数珠の正しい持ち方、なぜ多くの人が知らないのか?〜その背景と宗派ごとの違いを徹底解説

葬儀・仏事

葬儀や法事の場で、多くの人が手にしている数珠。
しかし、その正しい持ち方や扱い方について、自信を持って答えられる人は意外と少ない。
なんとなく見よう見まねで持っている人がほとんどだろう。
この現象の背景には、現代社会の生活様式の変化がある。

数珠の正しい持ち方を知らない人が多い理由を考察し、その上で宗派ごとの違いを徹底的に解説する。
これは単なるマナーではなく、数珠が持つ深い意味を理解し、故人や仏様への敬意を示すための大切な一歩となる。

なぜ、数珠の正しい持ち方を知らない人が増えたのか?

かつて、数珠は仏壇に常に置いてあり、日常的に仏様へ手を合わせる習慣があったため、自然と作法が身につくものだった。
家庭内で仏事を執り行うことが当たり前だった時代、子どもたちは親や祖父母の姿を見て、数珠の扱い方を学んだ。

しかし、現代では核家族化が進み、仏壇のない家庭も増えた。
お盆や法事も簡略化され、数珠に触れる機会は極端に減ってしまった。
これが、数珠の正しい持ち方が「当たり前」ではなくなった最大の理由だろう。

さらに、葬儀や法事の場で、数珠の持ち方をわざわざ教える人も少ない。
多くの人は周りの人の真似をするが、その真似が間違っていることもあるため、間違った作法が広まってしまうという悪循環も生まれている。

数珠が持つ、深い意味と歴史

数珠は単なる仏具ではない。
そこには、深い意味が込められている。

  • 煩悩の数: 数珠の珠は、人間の煩悩の数と同じ108個が基本だ。数珠を繰るたびに人間の煩悩が一つずつ消滅していくという意味を持つ。
  • 仏様との繋がり: 数珠の輪は「仏様、ご先祖様、そして私たち」という繋がりを象徴している。数珠を手にすることは、仏様と心を通わせ、故人との絆を再確認する行為とされている。
  • お守り: 数珠には、魔除けやお守りとしての役割もある。数珠を身につけることで、邪気を払い、心を清めることができると考えられている。

数珠の起源は、古代インドのバラモン教にあるとされる。
紀元前5世紀頃、修行者が経典の数を数えるために木の珠を数珠のように連ねていたのが始まりだ。
これが仏教に取り入れられ、中国を経て日本に伝わったのは奈良時代とされている。
当初は一部の僧侶しか持てなかったが、鎌倉時代以降、庶民にも広まり、現在のような形で定着した。

知っておきたい!数珠の基本ルール

宗派ごとの違いを解説する前に、まず共通する基本的なルールを押さえておこう。

  1. 左手で持つのが基本: 数珠は左手で持つのが基本だ。仏教において、左手は「仏様の清浄な世界」、右手は「私たちの汚れた世界」を象徴している。数珠を左手に持つことで、仏様の清浄な世界に近づくことができると考えられている。
  2. 合掌の際は両手で: 合掌する際には、必ず両手の親指と人差し指の間に数珠を挟み込むようにして持つ。
  3. 床に置かない: 数珠は神聖なものとされている。床や椅子の上に置くことはせず、常に大切に扱おう。
  4. 貸し借りはしない: 数珠は、その人の魂や念が宿ると考えられている。他人に貸したり借りたりすることは、基本的にしない。

これらの基本ルールを守るだけで、故人や仏様への敬意を示すことができる。

宗派ごとの数珠の持ち方、徹底解説

ここからが本題だ。数珠の持ち方は、宗派によって大きく異なる。
自分の宗派はもちろん、参列する葬儀の宗派も事前に確認しておくと安心だ。

1. 浄土宗

浄土宗の数珠は、二つの輪が連なったような特徴的な形をしている。これを「二連数珠」という。
房を下に垂らし、二つの輪を親指と人差し指で挟むようにして両手で合掌する。
数珠を擦り合わせて音を鳴らす「摺り合わせ念珠」という作法もある。
これは念仏を唱える際に、煩悩を振り払うという意味合いがある。

2. 浄土真宗

浄土真宗の数珠は、珠の数が108個より少ない場合が多い。
また、房が「蓮如結び」と呼ばれる独特の結び方をしているのが特徴だ。
房を下に垂らし、左手の手のひらに乗せるようにして、親指で上から軽く押さえる。
合掌する際には、両手で挟む。
浄土真宗では、阿弥陀如来の力によって救われるという「他力本願」の教えが強い。
そのため、数珠を擦り合わせるような「自力」による作法は行わない。

3. 真言宗

真言宗の数珠は、珠の数が108個と決まっており、房も長く、大きな特徴がある。
これを「本連数珠」という。
房を下に垂らし、数珠の輪を両手の中指にかけ、手のひらで挟むようにして合掌する。
念仏を唱える際に、数珠の輪を指で繰る「指繰り念珠」という作法がある。これは、真言を唱えた回数を数えるためだ。

4. 日蓮宗

日蓮宗の数珠は、珠の数が108個と決まっており、房が三つあるのが特徴だ。
房が二つある方を左手の中指にかけ、房が一つある方を右手の中指にかけて、両手で合掌する。
「南無妙法蓮華経」と題目を唱える際に、数珠の輪を指で繰る。これは、日蓮宗の教えを実践する行為とされている。

5. 曹洞宗・臨済宗

曹洞宗と臨済宗は、ともに禅宗の流れを汲む宗派だ。
数珠の持ち方も似ている。
房を下に垂らし、数珠の輪を左手で持ち、親指で軽く押さえる。
合掌する際には、両手で挟む。
禅宗では、座禅を組むことが修行の中心となる。そのため、数珠は「修行の道具」としての意味合いが強い。

宗派が分からない場合は?

もし、参列する葬儀の宗派が分からない場合は、無理に宗派に合わせた作法を行う必要はない。
その際は、略式数珠と呼ばれるどの宗派でも使える数珠を用意し、左手で持つのが無難な作法だ。

  • 略式数珠: 珠の数が108個より少ない、片手で持てる数珠。
  • 持ち方: 房を下に垂らし、左手の手のひらに乗せるようにして、親指で上から軽く押さえる。合掌する際には、両手で挟む。

この作法は、故人や仏様への敬意を払う上で、最も一般的な作法とされている。

結論:数珠は「心」を形にする道具

数珠の正しい持ち方を知らない人が多いのは、現代の生活様式と、それに伴う仏事への関わりの変化が背景にある。
しかし、数珠は単なるアクセサリーではなく、故人や仏様への敬意、そして自身の心を清めるための大切な道具だ。

宗派ごとの作法を知ることは重要だが、最も大切なのは、心を込めて合掌することだ。数珠は、その「心」を形にするための道具なのだ。

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