はじめに
高齢化社会を迎え、自分の最期をどう迎えるかが関心事になってきています。特に欧米では、治療を目的とせず、「残された時間を充実したものにしよう」という考え方が、1960年代にイギリスのホスピス(がんなどの末期患者向けの医療施設)から広がりました。
日本では1980年代以降、緩和ケアの発展を通して、徐々に終末期医療が重要視されるようになってきました。近年では「延命治療をしない」など自分自身の意思を明確にしたい人が増えています。そこで、終末期医療の内容や現状、関連した看取りケア・緩和ケア・ホスピスケアなどとの違いも含めて紹介します。
終末期医療について
終末期医療は、ターミナルケアともいわれます。
この項では、終末期医療を開始する時期や意思決定などについて説明します。
終末期医療とは
終末期医療はターミナルケアともいわれ、病気で余命わずかの人をはじめ、認知症や老衰の人たちが、人生の残り時間を自分らしく過ごし、満足して最期を迎えられるようにすることが目的の医療及びケアです。つまり治療による延命よりも、病気の症状などによる苦痛や不快感を緩和し、精神的な平穏や残された生活の充実(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)を優先させるものです。
終末期医療を開始する時期
通常の治療と同様、終末期医療を行うかどうかは患者本人や家族の意思に任されています。しかし、終末期医療を始めるということは「延命をあきらめる」ことと、ほぼイコールとなるため、開始の決断はとてもデリケートな問題です。
がんなどの病気の場合には、病状から予測される余命や、治療の効果が期待できるかどうかなどを考慮して、タイミングを決断することになります。認知症や老衰の場合は、寝たきりになって介助があっても食事ができなくなったときが、一般的に終末期医療の開始時期と考えられています。
食事ができなくなったときに、胃に穴をあけて食事を注入する「胃ろう」などの処置があります。しかし、このような延命的な方法は取りたくないと、末梢点滴しか行わない場合、必要な栄養が摂取できず、生きられる時間は限られてきます。
本来は、本人の意思で終末期医療の開始を決断するのが望ましいですが、特に認知症で意思確認が難しくなっている場合は家族が判断しなければなりません。
従来は、特にがんにおいて、治癒を目的とした治療から、苦痛を和らげることを中心とした緩和ケアへの切り替えを行った時点以降が、終末期であるととらえられてきました。そのため、終末期医療は、緩和ケアや、末期患者への緩和ケアであるホスピスケアと同じものであると認識される傾向がありました。
しかし、近年は、治癒を目的とした医療から緩和ケアを中心とした医療への移行は、ある時点で突然行われるのではなく、徐々に移行していくものであると考えられるようになりました。こうした状況では、緩和ケア中心の治療方針への切り替え時点を終末期の始まりとしてとらえることは困難です。
そこで日本医師会では、終末期は「治療方針を決める際に、患者はそう遠くない時期に死に至るであろうことに配慮する」時期であり、終末期医療はそれ以降に行われる医療・ケアであると定義しました。
終末期医療における意思決定
厚生労働省は、2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」改訂版を出しています。このガイドラインでは、以下のように人生の最終段階における医療・ケア方針の決定手続きが示されています。
「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の概要
- ①本人の意思の確認ができる場合-本人による意思決定を基本とする。
- ②本人の意思の確認ができない場合
a. 家族等が本人の意思を推定できる場合にはその推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
b. 家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
c. 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。
いざというときに、自分が希望する医療・ケアを受けることができるようにするためには、「どういった医療・ケアをどこで受けたいのか」、また、「医療・ケアを決定するにあたって自分にとって大切な価値観は何なのか」を、前もって考えて、信頼する人々と共有しておくことが大切でしょう。
終末期医療の現状と看取りケア・緩和ケア・ホスピスケアとの違い
「看取りケア」「緩和ケア」「ホスピスケア」ということばを耳にすることも増えてきました。それぞれ、どのようなケアを指すのでしょうか。
ここでは終末期医療の現状と、それぞれの違いについて説明します。
終末期医療の内容とポイント
終末期医療は主に、「身体的ケア」「精神的ケア」「社会的ケア」の3つに分けられます。身体的ケアは痛みなどの症状を緩和するケアですが、精神的ケアと社会的ケアでは、家族や友人の役割が重要です。
- ①身体的ケア
