遺骨を持ち帰る行為は罪になるのか?

葬儀・仏事

葬儀やお骨上げの場で、故人の遺骨を巡るトラブルは絶えない。
中には、親族以外の関係者が遺骨を強く希望し、独断で持ち帰ろうとするケースもある。
遺骨を無断で持ち帰る行為は犯罪になるのか。
また、法的には誰に遺骨の所有権があるのか。
オウム真理教の元代表・麻原彰晃(松本智津夫)元死刑囚の遺骨を巡る国と遺族の裁判例や、愛人がお骨上げで遺骨を勝手に持ち帰った場合の法的リスクなどを交え、遺骨の法的な取り扱いについて詳細に解説する。

遺骨は勝手には持ち帰られない

結論から言うと、正当な権限がない者が他人の遺骨を勝手に持ち帰った場合、刑法に抵触し、処罰される可能性が高い。

日本の刑法第190条には「死体損壊等罪」が定められている。
この条文では、死体、遺骨、遺髪、または棺内に蔵置した物を損壊し、遺棄し、または領得した者は、3年以下の懲役に処すると規定されている。

ここで重要になるのが「領得」という言葉である。
領得とは、不法に自分のものにすること、すなわち、正当な権利がないのに自分の支配下に置く行為を指す。
したがって、葬儀や火葬の場であっても、正当な管理者の許可を得ずに遺骨をポケットに入れたり、カバンに隠して持ち帰ったりする行為は、遺骨の「領得」に該当し、死体損壊等罪(遺骨領得罪)が成立する。

遺骨は一般的な「物」とは異なり、宗教的・感情的な崇拝の対象であるため、法律によって厳重に保護されている。
単なる窃盗罪ではなく、社会的風俗や宗教的感情を害する罪として重く扱われる点が特徴である。

麻原彰晃の遺骨訴訟に見る「遺骨の所有権」

遺骨が誰のものになるのかという問題は、法律上非常に複雑である。
これに関する重要な最高裁判所の判断や、近年大きな注目を集めたのが、オウム真理教の元代表・麻原彰晃(松本智津夫)元死刑囚の遺骨を巡る裁判である。

麻原元死刑囚の遺骨を巡る経緯

麻原元死刑囚は2018年に死刑が執行された。
その際、拘置所側に対して、自らの遺骨の引取先として「四女」を指定したとされる。
しかし、これに対して麻原元死刑囚の妻や他の子供たち(次女など)が反発し、遺骨の引き渡しを求めて国を相手に裁判を起こした。

2021年、最高裁判所は次女側の特別抗告を棄却し、遺骨の引取先を「四女」とする決定を確定させた。
さらにその後も、次女側が遺骨の引き渡しを求める訴訟を継続したが、裁判所は一貫して四女への引き渡しを認める、あるいは国側の措置を妥当とする判断を下している。

法律における「祭祀主宰者」の概念

この裁判で最大の争点となったのが、民法第897条に定められた「祭祀主宰者」の概念である。
民法では、系譜、祭具、および墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると規定されている。
遺骨は、この「墳墓」などに準じるもの、あるいは祭祀の対象として、祭祀主宰者に帰属すると解釈されている。

祭祀主宰者は、以下の順序で決定される。

  1. 被相続人(故人)の指定
  2. 地域の慣習
  3. 家庭裁判所の審判

麻原元死刑囚のケースでは、本人が口頭で四女を指定したという拘置所側の記録が重視され、執行を指揮した国側の判断が支持される形となった。
この事例からも分かるように、遺骨の所有権は「遺族で話し合って分ける」のが原則ではなく、法的には「祭祀主宰者」という特定の1人に帰属するものとされる。

愛人がお骨上げで遺骨を勝手に持ち帰ったらどうなるか

では、より身近に起こり得る具体的なトラブルとして、「故人の愛人(内縁の妻や恋人)が、お骨上げの場で遺骨を勝手に持ち帰った場合」について、法的・実務的な観点から検証する。

刑事上の責任(死体損壊等罪の成否)

