遺言書の保管場所はどこがいい?自宅・法務局・公正証書遺言を比較

「自宅の金庫に縦書きの遺言書を保管する高齢男性」 相続

はじめに

遺言書は、正しく作成するだけでなく、亡くなった後に家族が見つけられるように保管しておくことが大切です。
せっかく有効な遺言書を作成しても、紛失したり、家族に発見されなかったりすれば、遺言の内容を実現できない可能性があります。
一方で、誰でも見つけられる場所に置いておくと、内容を見られたり、破棄や改ざんをされたりする心配があります。
自筆証書遺言の主な保管方法は、自宅で保管する方法と、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する方法です。
公正証書遺言を作成した場合は、原本が公証役場または専用システムで保管されます。
この記事では、自宅・法務局・公証役場による保管の違いを比較し、それぞれのメリットや注意点、法務局へ預ける手続きについてわかりやすく解説します。

遺言書の保管場所に法律上の決まりはある?

自分で作成した自筆証書遺言は、必ず特定の場所に保管しなければならないわけではありません。
法律で定められた方式を満たしていれば、自宅の金庫や書類棚などで保管することもできます。
ただし、自宅で保管した自筆証書遺言には、紛失、災害による焼失、第三者による隠匿や破棄、死後も発見されないといった危険があります。
自筆証書遺言を安全に保管したい場合は、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用できます。
公正証書遺言の場合は、公証人が遺言者から内容を聞き取って作成し、原本が公証役場側で保管されます。
つまり、適した保管場所は、作成する遺言書の種類や、費用、安全性、家族にかかる負担によって変わります。

自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の違いや書き方、費用については、遺言書とは?種類・書き方・費用・効力と作成方法をわかりやすく解説で詳しく解説しています。

遺言書の主な保管方法を比較

遺言書の主な保管方法には、次のような違いがあります。

比較項目自宅で保管する自筆証書遺言法務局で保管する自筆証書遺言公正証書遺言
主な保管場所自宅の金庫や書類棚など法務局の遺言書保管所公証役場または専用システム
作成費用原則としてかからない保管申請1件につき3,900円財産額や内容によって異なる
紛失や破棄の危険ある原本が保管されるため低い原本が保管されるため低い
家庭裁判所の検認必要不要不要
作成時の形式確認自分で確認する外形的な様式を確認してもらえる公証人が作成に関与する
遺言内容の確認ない法務局は内容まで審査しない公証人が内容を確認する
証人不要不要2人以上必要
向いている人費用をかけず自分で管理できる人費用を抑えながら安全に保管したい人内容と保管の確実性を重視する人

費用だけで考えると、自宅保管が最も手軽です。
しかし、安全性や相続開始後の家族の負担まで考えると、法務局保管や公正証書遺言の方が安心できる場合があります。

自筆証書遺言を自宅で保管する方法

自筆証書遺言を自宅で保管する場合は、遺言書を封筒に入れ、金庫や重要書類を保管している場所に置く方法が一般的です。
自宅保管には費用がかからず、遺言書を書き直したいときにすぐ対応できるメリットがあります。
ただし、自宅保管では保管する本人が安全性を確保しなければなりません。
考えられる主な問題は次のとおりです。

・遺言書をどこに置いたか分からなくなる
・遺言者の死後も家族に発見されない
・火災や水害などによって失われる
・遺言内容に不満を持つ人に隠されたり破棄されたりする
・本人以外の人に内容を読まれる
・複数の遺言書が見つかり、どれが最新なのか分かりにくくなる

自宅で保管する場合は、簡単に持ち出せず、災害の影響も受けにくい場所を選びます。
一方で、誰にも知らせずに隠してしまうと、死後に発見されない可能性があります。
信頼できる家族や遺言執行者には、遺言書を作成したことと、おおよその保管場所を伝えておくことが大切です。

