法事の会食で「献杯の挨拶をお願いします」と頼まれると、何を話せばよいのか、乾杯と同じように杯を上げてよいのか迷うものです。献杯(けんぱい)は、故人を偲び、敬意を表して杯を捧げること。葬儀後の精進落としや、法要後のお斎(おとき)が始まるときに行われます。
基本は、短い挨拶の後に落ち着いた声で「献杯」と発声し、静かに杯を上げることです。グラスを打ち合わせたり、拍手をしたりする必要はありません。この記事では、献杯の流れと作法、依頼するときの準備、立場別に使える挨拶例を紹介します。例文は、ご自身と故人との関係や、当日の法要に合わせて言い換えてください。
献杯とは?乾杯との違い
故人を偲んで杯を捧げる会食の習慣
献杯の「献」は、捧げるという意味です。葬儀や法事の後、集まった人が故人を思いながら杯を上げ、会食へ移ります。読経や焼香そのものとは区別し、会食の場で行う習慣として考えると分かりやすいでしょう。
献杯は、お酒を飲む量や声の大きさで気持ちを表すものではありません。お茶や水などでも参加でき、故人にまつわる短い言葉を添えて静かに行います。会場では、喪主や施主の挨拶に続いて献杯を行うことが一般的です。
乾杯のように杯を合わせず、拍手もしない
| 確認する点 | 献杯の基本 |
|---|---|
| 目的 | 故人への敬意や追悼の気持ちを表す |
| 発声 | 周囲に聞こえる落ち着いた声で「献杯」 |
| 杯の動かし方 | 胸元あたりで軽く上げる |
| グラスの音 | 隣の人と打ち合わせない |
| 挨拶後の反応 | 拍手をせず、静かに受け止める |
| 飲み物 | お酒に限らず、お茶や水などでもよい |
お祝いの席で行う乾杯のように、明るい掛け声で場を盛り上げる必要はありません。ただし、聞き取れないほど小さな声にする必要もありません。後方の席にも届く声で、ゆっくりと発声します。
杯を高く掲げたり、周囲の席まで移動して杯を合わせたりせず、自席で静かに行いましょう。挨拶をした人が一礼した後も、拍手で応じず、そのまま進行の案内を待ちます。
献杯はいつ、誰が行う?
精進落としや法要後の会食の始まりに行う
献杯を行う主な場面は、葬儀後の精進落とし、四十九日や一周忌などの法要後の会食です。法要の途中で行うのではなく、会食の席が整い、参列者に飲み物が行き渡ってから進めます。
法事全体の準備を知りたい方は、法事・法要とは?亡くなった後に行う供養の種類・時期・準備をわかりやすく解説も参考にしてください。
施主・親族・故人と親しかった友人などが担当する
献杯の挨拶をする人に、全国共通の厳密な順番はありません。喪主や施主が行うほか、故人の兄弟姉妹、親族の代表、生前親しかった友人などへ依頼します。年長者にお願いすることはありますが、最年長の人でなければならないわけではありません。
誰に頼むか迷ったら、故人との関係と、ご本人の負担を考えて決めましょう。悲しみが深く人前で話すことが難しい人や、体調がすぐれない人に無理をお願いする必要はありません。施主が会食開始の挨拶と献杯を続けて行っても構いません。
当日の突然の指名を避けて依頼する
依頼する側は、できるだけ前もって「法要後の会食で、短いご挨拶と献杯をお願いできますか」と伝えます。会食の場所、開始予定時刻、どの法要の席なのか、誰が紹介するかを知らせておくと、頼まれた人も準備できます。
挨拶は、目安として一分程度に収まるようお願いするとよいでしょう。長い経歴紹介や詳しい弔辞を求める場ではありません。「父との思い出を一言添えていただければ十分です」と伝えると、相手の負担を軽くできます。
献杯の一般的な流れ
1.飲み物と進行を確認する
会食が始まる前に、席と飲み物を整えます。運転する人や、お酒を飲まない人、子どもにも選べる飲み物を用意してください。見た目だけではお酒かどうか分からない飲み物は、本人に内容を伝えてから渡します。
故人の写真や位牌の前に杯を供える場合もありますが、これはすべての宗派や会場に共通する必須の手順ではありません。寺院の会場では、お供えしてよいものや場所を先に確認します。会食のために必ず位牌を移動させる、と考える必要もありません。
2.施主が挨拶し、担当者を紹介する
施主は参列へのお礼を述べ、会食を用意したことを伝えます。別の人へ献杯をお願いしている場合は、「献杯のご発声は、父の弟の〇〇にお願いいたします」など、故人との関係を添えて紹介します。
紹介する側と担当者の双方が長く挨拶すると、同じお礼が繰り返されてしまいます。施主がお礼と案内、担当者が故人の思い出と献杯を受け持つなど、事前に簡単な役割分担をしておくと自然です。
3.短い挨拶の後、「献杯」と発声する
担当者は自己紹介と故人との関係を述べ、短い思い出や感謝の言葉を添えます。最後に「皆様、お手元の杯をお持ちください」と案内し、準備が整ったことを確かめてから「故人を偲びまして、献杯」と発声します。
