はじめに
定年退職後の健康保険は、家族の扶養に入るのがよいのでしょうか。それとも、今の保険を任意継続するか、国民健康保険に切り替えるべきでしょうか。答えは、退職後の働き方、年金などの収入、家族の加入先によって変わります。
まず勤務先の健康保険に引き続き加入するかを確認し、加入しない場合に扶養・任意継続・国民健康保険を比較します。保険料の安さだけで決めず、加入条件、家族の扱い、期限をセットで確認しましょう。この記事では、退職前から準備する順番を解説します。
退職後の健康保険は働き方と年齢から確認する
退職しても、再雇用や再就職で勤務先の健康保険の加入条件を満たす場合があります。「定年になったら必ず国保か扶養を選ぶ」とは限りません。新しい勤務先に、健康保険の加入対象か、いつ資格を取得するかを確認してください。同じ会社で再雇用される場合も、退職前後の手続きを人事担当者に確認します。
勤務先の健康保険に加入しない場合は、主に次の三つを比較します。一部の健康保険組合には、別途、特例退職被保険者制度があります。
| 選択肢 | 確認する条件 | 保険料・家族の扱い | 主な相談先 |
|---|---|---|---|
| 家族の健康保険の被扶養者 | 収入、生計維持、続柄、居住などの認定要件 | 認定された被扶養者本人の健康保険料負担はない | 家族の勤務先・加入先の保険者 |
| 任意継続 | 継続した被保険者期間と申出期限 | 事業主負担がなくなる。条件を満たす家族は扶養の対象 | 退職前の健康保険の保険者 |
| 国民健康保険 | ほかの健康保険や後期高齢者医療の対象でないことなど | 扶養の制度はなく、世帯内の加入者と所得などで算定 | 住所地の市区町村 |
原則75歳になると後期高齢者医療制度の対象となります。65~74歳でも、一定の障害があり申請して認定された方は対象になる場合があります。加入先が変わる時期に近い方は、本人だけでなく、それまで扶養していた家族の切替先も確認しましょう。
家族の扶養に入れるかを確認する
健康保険の扶養と税金の扶養は別の制度
被扶養者(ひふようしゃ)とは、主に家族である被保険者に生計を支えられ、健康保険の認定要件を満たす人です。配偶者や子どもが会社の健康保険に加入している場合は、その勤務先を通じて相談します。家族が市区町村の国民健康保険に加入している場合、同じ意味の扶養には入れません。
所得税の扶養控除などと健康保険の被扶養者認定は、判定方法も手続きも異なります。税金で扶養として扱われたことだけで、健康保険も切り替わるわけではありません。また、自分自身が勤務先の健康保険の加入対象なら、収入額だけを見て家族の扶養を選べるとは限りません。
60歳以上は年収180万円未満が基本的な目安
協会けんぽなどの一般的な収入要件では、60歳以上は年間収入180万円未満が目安です。それに加え、同居の場合は原則として被保険者の収入の半分未満、別居の場合は被保険者からの仕送り額未満などの生計維持要件があります。収入の割合について例外的に認定される場合もあるため、境界に近いときは自己判断せず加入先へ確認します。
判定するのは、通常、認定時点からの年間の見込み収入です。退職前の給与が多かったことだけで、直ちに扶養に入れないと決まるわけではありません。年金、給与、雇用保険の失業等給付など、見込み収入に含めるものを確認してください。収入が年金だけでも、その金額とほかの条件を満たすかの確認は必要です。
原則として国内居住要件もあり、続柄によって同居が必要な場合と別居でも対象になる場合があります。「3親等以内なら誰でもよい」と考えず、家族関係と住まいの状況を伝えましょう。詳しい認定条件は日本年金機構の被扶養者の手続き案内と加入先の案内で確認できます。
年金や失業給付が始まった後も確認する
退職直後は収入が少なくても、年金の受給開始、失業給付、再就職によって条件が変わる場合があります。「退職時に認定されたから、その後もずっと扶養でよい」とは限りません。収入が変わる予定を申請時に伝え、変更が必要になった際の連絡先を確認します。
給与以外の収入がある場合には、給与収入だけを前提とする認定方法が使えると決めつけないでください。必要書類は加入先によって異なるため、年金額が分かる通知、退職日が分かる書類、別居時の送金記録など、何を提出するかを先に聞いておきます。
任意継続は加入期間・期限・保険料を確認する
勤務期間ではなく被保険者期間を確かめる
任意継続(にんいけいぞく)は、一定条件のもとで退職前の健康保険を続ける制度です。協会けんぽでは、資格喪失日の前日までに健康保険の被保険者期間が継続して2か月以上あることなどが条件です。同じ勤務先に2か月いたかどうかだけでは判断できません。
申出は退職日の翌日から20日以内で、郵送は必着です。協会けんぽでは期限が土日・祝日の場合は翌営業日とされていますが、提出先の案内で締切日を確認してください。必要書類を退職前に確認し、家族の扶養認定を待っている間に任意継続の期限を過ぎないよう注意します。
保険料は必ず退職前の2倍になるわけではない
