物忘れを年齢だけで判断しない

年齢を重ねると、人の名前がすぐに出てこないなどの物忘れが増えることがあります。
ただし、物忘れの原因は加齢だけではありません。
以前より増えた、同じ質問を繰り返す、生活で困ることが増えたと感じたら、年齢のせいと決めつけずに相談しましょう。
食事をしたこと自体を忘れるなどの変化は、認知症を疑う手がかりの一つです。
一つの出来事だけで診断はできず、症状の現れ方や進み方にも個人差があります。
この記事では、加齢による物忘れと認知症の違いの目安、受診のタイミング、日常生活でできる工夫を紹介します。
チェック項目だけで認知症の有無を自己判断することはできません。
軽度認知障害(MCI)とは
軽度認知障害(けいどにんちしょうがい、MCI)は、認知機能の低下があるものの、日常生活の自立がおおむね保たれている状態です。
加齢による物忘れが必ずMCIになるわけではありません。
MCIから認知症へ進行する人もいれば、状態を維持する人や認知機能が正常範囲に戻る人もいます。
「必ず認知症になる」「自然に治る」と決めつけず、原因の確認と定期的な診察、生活面の支援を受けることが大切です。
物忘れと認知症の見分け方と対策法

認知症では記憶だけでなく、注意力や判断力、段取りを立てる力などにも変化が現れることがあります。
以下は受診を考える手がかりです。
当てはまる項目の数だけで診断するものではありません。
物忘れの範囲が全体に及んでいないか
加齢による物忘れでは出来事の一部を忘れても、手がかりから思い出せることがあります。
一方、認知症では出来事そのものを忘れ、手がかりがあっても思い出しにくい場合があります。
例えば、昼食の献立が思い出せないことと、昼食を食べたこと自体を忘れることには違いがあります。
ただし、この例だけで認知症と決めることはできません。
ご家族は繰り返し正解を求めたり責めたりせず、不安や困りごとを聞き、いつからどんな変化があったかを記録して受診時に伝えましょう。
物忘れの自覚があるか
加齢による物忘れでは自覚があることが多く、認知症では自覚が乏しいことがあります。
ただし、認知症でも初期には物忘れを自覚して不安を感じる方がいます。
「自覚があるから認知症ではない」と判断しないでください。
同じ物を繰り返し買うなどの変化があれば、買い物メモや在庫の確認を一緒に行うなど、ご本人ができることを支える方法を考えます。
生活上の困りごとをすべて物忘れのせいにせず、体調や環境も含めて医療・介護の専門職に相談しましょう。
日常生活に支障が出ていないか
薬の管理、支払い、料理、慣れた場所への外出など、以前できていたことに支障が出ているかも大切な手がかりです。
大きな支障が出るまで待つ必要はありません。
気になる変化が続くときは、かかりつけ医やもの忘れ外来に相談しましょう。
医療機関では、生活の様子や服薬状況を聞き、必要な検査を組み合わせて原因を調べます。
認知症の診断だけで介護保険サービスが自動的に始まるわけではなく、対象条件を満たして要介護・要支援認定などの手続きを受ける必要があります。
利用できる支援は、市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談できます。
学習能力や認知機能が低下していないか
認知症では、新しい操作を覚えにくい、料理の段取りが難しい、支払いで間違いが増えるなどの変化が現れることがあります。
症状は原因となる病気や段階によって異なり、すべての方に同じ順番で起こるわけではありません。
ご本人を試すように計算や記憶の問題を繰り返すのではなく、生活の中で困っている場面を確認しましょう。
説明を一つずつにする、手順を見えるところに置くなど、本人に合う工夫を専門職と考えます。
妄想の有無
認知症の方の中には、物が見つからないときに「盗まれた」と感じるなど、妄想(もうそう)が現れる方もいます。
ただし、全員に起こる症状ではなく、「すべてを忘れたから起こる」と単純に説明できるものでもありません。
まずは不安な気持ちを聞き、言い争いや責める対応を避けます。
事実ではない内容に同意する必要はありません。
繰り返す場合や対応に困る場合は、ご家族だけで抱え込まず主治医や地域包括支援センターに相談しましょう。
意欲や行動の変化
以前楽しんでいた活動への関心が薄れる、不安が強くなる、落ち着かないなどの変化が見られることがあります。
認知症になれば必ず暴力的になる、人格が失われるということではありません。
行動の変化には、身体の不調、薬の影響、生活環境、不安や周囲との関わり方なども影響します。
「認知症だから仕方がない」と片付けず、いつ、どのような場面で困っているかを確認しましょう。
ご本人の希望やできることを尊重し、必要な支援を医療・介護の専門職と相談します。
急に様子が変わった場合は、慢性的な物忘れとは別の体調変化も考え、早めに医療機関へ相談してください。
睡眠と生活習慣病も見直す

