神葬祭とは?
神葬祭とは、日本古来の祖霊崇拝と民俗信仰に基づいた神道のしきたりにのっとって行われるお葬式のことを指します。
現代の日本では仏教式で行われるお葬式が圧倒的に多く、神葬祭に馴染みがない方も少なくありません。
神葬祭への参列マナーは仏教式とは異なる部分もありますが、日本人に古くから馴染みのある作法も多く、質素かつ厳粛でわかりやすいと関心が高まっているともいわれています。
神葬祭の大きな特徴として、決まった式次第がないという点が挙げられます。
地域独自の民族信仰やお祀りする神様、お社ごとのしきたりによって行う儀式が異なることも珍しくありません。
この記事では神葬祭の歴史や仏式との違い、一般的な流れについて解説しています。
神葬祭と仏式が定着するまでの歴史
神葬祭と仏式はいずれもそれぞれの信仰に従って行うものですが、その歴史は古代までさかのぼることができます。
仏教が伝来したのは飛鳥時代といわれていますが、文武天皇の大喪が仏式で行われた記録が残るなど、高貴な人の葬礼は仏式が行われることが一般的でした。
仏教が広く信仰されだした室町時代には公家や武家にも仏式の葬儀が広がり、江戸時代中期には一般庶民にも定着するようになったのです。
一方、神道はさらに歴史が古く『古事記』に葬送の様子が描かれるなどしていましたが、自然発生的な民俗信仰がベースになっていることもあり、統一した葬儀の形式がありませんでした。
神道に基づいた葬儀が見直されだしたのは江戸時代半ばからで、明治時代になってから神葬祭を行うことが定着しだしたのです。
神葬祭と仏式の違い
神葬祭と仏式のお葬式は、教えの違いなどからしきたりが異なる部分も多数あります。ここでは神葬祭と仏式の違いについて解説しています。
数珠を使用しない
仏式のお葬式に参列する際に欠かせないのが数珠ですが、これは本来僧侶がお経を読んだ数を数えるのに用いられてきました。
仏様の宿った108個の珠からできており、108個の煩悩を消すと仏教では教えられています。
仏教における法具の一つである数珠を神葬祭で使うことはないので、お葬式に参列する際も持参する必要はありません。
お線香は焚かない
仏式のお葬式に欠かせないお線香ですが、これは亡くなった方の食事にあたる『食香(じきこう)』というものや故人と心で交流するための繋がりとして用いられています。
こちらも仏教の教えに基づくものですので、神葬祭では使われません。
お線香はお供え物としてもよく選ばれますが、神道式でお葬式をした方にお線香を供えるのは不適切ですので注意しましょう。
神葬祭の流れ
それでは実際に神葬祭の流れを見ていきますが、その前に神道における「死」の概念について知っておく必要があります。
神道には人の死や血液、悪い行いを「穢れ=気枯れ」と捉え、人間が生きていくうえで避けられないものだと考えています。
そのため清浄な場所とされる神社や神棚に穢れを持ち込むことはできず、神葬祭を神社で行うことも許されていません。そのため神葬祭は自宅か神社で行われるケースがほとんどです。
通夜祭
仏式のお葬式には葬儀の前夜に親族や故人と近しい人が集まって個人を偲ぶ「通夜」が行われますが、神葬祭にも同じ意味を持つ「通夜祭」が行われます。
通夜祭を行う場所には白の小袖を着せたご遺体を安置して、お米や常撰(故人の好きだったお供え物)、酒、榊などをお供えします。
参列者は通夜が行われる場所に着いたら「手水の儀」を行い身を清めたら、神職→喪主→遺族→親族→参列者の順に入場して「修祓の儀」というお祓いを受けます。
お祓いのあと全員で一礼したら、そのまま遷霊祭という儀式に移ります。
遷霊祭
遷霊祭とは御霊(みたま)移しとも呼ばれ、ご遺体のまわりに漂っている故人の魂を霊璽(れいじ)に移すための儀式です。
基本的には親族のみで行われ、電気を消して真っ暗な部屋の中で神職が遷霊の詞を奉上するのです。
霊璽は木主(もくしゅ)とも呼ばれている白木の柱状のもので、故人の魂が宿る最も大切なものと考えられています。
遷霊祭のあとは、神職→喪主→遺族→親族→参列者の順で「玉串」と呼ばれる紙垂という白い紙をつけた榊の枝を捧げます。
玉串を捧げた後は「偲び手」と呼ばれる作法で二礼二拍手一礼しますが、神社などにお参りする感覚で手を鳴らさないよう注意しましょう。
儀式が終了したら神職が退場し、通夜式と遷霊祭は終了します。
仏式の通夜ではこのあと通夜ぶるまいと呼ばれる会食の席を設けますが、神式の場合も「直会(なおらい)の儀」という会食をすることが一般的です。
葬場祭
