日蓮正宗(にちれんしょうしゅう)の葬儀に参列すると、色とりどりの花ではなく、緑の樒(しきみ)を供えた祭壇や、「南無妙法蓮華経」のお題目を唱えるお勤めが印象に残るかもしれません。名前の似ている日蓮宗と同じ作法でよいのか、香典袋には何と書くのか、初めての方が迷いやすい点もあります。
まず覚えておきたい基本は、日蓮正宗の僧侶を迎えて読経・唱題を行うこと、祭壇には樒を用いること、焼香は一般に3回で、その都度押しいただくことです。香典の表書きには「御香料」が使われます。この記事では、この基本を踏まえて、参列者の作法と遺族が準備することを紹介します。
葬儀全体の手配や費用の考え方は、葬儀とは?費用相場・流れ・種類と後悔しないための準備をご覧ください。
日蓮正宗の葬儀の特徴
御本尊をお迎えし、僧侶が読経・唱題を行う
日蓮正宗の葬儀は、御本尊(ごほんぞん)をお掛けし、僧侶を導師(どうし)として迎えて勤めます。導師は、儀式を中心となって進める僧侶のことです。法華経(ほけきょう)を読み、お題目を唱え、故人の成仏を祈念します。
お題目を唱えることを「唱題(しょうだい)」といいます。参列者にも一緒に唱題する場面がありますが、慣れていない人が経文を暗記して出席する必要はありません。式の進行や僧侶の案内に合わせ、落ち着いてお参りしましょう。
宗教上の意味を説明するときは、「日蓮正宗ではこのように受け止める」と理解することが大切です。故人や家族の信仰を尊重しながら、参列者自身の信仰や気持ちにも配慮してお別れに臨みます。
祭壇には色花ではなく樒を供える
日蓮正宗では、祭壇に常緑樹の樒を供えるのが基本です。緑の葉を保つ樒に、仏の徳が変わらず続くことを重ねる宗教的な意味があります。一般的な花祭壇をそのまま選ぶと、寺院の作法と合わないことがあるため、遺族は葬儀社に宗派名を正確に伝えてください。
友人や職場から供花を贈る場合も、先に注文するのではなく、葬儀社の窓口へ「日蓮正宗の葬儀に供えたい」と連絡します。樒の供物を扱っているか、名札をどうするか、遺族が供物を受け付けているかを確認すると手配がスムーズです。
すでに生花を用意してしまった場合は、自分で祭壇に置かず係員へ相談しましょう。相手の厚意を受け止めつつ、どこに飾るか、どう扱うかは遺族と寺院の意向に沿って決めます。
日蓮宗や創価学会の友人葬とは区別する
日蓮正宗と日蓮宗は、名称やお題目に共通する部分がありますが、別の宗派です。葬儀で用いる法具や供え物、数珠の扱いなどを、名前が似ているという理由だけで同じにしないようにしましょう。
また、創価学会の友人葬は、通常、僧侶を招かずに友人・同志を中心として営む葬儀です。日蓮正宗の寺院に僧侶を依頼する葬儀とは、導師を務める人や儀礼の考え方が異なります。葬儀社との打ち合わせでは「日蓮系」とまとめず、正式な宗派・団体名を伝えてください。
日蓮宗の葬儀については、日蓮宗の葬儀とは?お題目・引導・法号の意味と流れ、焼香・参列マナーで解説しています。
家族が亡くなったときの連絡と準備
所属寺院と葬儀社へ連絡する
病院などで家族が亡くなった場合は、搬送・安置の手配とともに、故人が所属する寺院へ連絡します。氏名、亡くなった日時、安置する場所、家族の連絡先を伝え、枕経(まくらきょう)や通夜・葬儀について相談してください。
搬送を急ぐ場合でも、葬儀の日時までその場で確定する必要はありません。僧侶、式場、火葬場の予定を合わせてから親族へ正式に案内します。「先に会場を予約したが住職の都合がつかない」という行き違いを防ぐため、寺院と葬儀社の連絡を早めにつなぎましょう。
故人の寺院が分からないときは、家族が保管する寺院からの案内、連絡帳、エンディングノートなどを確認します。親族や普段の信仰上の相談相手に尋ねる方法もあります。寺院の名称と電話番号を確認できたら、家族内で共有しておきます。
喪主と連絡窓口を決める
