曹洞宗(そうとうしゅう)の葬儀では、読経や焼香に加え、故人に戒を授ける「授戒」と、仏の道へ導く「引導」が大切な意味を持ちます。式中に太鼓や金属製の仏具の音が響いたり、導師が力強い声を発したりして、初めて参列した人が驚くこともあります。
しかし、参列するために儀式の名前をすべて覚える必要はありません。葬儀の意味を知り、焼香など自分が行う作法を確認しておけば、落ち着いて故人を見送れます。この記事では、曹洞宗の葬儀の特徴、主な流れ、遺族の準備、参列マナーを解説します。実際の式次第やしきたりは寺院・地域によって異なるため、菩提寺と会場の案内を優先してください。
葬儀全体の流れや費用の考え方は、葬儀とは?費用相場・流れ・種類と後悔しないための準備でも紹介しています。
曹洞宗の葬儀で大切にされる考え方
お釈迦さまの弟子として故人を送る
曹洞宗は、お釈迦さまを本尊とし、道元禅師(どうげんぜんじ)と瑩山禅師(けいざんぜんじ)を両祖として仰ぐ禅宗です。本尊と両祖を合わせて「一仏両祖(いちぶつりょうそ)」といいます。両大本山は福井県の永平寺と、神奈川県横浜市の總持寺です。
曹洞宗の葬儀は、亡くなった人との別れだけでなく、お釈迦さまの弟子として故人を送り出す儀式でもあります。葬儀の中で仏弟子となるための戒を授け、仏道へと導くことに意味があります。僧侶のお勤めは、遺族や参列者が仏の教えに触れ、故人とのつながりを受け止める時間にもなります。
「授戒」と「引導」が葬儀を理解する手がかり
授戒(じゅかい)は、仏教徒としての生き方の指針となる戒を受けることです。本来は生前にも受けるもので、葬儀にだけ関係する言葉ではありません。葬儀では、戒名や血脈などとともに、故人を仏弟子としてお迎えする儀礼が行われます。
引導(いんどう)は、故人を迷いから悟りの道へ導くことを意味します。日常会話でいう「引導を渡す」という言い回しのように、単に終わりを宣告する行為ではありません。導師が仏の教えと故人への言葉を述べ、仏道への歩みを示す、大切な場面です。
この二つの意味を知っておくと、式の途中で見慣れない所作があっても、「仏弟子として送り出すためのお勤めなのだ」と理解しやすくなります。
同じ曹洞宗でも式次第は一律ではない
曹洞宗の葬儀には共通する考え方がありますが、すべての寺院で同じ順番、同じ時間、同じ人数の僧侶によって行われるわけではありません。地域の慣習、寺院の伝統、式場の条件などによって、儀礼の組み合わせや行う場所が変わります。
インターネットにある式次第と当日の式が違っていても、それだけで間違いとはいえません。遺族は事前の打ち合わせで全体の流れを聞き、参列者はその場の案内に従いましょう。細かな違いを確かめるときは、式の最中ではなく、落ち着いて質問できる時間に尋ねるとよいでしょう。
同じ禅宗である臨済宗のお勤めや焼香については、臨済宗の葬儀とは?引導と「喝」の意味、流れ・焼香・参列マナーで紹介しています。
授戒・戒名・血脈にはどのような意味がある?