仏式のお葬式にあたる儀式を神式では葬場祭と呼びますが、これは故人の御霊を送る一連の儀式において最も重要なものです。
仏式ではお香典や供花をすることが多いですが、神式の場合は取り扱いが若干異なります。
不祝儀袋(黒白か双銀の結び切りの水引がついたもの)を使うところまでは一緒ですが、蓮花の模様は仏式のものなので無地を選ぶと良いでしょう。
表書きも「お香典」は使わず「御神前」「御玉串料」「御榊料」と書きます。
「ご霊前」は仏式・神式両方に使える表書きですが、神式で行われることが事前に分かっている場合は先に挙げた「御神前」等にすることをおすすめします。
神式の場合は供花を飾ることがないので、スタンド花等は避けたほうが良いでしょう。
お供えを持参する場合は、餅菓子や酒などの食べ物を選ぶのが一般的です。
また、神道において人間の死は神様からお借りした命をお返しするものとして、必要以上に悲しむべきではないとされているので、神葬祭で追悼の言葉を述べることは控えましょう。
他にも「成仏」「冥福」といった仏教特有の言葉は使わず、「御霊の平安をお祈りいたします」と言い換えます。
葬場祭の流れは前日の通夜式とほぼ同じで祭詞の奏上や玉串奉奠を行いますが、この時も参列者は「偲び手」で音を立てずに手を叩くのがしきたりです。
玉串奉奠は仏教の焼香にあたるもので、玉串に自分の心を託すという意味を持つ大切な儀式です。心を込めて個人の御霊の平安を祈りましょう。
喪主から出棺の挨拶をしたら葬場祭は終了し、火葬場へと出発します。
火葬祭
火葬祭は火葬場で行われる儀式で、故人との別れを惜しむ最後の機会です。
これまでと同じように玉串奉奠を行いますが、人数によっては近しい親族が代表で行うこともあります。
火葬を待つ間に食事を済ませたり、火葬後の収骨などの流れは基本的には仏式と同じだと考えれば良いでしょう。
埋葬祭
埋葬祭は、収骨後骨壺に納めた遺骨を墓地に埋葬する儀式ですが、現代では一度遺骨を時短に持ち帰ることが増えています。
埋葬祭はお墓で行われるのですが、墓の前に設えた祭壇に写真やお供えを安置して神職による祭詞や玉串奉奠を行います。
銘旗と呼ばれる故人の名前などを記した旗を飾るのも、埋葬祭の特徴のひとつです。
本来は火葬場から直接墓地へ向かいその日のうちに埋葬祭まで済ませることが多かったのですが、現代では遺骨を自宅で安置して五十日祭の時に埋葬祭を一緒に行うという流れが一般的です。
神式では葬儀後、十日ごとに「御霊祭(みたままつり)」という儀式を行い、故人や祖霊に感謝の念を捧げて家を守護する神霊となれるよう祈ります。
そしてその節目となるのが五十日祭で、最近ではこの日をもって忌明けとすることが一般的です。これに関しては、仏式の忌日法要と四十九日法要とよく似た考え方だといえるでしょう。
帰家祭
帰家祭は葬儀がつつがなく終わったことを神前に報告するもので、神式の葬儀における最後の儀式でもあります。
帰家祭という名前の通り基本的には自宅で執り行うものですが、斎場で行う場合も同じように呼ばれます。
収骨から戻ったら、斎場や自宅の前で「帰家修祓の儀」というお祓いをしてもらって手水や塩で身を清めてから建物に入ります。
自宅で執り行う場合は、火葬を待つ間に祭壇を片付けて遺骨を安置するための準備を済ませておく必要があります。
建物の中に入ったら今までと同じように神職が祭詞を奏上して、神職→喪主→遺族→親族→参列者の順で玉串奉奠を行います。最後に参列者一同で拝礼して、葬儀はすべて終了です。
直会の儀
葬儀が全て終わったら、参列して下さった方へのお礼やいろいろと働いてもらった親族へのねぎらいを込めて会食の席を設けます。
仏式における精進落としと似たような意味合いではありますが、本来の直会は祭壇に供えた酒や餅などの供物のお下がりを頂くというものでした。
神様の力のこもったものを頂くことで守護を得られるという教えによるものですが、現代では仕出し弁当などをお出しするのが一般的です。
直会は「直り合い」という言葉に由来するという説もあるように、葬儀の緊張や疲れを解いて日常へ戻るという意味も込められています。
地域や宗派によって規模や内容は異なりますが、神式のお葬式において直会の儀にも重要な意味が込められているのです。
まとめ
この記事では神道のお葬式である神葬祭の流れや、参列する際に知っておきたいポイントについてご紹介してきました。
神葬祭は仏式のお葬式と似た部分もありますが、儀式の流れやお供えなど独自のしきたりがあります。
よく確認して失礼のないように参列しましょう。