親の介護で揉める5つのこと

介護

親が高齢になり、介護が必要になった時、多くの家庭で直面するのが「介護を巡る兄弟姉妹間のトラブル」だ。親の健康状態が悪化し、緊急性を要する状況の中で、普段は仲の良い兄弟姉妹でも、感情的になったり、意見が対立したりすることは珍しくない。結果的に、親が適切な介護を受けられなかったり、兄弟姉妹間の関係に深い溝ができてしまったりと、後悔を残すケースも少なくない。

今回は、親の介護で特に揉めやすい5つのポイントに焦点を当て、それぞれの問題とその乗り越え方について具体的に解説していく。これは、あなたが後悔しないため、そして兄弟姉妹が協力して親を支えるために、ぜひ知っておいてほしいリアルな課題だ。


1. 介護の「分担」を巡る対立:誰が、何を、どこまでやるのか

親の介護が始まった時、最初に直面するのが「誰が、何を、どこまでやるのか」という役割分担の問題だ。この問題は、兄弟姉妹の居住地、仕事、家族構成、そして親との関係性の深さによって、非常に複雑な感情が絡み合う。

最もよくあるのは、実家近くに住む長男や長女、あるいは同居している子供に介護の負担が集中し、遠方に住む兄弟姉妹が「何もしていない」と見なされ、不満が募るケースだ。例えば、毎日親の食事の準備や入浴介助をしている兄弟姉妹からすれば、たまに顔を出すだけの兄弟姉妹が「もっと手伝ってほしい」と言うのは当然の感情だろう。しかし、遠方の兄弟姉妹にも「仕事がある」「子供の世話がある」といったそれぞれの事情がある。

また、「誰が介護休暇を取るのか」「誰が病院に連れていくのか」「誰がケアマネージャーと連絡を取るのか」といった具体的な役割分担があいまいなまま進むと、特定の兄弟姉妹にばかりタスクが降りかかり、不公平感が募りやすい。

乗り越え方:

  • 早めに「家族会議」を開き、全員で介護の現状と将来について話し合う。親の意思も尊重し、全員が参加する機会を設ける。
  • 役割分担を明確にする。介護の中心となる人を決めつつ、遠方の兄弟姉妹も金銭的な援助、情報収集、精神的なサポートなど、それぞれの状況に応じた形で貢献できる役割を見つける。
  • 「できないこと」を明確にする。それぞれが抱える制約(仕事、家庭、健康など)を正直に伝え、無理のない範囲で何ができるかを共有する。
  • ケアマネージャーや地域包括支援センターなど、専門家を交えて話し合う。第三者の視点が入ることで、客観的な役割分担の提案が得られることもある。

2. 介護の「方針」を巡る対立:医療 vs 在宅、施設 vs 同居

親の介護方針は、子供たちの価値観や親への思いによって大きく異なるため、意見の対立が生まれやすい。「できる限り自宅で看たい」「専門の施設に入居させるべきだ」「いや、うちは長男(長女)が同居すべきだ」など、様々な考えが衝突する。

ある家庭では、長女は「親には住み慣れた家で最期まで過ごしてほしい」と在宅介護にこだわり、長男は「これ以上負担をかけるべきではない」と施設入居を強く主張し、話し合いが平行線をたどったという。その間にも親の体調は悪化し、結果的に適切な対応が遅れてしまった。

また、医療方針を巡っても揉めることがある。「延命治療はどこまでするのか」「病院はどこを選ぶのか」「どのサービスを利用するのか」など、意見がまとまらないと、親に必要な介護や医療が提供されず、最悪の事態を招く可能性もある。

乗り越え方:

  • 親の「意思」を最優先する。親が元気なうちに、どのような老後を送り、どのような介護を受けたいか、どんな最期を迎えたいかを話し合い、エンディングノートなどに記してもらう。
  • 複数の選択肢を情報収集する。在宅介護の現実、施設の費用やサービス内容、医療の選択肢など、具体的な情報を集め、全員で共有する。
  • 専門家(ケアマネージャー、ソーシャルワーカー、医師など)の意見を聞く。専門家のアドバイスは、感情的な対立を避ける上で客観的な判断材料となる。
  • 一度に結論を出そうとしない。介護は長期にわたるため、段階的に方針を検討し、柔軟に見直していく姿勢も大切だ。

3. 介護費用の「負担」を巡る対立:公平性はどう担保する?