喪主(もしゅ)は、遺族を代表して葬儀を取りまとめる役割です。喪主がすべての電話や事務を一人で抱える必要はありません。寺院との連絡、葬儀社との調整、親族への案内を分担し、最終的に誰が確認するかを決めておくと混乱が少なくなります。
家族の信仰が異なる場合は、故人が生前に希望していた葬儀と、実際に手配する人の考えを早めに共有します。日蓮正宗では、事情により信仰上の願主(がんしゅ)と喪主を分けることもあります。必要な場合は住職へ相談し、家族だけで役割の条件を決めつけないようにしましょう。
祭壇・遺影・位牌の準備をすり合わせる
祭壇の設営は、寺院の作法を確認して葬儀社が進めます。御本尊、位牌、供物、遺影の位置を相談し、写真や飾りで御本尊が隠れないように整えます。遺影の準備では、故人らしい表情の写真を複数探し、顔が小さすぎたり不鮮明だったりしないかを担当者に確認してもらうとよいでしょう。
葬儀に用いる白木の位牌には、寺院で戒名などを記します。家族は俗名、亡くなった日、生年月日など、依頼された情報を正確に伝えます。名前に旧字体や珍しい漢字がある場合は、口頭だけで済ませず、書面で照合してください。
通夜から葬儀・火葬までの流れ
安置・枕経・納棺
故人を安置した後、寺院と相談して枕経を勤め、身支度や納棺(のうかん)を進めます。枕経の時期や場所は、搬送先、施設の設備、寺院の予定によって調整されます。北枕にできるかどうかも部屋の状況に左右されるため、無理な配置にせず担当者へ相談しましょう。
棺に納めたい衣服や思い出の品がある場合は、寺院と葬儀社に早めに伝えます。宗教上の扱いだけでなく、火葬場が受け入れられる品かどうかも確認が必要です。家族の誰かが後から無断で品物を加えることがないよう、納める物を共有しておきます。
通夜は読経・唱題・焼香を中心に勤める
通夜では、僧侶の読経と唱題に合わせ、遺族や参列者が焼香します。開始前に受付を済ませ、係員の案内で席に着きましょう。式の長さは参列人数や進行によって変わるため、帰りの交通手段に制約がある場合は、あらかじめ終了予定を確認しておくと安心です。
通夜後に付き添いや宿泊を希望する家族は、人数、利用できる時間、寝具、洗面設備などを会場へ確認します。巻き線香を夜間に使うときは、火の気に注意し、専用の器具や施設の決まりに沿って使用してください。ろうそくの扱いも含め、火の管理を誰が担うかを決めておきましょう。
宿泊の準備は、寝ずの番は必要?通夜の付き添い・宿泊の準備と安全な過ごし方で詳しく紹介しています。
葬儀では読経・焼香・引導などが行われる
葬儀は通常、通夜の翌日に行います。一般的な流れは、遺族・参列者の着席、導師の入場、読経、焼香、弔辞・弔電、唱題、引導・回向、題目三唱です。読経には法華経の方便品(ほうべんぽん)や寿量品(じゅりょうほん)などが用いられます。
引導(いんどう)は、故人を仏道へ導く意味を持つお勤めです。回向(えこう)は、読経・唱題による功徳を故人などへ向けることをいいます。参列者は、儀礼を自分で進めようとせず、導師のお勤めを静かに受け止めます。
焼香は一般に、導師に続き、喪主、遺族、親族、一般参列者の順に行います。ただし、細かな式次第や焼香の開始時点は会場ごとに調整されます。経文の聞こえ方で判断せず、名前や順番を案内されてから進んでください。
最後のお別れ・出棺・火葬
最後のお別れでは、樒を棺に納める形が用いられます。一般的な花入れと同じつもりで切り花を持ち込まず、係員が用意したものと手順に沿ってお別れしましょう。顔に触れたり、写真を撮ったりする場合も、遺族の意向を確かめます。
出棺後は火葬場へ移動し、火葬・収骨へと進みます。地域によっては葬儀より先に火葬する場合もあるため、案内された日程を確認してください。火葬場へ同行する範囲、車の分担、会場へ戻る人をあらかじめ決めておくと、当日の移動が落ち着いて行えます。
焼香は基本3回、その都度押しいただく
焼香台での基本手順
