身寄りのない人の遺骨はどこへ行くのか? 「無縁仏」の定義と、自治体による公的供養の現実

葬儀・仏事

現代社会において、「おひとりさま」の増加や核家族化の進行により、身寄りのないまま亡くなる人の数は増加の一途を辿っている。
彼らが残した遺骨は、死後、どのように扱われ、最終的にどこへ行き着くのだろうか。

結論から言えば、身寄りのない人の遺骨は、「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」と「行旅病人及行旅死亡人取扱法」に基づき、自治体(市区町村)によって公的に管理され、最終的に合葬墓(ごうそうぼ)などで永代供養される。
彼らはしばしば「無縁仏(むえんぼとけ)」と呼ばれるが、これは法律上の正式名称ではなく、特定の宗教的・慣習的な状態を指す言葉である。

身寄りのない人の遺骨が辿る具体的なプロセス、自治体が負う義務、そして公的供養の抱える問題点について、具体的な事例を交えて記述する。

1. 「身寄りがない」とはどういう状態か?

法律や行政が「身寄りのない人」を定義する場合、それは単に家族がいないということではない。
行政が身元調査を行い、故人の死亡、火葬、埋葬の手続きを行う「扶養義務者」あるいは「民法上の親族」が発見できない、またはその責務を果たす意思がない状態を指す。

具体的には、以下の3つのケースに分類される。

  1. 行旅死亡人(ぎょうりょしぼうにん):身元不明のまま行き倒れなどで死亡した人。
  2. 身元判明後の遺体:身元は判明しているが、戸籍や住民票を基にした調査によっても、民法上の扶養義務者(配偶者、直系血族、兄弟姉妹など)が見つからない、または発見されても拒否された場合。
  3. 生活保護受給者:生活保護法第29条に基づき、自治体が葬祭費用を負担し、扶養義務者もいない場合。

これらの場合、故人の遺体や遺骨の管理は、「行旅病人及行旅死亡人取扱法」に基づき、発見地の市町村長(自治体)が最終的な責任を負うことになる。

2. 遺体処理と遺骨保管の正しい流れ

身寄りのない人が亡くなると、その後の遺体の取り扱いは以下の流れで進められる。
ここで、ご遺体は速やかに火葬される。

2-1. 遺体の発見から火葬の実施まで(数日〜数週間)

ご遺体が発見され、身寄りが確認できない場合、行政は公衆衛生の観点から速やかに対応する。

  • 警察による親族捜索:警察は身元特定後、民法上の扶養義務者を緊急に捜索する。この調査は数日〜数週間かかることが多いが、この間、ご遺体は病院の霊安室や行政が契約する保冷施設に安置される。
  • 火葬の実施:親族が発見できないか、引き取りを拒否した場合、自治体は火葬を実施する。ご遺体を長期間そのまま放置することはできないため、火葬は手続き完了後、速やかに行われる。葬儀は行わず、火葬のみが簡素に執り行われるのが一般的だ。この費用は自治体が一時的に負担する

2-2. 遺骨の「公告」と一時保管期間(数ヶ月〜数年)

火葬が済むと、骨壺に収められた遺骨が自治体によって保管される。
この段階で、親族捜索のための公告が実施される。

  • 公告の実施:自治体は遺骨の引き取り手を募るため、官報や役所の掲示板で一定期間(通常、数ヶ月〜1年程度)公告を行う。
  • 遺骨の一時保管:自治体は、公告期間中およびその後も、親族が将来現れる可能性に備え、公営火葬場や納骨堂などに併設された施設で遺骨を数年間(例:5年間など)一時的に保管する。この期間中であれば、親族が名乗り出た場合、遺骨は引き渡される。

