認知症(にんちしょう)を心配して、脳トレや健康食品を始めようと考える方もいるでしょう。
けれども、これさえ続ければ認知症にならない、という方法はありません。
大切なのは、体を動かすこと、食事、人とのつながり、持病の管理などを、暮らしに合う形で組み合わせることです。
この記事では、発症のリスクを下げるために取り組みたいことと、予防情報を読むときの注意点を整理します。
認知症予防は「必ず防ぐ」ことではない
認知症は、脳の病気などによって記憶や判断といった認知機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態です。
年齢、体質、病気、生活環境など、さまざまな要因が関係します。
生活習慣を整えることには意味がありますが、取り組んだ人が必ず発症を避けられるわけではありません。
認知症になったとしても、本人や家族の努力不足と考える必要はありません。
検査の点数と発症の予防を分けて考える
予防法を紹介する広告や記事では、研究で何が確かめられたのかを見ましょう。
課題を繰り返して記憶テストの点数が上がったことと、何年も先の認知症の発症が減ったことは、同じ結果ではありません。
参加者の年齢や健康状態、調べた期間も重要です。
「脳が活性化する」という説明だけで、高額な商品や講座の効果を判断しないようにしましょう。
日常生活で取り組みたい五つのこと
体調に合わせて体を動かす
定期的な身体活動は、認知機能の健康を保つために勧められる取り組みの一つです。
散歩だけにこだわらず、体操や家事など、自分が安全に続けられる活動を選びましょう。
運動をしていなかった方は、最初から長い距離や速い歩行を目標にする必要はありません。
例えば、近所を短時間歩いて体調を確かめ、無理のない範囲で生活に取り入れます。
膝や腰の痛み、心臓や呼吸器の病気がある場合は、主治医に適した運動を相談してください。
歩くことが難しくても、座って行う体操などを検討できます。
運動中に胸の痛みや強い息苦しさ、めまいが出たら中止しましょう。
暑さや路面の状態にも気を配り、雨の日には室内でできる活動へ切り替えるなど、安全に続ける工夫が大切です。
運動の始め方は、認知症予防の運動は何から始める?安全に続ける歩行・体操の工夫で詳しく紹介しています。
一つの食品に頼らず食事全体を整える
食生活は、特定の食品を大量に食べることより、食事全体の偏りを見直すことから始めましょう。
主食に加えて、魚、肉、卵、大豆製品などのおかずや野菜を組み合わせると、何が不足しているかを考えやすくなります。
「魚を食べれば認知症を防げる」「糖分を完全に抜けばよい」といった単純な方法に置き換えないことが大切です。
高齢期には、食事を減らしすぎて低栄養になることにも注意が必要です。
体重が意図せず減る、食欲が落ちる、噛みにくいといった変化があれば相談しましょう。
腎臓病や糖尿病などで食事療法を受けている方は、その指示を優先してください。
買い物や調理が負担なら、配食や総菜を組み合わせる方法もあります。
毎食を手作りにすることより、無理なく食べ続けられる環境を整えましょう。
献立や買い物の工夫は、認知症予防の食事はどう考える?低栄養を避けて無理なく整える食生活で解説しています。
血圧や血糖などの管理を続ける
高血圧や糖尿病などの管理は、体全体の健康とともに、認知症のリスクを考えるうえでも重要です。
健診で指摘された数値を放置せず、必要な受診や治療を続けましょう。
血圧などの目標は、年齢や持病、体の状態によって異なります。
インターネットで見た数値に合わせて、薬を自分で増減したり中止したりしないでください。
受診前には、測定記録や飲んでいる薬を整理しておくと相談が進めやすくなります。
飲み忘れが増えた場合は、気合いで解決しようとせず、医師や薬剤師に伝えましょう。
薬の管理方法を見直すことも、暮らしを支える対策になります。
禁煙や過量飲酒の見直しも大切ですが、予防のために飲酒を始める必要はありません。
無理のない人とのつながりを持つ
人との交流や社会参加は、認知症のリスク低減に関係する取り組みとして挙げられています。
大人数の集まりが苦手なら、親しい人との電話、近所での挨拶、少人数の趣味の会など、自分に合う方法を選びましょう。
一人暮らしだから必ず認知症になるわけではありません。
交流の回数を競うのではなく、心地よい関わりを持てることが大切です。
外出先が見つからないときは、市区町村の広報や地域包括支援センターで、地域の活動を尋ねる方法があります。
参加費だけでなく、移動手段、会場の階段、休憩できる場所なども確認すると安心です。
家族は予定を一方的に増やすより、本人が会いたい人や続けたいことを聞いてみましょう。
気分の落ち込みが続いている場合は、参加を急がせず医療機関に相談してください。