自宅保管した遺言書には検認が必要

自宅などで保管されていた自筆証書遺言は、原則として家庭裁判所の検認を受ける必要があります。
検認とは、相続人に遺言書の存在と内容を知らせ、遺言書の状態や形状などを確認する手続きです。
遺言書が有効か無効かを判断する手続きではありません。
封印されている遺言書を見つけても、家族だけで開封してはいけません。
家庭裁判所で相続人などの立ち会いのもとで開封する必要があります。
検認の手続きには、申立書の作成や戸籍書類の収集などが必要となり、残された家族の負担になることがあります。

自筆証書遺言を法務局で保管する方法

自筆証書遺言書保管制度は、自分で作成した自筆証書遺言を法務局の遺言書保管所に預ける制度です。
2020年7月10日に始まりました。
法務局では遺言書の原本と画像データが保管されるため、自宅保管で起こりやすい紛失、隠匿、破棄、改ざんなどを防ぎやすくなります。
法務局で保管された遺言書については、遺言者の死亡後に家庭裁判所の検認を受ける必要がありません。
公正証書遺言より費用を抑えながら、自筆証書遺言を安全に保管したい人に適した制度です。

法務局に遺言書を預けるメリット

法務局で保管する主なメリットは次のとおりです。

・遺言書の紛失を防げる
・相続人などによる隠匿、破棄、改ざんを防げる
・家庭裁判所の検認が不要になる
・外形的な様式を法務局で確認してもらえる
・遺言者の死亡後、指定した人に遺言書が保管されていることを通知できる
・公正証書遺言より費用を抑えやすい

自宅で保管した自筆証書遺言が見つかった場合、家族は家庭裁判所へ検認を申し立てなければなりません。
法務局で保管した遺言書は検認が不要なため、相続人は遺言書情報証明書を取得し、相続登記や預貯金の手続きなどを進められます。
保管申請の際には、法務局の遺言書保管官が、署名、日付、押印、余白などの外形的な様式を確認します。
明らかな様式不備に気づける点も、自宅保管にはないメリットです。

法務局保管制度のデメリット

法務局で保管してもらえば、遺言書の内容まで有効になるとは限りません。
法務局が確認するのは、法律で定められた形式や、保管制度で必要となる外形的な様式です。
誰にどの財産を相続させるのかという内容や、遺留分への配慮、財産の特定方法などについて法的な助言を受けられるわけではありません。

遺留分を侵害する遺言書が直ちに無効になるわけではありませんが、相続開始後に金銭を請求される可能性があります。
遺留分の計算方法や請求期限、トラブルを防ぐ対策については、遺言書で遺留分を侵害したらどうなる?請求される金額・期限・対策で詳しく解説しています。

法務局に形式上は受理されても、内容が不明確で相続手続きに利用できなかったり、相続人同士の争いにつながったりする可能性があります。
そのほか、次のような注意点があります。

・遺言者本人が法務局へ行かなければならない
・家族や専門家による代理申請はできない
・法務局では遺言内容の相談に応じてもらえない
・保管後に内容を直接書き換えることはできない
・内容を変更する場合は、新しい遺言書の作成や再申請が必要になる
・遺言者が制度を利用したことを誰にも伝えていないと、死後すぐに気づかれない可能性がある

高齢や病気などで法務局へ出向くことが難しい人には、利用しにくい場合があります。
遺言内容に不安がある場合は、法務局へ申請する前に弁護士や司法書士などへ相談することも検討しましょう。

法務局へ申請できる場所

保管申請ができるのは、次のいずれかを管轄する遺言書保管所です。

・遺言者の住所地
・遺言者の本籍地
・遺言者が所有する不動産の所在地

すべての法務局で遺言書を保管しているわけではありません。
事前に法務省や管轄法務局の案内で、申請できる遺言書保管所を確認します。
申請手続きは原則として予約制です。
予約をせずに法務局へ行っても、当日に手続きできない可能性があります。

必要書類と費用

法務局で自筆証書遺言を保管してもらう場合は、主に次のものを準備します。

・所定の様式で作成した自筆証書遺言
・遺言書保管申請書
・本籍と戸籍の筆頭者が記載された住民票の写し
・マイナンバーカードや運転免許証などの顔写真付き本人確認書類
・手数料3,900円分の収入印紙

