時系列順に説明〜家族が亡くなった後にやるべき手続き

相続

家族を亡くした悲しみの中、間髪入れずに襲いかかるのが、煩雑で多岐にわたる行政・法的手続きの数々だ。
何を、いつまでに、どこに提出しなければならないのか。
この手続きを誤ると、故人の年金や保険金の受け取りが遅れたり、税金面で不利益を被ったりする可能性がある。

家族が亡くなった直後から四十九日法要、そして相続税申告までの間にやるべき手続きを、具体的な期限提出先を明確に示しながら、時系列順のロードマップとして解説する。
この手順に従って冷静に進めることで、手続き漏れを防ぎ、大切な人を送る準備に集中できるはずだ。

1. 死亡直後(24時間以内):まずやるべき「死の公的証明」

故人が亡くなった直後、悲しみに暮れる間もなく行うべき最も緊急性の高い手続きである。
これは、故人の死を公的に証明し、後の全ての手続きの出発点となる。

1-1. 医師による死亡診断と書類の受領

  • 手続き: 病院や自宅で看取った医師に「死亡診断書」(または「死体検案書」)を作成してもらう。
  • 依頼先: 病院または医師
  • 期限: 診断後、速やかに受領

死亡診断書は、死亡届と一体になっていることが多く、役所への提出、火葬許可、生命保険の請求、相続手続きなど、その後の全ての手続きでコピーが必要になる最重要書類だ。
念のため、役所に提出する前に10枚以上コピーを取っておくべきだ。

1-2. 死亡届の提出と火葬許可証の取得

  • 手続き: 死亡診断書の右半分が「死亡届」になっており、必要事項を記入し、市区町村役場に提出する。
  • 提出先: 故人の本籍地、または死亡地、または届出人の所在地の市区町村役場
  • 期限死亡を知った日を含めて7日以内(海外で亡くなった場合は3ヶ月以内)
  • 発行される書類: 死亡届の提出と同時に、「火葬許可証」が発行される。この許可証がないと火葬はできない。通常、葬儀社が代行してくれることが多い。

2. 死亡後1週間〜10日(葬儀前後):葬儀の準備と埋葬

死亡届の提出後、葬儀と同時に進められる主な手続きである。
これらの手続きは、通常、依頼した葬儀社がサポートしてくれる。

2-1. 葬儀・告別式の実施

  • 手続き: 死亡届提出後、火葬許可証に基づき葬儀・告別式を行い、火葬する。
  • 埋葬許可証: 火葬後、火葬場で「埋葬許可証」が交付される。これは骨壺とともに受け取る重要書類であり、お墓に納骨する際に必ず必要となる。

2-2. 世帯主の変更届(故人が世帯主の場合)

  • 手続き: 故人が世帯主であった場合、世帯主の変更手続きが必要になる。
  • 提出先: 市区町村役場
  • 期限死亡日から14日以内
  • 対象: 故人以外の家族が2人以上いる場合に必要。

2-3. 公的医療保険資格喪失届

  • 手続き: 故人の加入していた公的医療保険の資格喪失手続きを行う。
  • 提出先:
    • 国民健康保険: 市区町村役場
    • 協会けんぽ/健康保険組合: 勤務先または健康保険組合
  • 期限死亡日から14日以内
  • 返却: 故人の健康保険証を返却する。

3. 死亡後1ヶ月〜3ヶ月:お金と年金の手続き(最も多岐にわたる期間)

この期間は、公的な年金・保険金関連の手続きが集中する。
手続き漏れがないよう、確認リストを作成して進めるべきである。

3-1. 遺族年金・死亡一時金の手続き

故人が加入していた年金の種類によって、受給できる年金や手当が異なる。

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3-2. 未支給年金請求

故人が生前に受け取るはずだった年金が残っている場合、遺族が請求できる。

  • 手続き: 未支給年金請求書を提出する。
  • 提出先: 年金事務所または市区町村役場
  • 期限死亡日から5年以内
  • 注意: 請求できるのは、故人と生計を共にしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順である。

3-3. 生命保険金の請求

  • 手続き: 故人が加入していた生命保険会社に連絡し、請求書類を取り寄せる。
  • 提出先: 各保険会社
  • 期限一般的に死亡日から3年以内(時効に注意)
  • 必要書類: 死亡診断書のコピー、保険証券、受取人の本人確認書類など。