挨拶を始めると同時に全員へ杯を持たせると、話を聞いている間ずっと持つことになります。杯を持つ案内は、発声の直前に入れるとよいでしょう。飲み物がまだ配られていない人がいる場合は、配膳が落ち着くのを待ちます。
4.参列者が唱和し、会食へ移る
参列者は発声に合わせ、静かに「献杯」と唱和し、杯を軽く上げます。グラス同士を合わせず、落ち着いて飲み物に口をつけます。飲み干す必要はありません。
合掌や黙祷(もくとう)を行う進行もあります。その場合は会場の案内に合わせ、合掌するときは杯を置きましょう。「必ず十秒黙祷する」など、独自の決まりをその場で加える必要はありません。施主や担当者の「どうぞお召し上がりください」という案内を受けて食事を始めます。
献杯の挨拶は四つの要素で組み立てる
自己紹介と故人との関係
参列者同士が初対面であれば、「故人の長男の〇〇です」「故人とは学生時代からの友人です」と簡潔に伝えます。全員がよく知る家族だけの席なら、肩書や氏名を長く説明する必要はありません。
参列へのお礼や法要を終えた報告
施主や遺族代表なら、「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」「皆様のおかげで母の一周忌を営むことができました」などのお礼を述べます。友人の立場なら、遺族を代表するような言い方をせず、「本日はこの席にお招きいただき、ありがとうございます」とすれば自然です。
故人の思い出を一つ添える
思い出は、一つの人柄や出来事に絞ると伝わりやすくなります。「父は庭の花の世話を楽しみにしていました」「友人の相談にいつも耳を傾けてくれる人でした」など、聞いた人が故人を思い浮かべられる言葉が向いています。
家族だけが知る私的な事情、病状の細かな説明、財産や相続の話などは避けましょう。笑いを取ろうとして失敗談を強調するよりも、その人に感謝していることを一つ話す方が、場にふさわしい挨拶になります。
杯を持つ案内と献杯の発声
最後は「皆様、杯をお持ちください。母を偲びまして、献杯」と短く締めます。難しい宗教用語を入れる必要はありません。故人を偲ぶ言葉であれば、宗教的な意味を取り違えにくく、ご自身の気持ちも伝えやすくなります。
原稿を書くときは、「献杯」の前で改行しておくと発声のタイミングをつかみやすくなります。読み上げの練習では、杯を持つ案内の後に少し間を置き、参列者が動く時間を取ってください。
そのまま使える献杯の挨拶例文
以下はこの記事用に作成した例文です。「父」「母」などの続柄、氏名、法要名、思い出の内容を実際に合わせて変更してください。まだ会食が始まっていない段階なので、お開きの挨拶や返礼品の案内まで一度に話す必要はありません。
施主が一周忌で挨拶する場合
本日は、父〇〇の一周忌にお集まりいただき、ありがとうございます。皆様とともに父を偲び、法要を営むことができましたことに、家族一同感謝しております。父は人が集まると、いつも楽しそうに話を聞いていました。本日も皆様から父のお話を伺えればと思っております。それでは、お手元の杯をお持ちください。父を偲びまして、献杯。
親族が四十九日の会食で挨拶する場合
故人の妹の〇〇でございます。本日は姉の四十九日法要にお集まりいただき、ありがとうございました。姉には、小さなことから何度も助けてもらいました。皆様と姉の思い出を語りながら、感謝を伝える時間にできればと思います。それでは、杯をお持ちください。姉を偲びまして、献杯。
友人が献杯を依頼された場合
〇〇さんと学生時代から親しくしておりました、△△と申します。本日はこの席にお招きいただき、ありがとうございます。〇〇さんは、久しぶりに会っても変わらず温かく迎えてくれる友人でした。ともに過ごした時間を、これからも大切にしていきたいと思います。それでは皆様、杯をお持ちください。〇〇さんを偲びまして、献杯。
家族だけの七回忌・十三回忌で短く話す場合
今日は母の七回忌に集まってくれて、ありがとうございます。こうして家族で母の話をしながら過ごせることを、うれしく思います。食事をしながら、それぞれが覚えている母の思い出を聞かせてください。それでは、母を偲んで、献杯。
十三回忌なら「七回忌」を「十三回忌」に置き換えます。家族だけの席では、普段の言葉に近づけても構いません。「本日はご多忙のところご参集賜り」といった言い回しを無理に覚えるより、丁寧で短い言葉の方が話しやすいでしょう。
急に頼まれ、思い出話を準備できない場合
ご紹介いただきました〇〇です。本日は皆様とともに故人を偲ぶ時間を過ごせますことに、感謝いたします。短い挨拶ではございますが、献杯の発声を務めさせていただきます。皆様、杯をお持ちください。故人を偲びまして、献杯。
思い出がすぐ浮かばなくても、作り話で埋める必要はありません。お礼と追悼の言葉だけでも挨拶になります。引き受けるのが難しいときは、施主へ静かに事情を伝え、ほかの人へお願いしてもらいましょう。
浄土真宗では献杯をどう考える?