投薬などで、痛みなどの症状を緩和するケアです。終末期医療開始の判断基準となる「食事ができなくなったとき」の対応も重要です。栄養補給には、鼻から胃に管を通したり、胃に直接管を挿入して栄養を補給したりする「経管栄養」や、点滴などの方法があります。
ただ、栄養補給は延命措置にもなります。そもそも栄養補給を実施するかどうか、実施するのであればどんな補給手段にするかといった選択は、本人または家族の意思を確認した上で進める必要があります。
- ②精神的ケア
好きな音楽をかけたり、大切にしている物、思い出の品などを身近に置いたりして、本人にとって満足感のある空間にすることがポイントです。また、死に対する不安や心残りが大きくなりすぎないように、家族や友人と過ごす時間を十分に作ってあげることも重要です。
そのためには死をタブー視せず、「不安や恐怖をぬぐい去ることは難しい」ということを理解して寄り添う必要があります。一人で死に臨むような孤独を感じさせないことが、家族や友人の最も大切な役割といえるでしょう。
- ③社会的ケア
入院や介護による経済的な負担が、患者本人のプレッシャーになることもあります。必要な場合は、病院のソーシャルワーカーに医療費負担を軽減できるかどうか相談する方法もあります。
病院での終末期医療
医療そのものは医療機関、病院でしか行えません。病院での終末期医療は、高齢者で老衰期にあり、食事がとれなくなったりする場合や、各種の持病が悪化し、治る見込みが薄い人の療養病棟での医療などが該当します。
一般の病院でも療養病棟に一定数のベッドを用意している場合があります。また、病院内の緩和ケア病棟において、後述する緩和ケアとセットで治療を行う場合があります。この場合に対象となるのは、がん患者とエイズ患者などです。
a. 病院でのケアのメリット
医師や看護師が常に容体を把握してそばについているため、急変があっても速やかに適切な対応をしてもらえます。施設と同じようにプロに医療・介護を任せられるため、家族が介護で消耗することもありません。医療ソーシャルワーカーのいる病院なら、経済的なことや入院に伴う家族の生活のことなど、困ったときに相談もしやすいでしょう。
b. 病院でのケアのデメリット
入院費と治療費がかかるため、経済的な負担が大きくなります。面会時間が限られているため、家族と離れている間に患者の孤独感や不安感がふくらんでしまう心配もあります。生活環境も完全にリラックスできるよう整えるのは難しく、在宅ケアに比べて、どうしても自由度が低くなってしまいます。
看取りケアとは
看取りケアは、基本的に自宅や介護施設で最期を迎える方に施される終末期の介護です。自宅や介護施設ですので、基本的には医療行為は行えません。看取りケアは、慣れ親しんだ場所で穏やかに最期を迎えられるようにケアをするものです。本人とコミュニケーションをとることで精神的なサポートをしたり、体調管理に必要な身体的ケアを行ったりします。
- ①看取りとは
近年、「どんな状態であっても長く生きる」という考え方から、「残された時間を有意義なものにする」「自分らしい最期を過ごす」という考え方に移行しつつあります。全国老人福祉施設協議会の「看取り介護実践フォーラム」(2013年度)では、「看取りとは、近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること」と定義しています。
- ②終末期医療との違い
終末期医療は、主に終末期の医療および看護のことを指し、看取りケアは、医療行為ではなくおもに終末期における介護・介助のことを指します。終末期医療は医療現場で痛みを抑える緩和ケアを中心に行われ、看取りケアは自宅や施設で看護、介護中心に行われます。
- ③看取りケアの場所と内容
ここでは、主に終末期における介護・介助を指す看取りケアについて説明します。
在宅での看取りケアについて、患者の精神面にはメリットが大きい半面、家族の負担が大きくなるのが在宅ケアです。どうしても在宅でという場合は、あらかじめメリットとデメリットを把握しておきましょう。
在宅ケアにおいては、残された時間を家族と一緒に過ごせることが最大のメリットです。自宅でリラックスできるので、本人の精神的・肉体的負担も少なくなります。病院に比べると費用がかからず、経済的な心配も軽減できます。家族にとっても、病院で一人にさせて寂しくないか、苦しんでいないかといった点を心配せずに済みます。
一方、在宅ケアのデメリットとして、褥瘡(じょくそう)ケアや食事、トイレなど、いつも家にいて介護をする人が必要な点があります。場合によって、介護する人は仕事を辞めたり引っ越したり、介護者のその後の人生を大きく変える決断を余儀なくされることもあるでしょう。介護をしながらの生活は体力的に厳しく、患者が快適に過ごせる環境づくりへの気遣いなどは、精神的に負担がかかります。介護者が負担を抱え込むと、患者と家族の関係に悪影響が出る可能性もあります。
介護施設での看取りケアについては、家族が精神面でのケアに集中できるのがメリットです。
看取りケアを受けられる施設について、有料老人ホーム・介護老人保健施設・特別養護老人ホームといった高齢者の介護施設の多くのところでは、医療は提供できませんが、「看取り介護」を行っています。介護報酬設定でも、高齢者向けの介護施設の一部に「看取り介護加算」が設定されています。