在職中の事業主負担がなくなるため、本人負担は増えることが一般的です。ただし、算定の上限や保険料率などにより、給与から引かれていた保険料のちょうど2倍になるとは限りません。加入先から実際の見込額を取り寄せ、国民健康保険の試算と比べてください。
扶養家族がいる場合は、その家族を引き続き被扶養者として認定できるかも確認します。比較の単位は本人だけの金額ではなく、切替えが必要な家族全体です。保険料率や年齢区分などが変われば負担が変わることもあるため、将来も同じ金額と決めつけないようにします。
加入期間と給付の違いも確認する
任意継続の加入期間は最長2年間です。在職中と同じ給付がすべて新たに受けられるわけではなく、傷病手当金などには違いがあります。在職中からの継続給付がある場合は、その要件を別に確認してください。健診や付加給付なども加入先の案内で確かめます。
希望して任意継続をやめる場合は、所定の申出により、原則として申出が受理された月の翌月1日に資格を喪失します。切替先の加入日と照合し、保険料を意図的に未納にする方法で調整せず、正式な手続きを確認しましょう。
国民健康保険は前年所得と世帯全体で比較する
市区町村の国民健康保険は、国内に住所があり、勤務先の健康保険やその被扶養者、後期高齢者医療などの対象でない方が加入する制度です。「加入条件がない」「誰でも好きなときに入れる」というものではありません。加入が必要になった場合は、原則14日以内に住所地の窓口へ届け出ます。
保険料は前年の所得や加入者数などをもとに計算され、市区町村によって異なります。退職して現在の収入が減っても、前年の給与所得が反映され、初年度の負担が高くなる場合があります。翌年度は所得の反映が変わるため、今年度と翌年度を分けて試算してもらいましょう。
国保には保険料負担のない被扶養者という仕組みがありません。ただし、「家族がいるから必ず任意継続の方が安い」「独身なら必ず国保が安い」とは断定できません。家族のうち誰が国保に加入するか、所得はいくらか、軽減の対象かを合わせて確認します。
所得に応じた軽減や、一定の離職理由に該当する方への負担軽減などがあります。定年退職した人が全員同じ軽減を受けられるわけではありません。離職理由や必要書類を自治体へ伝えて確認してください。届出が遅れても保険料を遡って負担する場合があり、受診時の給付にも影響するおそれがあるため、放置しないことが大切です。
特例退職被保険者制度がある場合は別に比較する
一部の健康保険組合には、退職後に一定の条件で加入できる特例退職被保険者制度があります。すべての健康保険で利用できる制度ではなく、組合への加入歴や老齢厚生年金の受給資格などを確認する必要があります。
「任意継続より期間が長いから必ず有利」とは限りません。組合ごとの申請期限、保険料、給付、ほかの制度を一度選んだ後の加入可否を確認し、国保や任意継続と比べましょう。長年加入していたことだけで利用できると考えず、退職前に制度の有無から問い合わせてください。
窓口負担と民間の医療保険は分けて考える
医療機関の窓口負担割合は、年齢と所得などで異なります。70~74歳は原則2割、現役並み所得者は3割です。後期高齢者医療制度では1割・2割・3割に分かれます。「国民全員が2~3割」「75歳になれば全員1割」という説明は正しくありません。
公的医療保険の切替えと、民間の医療保険を残すかどうかは別の判断です。民間保険を契約しても、公的医療保険の加入手続きを省けるわけではありません。公的制度を確認した後の備えは、高齢者に医療保険は必要?公的制度・貯蓄・保障から考える判断の手順で整理しています。
退職前から切替後までの確認手順
- 退職前:退職日、再雇用・再就職先の加入日、資格喪失を証明する書類の発行予定を確認する。
- 比較:家族の扶養の条件を確認し、任意継続と国保の保険料を同じ対象期間・家族構成で試算する。
- 提出準備:各窓口で申請期限と必要書類を確認し、提出先と締切を記録する。
- 切替時:旧制度の資格喪失日と新制度の資格取得日を照合し、家族全員の切替先を確認する。
- 切替後:届いた資格情報と保険料通知を確認し、収入や働き方が変わった際の届出先を控える。
例えば、本人と配偶者が切替えの対象なら、「本人だけの国保保険料」と「家族を扶養に入れた任意継続の保険料」を比べても、条件がそろいません。家族それぞれの加入先を書き出し、合計の負担と給付の違いを確認してください。
扶養の認定待ちや書類の到着待ちの間に受診する場合は、医療機関と新しい加入先へ状況を伝え、資格確認や支払いの方法を相談します。資格を失った以前の健康保険を、そのまま使い続けないようにしてください。手続きが遅れそうな場合も、期限前に窓口へ相談しましょう。
まとめ
退職後の健康保険は、まず勤務先での加入の有無を確認し、その後で扶養・任意継続・国保を比較します。本人の収入だけでなく、家族の加入先、前年所得、年金や失業給付の開始時期、提出期限まで整理することが大切です。
老後の家計全体の保険を見直す場合は、老後に必要な保険は?生命保険・医療保険・介護保険・損害保険の見直し方も参考にしてください。


