かつ資本的な問題が横たわっているのだ。

2. 「寡占」という名の市場支配〜東京博善の絶対的影響力

東京都心部の火葬料金が高い最大の理由は、火葬場運営が「東京博善株式会社」という一民間企業に著しく集中し、事実上の寡占状態にあることだ。

東京23区には公営・民営合わせて十数箇所の火葬場が存在するが、利用頻度が高く、都心に立地する主要な火葬場(例:桐ヶ谷斎場、町屋斎場、四ツ木斎場、落合斎場など)の多くを、この東京博善が運営している。
その市場占有率は、実に70%近くに達するといわれている。

市場経済において、競争相手が少ない寡占状態は、事業者が自由に価格を決定しやすい状況を生み出す。
特に火葬というサービスは、その性質上、利用者が冷静に価格競争を比較検討し、遠方の施設を選ぶことが極めて難しい。
大切な家族を亡くした悲嘆の最中、自宅や病院からのアクセス、葬儀社との連携、そして何よりも「火葬待ち」を避ける必要性から、提示された料金を受け入れざるを得ないのが現実だ。

東京博善はこの絶対的な優位性を背景に、近年、短期間で複数回にわたる大幅な料金値上げを断行してきた。
2020年頃には5万円台であった料金が、コロナ禍を経て7万円台に、そして直近では9万円台へと急騰している。
値上げの理由としては、「設備の老朽化による維持管理費用」「燃料費の高騰」などが挙げられているが、その収支の透明性は極めて低いと言わざるを得ない。

3. 外資介入という新たな問題——日本の「死」が利益の対象となる

さらに深刻な問題を拍車をかけているのが、東京博善の親会社、廣済堂ホールディングスに対する外資、特に中国系投資ファンドの資本介入である。

廣済堂は、印刷・情報事業だけでなく、葬祭関連事業も手広く展開しており、東京博善はその中核を担う。
この親会社に対し、近年、海外資本が大量の株式を取得し、実質的な経営権、あるいは価格決定に対する強い影響力を持つに至っているとされる。

外資ファンドの目的は、当然ながら「利益の最大化」である。
火葬場という都市の必須インフラであり、地域独占性が高いビジネスは、極めて安定した高収益を見込める。
行政による価格規制がない現状では、ファンド側からすれば、需給バランスが崩壊している東京市場において、料金を引き上げることが最も容易かつ確実な収益向上策となる。
日本の「死」という最も神聖で公共性の高い行為が、グローバル資本の飽くなき利益追求の対象となっている実態は、多くの都民にとって受け入れがたい現実である。

4. 火葬難民の発生と「火葬待ち」の経済的負担

この寡占と高騰がもたらす直接的な影響が、「火葬難民」問題と「火葬待ち」の長期化である。

民間料金があまりに高額であるため、少しでも安い公営火葬場に需要が集中する。
東京23区内には「臨海斎場」などの公営施設があるが、これらは特定の区民(港区、品川区、目黒区、大田区、世田谷区)の住民優先となっており、利用可能な区民でさえ予約が殺到し、数日〜1週間の「火葬待ち」が常態化している。

この「火葬待ち」は、遺族に新たな経済的負担を強いることになる。
火葬までの間、遺体はドライアイスや冷却設備を備えた安置施設に預けられる必要があるが、
その安置料は一日あたり1万円から2万円程度かかることが一般的だ。
火葬まで5日待てば、それだけで5万円から10万円の追加費用が発生する。
料金高騰に加え、この安置料も合算されることで、東京での葬儀費用はさらに高額化していくのである。

5. 都市インフラの脆弱性

火葬場不足は、この都市インフラの脆弱性の一端として捉えることができる。
都心への人口一極集中に加え、高齢化の進展は死亡者数を増加させ続けている。
その一方で、火葬場という施設は、その性質上、新規建設に対する地域住民の反対運動(嫌悪施設問題)が極めて強く、新規供給が事実上不可能に近い。
既存施設に依存するしかない構造が、高騰と混雑という二重苦を生んでいるのだ。

都市の生活インフラが、経済成長や人口動態の変化に対応しきれていない現実が、火葬料金という形で遺族に重くのしかかっているのである。

6. 東京23区の火葬代高騰に対抗する選択肢〜「越境火葬」の可能性

このような異常な料金水準と長期の待機期間を前に、近年、遺族や葬儀業界の間で現実的な対抗策として浮上しているのが、「越境火葬」である。

すなわち、東京都外の、比較的料金が安価で待ち時間も短いエリアの火葬場を利用するという選択だ。
具体的には、隣接する埼玉県、千葉県、神奈川県といった近隣県の公営火葬場を利用することが検討される。

例えば、東京都民が都外の公営火葬場を利用する場合、住民ではないため割増料金(非住民料金)が適用される。
しかし、仮に非住民料金が設定されていたとしても、その料金が東京都内の民間火葬場の住民料金よりも大幅に安いケースが多々存在するのだ。

そして、この「越境火葬」に必要な費用として、遺体を都外まで搬送するための霊柩車代が発生する。
この霊柩車代は距離によって変動するが、通常、数万円程度の追加費用で済むことが多い。

具体的な試算を行うと、以下のようになる。

東京都内民間火葬場(住民火葬料金)90,000円
近隣県公営火葬場(非住民火葬料金)50,000円
その差額 -40,000円 
霊柩車代(都外への搬送費)+30,000円
差引 合計-10,000円

この試算は一例だが、都外の非住民料金が都内の住民料金より安価であれば、霊柩車代を加味してもトータル費用が安くなる、
さらに、都外で火葬することで「火葬待ち」が解消されれば、安置料の数日分(数万円)がまるまる節約できるため、最終的な経済合理性は「越境火葬」の方が高いと結論づけられる場合が多い。

7. まとめ:行政による規制と透明性の確保が急務

東京都の火葬料金高騰は、単なる物価の問題ではない。
それは、都市インフラの寡占化、外資資本の介入、行政による価格規制の不在、そして都市機能の限界が複合的に絡み合った結果である。

「死」という誰にでも等しく訪れるプロセスが、住む場所と時期によって経済的な格差を生む「死後格差」を生み出している。

この問題を解決するためには、既存火葬場に対する行政による公共料金としての価格規制の導入、そして運営企業の収支の透明性確保が不可欠である。さらに、公営火葬場の利用枠拡大や、近隣自治体との広域連携を強化することで、都民が経済合理性をもって火葬サービスを利用できる環境を整備する必要がある。

故人を悼む遺族の悲しみに、金銭的な負担を重ねてはならない。
小池都知事も最近この問題に言及しているが、東京都は、一刻も早くこの異常な「死後のインフラ危機」を解決するべきである。

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