聞こえや見え方の不調を放置しない
聞き取りにくさがあると、会話についていけず、人と会うことが負担になる場合があります。
テレビの音量が大きくなった、聞き返しが増えたと感じたら、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)で相談しましょう。
補聴器は、聞こえの状態を調べ、自分に合う調整を受けて使うことが大切です。
購入するだけで認知症を防げる、と考えるものではありません。
見えにくさについても、眼科で原因や必要な対応を確認してください。
読み物の文字を大きくする、部屋の明るさを調整するなどの工夫は、日々の活動を続ける助けになります。
家族との会話では、顔を見てゆっくり話し、周囲の音を減らす方法も試せます。
本人の反応が遅いことを、すぐに物忘れや理解力の低下と決めつけないようにしましょう。
脳トレや趣味は楽しめる形で取り入れる
読書、楽器、手芸、将棋、料理など、考えながら楽しむ活動も選択肢です。
認知トレーニングによって一部の認知機能に改善が見られる研究はありますが、市販のゲームや計算問題を続ければ認知症を防げる、と断定することはできません。
正解数や速さばかりを気にせず、興味を持って続けられる内容を選びましょう。
難しすぎて疲れる場合は、問題の量や難易度を下げても構いません。
家族と一緒に行うときも、間違いを責めたり、以前の成績と比べたりしない配慮が必要です。
園芸や散歩など、体を動かすことと楽しみを組み合わせる方法もあります。
ただし、歩きながら難しい課題を行うなど、転倒につながるやり方は避けてください。
サプリメントや香りの宣伝に注意する
栄養不足などの治療として補充が必要な場合と、健康な人が認知症予防を目的にサプリメントを飲む場合は別です。
ビタミンや魚油のサプリメントを飲めば発症を防げるという理由で、自己判断で飲み続けることは勧められません。
利用中の製品があれば、薬との組み合わせも含めて医師や薬剤師に確認してください。
香りを楽しむことと、認知症の発症を予防することも分けて考えましょう。
アロマに関する研究はありますが、香りを取り入れれば発症を防げると確立しているわけではありません。
本人が好む香りを楽しむ範囲にとどめ、不快感があればやめましょう。
物忘れの変化があるときに、商品を試すだけで受診を先延ばしにしないことが大切です。
眠りの不調も相談する
不眠や強い日中の眠気が続くときは、かかりつけ医に相談しましょう。
眠れないことをすぐに認知症と結び付けたり、睡眠時間を一律に増やしたりする必要はありません。
生活リズムや睡眠環境、体調、服用中の薬などを確認し、自分に合う対応を考えます。
脳トレの具体例は、脳トレは認知症予防になる?効果の考え方と無理なく楽しむ五つの方法で紹介しています。
今日から始める計画の立て方
最初に、今の生活で続いていることと、負担になっていることを書き出してみましょう。
散歩は好きでも料理が負担なら、運動の回数を増やすことより、食事を用意しやすくする工夫が役立つかもしれません。
すべての項目を一度に始める必要はありません。
自分が困っていることを一つ選び、小さな行動に置き換えます。
例えば「天気のよい日に近所を少し歩く」「週末に友人へ電話する」「次の受診で聞こえの相談をする」といった具体的な予定にします。
これは実行しやすくするための例であり、その頻度で認知症を防げるという基準ではありません。
一週間ほど試して、疲れや費用、楽しさを振り返り、合わなければ内容を変えましょう。
記録は、できたことに丸を付ける程度でも十分です。
できなかった日の埋め合わせを無理にする必要はありません。
家族が支援する場合も、本人が選んだ目標を共有し、送迎や買い物など、必要な部分を手伝う形がよいでしょう。
予防のための活動が、本人を追い詰める宿題にならないことが大切です。
生活に支障が出ているときは予防だけで済ませない
同じ支払いを繰り返す、慣れた場所で道に迷う、薬の管理が難しくなるなど、以前と違う変化が生活に影響している場合は、かかりつけ医やもの忘れ外来へ相談してください。
家族は、いつから、どのような場面で困っているかを具体的にメモしておくと説明しやすくなります。
本人を試すように質問を繰り返す必要はありません。
物忘れの原因は認知症だけとは限りません。
家庭でのチェックやゲームの成績だけで判断せず、医療機関で必要な評価を受けることが大切です。
予防に取り組むことと、変化に気づいて相談することを、別々の大切な行動として考えましょう。
無理のない生活習慣を重ねながら、必要な支援につながれる環境を整えていくことが、これからの暮らしを支えます。
物忘れの変化については、老化による物忘れはどうすればいい?物忘れと認知症の見分け方や対策について徹底解説もご覧ください。