介護には、様々な費用がかかる。介護サービス費、医療費、オムツ代などの消耗品費、場合によっては施設の入居費用など、月々数万円から数十万円に及ぶこともある。この費用負担を巡って、兄弟姉妹間で激しい対立が起こることは非常に多い。

よくあるのが、「親の年金や貯蓄で足りない分をどうするのか」という問題だ。長男だから多めに負担すべきか、経済的に余裕がある兄弟姉妹が負担すべきか、それとも均等に負担すべきか。また、親の生前の世話をしていたか否かによって、「介護を直接しているのだから、金銭的な負担は少なくて当然」と考える兄弟姉妹と、「金銭面では貢献すべき」と考える兄弟姉妹の間で、認識のずれが生じやすい。

親の財産を巡る問題(遺産相続)と介護費用が混同され、過去のわだかまりが噴出することもある。

乗り越え方:

  • 親の資産状況を全員で共有する。年金収入、貯蓄、不動産など、親がどれくらいの資産を持っているかを明確にする。
  • 具体的な費用の内訳を明確にする。介護サービス費、医療費、消耗品費など、何にいくらかかるのかを具体的な数字で共有する。
  • 負担割合を明確にする。均等負担、収入に応じた負担、介護負担に応じた負担減など、兄弟姉妹全員で話し合い、合意形成を図る。
  • 「介護にかかった費用を遺産相続時に清算する」という取り決めも検討する。ただし、これは将来的な相続トラブルの火種になる可能性もあるため、弁護士や税理士などの専門家を交えて慎重に話し合う必要がある。
  • 介護保険制度や高額介護サービス費制度など、公的支援を最大限に活用する

4. 親の「財産管理」を巡る対立:認知症になったらどうする?

親が認知症になった場合、預貯金の引き出しや、介護サービスの契約、不動産の管理といった財産管理が困難になる。この時、「誰が親のお金を管理するのか」という点で、兄弟姉妹間で不信感や疑念が生じ、トラブルに発展しやすい。

例えば、親の通帳や印鑑を特定の兄弟姉妹が管理するようになった途端、「勝手にお金を使っているのではないか」「透明性がない」といった疑念が他の兄弟姉妹から向けられるケースがある。また、親の財産を巡る問題は、将来の遺産相続に直結するため、非常にデリケートな問題となる。

「あの時、親が元気なうちに財産管理について話し合っておけばよかった」と後悔する声は多い。

乗り越え方:

  • 親が元気なうちに、「任意後見制度」の活用を検討する。信頼できる弁護士や司法書士、あるいは特定の兄弟姉妹を任意後見人に選び、財産管理の方法を定めておく。これにより、親の判断能力が低下した後も、公正に財産が管理される体制を整えられる。
  • 成年後見制度の利用も検討する。すでに判断能力が低下している場合は、家庭裁判所に申し立てて法定後見人を選任してもらう。
  • 親の財産管理の透明性を確保する。定期的に収支報告を行う、領収書を全て保管する、複数の兄弟姉妹で通帳を確認できる体制を作るなど、疑念を生まない工夫が重要だ。
  • 税理士や弁護士など、第三者の専門家を交えて話し合う

5. 「過去の感情」が介護に持ち込まれる対立:親の愛情の偏り、兄弟間の確執

親の介護は、過去の兄弟姉妹間の関係性や、親からの愛情の偏りといった、長年積み重ねられてきた感情的な問題が表面化する場となることも多い。これが、最も根深く、解決が困難な対立の原因となることがある。

例えば、「子供の頃から、あの兄弟ばかり親に可愛がられていた」「親の介護は、今まで親の面倒を見てこなかったあの兄弟がやるべきだ」といった感情が噴出し、介護の話し合いが、過去の不満をぶつけ合う場になってしまう。また、親の生前の言動や、遺産相続の予期される問題が、介護の責任のなすりつけ合いに繋がることもあるだろう。

このような感情的な対立は、介護の具体的な問題解決を妨げ、兄弟姉妹間の関係を決定的に破壊してしまう可能性がある。

乗り越え方:

  • 介護の問題と、感情的な問題を切り離して考える努力をする。これは非常に難しいが、意識することが重要だ。
  • 感情的になった場合は、一度冷静になる時間を持つ。その場で結論を出さず、後日改めて話し合う。
  • 第三者(ケアマネージャー、カウンセラー、家族信託の専門家など)を間に立てて話し合う。客観的な視点やアドバイスは、感情の収拾に役立つことがある。
  • 「親を支える」という共通の目標に立ち返る。自分たちの感情よりも、親の安心・安全な生活を優先するという意識を持つ。
  • それぞれの「できること」「できないこと」を認め合う。完璧な介護は存在しないという理解を持つ。

まとめ:後悔しないために「早めの準備」と「対話」を

親の介護は、誰もが経験する可能性のある、しかし非常に困難な道のりだ。特に兄弟姉妹間のトラブルは、親の介護の質を低下させるだけでなく、家族の絆を壊してしまう悲しい結果を招くこともある。

今回挙げた5つの揉めやすいポイントは、いずれも「早めの準備」と「率直な対話」によって、ある程度の予防策を講じることが可能だ。親が元気なうちから、介護に対する親の意思を確認し、兄弟姉妹全員で集まって、介護の分担、方針、費用、財産管理、そしてそれぞれの感情についてもオープンに話し合う時間を持つこと。

完璧な解決策はないかもしれない。しかし、互いの状況を理解し、尊重し合い、親を支えるという共通の目標に向かって協力しようとする姿勢こそが、後悔のない介護、そして家族の絆を守るための何よりの力となるだろう。

タイトルとURLをコピーしました