3-4. 預貯金口座の凍結と確認

金融機関に死亡の事実を伝えると、故人の全ての口座が凍結され、原則として入出金や引き落としができなくなる。

  • 手続き: 銀行に連絡し、手続きについて確認する。
  • 注意公共料金や税金などの引き落としが凍結後にできなくなるため、事前に引き落とし口座を変更しておくべきだ。
  • 引き出し: 葬儀費用など緊急の支出が必要な場合、遺産分割協議前であっても、一定額(原則150万円または預貯金残高の1/3まで)の払い戻しを受けることができるようになった。

4. 死亡後4ヶ月〜10ヶ月:相続手続きと税務申告

故人の財産を確定し、遺族間で分割し、税金を申告する、最も複雑で重要なプロセスである。

4-1. 遺言書の有無の確認と検認

  • 手続き: 遺言書があるかどうかを確認する。
  • 検認: 自宅で見つかった自筆証書遺言の場合、勝手に開封せずに、家庭裁判所で「検認」手続きを行う必要がある(公正証書遺言は不要)。
  • 提出先: 家庭裁判所
  • 期限発見後、速やかに

4-2. 相続財産・債務の調査と相続人の確定

  • 手続き: 故人の全ての財産(預貯金、不動産、有価証券など)と全ての債務(借金、ローンなど)を調査し、目録を作成する。同時に、戸籍謄本等を取得し、全ての法定相続人を確定させる。

4-3. 相続放棄または限定承認の検討

負債(借金など)が資産を上回る可能性がある場合、相続を放棄する選択肢がある。

  • 手続き: 家庭裁判所に申し立てを行う。
  • 提出先: 家庭裁判所
  • 期限自己のために相続があったことを知った日から3ヶ月以内

4-4. 所得税の準確定申告

  • 手続き: 故人の死亡した年の1月1日から死亡日までの所得を計算し、確定申告を行う。
  • 提出先: 故人の居住地を管轄する税務署
  • 期限死亡日から4ヶ月以内

4-5. 遺産分割協議と遺産分割協議書の作成

  • 手続き: 相続人全員で遺産の分け方について話し合い、合意内容を記した「遺産分割協議書」を作成する。
  • 注意: 不動産の登記や預貯金の解約手続きには、この協議書が必須となる。

4-6. 相続税の申告と納税

相続財産の合計額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納税が必要になる。

  • 手続き: 必要書類を揃え、申告書を作成する。
  • 提出先: 故人の居住地を管轄する税務署
  • 期限死亡を知った日(通常は死亡日)の翌日から10ヶ月以内
  • 重要: 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を受けるためには、税額がゼロであっても期限内の申告が必要である。

5. その後の手続き(随時):名義変更と供養

相続税申告後も、財産の名義変更や供養に関わる手続きが残る。

5-1. 不動産の名義変更(相続登記)

  • 手続き: 遺産分割協議書に基づき、不動産(土地・建物)の名義を相続人に変更する手続きを行う。
  • 提出先: 不動産の所在地を管轄する法務局
  • 注意: 相続登記は2024年4月1日から義務化された。不動産の取得を知った日から3年以内に手続きが必要である。

5-2. その他の名義変更

自動車、株式、ゴルフ会員権なども、遺産分割協議書に基づいて名義変更手続きを行う。

5-3. 四十九日法要・納骨

  • 手続き: 仏教では、故人の魂が旅を終え、仏となる節目とされる四十九日に合わせて法要を行い、納骨するのが一般的である。
  • 納骨: 納骨時には、火葬場で受け取った**「埋葬許可証」**が必要になる。

6. まとめ:手続きを乗り切るためのロードマップ

家族の死後に行うべき手続きは膨大だが、全ては「死亡届の提出」から始まり、「相続税申告」という大きな山を乗り越えれば、大枠は完了する。

手続きを円滑に進めるための最重要ポイントは、以下の3点である。

  1. 死亡診断書を多数コピーすること:すべての手続きの基本となる。
  2. 3ヶ月以内(相続放棄)、4ヶ月以内(準確定申告)、10ヶ月以内(相続税申告)という期限を絶対に見逃さないこと:これらの期限を逃すと、大きな不利益が生じる。
  3. 専門家(税理士、司法書士)を早期に活用すること:特に不動産や複雑な資産がある場合、専門家に依頼することで、悲しみの中で手続きの負担を大幅に軽減できる。

このロードマップを活用し、冷静に手続きを進めることが、故人の思いを継ぎ、残された家族が生活を再建する第一歩となるだろう。

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