日蓮正宗の焼香は、一般に3回、その都度お香を眉間のあたりまで押しいただいてから供えます。「押しいただく」とは、つまんだ香を敬意を込めて額の方へ上げる所作です。香を額に直接触れさせる必要はありません。
- 順番になったら焼香台へ進み、遺族などへ一礼します。
- 仏前で合掌し、一礼します。数珠は左手に持ちます。
- 右手で少量の抹香(まっこう)をつまみ、眉間のあたりまで押しいただいてから、香炉の火種へ静かに供えます。
- 同じ所作を計3回行います。
- 再び合掌・一礼し、係員の案内する経路で席へ戻ります。
香を大量につまんだり、火種の近くまで指を下ろしたりせず、落ち着いて供えます。会場から回数や進め方について案内があった場合は、その指示に従ってください。基本を知ったうえで当日の案内に合わせれば、直前に慌てずに済みます。
座ったままの焼香や介助が必要な場合
足腰が不自由な人は、受付などで係員へ伝え、移動の少ない席や焼香方法を相談できます。椅子席の会場でも、焼香台まで段差があったり、通路が狭かったりすることがあります。付き添う人は、本人の希望を聞いてから介助してください。
回し焼香では、香炉を載せた盆を安定した状態で受け取り、お参りを済ませて次の人へ渡します。香炉は熱くなっている可能性があるため、直接持ち上げないようにします。所作を急ぐより、こぼしたり倒したりしないことを優先しましょう。
立礼・座礼・回し焼香の違いは、焼香とは?意味や正しい作法・宗派ごとの回数を詳しく解説で確認できます。
数珠と線香の扱いで知っておきたいこと
本式数珠は白い房で、左右の掛け方にも特徴がある
日蓮正宗の本式の念珠(ねんじゅ)は、108個の主な珠などで構成される長い輪で、白い房が片側に2本、もう片側に3本付いています。信徒が用いる数珠については、全宗派共通とされる略式ではなく、日蓮正宗用のものを寺院に相談して用意するのが基本です。
合掌するときは、2本の房がある側を左手の中指に掛け、輪を内側にひねって交差させ、3本の房がある側を右手の中指に掛けます。日蓮宗の数珠の説明とは左右の案内が異なるため、名称だけで同じ持ち方と考えないでください。
初めて参列する非信徒の方は、数珠の準備に迷ったら遺族側の窓口や寺院へ尋ねましょう。慣れない道具を無理に買いそろえる前に、参列者としてどのようにお参りすればよいかを確認できます。数珠は袋に入れて持参し、床や椅子に放置したり、こすって音を立てたりしないように扱います。
線香は立てず、香炉に横に寝かせる
日蓮正宗では、線香を横に寝かせて供えるのが基本です。本数は1本や3本などで、香炉の大きさや寺院の案内に合わせます。仏壇のお参りでは、香炉からはみ出さない長さに整え、火の付いた線香が安定して収まるようにしてください。
葬儀の焼香台で用いる抹香と、家庭の仏壇などで用いる線香は別のものです。「焼香が3回だから、どの場面でも線香を3本立てる」と覚えるのは誤りです。会場に用意された香の種類を見て、案内された方法で供えましょう。
香典・供物・服装・お悔やみのマナー
香典の表書きは「御香料」を目安にする
日蓮正宗の葬儀で香典を用意する場合は、表書きに「御香料」を用いるとよいでしょう。宗派の違いを確認せず、一般的な葬儀だからと「御霊前」の印刷済み袋を選ぶことは避け、無地の袋に書く方法もあります。下段には自分の氏名を記し、中袋には金額と住所・氏名を分かりやすく書きます。
金額は、故人との関係、自分の立場、地域や職場の慣習などを踏まえて考えます。宗派だけで一律の金額が決まるものではありません。親族同士で金額をそろえる場合は、受付で相談するのではなく、事前に確認しておくとよいでしょう。
最初に確かめたいのは、香典を受け付けているかどうかです。辞退の案内がある場合は家族の意向を尊重します。供物や弔電の受け付けについても、遺族に何度も連絡するより、指定された葬儀社の窓口を利用すると負担を減らせます。