住民票の写しは、本籍と戸籍の筆頭者が記載され、マイナンバーや住民票コードが記載されていない、発行後3か月以内のものを用意します。
保管申請の手数料は、遺言書1通につき3,900円です。
保管後に毎年支払う保管料はありません。
ただし、住民票などの取得費用や、遺言書の作成を専門家へ依頼した場合の報酬は別にかかります。
たとえば、自分で遺言書を作成して法務局へ申請する場合は、3,900円と必要書類の取得費用が基本的な負担になります。
弁護士や司法書士などに内容の確認や作成支援を依頼する場合は、その報酬が加わります。
専門家への報酬は、遺言内容や財産の種類、依頼する業務の範囲によって異なります。

法務局へ遺言書を預ける流れ

法務局へ遺言書を預ける基本的な流れは次のとおりです。

  • 法務局の保管制度に対応した様式で自筆証書遺言を作成する
  • 申請先となる遺言書保管所を確認する
  • 遺言書保管申請書と必要書類を準備する
  • 遺言書保管所へ申請日時を予約する
  • 遺言者本人が遺言書保管所へ行き、必要書類を提出して手数料を納める
  • 保管証を受け取る

遺言書は、法務局が指定する用紙や余白などの様式を満たす必要があります。
封筒に封をした状態では申請できません。
保管証には、遺言者の氏名、出生年月日、手続きした遺言書保管所、保管番号などが記載されます。
保管証を紛失しても遺言書の効力が失われるわけではありませんが、後の手続きを円滑にするため大切に保管しましょう。

遺言者の死亡後に通知してもらえる

法務局の保管制度には、遺言者の死亡後に遺言書が保管されていることを知らせる通知制度があります。
遺言者が申請時などに通知対象者を指定しておくと、法務局が遺言者の死亡を確認した後、指定された人へ通知が送られます。
通知対象者は3人まで指定できます。
このほか、相続人などのうち誰かが遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書を閲覧したりした場合には、ほかの相続人などへ遺言書が保管されていることが通知されます。
ただし、法務局に預ければ必ず家族がすぐに遺言書の存在を知るとは限りません。
保管制度を利用したことや、保管証の場所を信頼できる家族、遺言執行者などへ伝えておくと、相続開始後の確認がスムーズになります。

公正証書遺言の原本は公証役場などで保管される

公正証書遺言は、遺言者が伝えた内容をもとに公証人が作成する遺言書です。
2025年10月1日から、公正証書は原則として電磁的記録で作成されるようになりました。
電磁的記録で作成された原本は、日本公証人連合会が運営するシステム内の、公証人が管理する領域で保存されます。
紙で作成された公正証書遺言の原本は、公証役場で保管されます。
遺言者には正本や謄本が交付されるため、自宅に置いていた正本や謄本を紛失しても、保管されている原本まで失われるわけではありません。
公正証書遺言には、次のようなメリットがあります。

・公証人が作成に関与する
・形式不備によって無効になる危険を抑えやすい
・原本の紛失、隠匿、破棄、改ざんを防ぎやすい
・家庭裁判所の検認が不要
・自分で全文を書くことが難しい人でも利用できる場合がある

一方で、作成には証人2人以上の立ち会いが必要です。
公証人手数料もかかり、金額は相続させる財産の価額や遺言内容によって変わります。
証人を専門家へ依頼した場合や、遺言書の原案作成を依頼した場合には、その報酬も必要です。

公正証書遺言が向いている人

公正証書遺言は、次のような人に向いています。

・形式不備による無効をできる限り避けたい
・相続人同士でもめる可能性がある
・不動産や事業用財産などが含まれている
・財産の分け方が複雑
・遺言書を自分で全文書くことが難しい
・自宅や法務局での自筆証書遺言より確実性を重視したい

費用はかかりますが、遺言内容と保管の両方について安心を得やすい方法です。
ただし、公正証書遺言であっても、遺留分などをめぐって争いが起こらないことまで保証されるわけではありません。
家族関係や財産状況に不安がある場合は、弁護士、司法書士、税理士などへの相談も検討しましょう。