3. 公的供養の最終地点:合葬墓への埋葬

一時保管期間を経てもなお遺骨の引き取り手がいなかった場合、自治体は最終的な措置として永代供養を行う。
これが「無縁仏」の公的な供養となる。

3-1. 合葬墓(合同墓)への埋葬

遺骨は、自治体が管理する公営霊園や納骨堂内にある「合葬墓(ごうそうぼ)」または「無縁者合祀墓(ごうしぼ)」に、他の身寄りのない人々の遺骨と一緒に埋葬される。

この合葬墓は、骨壺から遺骨を取り出し、他の遺骨と混ぜて土に還す形式が一般的だ。
一度合葬されると、個人の遺骨を取り出すことは不可能となる。

3-2. 自治体による慰霊祭の実施

東京都内のほとんどの区をはじめ、多くの自治体では、合葬墓への埋葬後、年に一度(お盆や彼岸の時期など)、遺族のいない人々の霊を慰めるための合同慰霊祭(無縁者慰霊祭)を執り行う。
これは、自治体職員や関連団体の代表者が参列するもので、宗教色を極力抑えた形で行われることが多い。

【具体例:大都市圏の公的処理の慣行】

東京都内の多くの区や、大阪市、名古屋市といった大都市圏の自治体では、毎年、身寄りのない故人の遺骨をまとめて公営霊園の合葬墓に埋葬する「無縁者合祀」を行っている。
これらの合葬墓は、毎年数十体から数百体の遺骨を受け入れており、そこには、路上生活者や病院で最期を迎えた独居老人など、様々な背景を持つ人々の遺骨が納められている。
親族がいないため、区の予算で火葬・埋葬費用が賄われ、区の担当者が責任をもって手続きを進めるのだ。

4. 費用はどうなるのか? 債権と実費の回収

自治体が遺体や遺骨の処理にかかる費用を負担するわけだが、これは必ずしも「税金で賄われる」と決めつけられるものではない。

4-1. 遺産の調査と債権の回収

行旅病人及行旅死亡人取扱法では、自治体は「費用を被救護者の遺留の金銭又は物品をもって支弁する」*と定めている。

すなわち、自治体は遺骨の処理にかかった費用(火葬費、埋葬費など)を、故人の残した遺産(金銭、預貯金、不動産など)から優先的に回収する権利を持つ。
故人に遺産があった場合、自治体はこれを調査し、債権者として費用を充当する。

4-2. 遺産がない場合

故人に遺産が全くなかったり、遺産で費用を賄いきれない場合、その不足分が公費(税金)で賄われることになる。遺骨の処理費用は、最終的に自治体の「行旅死亡人等取扱費」として計上される。

5. 「無縁仏」の問題点と現代の供養の多様化

身寄りのない人の遺骨処理は公的インフラとして機能しているが、いくつかの課題も抱えている。

5-1. 尊厳ある供養のあり方

自治体による合葬墓での供養は、公衆衛生上の問題を解決し、遺骨の行き場を確保するという点では有効だ。
しかし、個人の尊厳という観点からは議論の余地がある。

親族が現れないとはいえ、遺骨は他の遺骨と混ぜられてしまうため、「個」としての供養や弔いの記録が失われる
近年では、公的供養であっても、生前の本人の意向を可能な限り尊重すべきではないかという議論も生まれている。

5-2. 埋葬前の「火葬待ち」問題

大都市圏では、身寄りのない人の遺骨処理が増加しており、行政による火葬の手続きや一時保管のスペースが逼迫することがある。

また、遺体は病院や警察から引き取らなければならないが、親族調査や行政手続きに時間がかかり、遺体が行政の霊安室や外部の保冷施設で長期間「火葬待ち」となる事態も発生している。
これは、遺族のいるケースの火葬待ち問題とは異なる、行政システム上の課題である。

6. まとめ:誰もが「無縁」にならないために

身寄りのない人の遺骨は、法律に基づき、最終的に自治体の手で合葬墓に埋葬される。
これは、現代社会における公的なセーフティネットと言えるだろう。

しかし、「無縁」という状態は、単に家族がいないことではなく、生前の準備がないことに起因する場合も多い。
近年では、身寄りのない人が生前に自治体の社会福祉協議会や「死後事務委任契約」などを利用し、自身の葬儀や埋葬の方法、そしてその費用を明確に定めておくケースが増えている。

誰もが尊厳をもって最期を迎え、遺骨の行方が確定される社会を目指すには、公的システムの充実はもちろん、私たち一人ひとりが「終活」を通じて、自らの死後のプロセスを明確化しておくことが重要である。
これにより、自身の遺骨が「無縁仏」として行政処理されるのではなく、望む形での弔いを受けられる道が開かれるのだ。

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