施設でのケアのメリットとしては、以下のようなことがあります。介護のプロが面倒を見てくれるので、褥瘡ケアや日常生活のサポートも安心感があります。着替え・排泄・廊下や階段の移動などのサービスも提供されます。家族は介護のために体力的、精神的に追い詰められることなく、患者と向き合うことに集中できます。介護士や他の利用者ともコミュニケーションを取る機会が多い環境です。
逆に、施設でのケアのデメリットとしては、以下のようなことが考えられます。面会時間が限られている点、生活する部屋やベッドの周囲などを、自宅ほどリラックスできる環境にするのが難しい点など、在宅ケアに比べると自由度が低くなります。
緩和ケアとは
「緩和ケア」は、がんやエイズ(後天性免疫不全症候群)に罹患した方に施すケアで、痛みなどの症状をやわらげることが一番の目的であり、鎮痛薬を使用するなどの医療的な対応がなされるケアです。治療中である場合も含めて心身のケアを行うことで、生活の質を上げることを目的としています。
緩和ケアについて、WHOは次のような定義付けをしています。
「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切な評価と治療によって、苦痛の予防と緩和を行うことで、QOL(Quality of Life:生活の質) を改善するアプローチである」
終末期医療と緩和ケアとの違いとして、終末期医療が文字通り終末期に行われる医療であるのに対して、緩和ケアは診断時から行われるケアで、終末期医療と緩和ケアは実施される時期が異なります。終末期医療が、治療よりも残された生活を心穏やかに過ごしてもらうように努めるのに対し、緩和ケアは、痛みなどの症状をやわらげることが一番の目的という内容の違いがあります。
ホスピスケアとは
ホスピスケアとは、死が迫っている患者とその家族の苦痛を最小限にすることを主な目的とするケアです。ホスピスケアは、症状の軽減を優先し、延命治療をほとんど行いません。また、死期を迎えた患者と家族に対し、適切なケアと緩和ケアについての指導が行われます。
通常のホスピスケアでは、重症患者が思考や判断を行うことが難しくなった場合に、家族や親しい友人が患者の意思決定を手伝うことがあります。ホスピススタッフは必要な場合、毎日でも患者を訪問し、24時間体制で対応します。
日本では、ホスピスというと、緩和ケア専門病棟で行われるケアととらえられがちです。しかし、実際には、療養する場所に関わらない概念です。終末期に行われる緩和ケアと考えることもできますが、ホスピスケアでは、ほとんどの場合、疾患の治癒や延命を目的とした治療は行われません。そのため、ホスピスケアは終末期の中でも、治癒を目的とした治療の終了後に行われる緩和ケアであるととらえることができます。
ただし、日本では、厚生労働省がホスピスという医療施設の診療対象として認めているのは、がん患者とエイズ患者のみです。他の病気や老衰のように、看取りのみを前提とした入院は基本的にできないことになっています。
終末期医療の今後
2018年、厚労省は「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方」をテーマにした有識者会議を開催し、「人生の最終段階における医療」に対する意識調査(5年おきに実施)の結果を公表しました。
そこで、終末期にどのような医療・療養を受けたいか・受けたくないかなどを記載した「事前指示書」をあらかじめ作っておくことの賛否を尋ねたところ、66%の人が「賛成である」と回答しました。また「賛成である」と回答した人のうち、実際に作成している人は8.1%で、終末期医療に対する国民の関心が少しずつ高まりつつある現状を反映した結果になったと言えそうです。
「事前指示書」とは
事前指示書とは、患者もしくは健常な人が将来的に判断能力を失った場合に備えて、自分に行われる医療ケアのあり方を、事前に意思表示しておくために作成する文書のことです。現状では全国的に統一された書式などはありませんが、内容には次のような点が含まれます。
・どのような治療、医療行為を受けたいか、受けたくないかの意思を示しておく。
・自分で判断できなくなった場合、その後の治療のあり方について、自分に代わって誰に判断してもらいたいのか、その相手を指名しておく。
事前指示書の項目例
事前指示書では、以下の項目にチェック✔を入れるか、記載します。
a. 病気や治療方針について
□ 私にも病気についてしっかり説明して下さい。
□ 可能であれば、病気の標準治療とされる治療を行って下さい。
□ 標準治療よりも、痛みなどの症状を和らげる治療(緩和ケア)を優先して下さい。
□ 自然のままでいたいので、できるだけ治療は行わないで下さい。
□ 相談者の方(氏名)と相談して治療の内容を決めて下さい。
b. ケアに関する希望について
□ 可能であれば、人生の終末期は自宅で迎えさせて下さい。
□ 私の家族や友人が、できるだけ付き添っていられるようにして下さい。
□ 可能な時は、好きなものを食べさせて下さい。
その他の希望( )
c. 希望する、希望しない、具体的な医療について自由記載
『心肺停止時の心臓マッサージなどによる心肺蘇生、人工呼吸器の装着、胃チューブによる栄養補給、「胃ろう」による栄養補給、輸血、人工透析など』