遺言書を貸金庫に保管する場合の注意点

銀行の貸金庫は、自宅よりも火災や盗難の危険が少ないため、遺言書の保管場所として考える人もいます。
しかし、遺言書を貸金庫だけに保管する方法には注意が必要です。
銀行が契約者の死亡を知った後は、貸金庫をすぐに開けられず、相続人の確認や必要書類の提出などを求められることがあります。
遺言書を確認しなければ相続人や遺言執行者が分からないのに、相続人を確認しなければ貸金庫を開けられないという状況になる可能性もあります。
貸金庫を利用する場合は、利用している銀行や支店名、貸金庫に遺言書があることを、信頼できる家族などへ伝えておく必要があります。
ただし、安全性と死後の取り出しやすさを考えると、自筆証書遺言は法務局へ預ける方が分かりやすい場合があります。

遺言書の存在と保管場所を家族に伝える方法

遺言書は内容を生前に家族へ見せる必要はありません。
しかし、遺言書を作成した事実まで秘密にすると、死後に見つけてもらえない可能性があります。
少なくとも、信頼できる家族や遺言執行者には、次の情報を伝えておきましょう。

・遺言書を作成していること
・自宅、法務局、公証役場のどこで保管しているか
・自宅保管の場合は、おおよその保管場所
・法務局保管の場合は、保管証を置いている場所
・公正証書遺言の場合は、作成した公証役場や公証人の情報
・遺言書の作成を依頼した専門家の連絡先
・遺言執行者を指定しているかどうか

エンディングノートに遺言書の保管場所を記載する方法もあります。
ただし、エンディングノートには遺言書と同じ法的効力はありません。
財産の分け方など法的な効力を持たせたい内容は遺言書へ記載し、エンディングノートは遺言書の存在や保管場所を家族へ伝えるために活用します。

エンディングノートに記載する内容や遺言書との違い、保管するときの注意点については、エンディングノートとは?何を書く?書き方・遺言書との違いと家族で作るメリットで詳しく解説しています。

自宅・法務局・公正証書遺言のどれを選ぶ?

どの保管方法が適しているかは、費用、安全性、遺言内容、家族関係によって異なります。

自宅保管が向いている人

・できるだけ費用をかけたくない
・遺言書を自分で安全に管理できる
・信頼できる家族に保管場所を伝えられる
・検認による家族の負担を理解している

自宅保管は手軽ですが、紛失や未発見、検認の負担を考えておく必要があります。

法務局保管が向いている人

・自筆証書遺言を安全に保管したい
・公正証書遺言より費用を抑えたい
・家庭裁判所の検認を不要にしたい
・本人が法務局へ出向いて申請できる
・遺言内容を自分で確認できる、または事前に専門家へ相談できる

費用と安全性のバランスを重視する場合は、法務局保管が有力な選択肢です。

公正証書遺言が向いている人

・遺言内容の確実性を重視したい
・形式不備による無効を避けたい
・財産や相続関係が複雑
・相続人同士の争いが予想される
・自分で遺言書を全文書くことが難しい
・費用がかかっても家族の負担を減らしたい

単に遺言書を安全に保管するだけでなく、作成段階から確実性を高めたい場合は、公正証書遺言が向いています。

まとめ

自筆証書遺言の保管場所には法律上の決まりがなく、自宅で保管することもできます。
ただし、自宅保管には、紛失、災害、隠匿、破棄、改ざん、死後も発見されないといった危険があります。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、1通3,900円で原本を保管してもらえます。
法務局で保管された遺言書は家庭裁判所の検認が不要となり、遺言者の死亡後に指定した人へ通知してもらうこともできます。
ただし、法務局は遺言内容の法的な有効性まで保証するわけではありません。
内容に不安がある場合は、申請前に専門家へ相談することが大切です。
遺言内容と保管の確実性を重視する場合は、公正証書遺言も選択肢になります。
どの方法を選ぶ場合でも、遺言書を作成したことや保管場所を信頼できる人へ伝え、亡くなった後に確実に見つけてもらえる状態にしておきましょう。

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