服装は一般的な喪服を基本にする
特に指定がなければ、黒の喪服など一般的な仏式葬儀に準じた服装で参列します。光る装飾品や強い香りは控え、静かに式へ臨める身支度を整えましょう。子どもは制服があれば利用し、なければ落ち着いた色の服を選びます。
高齢の方や体調に不安がある方は、歩きやすい靴、寒暖差に対応する上着、必要な薬なども忘れずに用意します。服装を整えるために体へ無理をかける必要はありません。長時間の参列が難しい場合は、焼香のみの参列が可能か相談する方法もあります。
遺族には短く気遣いを伝える
受付や遺族への挨拶では、「心よりお悔やみ申し上げます」「ご生前は大変お世話になりました」など、弔意や感謝を簡潔に伝えます。死因を詳しく尋ねたり、信仰について議論したりする場ではありません。
読経・唱題に慣れていない場合は、その場の案内を聞き、静かに故人をしのびます。他の参列者の声の大きさや所作を見て、信仰の深さを評価する必要もありません。写真撮影やSNSへの投稿は、遺族の許可なく行わないようにしましょう。
御供養・戒名・葬儀後の相談
寺院への御供養と葬儀社への支払いを分けて確認する
日蓮正宗では、寺院へお納めするものを「御供養」と呼びます。読経の代金というより、信仰に基づく供養として捉えられています。金額、包み方、お渡しする時期が分からない場合は、所属寺院へ直接相談してください。
葬儀社の見積もりには、搬送、安置、式場、棺、祭壇、料理、返礼品などが含まれます。寺院への御供養が見積もりに含まれるのか、別に準備するのかを確認しましょう。僧侶の移動や会食への対応も含め、家族と葬儀社がそれぞれ何を手配するかを整理しておきます。
少人数の家族葬でも、安置日数や会場の選び方によって費用は変わります。基本プランの金額だけで判断せず、追加になる条件と、今回の人数・日程での見積もりを確認することが大切です。
戒名と葬儀後の位牌・過去帳を相談する
戒名(かいみょう)は、仏門に帰依したことを表す名前です。日蓮正宗でも、葬儀に際して寺院から授けられることが一般的です。すでに生前に授かっている場合は、その記録を寺院に伝えてください。
葬儀では白木の位牌を用い、その後は過去帳に戒名などを記して供養していきます。他宗派の例を見て、漆塗りの本位牌を当然に作るものと考えず、所属寺院へ扱いを確認しましょう。白木の位牌をいつどこへ納めるか、過去帳への記入を誰に依頼するかも、まとめて尋ねておくと安心です。
四十九日や納骨は葬儀後の生活を見通して準備する
初七日(しょなのか)、四十九日(しじゅうくにち)などのお勤めは、寺院と日程を相談します。葬儀当日に初七日を勤めた場合は、その後の予定も確認しておきます。親族が遠方に住んでいるときは、法要と納骨を同じ日に行うか、会食を設けるかなども考えましょう。
納骨先がまだ決まっていない場合は、遺骨をどのように安置するか、一時的に預けられる場所があるかを相談できます。四十九日までに急いでお墓を購入することだけを目標にせず、今後お参りする家族の距離や管理の負担も考えて決めてください。
すでにお墓がある場合は、管理者への連絡、彫刻や納骨作業、寺院への読経の依頼を確認します。家族が別々に手配すると日時が食い違うこともあるため、一人が予定表を取りまとめ、関係者で同じ内容を共有しましょう。
日蓮正宗の葬儀で大切にしたい基本
日蓮正宗の葬儀は、御本尊をお迎えし、僧侶による読経・唱題のもとで故人を送る儀式です。参列者は、焼香は基本3回で押しいただくこと、香典の表書きには「御香料」を用いること、供花は樒の扱いを確認することを知っておくと、落ち着いて準備できます。
遺族は、所属寺院と葬儀社を早めにつなぎ、祭壇、位牌、御供養、葬儀後のお勤めまで相談しましょう。基本的な作法を押さえたうえで、寺院・地域の進め方と家族の事情をすり合わせることが、故人を丁寧に見送る準備につながります。