・希望する医療
・希望しない医療
記述年月日 年 月 日 住所 本人署名(自筆) ( 歳)〔印〕 家族署名(自筆) ( 歳)〔印〕
以上の意思表明書に変わりはないことを認めます。
などの文書での確認が重要です。
終末期医療の心構え
自分または家族が、終末期医療を受ける場合の心構えは以下の通りです。
(1) 終末期医療への理解
終末期医療とはどのようなものかを理解しておきます。
(2) 関連する看取りケア・緩和ケア・ホスピスケアへの理解
看取りケア・緩和ケア・ホスピスケアについて、どのようなものかを理解しておきます。
(3) 同じ終末期へのケアでも医療行為か介護なのかを理解
介護施設や自宅では医療行為はできません。あくまでも介護の範囲になります。
(4) 終末期でなくても、延命治療を行うのかどうかは考えておくこと。
特に延命治療を行うのかどうかは重要なことです。たとえば、腎臓が悪い方が人工透析を行うのかどうかです。人工透析は週3日半日以上の時間を費やす、延命治療の1つです。人工透析は一度開始すると、止めたら1週間程度で死ぬといわれています。するかしないかは考えておかなければなりません。
まとめ
ここまで、終末期医療について説明してきました。
終末期医療とは、開始時期と意思決定のほか、「看取りケア」「緩和ケア」「ホスピスケア」の内容をまとめます。
終末期医療とは
終末期医療はターミナルケアともいわれ、病気で余命わずかの人をはじめ、認知症や老衰の人たちが、人生の残り時間を自分らしく過ごし、満足して最期を迎えられるようにすることが目的の、医療でありケアでもあります。つまり治療による延命よりも、病気の症状などによる苦痛や不快感を緩和し、精神的な平穏や残された生活の充実(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)を優先させるものです。
終末期医療の開始時期と意思決定
終末期医療を開始する時期と、意思決定については以下の通りです。
- ①終末期医療の開始時期
終末期医療の開始時期について、日本医師会では、終末期は「治療方針を決める際に、患者はそう遠くない時期に死に至るであろうことに配慮する」時期と位置付けています。
- ②終末期医療における意思決定
厚生労働省のガイドラインでは、以下のように人生の最終段階における医療・ケア方針の決定手続きが示されています。
・本人の意思の確認ができる場合―本人による意思決定を基本とする。
・本人の意思の確認ができない場合―家族等が本人の意思を推定できる場合にはその推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする
などがあります。
看取りケアとは
看取りケアは、基本的に自宅や介護施設で最期を迎える方に施される終末期の介護です。医療機関、病院ではない自宅や介護施設ですので、基本的には医療行為は行えません。
緩和ケアとは
緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切な評価と治療によって苦痛の予防と緩和を行うことで、QOL(生活の質:Quality of Life)を改善するケアです。(WHOの規定に基づく)
ホスピスケアとは
ホスピスとは、がんやエイズなどで死が迫っている患者とその家族の苦痛を最小限にすることを主な目的とするケアです。ホスピスケアは、症状の軽減を優先し、診断検査や延命治療をほとんど行いません。また、死期を迎えた患者と家族に対し、適切なケアと緩和ケアについての指導が行われます。
終末期医療についての3つのポイント
最後に、終末期医療について、終末期医療の判断、 終末期医療と看取りケア、緩和ケア、ホスピスケアの理解、本人の意思の明確化としての「事前指示書」の3つのポイントをまとめます。
終末期医療の判断は第1に本人の意思の尊重がある。
たとえば、生命維持装置でも生き続けたいと思うでしょうか。もし本人が認知症になったとしたら、誰が生命維持装置の取り外しを決断できるのでしょうか。消極的安楽死でも厳しい認定基準があり、家族でも簡単には決められません。第1に、本人の意思能力がある時期での、本人の意思の尊重があります。
終末期医療、看取りケア、緩和ケア、ホスピスケアの理解
現状の日本では、終末期医療、緩和ケア、ホスピスケアは医療の分野と位置付けられ、看取りケアは介護の分野と位置付けられます。終末期医療とホスピスケアは、医療の中でも治癒を目的とした治療はほとんど行われないものです。
終末期医療の本人の意思の明確化では、「事前指示書」がある。
事前指示書とは、患者もしくは健常な人が将来的に判断能力を失った場合に備えて、自分に行われる医療ケアのあり方を事前に意思表示しておくために作成する文書のことです。事前指示書を書いておくことは意味があります。
終末期医療で、腎臓の人工透析を止めたいという本人の意思を受けて医師が透析を中止し、その後死に至ったことで社会問題化したことがありました。本人の意思の文書記録や、直前までの複数回の本人への意思確認など、手続きの慎重性が問われたものです。終末期医療においては、基本的に本人の延命治療についての意思を尊重すること、慎重に手続きをすることが重要です。