睡眠の問題が続くときは、生活リズムや睡眠環境を見直し、必要に応じて医療機関に相談しましょう。
「寝不足だから認知症になる」と一つの原因に結び付けることはできません。
高血圧や糖尿病、運動不足などは、認知症のリスクとの関係が指摘されています。
健診や通院を通じて、生活習慣病の管理を続けることも大切です。
リスク要因との関連を示す研究は、個人の発症を予測したり、特定の生活習慣だけを原因と決めたりするものではありません。
無理な減量や自己判断での服薬変更はせず、体調に合う方法を主治医と相談しましょう。
物忘れの基本的な対策

生活習慣を整えることは健康を支え、認知機能低下のリスクを減らすことにつながる可能性があります。
ただし、必ず物忘れが改善する、認知症を防げるという方法ではありません。
鍵の定位置を決める、予定をカレンダーに書くなど、日々の困りごとを減らす工夫も取り入れましょう。
睡眠時間をしっかりと確保する
必要な睡眠時間には個人差があり、高齢者全員に同じ時間を当てはめることはできません。
厚生労働省の高齢者向け資料では、寝床にいる時間が8時間以上にならないことを目安に、休まった感覚を得られる睡眠を勧めています。
これは睡眠を無理に削るという意味ではありません。
日中は光を浴びて体を動かし、長い昼寝や寝酒、夕方以降のカフェインを控えるなど、眠りやすい習慣を整えましょう。
不眠や強い日中の眠気が続く場合は受診してください。
適度な運動を行う
運動は健康を維持するために大切な取り組みです。
散歩や体操など、体調と体力に合う活動を無理のない範囲で続けましょう。
持病や痛みがある方、転倒が心配な方は、運動の種類や量を医師などに相談してください。
一人で続けにくい場合は、ご家族や地域の活動に参加する方法もあります。
運動だけで物忘れの改善を保証できるわけではありません。
趣味や仕事を通して脳を刺激する
趣味や人との交流は、楽しみや社会とのつながりを保つ機会になります。
ご本人が好きなことを選び、負担にならない形で続けましょう。
刺激の少ない生活をしていたから認知症になった、と本人の暮らし方を責めることは適切ではありません。
例えば、園芸、読書、音楽、地域の集まり、友人との会話など、参加の方法はさまざまです。
特定のゲームや活動をすれば認知症を防げる、というものではありません。
特定の食品に偏らず、食事を整える
特定の食品を食べれば物忘れが改善する、認知症の進行を止められるとはいえません。
主食だけに偏らず、魚・肉・卵・大豆製品、野菜などを組み合わせ、必要な量を食べることを心がけましょう。
納豆やカレーなども食事の選択肢ですが、その成分を理由に認知症予防の効果を断定することはできません。
食べる量が減った、体重が落ちた、飲み込みにくいといった変化がある場合は、医師や管理栄養士に相談しましょう。
地域間の発症率の違いだけでは、特定の食品の効果は判断できません。
持病による食事制限がある場合は、その指示を優先してください。
認知症の疑いがある場合は、早期の受診を

物忘れの原因や症状の進み方は人によって異なります。
治療や生活環境の調整によって対応できることもあるため、気になる変化は早めにかかりつけ医やもの忘れ外来に相談しましょう。
受診時には、いつから何に困っているかを書いたメモや、お薬手帳を持参すると役立ちます。
治療や支援の内容は、診断と本人の生活状況に応じて検討します。
相談先が分からない場合は、地域包括支援センターに尋ねてください。
診断前でも、ご本人やご家族から相談できます。
参考資料
- 国立長寿医療研究センター「認知症とMCI」
- 国立長寿医療研究センター「よくある質問・Q&A」
- 国立長寿医療研究センター「認知症予防」
- 国立長寿医療研究センター「食事内容」
- 国立長寿医療研究センター「利用できる支援やサービス」
- 国立長寿医療研究センター「もの忘れセンター外来」
- 厚生労働省掲載「高齢者のためのGood Sleepガイド」
2026年10月確認。



