生前葬という選択:自分の人生を締めくくる、もう一つの方法

葬儀・仏事

「自分の葬式は、生きているうちにやりたい」

そう考える人が、近年増えている。
終活という言葉が定着し、人生の終わり方を自分自身で決めることへの関心が高まる中、生前葬は、新しい選択肢として注目を集めている。

しかし、「生前葬」と聞いても、具体的に何をどうするのか、何のために行うのか、いまいちピンとこない人も多いだろう。
生前葬の具体的な内容から、そのメリット・デメリット、そして実際に生前葬を行った人々の例を交え、その意味と価値について掘り下げていく。

生前葬とは何か?

生前葬とは、その名の通り、故人が生きているうちに行う葬儀のことだ。
一般的な葬儀が故人の死後に行われ、遺族が喪主を務めるのに対し、生前葬は本人が健在なうちに、自らが主催者となり、友人や知人を招いて行う。

形式は決まっていない。
宗教儀式を伴う厳粛なものではなく、ホテルやレストランで行うパーティ形式が一般的だ。
故人ではなく「主催者」として、ゲストを迎え、食事や歓談を楽しむ。自分の人生を振り返り、これまでの感謝を伝える場として企画されることが多い。

生前葬は、従来の葬儀とは全く異なる目的を持つ。
従来の葬儀は、故人の冥福を祈り、遺族が故人を弔う儀式である。
一方、生前葬は、「人生の集大成として、関わったすべての人に感謝を伝える場」であり、「自身の死後、遺族に負担をかけたくない」という思いから行われる。

生前葬のメリット:人生を自らの手で締めくくる

生前葬を選ぶことには、様々なメリットがある。
それは、単なる儀式を超え、人生そのものにポジティブな影響を与える可能性を秘めている。

1. 感謝の気持ちを直接伝えられる

これが生前葬の最大のメリットだろう。
通常の葬儀では、故人が参列者に直接「ありがとう」を伝えることはできない。
しかし、生前葬では、一人ひとりの顔を見て、直接感謝の言葉を伝えることができる。

具体的な例: ある男性は、長年勤めた会社を定年退職後、生前葬を行った。彼は、仕事を通じて関わったすべての人に感謝を伝えたかったのだ。会場には、元上司や同僚、取引先の人々が集まり、思い出話に花を咲かせた。彼は、スピーチで「皆さんがいなければ、今の私はいませんでした。本当にありがとうございました」と語り、一人ひとりと握手を交わした。この男性は、この生前葬を通じて、自分の人生が多くの人々に支えられていたことを再認識し、心からの満足感を得たという。

2. 遺族の負担を軽減できる

一般的な葬儀は、遺族にとって大きな負担となる。
精神的な悲しみに加え、葬儀の準備、費用の捻出、参列者への対応など、多岐にわたる作業をこなさなければならない。

生前葬を行うことで、これらの負担を大幅に軽減できる。
葬儀の費用は自分で支払い、内容も自分で決めることができるため、遺族は後顧の憂いなく、故人との別れに向き合うことができる。

3. まだ元気なうちに、大切な人に会える

現代は人生100年時代と言われ、長寿化が進んでいる。そ
れに伴い、会社を定年退職したり、住居が変わったりすることで、若い頃は頻繁に会っていた友人や知人と疎遠になってしまうことが多い。

通常の葬儀は、故人が亡くなった後に行われるため、連絡先が分からなくなっていたり、すでに亡くなっていたりする人もいる。
しかし、生前葬であれば、まだ元気で交友関係があるうちに、昔の仲間や社会で共に過ごした人々と再会できる。
自分の元気な姿を直接見せ、昔話に花を咲かせ、心からのお礼を伝えることができるのだ。
これは、故人の死後にでは決して叶えられない、生前葬ならではの大きな価値と言える。

具体的な例: ある女性は、生前葬の準備を通じて、疎遠になっていた旧友に連絡を取った。学生時代の友人と再会し、昔話に花を咲かせる中で、彼女は「あの頃の自分があったから、今の自分がある」と気づき、人生に対する感謝の気持ちが芽生えたという。生前葬は、自身の死を意識するだけでなく、改めて「今」を大切に生きるきっかけにもなるのだ。

生前葬のデメリット:考慮すべき課題とリスク

生前葬には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットや課題も存在する。これらを十分に理解した上で、慎重に検討する必要がある。

1. 費用がかかる

生前葬は、一般的な葬儀と同様に、会場費、飲食代、招待状、引出物など、様々な費用がかかる。
その金額は、規模や内容によって大きく異なるが、数百万円に達することもある。

しかし、これは「死後に行う葬儀」と二重に費用がかかる可能性があるという問題でもある。
生前葬を行ったとしても、その後に亡くなった際、遺族は改めて葬儀を行わなければならない場合がある。
故人を火葬するだけでも費用がかかるし、近しい親族や友人のためにも、小規模な「お別れ会」を開く必要があるかもしれない。
生前葬を「最後の別れ」とすることで、遺族が後で悩むことがないよう、明確にしておく必要がある。

2. 参列者の反応が読めない

生前葬という形式は、まだ広く社会に浸透しているとは言えない。
そのため、招待された側がどう受け止めていいかわからないというケースも少なくない。
「お祝い事なのか、お別れなのか」「どんな服装で行けばいいのか」など、戸惑いが生じる可能性がある。

具体的な例: ある男性は、生前葬の招待状を送ったところ、友人から「まだ生きてるのになぜ葬式をするんだ?」と困惑した連絡が来たという。また、別のケースでは、生前葬に参列した人が、後日「あの人はもうすぐ死ぬのか」と噂を立てられることもあったそうだ。

生前葬を行う際は、その意図を丁寧に説明し、招待者への配慮を忘れてはならない。

3. 精神的な負担が生じる可能性がある

生前葬は、自分の死を具体的に意識する機会となる。
それは、人によっては精神的な負担となる可能性がある。
また、招待状を送っても、何らかの理由で来てくれない人がいるかもしれない。
その時、寂しさや失望を感じてしまうリスクも存在する。

「人生の集大成」として華やかに締めくくりたいと意気込んで準備しても、予期せぬ反応や結果に、心身ともに疲弊してしまうこともあるのだ。

まとめ:生前葬は「自分らしさ」を表現する場

生前葬は、単なる葬儀の代替品ではない。
それは、自分の人生を肯定し、関わったすべての人に感謝を伝える、「自分らしさ」を表現する場だ。

メリットとデメリットを十分に理解した上で、自分はどのような人生を歩んできたのか、そしてこれからどのように生きたいのか、改めて考えてみることが大切である。

生前葬は、誰にでもできるわけではない。
しかし、そのコンセプトは、多くの人々に「人生の終わり方」を考えるきっかけを与えてくれるだろう。

自分の葬儀は、生きているうちにやりたいか? それとも、家族に任せたいか?

その答えは、一人ひとりの生き方によって異なる。
そして、どちらを選んでも、その人らしい人生の締めくくり方であることに変わりはない。

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