はじめに
認知症を患う人数は、2012年に全国で462万人でしたが、2025年には700万人を超えるとされています。わずか10年間で1.5倍に増加するとの予想で、今後も大きく増えることが考えられるでしょう。
少子超高齢化社会を迎える日本では、認知症の予防と治療は重要な課題です。本記事では、認知症予防につながる運動方法についてお伝えします。
運動が認知症予防につながる理由
WHO(世界保健機関)が認知症リスク低減に向けた初のガイドラインでは、認知症は全く避けられないものではなく、ライフスタイルの改善等によりリスクを減らすことで予防が可能であるとしています。
その中で最も高い根拠・推奨レベルが示されているのが「身体活動」による方法です。軽度の認知機能障害のある成人に身体活動は有効であるとしています。
推奨される身体活動としては、65歳以上の成人に対し1週間に少なくとも150分の中強度の有酸素運動(詳しくは後述)、または75分の激しい有酸素運動をすること。
有酸素運動は少なくとも10分の長さで行うこと。さらなる健康上の利益のためには、週に300分まで中強度の有酸素運動を増やすか、150分の激しい有酸素運動を行うことなどを推奨しています。
運動療法の種類
認知症予防につながる運動療法の種類は、次の通りです。
関節の動きの訓練
関節の動きが良くない部分に動きを加え、関節の動きの改善、予防を図ります。
筋力増強の訓練
低下している筋肉を動かし、筋力の増強を図ります。
ストレッチ
短縮や萎縮を起こしている筋肉を伸して、柔軟性を促します。
持久性・耐久性の強化を促す運動
動作や活動を長時間続けられるための心肺機能、筋持久力、全身の持久性・耐久性の強化を促します。
バランス調整などを促す運動
力加減や方向、四肢・体幹の連動した動きなどの調整がうまくいかないことに対して、滑らかで効率の良い動きを促します。
生活の基本動作の練習
寝返る、起き上がる、座る、立つ、移乗する、歩くなどの日常生活に必要な基本的な動作の練習を行います。
有酸素運動
有酸素運動とは、ある程度の時間、無理なく続けられるような軽い運動のことです。運動をすれば筋肉を動かし脂肪を燃焼させるため、内臓脂肪が減ります。
有酸素運動の効果は、脂肪を燃焼させるダイエット、全身の血行が良くなること、脳細胞を活性化することと言われています。
主に、ウォーキングやエアロビクス、縄跳びなどが有酸素運動に該当します。
運動療法の効果
運動療法を継続することで、次のような効果が見込めます。
生活の質を保ち、介助量を軽減することができる
加齢や認知症の症状により、身体機能が低下すると、日常生活動作がますます困難となり、転倒のリスクも高くなり、骨折や怪我の原因となる場合も。運動療法を行うことにより身体機能の維持ができ、生活の質を保ち、介助量を軽減することができます。
運動により脳の活性化が促される
運動を行うことで脳の活性化が促され、認知症による認知機能の改善にも効果があることが証明されています
認知症予防のための運動「コグニサイズ」
認知症予防に効果のある療法の1つとして「コグニサイズ」が注目されています。
コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した身体運動と認知課題(計算、しりとりなど)を組み合わせた認知症予防の療法です。全身を使った軽く息がはずむ程度の負荷がかかる運動と、認知課題を同時に行うことで、脳の活動を活発にさせます。
コグニサイズ(cognicise)は、英語のcognition (認知) とexercise (運動) を組み合わせた造語です。Cognitionは脳に認知的な負荷がかかるような各種の認知課題が該当し、Exerciseは各種の運動課題が該当します。
足踏みコグニサイズ
コグニサイズの一例を紹介します。足踏みコグニサイズは、次の順に行います。
・ 一定のリズムで足踏みをしながら数を数えます
・「1,2,3,4,5・・・」と足踏みに合わせて声を出して数えます。
・「3の倍数」の時だけ声を出さずに手をたたきます。「1,2, パチ(手を叩く),4,5, パチ(手を叩く)」。
マルチステップコグニサイズ
足踏みコグニサイズをレベルアップしたものです。
・右足前→左足前→右足横→左足横の順にステップします
・足踏みコグニサイズと同様に、「3の倍数」の時だけ声を出さずに手をたたきます。「1,2, パチ(手を叩く),4,5, パチ(手を叩く)」。
認知症予防のための運動のポイント
認知症予防に向けて運動をはじめるにあたり、継続するためのポイントを紹介します。
すぐやれるものからやってみる
中には運動が苦手で不安を感じている方もいるかもしれませんが、気負い過ぎずできるものからやってみましょう。
有酸素運動では、1回20~30分の運動を週3回のペースで行うなど空き時間からやってみるのがおすすめです。
例えば、テレビを観ている時に椅子に座って足踏みを行う、外出時にはエレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使う、車は使わずに歩くなど、短時間の積み重ねが大きな結果につながります。
毎日の散歩がおすすめ
認知症予防に有効で、かつ簡単にでき長続きするものに、散歩やウォーキングがあります。
適度な運動は全身の血流を良くして細胞を活性化します。歩行の目安は1日30分以上、週3回以上です。持続するには日常生活に組み込み習慣化することです。
歩行計やスマホ・ウォーキングソフトにより1日の歩数目標(1日8000歩など)を設定して行うことができます。
まとめ
認知症の運動療法とは、認知症の予防、改善のために、運動を通して関節機能の改善、筋力の増強、全身耐久性の向上、動作の改善、転倒予防、痛みの緩和などを通して、身体機能の改善と認知機能の改善を図るものです。
そして、運動は継続することで効果が上がります。
ウォーキングや水泳、踏み台昇降運動、エアロビクス、サイクリング、縄跳びなど、自分の好きなこと、やれそうなことからスタートしてみましょう。