剃髪や洒水は仏門に入るための儀礼
授戒に関わる場面では、剃髪(ていはつ)や洒水(しゃすい)などの儀礼が行われることがあります。剃髪は、出家して仏道に入ることを示す所作です。葬儀では形式的な所作として行われる場合があり、故人の髪を必ず実際に剃るという意味ではありません。
洒水は清らかな水を用いる儀礼です。こうした作法を通じ、仏弟子として戒を受ける場を整えます。遺族が独自に道具をそろえて再現するものではなく、準備する物がある場合は、寺院や葬儀社から具体的な案内を受けてください。
戒名は仏弟子としての名前
戒名(かいみょう)は、仏教の戒を受けた人に授けられる名前です。「亡くなった人につける名前」とだけ考えられがちですが、生前に授かる場合もあります。すでに戒名を受けているときは、そのことを早めに菩提寺へ伝え、記載された書類などを確認してもらいましょう。
新たに授けていただく場合は、故人の人柄、仕事、趣味、家族との関わりなどを住職へ伝えると、故人を知っていただく手がかりになります。遺族が考えた文字を必ず使えるとは限りませんが、希望があれば相談してかまいません。
位牌や会葬礼状に戒名を記す際は、漢字の形や読み方を自己判断で直さず、寺院の確認を受けた表記を共有します。普段使わない漢字が含まれる場合もあるため、口頭だけでなく書面で確認すると行き違いを防げます。
血脈は仏の教えが伝わるつながりを示す
血脈(けちみゃく)は、お釈迦さまから歴代の祖師を経て、その人へ教えや戒法が伝わったことを示すものです。ここでいう「血」は実際の血液や親族の血縁を意味するのではなく、仏法のつながりを表しています。
葬儀では血脈を授ける儀礼が行われます。遺族が初めて見ると、名前や線が記された特別な書類に戸惑うかもしれません。棺へ納める場合を含め、その扱いは寺院の指示を確かめてください。渡された物を自分の判断で片付けたり、他の書類とまとめて処分したりしないようにしましょう。
曹洞宗の葬儀で聞こえる音と引導法語
太鼓や鈸を用いる鼓鈸三通
曹洞宗の葬儀では、太鼓や鈸(はつ)などの鳴り物を用いる「鼓鈸三通(くはつさんつう)」が行われることがあります。鈸は、金属製の円盤を打ち合わせて鳴らす仏具です。読経だけの静かな式を想像していると、その響きが強く印象に残るでしょう。
これらの音は、故人を送る儀礼の一部です。余興として演奏しているわけでも、遺族や参列者に何か失敗があったことを知らせているわけでもありません。用いる仏具や鳴らす場面は寺院や式の構成によって異なります。
小さな子どもや音に敏感な人が参列する場合は、事前に担当者へ相談しておくと安心です。途中で席を外しやすい場所を確保するなど、故人を見送る気持ちを大切にしながら、無理なく参列できる方法を考えましょう。
引導法語では故人へ仏の教えを伝える
引導の場面では、導師が引導法語(いんどうほうご)を述べます。故人の生涯や人柄に触れながら、仏道へ導く言葉を贈るお勤めです。寺院によって、払子(ほっす)という柄の先に毛の付いた仏具や、松明に見立てたものを用いる所作などが見られます。
故人のことを住職が詳しく知らない場合、家族からの話が大切な手がかりになります。経歴を立派に整えることよりも、普段どのような人だったか、何を大切にしていたかを、家族の言葉で伝えるとよいでしょう。人に公開してほしくない事情がある場合は、その点もあわせて伝えてください。
大きな声があっても、必ず「喝」とは限らない
引導の際に、導師が力強い声を発する場合があります。「喝(かつ)」という声が知られていますが、用いる語や声の出し方は一律ではありません。穏やかに説く場合もあり、「大声がなければ曹洞宗の葬儀ではない」ということではありません。
参列者は声をまねたり、返事をしたりする必要はありません。読経と同じように静かに拝聴します。写真や動画を撮りたい場合も、珍しい場面だからと急にスマートフォンを向けず、遺族と寺院の意向を事前に確認してください。
通夜から葬儀・火葬までの主な流れ
日程を決める前に菩提寺へ連絡する
家族が亡くなったときは、葬儀社への搬送依頼とともに、菩提寺(ぼだいじ)にも早めに連絡します。菩提寺とは、日頃からお付き合いがあり、家のお墓や法要などでお世話になっている寺院です。葬儀社だけで日時を決めてしまうと、住職の予定と合わない場合があります。
連絡の際は、故人の氏名、亡くなった日時、安置場所、家族の連絡先などを伝え、枕経(まくらぎょう)や通夜、葬儀の日程を相談します。遠方の寺院にお世話になっている場合も、先に相談し、葬儀を行う地域でどのように対応するか確認してください。