葬儀や火葬の場において、遺骨を管理しているのは通常、喪主や葬儀委員長、あるいは火葬場の管理者である。
愛人という立場は、どれだけ生前に深い関係があったとしても、法律上の婚姻関係がないため、当然に祭祀主宰者となるわけではない。

遺族(正当な祭祀主宰者)の同意を得ずに、お骨上げのドサクサに紛れて遺骨の一部を箸でつまんで自分の容器に入れたり、持ち去ったりした場合、前述した刑法190条の「遺骨領得罪」が成立する。

過去の裁判例でも、遺族に無断で遺骨を持ち去った行為に対して、有罪判決が下された事例が存在する。
愛人側が「生前、彼から遺骨を一部持ってほしいと言われていた」と主張したとしても、客観的な証拠(遺言書など)がない限り、無断での持ち帰りが正当化されることはない。

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民事上の責任(不法行為による損害賠償)

遺骨を勝手に持ち帰られた遺族は、民事上、愛人に対して「遺骨の返還請求」を行うことができる。
遺骨は祭祀主宰者の所有物であるため、無権利者による占有は違法である。

さらに、大切な家族の遺骨を奪われたことによる精神的苦痛に対する「慰謝料」の請求も可能である。
遺骨の不法領得に伴う慰謝料の相場は、事案の悪質性や遺骨が戻ってきたか否かによって異なるが、数十万円から数百万円に及ぶこともある。

火葬場や葬儀社側の対応

実務上、お骨上げの場には火葬場の職員や葬儀社のスタッフが立ち会っている。
もし愛人が怪しい動きをしたり、遺骨をポケットに入れようとしたりしたのを発見した場合、スタッフはトラブル防止のために制止する。

しかし、スタッフは警察官ではないため、強制的に身体検査をすることはできない。
そのため、その場で揉め事になった場合は、葬儀社から遺族へ報告が行き、最終的には遺族から警察へ通報する形になる。
警察が介入すれば、現場で遺失物や窃盗、死体損壊の疑いで事情聴取が行われることになる。

遺骨の一部を分ける「分骨」の正しい手続き

愛人や親しい友人が「どうしても故人の形見として遺骨を手元に置いておきたい」と願う場合、犯罪にならずにそれを実現する方法は「分骨」しかない。
ただし、これには正当な手続きと、祭祀主宰者の同意が不可欠である。

1. 祭祀主宰者(喪主・遺族)の同意を得る

法的な所有権を持つ祭祀主宰者が「分骨しても良い」と認めない限り、どのような人間であっても遺骨を分けてもらうことはできない。
愛人という立場であれば、まずは遺族に誠意を尽くして願い出、合意を得る必要がある。
遺族との関係が冷え切っている場合は非常に困難であるが、これが大前提となる。

2. 火葬場で分骨する場合の手続き

火葬当日にお骨上げのタイミングで分骨する場合は、あらかじめ葬儀社や火葬場にその旨を伝えておく必要がある。

  • 分骨用の骨壺の用意: 通常の骨壺とは別に、分骨用の小さな骨壺を必要数用意する。
  • 分骨証明書の発行: 火葬場から「分骨証明書(火葬証明書)」を発行してもらう。
    この書類は、将来的に分骨した遺骨を別のお墓や納骨堂に納める(納骨する)際に、法律上必ず必要となる書類である。

3. すでにお墓に納められている遺骨を分骨する場合

すでに墓地や納骨堂に埋蔵されている遺骨を取り出して分骨する場合は、手続きがさらに複雑になる。

  • 墓地管理者の立会い: 現在お墓がある墓地の管理者に連絡し、墓石を動かして遺骨を取り出す。
  • 分骨証明書の発行: 墓地の管理者(寺院の住職や霊園の管理事務所)から「分骨証明書」を発行してもらう。
  • 石材店への依頼: 墓石の開閉には専門の石材店の手配が必要となることが多く、費用が発生する。