献杯をせず、合掌や食前の言葉で始めるのが基本
浄土真宗では、献杯を宗教上の作法として行わず、食事の前に合掌し、食前の言葉などで始めることが基本です。亡き人をご縁として仏法を聞き、いただく食事やいのちに感謝する場として、お斎を大切にします。
そのため、「どの仏式の法事でも献杯をする」と考えるのは適切ではありません。浄土真宗の法事を主催する場合は、僧侶へ会食の始め方を相談し、食前の言葉を唱えるなら、参列者へも事前に案内しておきましょう。
地域や家庭の会食では献杯を行う例もある
一方で、浄土真宗の家庭でも、一般の会食の慣習として献杯が行われることはあります。実際の席で献杯があったからといって、参列者がその場で遺族を責めたり、会食を中断させたりする必要はありません。主催する際に寺院と相談して、進行を決めることが大切です。
また、浄土真宗では「ご冥福をお祈りします」という表現を通常用いません。挨拶では「亡き方を偲んで」「ともに過ごした日々に感謝して」などの言葉にするとよいでしょう。ほかの宗教の追悼の席でも、仏式の例文をそのまま当てはめず、主催者の案内に合わせます。
飲み物・姿勢・会話で気をつけたいこと
お酒を飲めなくても参加できる
献杯のためにお酒を飲む必要はありません。お茶や水、ジュースなど、本人が飲めるものを用意します。故人がお酒を好んでいた場合でも、「供養だから一口だけ」と飲酒を勧めるのは控えましょう。
飲み物に口をつけること自体が難しい人もいます。杯を持って静かに気持ちを寄せるなど、その人にできる形で参加してもらえば十分です。周囲の人が飲んだかどうかを確認したり、飲み干すよう求めたりしないことが大切です。
立つか座るかは会場の案内に合わせる
献杯は立って行う場合も、着席したまま行う場合もあります。全員が必ず起立しなければならないと決めつけず、進行役の案内に従います。足腰に不安がある人は、座ったままで差し支えありません。
施主や司会者は、「ご無理のない方はご起立ください」「お掛けになったままで結構です」と添えると、参列者が迷わずに済みます。挨拶を担当する人も、体調や会場の事情によって着席して話して構いません。
会食では故人の思い出を穏やかに話す
献杯後は、終始無言で食事をしなければならないわけではありません。故人の人柄や懐かしい出来事を語り合うことも、お斎の大切な時間です。悲しみ方には個人差があるため、明るく話せない人へ会話を強要する必要はありません。
大声で騒ぐ、飲み過ぎる、故人と関係のない自慢話を続けるといった振る舞いは避けましょう。写真を撮影したり、会話を録音したりする場合も、遺族や周囲の人の意向を先に確かめてください。
マイクや席の移動は事前に確認する
広い会場では、後方の席まで声が届くようマイクを用意します。話す場所へ移動するのか、自席で立って話すのかを会場担当者に確認しておくと、当日の戸惑いを減らせます。杯と原稿とマイクを同時に持つのは難しいため、原稿を置く場所や、発声の直前に杯を渡してもらえるかも打ち合わせておきましょう。家族だけの小さな会食なら、大がかりな準備は必要ありません。
献杯の挨拶でよくある疑問
原稿を見ながら話してもよいですか?
原稿やメモを見ながら話して構いません。暗記を優先して言葉が出なくなるより、落ち着いて読む方が伝わります。紙なら文字を大きめにし、スマートフォンを使う場合は通知音が鳴らないように準備しておきましょう。
挨拶の途中で涙が出たらどうしますか?
少し間を置いて、呼吸を整えてください。最後まで予定どおり話す必要はありません。「言葉が続きませんので、短いご挨拶で失礼いたします」と切り上げても構いません。進行役が近くにいる場合は、杯を持つ案内や発声を引き継いでもらう方法もあります。
忌み言葉はすべて避けなければなりませんか?
「重ね重ね」「たびたび」など、不幸の繰り返しを連想させる言葉は、弔事の挨拶では避けるのが一般的です。「重ね重ねありがとうございます」は「心より感謝いたします」に言い換えられます。ただし、参列者の自然な言葉尻をとらえて注意するような対応は控えましょう。
会食をしない場合にも献杯は必要ですか?
法要後に会食を行わず解散する場合、献杯のためだけに飲み物を用意する必要はありません。参列へのお礼と今後の案内を伝えて見送ります。会食を行う場合でも、宗派や家族の方針によって、食前の挨拶や合掌で始めることができます。
献杯は短い言葉と落ち着いた作法で
献杯では、故人を偲ぶ言葉を短く述べ、静かに杯を上げます。グラスを打ち合わせず、拍手をしないことが基本です。挨拶は「自己紹介・お礼・故人の思い出・献杯の発声」の順にするとまとめやすくなります。
施主は担当者へ前もって依頼し、宗派に合った進行と飲み物を準備しましょう。参列者の体調や気持ちにも配慮しながら、故人との思い出を分かち合える会食にすることが大切です。