安置・納棺・通夜
安置後は、寺院と葬儀社の案内に沿って枕飾りなどを整え、納棺(のうかん)を行います。故人に着せたい服や棺へ納めたい物がある場合は、宗派の作法と火葬場の条件の両方を確認します。思い出の品であっても、材質によって棺に入れられない物があります。
通夜では、僧侶による読経、遺族や参列者の焼香などが行われます。お勤めの後に法話がある場合もありますが、内容や時間は寺院ごとに異なります。経本が配られ、一緒にお唱えする案内があれば、無理のない範囲で合わせてください。
通夜後に付き添う場合も、一晩中起き続けることを一律の義務と考える必要はありません。休息を取りながら過ごし、巻き線香を含む火の使用は、製品の注意事項と施設の規則を確かめましょう。宿泊や持ち物は、寝ずの番は必要?通夜の付き添い・宿泊の準備と安全な過ごし方で解説しています。
葬儀では授戒・読経・引導などが行われる
葬儀当日は、導師の入場、授戒に関わる儀礼、読経、引導、焼香などが組み合わされます。棺の前でのお勤め、送り出す際のお勤めなどが、一つの式の中にまとめられる場合もあります。下記は内容を把握するための整理であり、全国共通の式順ではありません。
- 仏弟子として迎える儀礼:剃髪の所作や授戒、血脈の授与など。
- 棺の前でのお勤め:読経や念誦(ねんじゅ)を通じて故人を送ります。
- 引導:導師が法語を述べ、仏道へと導きます。
- 参列者のお別れ:焼香、弔辞、遺族代表の挨拶などを、式の構成に沿って行います。
焼香を始める時機や弔電紹介の位置などは、寺院と葬儀社が調整します。遺族は「何分頃に自分が動くか」「誰から焼香するか」「挨拶をするのはいつか」を聞いておくと安心です。専門用語の暗記よりも、当日の行動がわかる説明を受けることを優先しましょう。
出棺・火葬・初七日法要
式の後は棺のそばで最後のお別れをし、火葬場へ向かいます。ただし、地域によっては先に火葬を済ませ、遺骨を前に葬儀を行うこともあります。「葬儀の後に火葬する」という順番がすべての地域に当てはまるわけではありません。
初七日(しょなのか)法要を葬儀当日に繰り上げて行う場合もあります。葬儀と続けて行うのか、火葬後なのか、別の日なのかを確認し、親族にも案内しておきましょう。移動する人数、車の割り振り、会食の有無もあわせて決めると、当日の負担を減らせます。
曹洞宗の焼香は何回?参列者が知りたい作法
基本は2回、1回目はいただき、2回目はそのまま
曹洞宗の焼香は、一般に2回と案内されます。1回目を主香(しゅこう)、2回目を従香(じゅうこう)と呼び、1回目は香を押しいただいてから香炉へ入れ、2回目は押しいただかずに入れます。押しいただくとは、香を敬って持ち上げる所作です。
参列者向けには、次のような手順が目安になります。
- 係員の案内で焼香台へ進み、遺族・導師へ一礼します。
- 仏前で合掌礼拝(がっしょうらいはい)します。
- 右手の親指・人差し指・中指で香を少量つまみ、左手を添えるなどして押しいただき、香炉へ入れます。
- もう一度香をつまみ、今度は押しいただかず、そのまま香炉へ入れます。
- 合掌礼拝し、一礼して席へ戻ります。
手の添え方や香を持ち上げる位置など、寺院によって説明が異なることがあります。現地で所作の案内がある場合は、そちらに合わせてください。香を多くつまむ必要はなく、香炉の火や灰に指が触れないよう落ち着いて行います。
「1回で」と案内された場合はその場に合わせる
参列者が多い場合や式場の事情により、焼香は1回でと案内されることがあります。その際は案内に従ってかまいません。「2回しなければ失礼」と考えて列を止めたり、やり直したりする必要はありません。
焼香台までの移動が難しい場合は、事前に係員へ伝えましょう。座ったまま行える方法などを相談できます。正座が難しい人も、無理に立ち座りを繰り返すより、安全にお参りできる形を選んでください。
立礼・座礼・回し焼香の違いは、焼香とは?意味や正しい作法・宗派ごとの回数を詳しく解説でも確認できます。
線香と焼香は同じ回数で考えない
焼香は粉状の香を香炉へくべる作法で、線香を供えることとは別です。「焼香が2回だから線香も必ず2本」という関係にはなりません。自宅や墓前で線香を供えるときは、寺院の案内と香炉の設備に合わせましょう。
詳しくは、宗派ごとの線香の上げ方とは?本数や立て方・寝かせ方の違いをご覧ください。