生前にトラブルを防ぐための対策

遺骨を巡るトラブルは、故人が生前に明確な意思表示をしていなかったことに起因する場合が多い。
もし、特定の人物(法律上の家族ではない内縁の妻や愛人、特定の友人など)に遺骨を渡したい、あるいは一部を分骨してほしいと願う場合は、生前から準備をしておく必要がある。

遺言書による「祭祀主宰者の指定」

最も法的効力が高いのは、公正証書遺言などの遺言書において、遺骨の管理を含めた「祭祀主宰者」を指名しておくことである。
民法第897条にある通り、被相続人の指定は最優先されるため、遺言書で「私の祭祀主宰者を〇〇(愛人の氏名など)と指定する」と明記してあれば、その人物が遺骨を受け取る正当な権利を持つことになる。

ただし、法律上の遺族(妻や子供)がいる場合、このような指定は激しい感情等対立を生む可能性が高い。
遺言書に指定があったとしても、遺族が火葬場へ赴いて遺骨を回収してしまい、泥沼の裁判に発展するリスクは残る。

死後事務委任契約の活用

単に遺骨の引き取りだけでなく、葬儀の執行や納骨の手続き全般を特定の人に託したい場合は、弁護士や行政書士を交えて「死後事務委任契約」を締結しておく方法が有効である。

この契約を結んでおくことで、本人が亡くなった後、受任者が火葬場から遺骨を引き取り、本人が希望した方法(特定の場所への納骨や散骨など)で供養することができる。
遺族への配慮として、遺言書の「付言事項」に、なぜその人に遺骨を託すのかという理由や心情を書き残しておくことで、死後のトラブルを和らげる効果が期待できる。

遺骨の移動に関する注意点と散骨のルール

正当な手続きを経て分骨された遺骨、あるいは手元供養のために持ち帰った遺骨であっても、その後の扱いには法律上の制限がある。

自宅に保管する「手元供養」

分骨した遺骨を自宅のリビングなどに置いて供養する「手元供養」自体は、法律(墓地、埋葬等に関する法律、通称「墓埋法」)には違反しない。
遺骨を自宅に置いておく期間に制限はなく、一生涯手元に置いておいても罪に問われることはない。

庭に埋める行為は違法

手元供養のために持ち帰った遺骨を、「故人が好きだったから」という理由で自宅の庭や所有地に埋める行為は、墓埋法第4条に違反する。
同条では「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域にこれを行つてはならない」と定められており、違反した場合は罰則(拘留または科料)が科される。遺骨をお墓以外の土に埋めることは一律で禁止されている。

散骨(海洋散骨など)の現状

遺骨を粉末状(2ミリメートル以下)にして海などに撒く「散骨」については、現在の日本の法律に直接的な禁止規定はない。
政府の見解としても、「墓埋法は散骨を想定しておらず、節度をもって行われる限りは違法ではない(不処罰)」とされている。

しかし、どこにでも撒いて良いわけではない。
自治体によっては条例で散骨を禁止・制限している地域(観光地や水源地など)があるほか、他人の私有地や漁場に近い海域での散骨は、民事上の損害賠償請求やトラブルの原因となる。
散骨を行う場合は、専門の業者に依頼し、ガイドラインに沿って安全に実施することが求められる。

まとめ

遺骨は、単なる物質的な遺産ではなく、故人の尊厳と遺族の敬愛の念が込められた特殊な対象である。
そのため、いかなる理由があろうとも、正当な権利を持たない者が無断で遺骨を持ち帰る行為は、刑法上の「死体損壊等罪(遺骨領得罪)」に該当する犯罪行為となる。

麻原彰晃元死刑囚の裁判例が示すように、遺骨の帰属先は「祭祀主宰者」という法的な枠組みによって厳格に判断される。
愛人や内縁関係にある者が遺骨を希望する場合は、お骨上げの場で強行突破するようなことは絶対に避け、生前に遺言書や死後事務委任契約による指定を受けるか、死後に遺族の同意を得て正規の手続きによる分骨を行うしか道はない。

残された者が遺骨を巡って争うことは、故人の本意ではないはずである。
特別な事情がある場合こそ、生前からの法的な準備と、周囲の理解を得るための努力が不可欠であると言える。

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