服装・数珠・香典・お悔やみの言葉
服装は一般的な仏式葬儀に準じる
曹洞宗だから特別な色の服が必要ということはありません。遺族や会場から指定がなければ、一般的な仏式葬儀に準じ、黒の喪服など落ち着いた服装を基本とします。装飾は控えめにし、靴やバッグも会場にふさわしいものを選びましょう。
高齢者や体調に不安のある人は、形式を優先して体に負担をかけないことも大切です。椅子の利用、足元の安全、室温への対応など、必要な配慮はあらかじめ相談してください。小さな子どもがいる場合は、退出しやすい席を確認しておくと安心です。
数珠は大切に扱い、わからない所作は確認する
数珠(じゅず)は仏事に用いる大切な道具です。持っている数珠を準備し、床や椅子の上へ無造作に置かないようにします。手を動かす必要がある場面では、落とさないよう気を付けてください。
曹洞宗用の本式数珠を購入する場合は、珠の形や持ち方を寺院や仏具店で確認するとよいでしょう。参列が初めてだからといって、他人の数珠を回して借りたり、急いで高価な物を購入したりする必要はありません。不安がある場合は担当者に尋ね、故人をしのぶ気持ちを大切に参列しましょう。
香典の表書きは「御霊前」「御香典」など
曹洞宗の通夜・葬儀でお金を包む場合、表書きには「御霊前」「御香典」などが使われます。四十九日法要など、葬儀後の法事では「御仏前」が一般的です。浄土真宗の葬儀で用いられる表書きの説明を、そのまますべての宗派に当てはめないようにしましょう。
ただし、香典を辞退する案内があれば、遺族の意向を尊重してください。供花や供物についても、会場の受け入れや注文窓口を確かめます。宗派の作法と、遺族が決めた受け付け方の両方を確認することが大切です。
お悔やみは遺族を気遣う言葉を短く
受付や遺族への挨拶では、「このたびは心よりお悔やみ申し上げます」「ご生前は大変お世話になりました」など、弔意や感謝を簡潔に伝えます。故人の病状や亡くなった経緯を詳しく聞き出したり、悲しみ方を決めつけたりしないようにしましょう。
式中に知らない言葉が出てきても、隣の参列者へその場で説明を求めるより、まず静かに拝聴します。お勤めに合わせて唱える場面があっても、わからない部分を無理に声に出す必要はありません。
遺族が寺院・葬儀社と確認しておきたいこと
家族葬や一日葬の希望は日程確定前に相談する
家族葬は主に参列範囲を示す呼び方であり、曹洞宗の儀礼と両立できます。少人数だから授戒や引導を行わないと決まっているわけではありません。家族だけで静かに見送りたい場合も、その希望を伝えたうえでお勤めの形を相談しましょう。
通夜を省く一日葬や、火葬を中心にした形式を検討する場合は、菩提寺にも先に相談します。葬儀社のプラン名だけで決めず、どの儀礼をいつ行い、納骨までどのようにつなげるかを確認してください。家族の負担や事情も、遠慮せず具体的に伝えることが大切です。
お布施と葬儀社の費用を分けて把握する
お布施は寺院や僧侶へお渡しするもので、会場、棺、搬送、料理などの葬儀社の費用とは区別して確認します。「葬儀一式」の見積もりに寺院へのお礼まで含まれていると思い込まず、誰に何を支払うのかを整理しましょう。
金額は宗派名だけで全国一律に決まるものではありません。依頼するお勤めの内容、僧侶の人数、地域や寺院との関係などを踏まえ、不明な点は菩提寺へ相談します。お車代や御膳料の扱い、渡す時機についても確認してください。
葬儀社との打ち合わせでは、希望する総予算、人数、安置日数などを共有し、追加になる項目を見積書で確かめます。家族の中で窓口を決めておくと、別々の人が注文して費用が増える行き違いを防ぎやすくなります。
四十九日・位牌・納骨の準備を引き継ぐ
葬儀後には、四十九日法要、位牌、納骨などについて相談を進めます。納骨を四十九日に合わせる場合もありますが、墓地の準備や家族の事情によって予定は変わります。日程だけを親族で決めず、寺院と墓地の管理者に必要な手配を確認しましょう。
本位牌を用意する場合は、戒名、俗名、亡くなった日、年齢などの表記を確認し、法要に間に合うよう早めに相談します。白木の位牌や葬儀で使った品をどう扱うかも、自己判断で処分せず寺院に尋ねてください。
故人を送った後は、家族に疲れが出やすい時期でもあります。必要な連絡と期限をメモし、家族で分担しましょう。宗派の作法を一人で完璧に調べようとせず、菩提寺と相談しながら一つずつ整えることが、落ち着いた供養につながります。


